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解説記事2020年05月18日 新会計基準解説 改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の概要(2020年5月18日号・№834)

新会計基準解説
改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の概要
 企業会計基準委員会 専門研究員 山澤伸吾
 企業会計基準委員会 専門研究員 桐原和香

Ⅰ はじめに

 企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2020年3月31日に、改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「本会計基準」という。)を公表(脚注1)した。本会計基準は、2009年12月4日に公表された企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下「改正前会計基準」という。)を改正するものである。本稿では、本会計基準の概要を紹介する。なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であり、必ずしもASBJの公式見解を示すものではないことをあらかじめ申し添える。

Ⅱ 本会計基準公表の経緯

 我が国の会計基準等においては、取引その他の事象又は状況に具体的に当てはまる会計基準等が存在しない場合の開示に関する会計基準上の定めが明らかではなく、開示の実態も様々である。そこで、2018年11月に開催された第397回企業会計基準委員会において、公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている基準諮問会議より、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の充実について検討することが提言された。これを受けて、ASBJは2019年10月30日に企業会計基準公開草案第69号(企業会計基準第24号の改正案)「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」(以下「公開草案」という。)を公表して広く意見を求めた。
 本会計基準は、公開草案に対してASBJに寄せられた意見を踏まえて検討を行い、公開草案の内容を一部修正したうえで公表するに至ったものである。

Ⅲ 本会計基準の概要

1 本会計基準が扱う範囲
 ASBJは、本会計基準の開発にあたり、関連する会計基準等の定めが明らかな場合におけるこれまでの実務に影響を及ぼさないために、企業会計原則注解(注1−2)の定めを引き継ぐこととした。
 ここで、改正前会計基準では、「会計方針」の定義を定め、会計方針の変更に関する取扱いを定めているため、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」に関する注記情報の充実を図るにあたり、新たに企業会計基準を開発するのではなく改正前会計基準を改正するとともに、本会計基準の名称を改正前の「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」から「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に変更している。
 なお、本会計基準は企業会計原則注解(注1−2)の定めを引き継いでいるため、重要な会計方針に関する注記における従来の考え方を変更するものではないことに留意する必要がある。

2 開示目的
(1)重要な会計方針に関する注記の開示目的

 本会計基準は、重要な会計方針に関する注記の開示目的は、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すことにあるとしている。また、この開示目的は、会計処理の対象となる会計事象や取引(以下「会計事象等」という。)に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も同じであるとしている。これは、現状では、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に、企業が実際に採用した会計処理の原則及び手続が重要な会計方針として開示されているか否かについて実態は様々であり、財務諸表利用者が理解することが困難なことがあるものと考えられるためである。
 なお、開示目的でいう会計基準等とは、企業会計基準適用指針第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針(脚注2)」(以下「企業会計基準適用指針第24号」という。)第5項及び第16項でいう「会計基準等」を指しており、具体的には、表1に掲げるもの及びその他の一般に公正妥当と認められる会計処理の原則及び手続を明文化して定めたものをいう。また、法令等により会計処理の原則及び手続が定められているときは、当該法令等も一般に公正妥当と認められる会計基準等に含まれる場合があるとされている。

【表1】「会計基準等」に含まれるもの

(1)ASBJが公表した企業会計基準
(2)企業会計審議会が公表した会計基準(企業会計原則等を含む。)
(3)ASBJが公表した企業会計基準適用指針
(4)ASBJが公表した実務対応報告
(5)日本公認会計士協会が公表した会計制委員会報告(実務指針)、監査・保証実務委員会報告及び業種別監査委員会報告のうち会計処理の原則及び手続を定めたもの

(2)関連する会計基準等の定めが明らかでない場合
 本会計基準は、開示目的における「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」とは、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しない場合をいうとしている。この場合に採用した会計処理の原則及び手続の例示として、次の2つが含まれるとしている。
 ① 関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が出現した場合に適用する会計処理の原則及び手続で重要性があるもの
 本会計基準は、対象とする会計事象等自体に関して適用される会計基準等については明らかではないものの、参考となる既存の会計基準等がある場合には、当該既存の会計基準等が定める会計処理の原則及び手続も含まれるとしている。
 これに関し、公開草案では他の会計基準設定主体が定めた会計基準等が「参考となる既存の会計基準等」に含まれることを提案していた。公開草案の提案は、他の会計基準等を参考にして会計処理の原則及び手続を定める場合であっても、当該他の会計基準等の内容の妥当性を確認したうえで企業の会計方針とすることを想定しており、他の会計基準設定主体が定めた会計基準等をそのまま適用できるという趣旨ではなかった。しかし、審議の過程において、他の会計基準設定主体が定めた会計基準等をそのまま適用できるように読めるのではないかとの意見が聞かれたため、当該記載を削除した。当該記載の削除により他の会計基準設定主体が定めた会計基準等を参考にすることが禁止されるわけではないが、参考にした場合であっても、実際の会計方針の記載は、当該会計基準等の名称ではなく具体的な会計処理の原則及び手続について開示されていくものと考えられる。
 ② 業界の実務慣行とされている会計処理の原則及び手続で重要性があるもの
 Ⅲ2(1)で記載したように、企業会計基準適用指針第24号では、会計基準等には、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則及び手続を明文化して定めたもの(法令等)も含まれるとされている。これを踏まえ、本会計基準は、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」には、業界の実務慣行とされている会計処理の原則及び手続のみが存在する場合で当該会計処理の原則及び手続に重要性があるときも該当すると考えられるとしている。また、これには、企業が所属する業界団体が当該団体に所属する各企業に対して通知する会計処理の原則及び手続が含まれるとしている。

