解説記事2026年06月08日 未公開判決事例紹介 リヒテンシュタイン財団の外国法人を巡るCFC税制(2026年6月8日号・№1125)
未公開判決事例紹介
リヒテンシュタイン財団の外国法人を巡るCFC税制
東京高裁、原処分取消し納税者が逆転勝訴
本誌1120号40頁で紹介した所得税更正処分取消等請求控訴事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。
〇納税者(控訴人)がリヒテンシュタイン公国に設立した財団を通じて全株式を保有する外国法人が、納税者に係る「外国関係会社」に該当するか否かが争われた事件の控訴審(令和7(行コ)第323号)。東京高等裁判所(宮坂昌利裁判長)は令和8年4月14日、外国子会社合算税制(措置法40条の4)を適用した原処分を取り消し、納税者側が逆転勝訴した。裁判所は、納税者は資本関係とは異なる手段によって本件財団を支配するものであって、このような場合にまで措置法40条の4の適用を認めるのは、明らかな文理解釈の逸脱であり許されないとの判断を下した(なお、本件は、国が最高裁に上告受理申立てを行っている)。
主 文
1 原判決を取り消す。
2 A税務署長が令和5年3月10日付けで控訴人に対してした平成29年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち、総所得金額9722万7675円及び納付すべき税額491万5000円をそれぞれ超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
3 A税務署長が令和5年3月10日付けで控訴人に対してした平成30年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分(ただし、令和6年3月11日付け裁決によって一部取り消された後のもの)のうち、総所得金額9818万3420円及び納付すべき税額373万5600円をそれぞれ超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、前記裁決によって一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
4 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
(略語は原判決の例による。)
第1 事案の概要
第1−1 控訴人は、日本国内に住所を有する居住者(所得税法2条1項3号にいう居住者。以下同じ。)であるが、リヒテンシュタイン法に基づいて設立された本件財団の資本金の全額を拠出しており、本件財団は、バハマ会社法に基づいて設立された本件外国法人の株式の全部を保有している。
処分行政庁は、控訴人の平成29年分及び平成30年分の所得税等について、控訴人は本件財団を通じて本件外国法人の株式を間接保有しているとして、平成29年法律第4号による改正前の租税特別措置法(措置法)40条の4第1項の外国子会社合算税制を適用して本件各処分を行った。
第1−2 控訴人は、同項の適用を争い、本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求めて出訴した。
第1−3 原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人はこれを不服として、主文同旨の裁判を求めて控訴した。
第2 主な関係法令の定め、前提事実
主な関係法令の定め、前提事実は、原判決「事実及び理由」第2の2及び3記載のとおりであるから、これを引用する。
なお、平成29年法律第4号による措置法40条の4の改正規定は平成30年4月1日に施行されているが(平成29年法律第4号附則1条5号チ)、同日より前に開始した本件外国法人の事業年度に係る適用対象金額についてはなお従前の例によるとされていることから(同附則54条1項)、本件各処分に関しては上記改正前の旧法が適用される。
第3 争点及び争点に関する当事者の主張
第3−1 本件の争点は、措置法40条の4第1項の適用上、本件外国法人が控訴人に係る外国関係会社に当たるといえるか否かである。
第3−2 争点に関する当事者の主張は、当審における控訴人の補充的主張及び被控訴人の反論を以下のとおり加えるほか、原判決「事実及び理由」の第2の5に記載のとおりであるから、これを引用する。
第3−3 【当審における控訴人の補充的主張】
原判決は措置法40条の4第1項の「株式等(株式又は出資をいう。)」の解釈につき、控訴人が本件財団の自益権及び共益権と同視できる権利を有しているか否かという基準を定立した上で、これを肯定する判断をしたが、以下のとおり誤りである。