3 注記事項
 本会計基準は、重要な会計方針に関する注記について、企業会計原則注解(注1−2)の定めを引き継ぎ、表2のように取り扱うこととしている。

【表2】本会計基準における重要な会計方針に関する注記についての定め

・財務諸表には、重要な会計方針を注記する。
・会計方針の例としては、次のようなものがある。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる。
(1)有価証券の評価基準及び評価方法
(2)棚卸資産の評価基準及び評価方法
(3)固定資産の減価償却の方法
(4)繰延資産の処理方法
(5)外貨建資産及び負債の本邦通貨への換算基準
(6)引当金の計上基準
(7)収益及び費用の計上基準
・会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、会計方針に関する注記を省略することができる。

 本会計基準は、代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、当該会計方針の注記を省略することができるとしている。これは、会計基準等の定めを繰り返して記載するだけのものとなる可能性があると考えられるためである。
 なお、注記の内容は企業によって異なるものであり、したがって開示の詳細さは各企業が開示目的に照らして判断すべきものと考えられたことから、本会計基準では開示の詳細さについて特段の定めを設けていない。

4 未適用の会計基準等に関する注記の取扱い
 本会計基準では、重要な会計方針に関する注記の取扱いに加え、未適用の会計基準等に関する注記に関する定めについて、本会計基準における記載箇所を独立した項目に移動する改正を行った。未適用の会計基準等に関する注記の定めは、これまで会計方針の変更の取扱いの一部として定められていたため、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に対しては適用されないと解されていた。しかし、本会計基準における改正により、未適用の会計基準等に関する注記に関する定めは、既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等全般に適用されることを明確化することを意図している。
 なお、本会計基準では、専ら表示及び注記事項を定めた未適用の会計基準等に関する注記事項として、表3の右側の2項目を定めており、新しい会計基準等の適用による影響に関する記述は求めていない。

Ⅳ 適用時期及び適用初年度の取扱い

 本会計基準は、適用時期及び適用初年度の取扱いについて表4のように定めている。

 本会計基準は、表4のとおり、本会計基準の内容を適用したことにより新たに注記する会計方針は表示方法の変更には該当しないとしている。これは、本会計基準における関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の取扱いは従前の取扱いの明確化を図ったものであり、これまで求められていなかった注記を新たに行うことを求めるものではないためである。しかし、本会計基準を適用したことにより、それまで開示していなかった関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに開示することは、財務諸表利用者が企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要であると考えられる。そのため、本会計基準を新たに適用したことにより、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに開示するときには、追加情報としてその旨を注記することとしている。
 なお、本会計基準の原則的な適用時期は、表4のように2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表からとしているため、例えば2020年3月31日に終了する事業年度の年度末に係る財務諸表においては本会計基準の改正点は適用されない。しかし、本改正の趣旨を鑑み、本会計基準の公表後、適用までの間は、本稿Ⅲ4の未適用の会計基準等に関する注記の取扱いを類推適用し、本会計基準並びに本会計基準と時を同じくして公表された改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等でその適用が専ら表示及び注記事項に関する改正に限られる場合(脚注3)及び企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」について、適用までの間はⅢ4表3で示した次の項目を注記することが適切と考えられ、強く推奨される。
(1)会計基準等の名称及び概要
(2)適用予定日(早期適用する場合には早期適用予定日)に関する記述

Ⅴ おわりに

 本会計基準は、関連する会計基準等の定めが明らかな場合における現行の実務を変えるものではない。しかし、本会計基準の適用により、ある会計事象等に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合には、企業が開示目的に照らして重要性に応じて採用した会計処理の原則及び手続の概要を開示することが有用であるかどうかを判断することが求められること及びこれには業界の実務慣行とされている会計処理の原則及び手続のみが存在する場合で当該会計処理の原則及び手続に重要性があるときも含まれることに留意していただきたい。

脚注
1 本会計基準の全文については、ASBJのウェブサイト
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/accounting_standards/y2020/2020-0331-03.html)を参照のこと。
2 本会計基準の公表にあわせて、企業会計基準適用指針第24号の名称を「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(下線部を追加)に変更している。
3 2018年に公表された企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等を早期適用している場合には、改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等については専ら表示及び注記事項のみに関する改正のみが適用されることがあり得る。

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