すなわち、課税要件については、法の文言から離れた経済的な効果や個別具体的な事情は考慮されないと解される。その結果、外国法人における「株式又は出資」の存否は属人的にではなく、あくまでも設立準拠法に基づく法制度上の観点から客観的に判断されるべきところ、本件財団の設立準拠法であるリヒテンシュタイン法においては、別表のとおり、財団の出資者に株式会社の株主や合同会社の社員のような財産的利益を享受する権利や経営に関与する権利を付与する旨の定めはない。
また、措置法40条の4が新設された昭和53年当時の我が国の法人制度において、営利法人と非営利法人(財団法人)は峻別されており、持分が観念されない財団法人(甲B8参照)には措置法40条の4の適用は考えられておらず、「株式又は出資」がなくても実質的な観点から外国子会社合算税制を適用することが認められるようになったのは平成29年度税制改革によってである。本件財団に「株式」や「出資」という持分は観念できず、設立者は配当請求権や残余財産分配請求権を有していない。
なお、原判決が採用した前記基準は大阪高等裁判所平成5年7月22日判決(甲B10)により定立されたものであるが、同判決は株式の存在が観念できることについては争いがなく、それが発行済みといえるか否かが争点だった事件に関する判断であり、本件とは事案を異にする。
第3−4 【被控訴人の反論】
原判決の措置法40条の4第1項の「株式等(株式又は出資をいう。)」の解釈に係る判示は正当である。控訴人の主張は、原審における主張を繰り返すものか、あるいは独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、理由がない。
第4 当裁判所の判断
第4−1 当裁判所は、原審と異なり、租税法律主義の要請に照らすと、措置法40条の4第1項の適用上、本件外国法人が控訴人に係る外国関係会社に当たるとは解し得ず、したがって、外国子会社合算税制を適用して行われた本件各処分は違法であり、被控訴人の請求はいずれも認容すべきものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
第4−2 租税法律主義と租税法の解釈
憲法84条が定める租税法律主義は、課税要件の全てと租税の賦課・徴収の手続が国会の定める法律によって規定されなければならないこと(課税要件法定主義)のほか、当該法律の定めはなるべく一義的で明確でなければならないこと(課税要件明確主義)も要請するものである。現代社会において、租税の問題は多くの経済取引において考慮すべき重要なファクターとなっており、課税要件明確主義の要請は、国民の法的安定性及び予測可能性を維持・確保するために不可欠のものとなっている。
このような租税法律主義の意義及び役割に照らすと、租税法の解釈は、原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されないというべきである(最高裁平成22年3月2日第三小法廷判決・民集64巻2号420頁、最高裁平成27年7月17日第二小法廷判決・裁判集民事250号29頁参照)。
なお、以上の理は、政策税制としての性格を有する租税特別措置に関する税法解釈においても基本的に異なるものではなく、規定の趣旨・目的を勘案することが許されるのは、文理解釈だけでは規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合等に限られるというべきである。
以下、このような憲法上の要請を踏まえて、措置法40条の4第1項の本件への適用について検討する。
第4−3 措置法40条の4の外国関係会社の意義
(1)措置法40条の4の外国子会社合算税制は、居住者が支配する外国法人(特にタックスヘイブンの恩恵を受けるもの)を利用して租税回避を図るのを抑制するため、当該外国法人の所得の一部を当該居住者の所得とみなして合算し、日本で課税する制度である。
(2)具体的には、同条1項は「株式等」を「株式又は出資をいう。」と定義しており、同条2項1号は、「外国関係会社」を、「外国法人で、その発行済株式又は出資(その有する自己の株式等を除く。)の総数又は総額のうちに居住者及び内国法人・・・が有する直接又は間接保有の株式等の数の合計数又は合計額の占める割合(略)が100分の50を超えるものをいう。」と定義している。
なお、ここでいう「間接保有の株式等の数の合計数又は合計額の占める割合」とは、居住者等が株式等を直接有する外国法人に対する持株割合等と、その外国法人が株式等を直接有する別の外国法人に対する持株割合等とを乗じて算出する「掛け算方式」が採用されていた(乙B3)。
そして、同条1項は、居住者に係る特定外国子会社等(外国関係法人のうち、本店の所在する国における所得課税負担が本邦における法人の所得課税負担に比して著しく低いものとして政令で定めるもの)について、その所得金額の一部(適用対象金額)を、その者の雑所得に係る収入金額とみなして総収入額に算入する旨を定めている。
(3)上記規定によれば、措置法40条の4の外国関係会社は、居住者等が、50%超の株式等(株式又は出資)を直接又は間接保有することが前提となっていることが文理上一義的に明らかであり、このような資本関係によらない支配関係をもって、「外国関係会社」該当性を基礎づけることは許されないというべきである。
(4)この点につき、原審は、措置法40条の4の趣旨・目的からすれば、外国法人に対する支配力の有無は、形式上、名目上のものではなく、外国法人の収益や資産を実質的に支配し得る地位の有無という観点から判定されなければならないとして、控訴人が本件財団に資金を拠出したことによって本件財団の自益権及び共益権又はこれらと同視できる権利ないし地位を全部保有していた場合には、本件財団の発行済株式等の全部を有しているといえるとの解釈を示しており、被控訴人は、これを正当として支持している。しかし、この解釈は、「株式又は出資」という文言を離れ、規定の趣旨・目的を踏まえて、「本件財団の自益権及び共益権と同視できる」か否かを判断するという価値判断的な基準を持ち込むものであり、文理解釈を出発点とすべき租税法解釈の基本を忘れた立論といわざるを得ない。当裁判所はこのような判断手法を採用すべきでないと考える。
第4−4 株式・出資の一般的な意義
一般に、社団形態の法人は、一定の目的のために結合した人の集合に対して法人格を付与するものであるのに対し、財団形態の法人は、一定の目的のために結合された一団の財産に対して法人格を付与するものとされる。そして、前者の社団法人のうち、営利目的のもの、すなわち企業に対し出資を行うことでその構成員となり、利益の分配を受けようとするものが「会社」である。会社の構成員、すなわち「社員」は、「出資」によって「持分」を取得し、持分を通じて会社という企業を観念的に所有することになる。そして、出資により付与される当該地位は、利益の分配を求める自益権と、会社の意思決定に参画する共益権の両面に及ぶ。
我が国の会社法は、会社の構成員が「株式」を有する「株主」である株式会社(同法第2編)と、構成員が「持分」を有する「社員」である持分会社(同法第3編)の2類型を定めているが、ここでいう「株式」も「持分」も、会社の構成員たる地位を示すものという本質において異なるものではなく、当該地位(持分)が細分化された割合的単位の形をとるものが株式と呼ばれるにすぎない(最高裁昭和45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号804頁参照)。
第4−5 株式等の直接又は間接保有要件の解釈について
(1)措置法40条の4にいう「株式又は出資」の文言は、上記第4−4で説明したとおり明確である。本件財団の準拠法(リヒテンシュタイン法)が我が国の法制度と異なるとしても、リヒテンシュタイン法にも、我が国の株式とか出資持分に対応する概念があることは優に認められるから(甲C1、別表参照)、本件財団につき「株式又は出資」を観念できるかどうかの判断に当たって、あえて規定の趣旨・目的を参酌して、我が国の株式や出資の概念と異なる解釈を持ち込む必要はないし、適切ともいえない。
したがって、同条が適用される関係外国法人とは、居住者等が50%超の株式等(株式又は出資)を直接又は間接保有している必要があるから、このような資本関係が認められない場合(資本関係によらずに実質的支配を及ぼしているにすぎない場合等)には、上記の要件を充足しないというべきである。
(2)仮に、一定の支配関係のある外国法人を利用した租税回避を抑制するという規定の趣旨・目的を参酌する余地があるとしても、居住者等の外国法人に対する支配の程度につき、50%超の株式等の保有という割合的な数値に係る要件を定めている条文構造上、このような割合的な数値による定量化になじまない実質支配のような要素を持ち込むことには無理があるというべきである(実質支配だから100%というのは乱暴な議論というほかない。)。
(3)以上のとおり、措置法40条の4にいう「株式又は出資」の意義は、上記のとおりの文理解釈によるべきであって、資本関係によらない実質支配をもって、これに代えるような解釈は許されないというべきである。
なお、以上の解釈は、次項において述べる平成29年度税制改正の立法趣旨によっても支持されるものである。
第4−6 平成29年度税制改正の趣旨からの検討
平成29年法律第4号は、従前の外国子会社合算税制の実体要件をいくつかの観点から見直したものであるが、その改正項目の一つに、資本関係のない外国関係会社への適用対象の拡大がある。この点につき、国税庁作成の「平成29年税制改正の解説」(乙B3)は、「改正前は、外国関係会社は居住者・内国法人との間の資本関係に基づいて判定していたため、外国法人との資本関係を意図的に断絶しつつ、契約関係等によりその外国法人に対する支配を実質的に維持することで制度の適用を免れることが可能となっていましたが、今回の改正では、資本関係がなくとも、居住者・内国法人がその外国法人の残余財産のおおむね全部について分配を請求することができるなど会社財産に対する支配関係がある場合には、その外国法人を外国関係会社とすることとされました。」と説明している。
すなわち、上記改正前の外国子会社合算税制は、「居住者・内国法人と外国法人の間の資本関係」に着目した制度設計がされていたために、資本関係によらずに外国法人に対する支配を維持しているケースでは制度の適用を免れることが可能であったというのである。このような平成29年改正に関する課税当局の認識に照らしても、同改正前の措置法40条の4第1項の適用に関しては、上記第4−5で述べた解釈が支持されるべきである。
第4−7 本件への当てはめ
(1)以上を前提に、本件外国法人が措置法40条の4第1項の適用を受ける外国関係法人に当たるかどうかを検討するに、本件外国法人の発行済株式等の全部を保有しているのは、リヒテンシュタイン法に基づいて設立された本件財団である。そして、リヒテンシュタイン法(PGR及び旧PGR)の規定並びに本件財団の定款、規則等の記載の詳細は、原判決「事実及び理由」の第3の2のとおりである。
(2)すなわち、リヒテンシュタイン法(PGR及び旧PGR)上、財団の設立には、特定の目的のために資産を「寄付」(endow)することが必要とされている。「寄付」の定義はないが、会社における「出資持分」(company shares)(甲C1)とは明らかに異なる概念として使い分けられており、第三者が寄付をしても設立者の地位を獲得するものではないとされており(PGR552条13項(3))、寄付によって、財団法人の構成員たる地位、自益権及び共益権を享受する持分類似の権利を当然に付与されるものとはされていない。また、財団の基本的な目的や受益者等は設立者の作成する定款によって定められるところ、PGR552条2項によれば、財団の目的としては、公益目的と私益目的の2種があるとされているが、ここでいう私益目的として想定されているのは、家族の利益を図るための教育、支援等の費用を賄うための家族財団等であり、企業活動を通じて得た利益を出資者に分配する営利目的とは異なる。
結局、リヒテンシュタイン法上の財団法人は、我が国の一般財団法人(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第3章)と本質的に異なるものではなく、営利目的の社団法人(会社)に典型的にみられる出資とか持分とは無縁の法人というほかない。
(3)ところで、控訴人は、本件財団付属定款が定める「特別組織」の唯一の構成員とされ、財団資産の管理に当たるとされていること、本件財団規則上、「第一受益者」という地位を付与され、生涯にわたり本件財団の資産及び収入を享受する権利を単独で有するものとされていることが認められるが、これらは、資本金の拠出者、財団の設立者たる地位を背景として、付属定款や財団規則によって創設された権利・地位と理解されるものであって、前記第4−4で述べた意味における出資持分とは全く性格が異なる。
(4)以上によれば、控訴人が本件財団に実質的支配を及ぼしていることは確かであるにせよ、出資による持分の取得(すなわち資本関係)とは異なる手段によって対象法人を支配するものであって、このような場合にまで措置法40条の4の適用を認めるのは、明らかな文理解釈の逸脱であり、許されない拡張解釈といわざるを得ない。
本件のような方法による租税回避を容認すべきでないという政策判断はあり得るとしても、租税法律主義の原則がある以上、その実現は法改正をもってする必要があり、現実にも、平成29年法律第4号による立法的対応が行われたところである。これを同改正前の条文の解釈で乗り越えようとするのは、無理があるといわざるを得ない。
第5 結論
以上によれば、本件各処分は違法というべきところ、これと異なる原判決は失当であり、本件控訴は理由がある。よって、原判決を取り消し、控訴人の請求をいずれも認容することとして、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第10民事部
裁判長裁判官 宮坂昌利
裁判官 岩松浩之
裁判官 大澤知子
(別紙省略)
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-

-

団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -















