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解説記事2020年06月01日 特別解説 監査上の主要な検討事項(KAM)(2020年6月1日号・№836) 主要な欧州企業の事例の調査①

特別解説
監査上の主要な検討事項(KAM)
主要な欧州企業の事例の調査①

はじめに

 コロナウイルスの世界中での蔓延により、重苦しい雰囲気が漂う中で、いよいよ我が国の企業についても、監査報告書への監査上の主要な検討事項(KAM)の記載がスタートした。
 我が国の企業の監査報告書において記載されたKAMの事例の紹介に先立ち、本稿では、英国と欧州大陸の主要な企業それぞれ100社について、各社のウェブサイト上で公表されている英文の年次報告書(アニュアル・レポートやレジストレーション・ドキュメント等)の監査報告書に記載されたKAMの個数やKAMの内容の分類・集計を行い、見られた傾向や全体的な特徴などについて分析を行った。また、2018年度及び2017年度のデータも比較のために掲載している。さらに、2019年度の主要な米国企業の監査報告書において記載された監査上の重要な事項(CAM)の件数や内容も、参考データとして記載している。本稿ではこれから2回に分けて、欧州(英国及び欧州大陸)の主要な企業の監査報告書に記載されたKAM項目の調査分析を行うこととしたい。1回目(本稿)では英国及び欧州大陸の主要な企業の監査報告書に記載されたKAMの全体的な傾向の分析を行い、2回目では個別の事例をいくつか紹介することとしたい。

調査対象とした企業

 今回の調査では、ロンドン証券取引所に上場し、FTSE100の構成銘柄に選ばれている企業を中心に英国の企業100社を選ぶとともに、欧州大陸の企業については、ストックス(STOXX)欧州600指数(注)の構成銘柄に選ばれている銘柄の中から、主要な企業100社を選定した。なお、各社のKAMの内容に関する記述等は、各社のウェブサイトに掲載されている英文の連結財務諸表に対する監査報告書に記載されていたものを、筆者が仮訳したものである。
(注)ストックス(STOXX)欧州600指数とは、STOXX社(スイス・チューリヒに本拠を置くインデックス・プロバイダー。ドイツ取引所のグループ企業)が算出する、ヨーロッパ17か国における欧州証券取引所上場の上位600銘柄により構成される株価指数。流動性の高い600銘柄の株価を基に算出される、時価総額加重平均型指数である。

KAM の定義と決定のプロセス

 監査上の主要な検討事項(KAM)は、国際監査基準(ISA)701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な事項のコミュニケーション」において、「当年度の財務諸表監査において、監査人が職業的専門家として最も重要であると判断した事項。監査上の主要な検討事項は、監査人が統治責任者(わが国では「監査役等」に相当する)とコミュニケーションを行った事項から選択する。」と定義されている(第8項)。また、KAMの決定にあたり、監査人は、次の3点を考慮しなければならないとされている(第9項)。

(a)ISA315「企業とその環境の理解及び重要な虚偽表示リスクの評価」(改訂)にしたがって、重要な虚偽表示リスクが高いと評価された領域、又は特別な検討を必要とするリスクが識別された領域。
(b)見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りを含む、経営者の重要な判断が伴う財務諸表の領域に関連する監査人の重要な判断。
(c)当年度において発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響

 これらの点を考慮しつつ、監査人は統治責任者(監査役等)にコミュニケーションを行った事項の中から、監査の実施において特に注意を払った事項(matters that required Significant attention)を決定し、さらに、「監査の実施において特に注意を払った事項」から、「当期の監査において最も重要な事項」をKAMとして絞り込むことになる。
 監査人は、リスク・アプローチに基づく監査計画の策定段階から、監査の過程を通じて監査役等と協議を行うなど、適切な連携を図ることが求められており、KAMはそのような協議(コミュニケーション)を行った事項の中から、監査人が職業的専門家としての判断を行使して絞り込みを行い、決定されるものである。個々の監査上の主要な検討事項の記載内容については、ISA701に次のように定められている(第13項)。
 監査報告書の監査上の主要な検討事項区分における、各監査上の主要な検討事項(KAM)は、財務諸表に記載がある場合には財務諸表における関連する開示へ参照を付した上で、以下を記載しなければならない。

(a)当該事項が財務諸表監査における最も重要な事項の1つであると考えられ、そのため監査上の主要な検討事項であると決定された理由。
(b)当該事項が監査においてどのように対処されたか。

主要な英国企業の監査報告書に記載されたKAM の分析

 まず、ロンドン証券取引所に上場し、FTSE100の構成銘柄に選ばれている企業を中心に、主要な英国企業100社について、各社の監査報告書に記載されていた監査上の主要な検討事項(KAM)の個数や内容を調査・集計した。KAMの記載数別に企業を集計すると、表1のとおりとなった。なお、参考のために、2017年度と2018年度の実績も併記している。

 今回調査対象とした英国企業100社の監査報告書で記載されたKAMは合計で425個、1社当たりの平均では4.25個であった。なお、2018年度のKAMは合計で432個、1社当たりの平均では4.32個であったため、全体的な件数は微減であったといえる。監査報告書におけるKAMの記載数で多かったのは3個、4個及び5個の順で、記載数が3個、4個及び5個の企業で全体の65%を占めていた。監査報告書にKAMがまったく記載されていなかった企業はなかった(2017年度及び2018年度もなし)。
 次に、KAMの項目別に、監査報告書に記載された個数が多かった項目を示すと、表2のとおりであった(2019年度の監査報告書にKAMとして記載された個数が10件以上の項目をピックアップした)。なお、表2でも、参考として2018年度及び2017年度の監査報告書に記載された個数を併記している。

 収益認識や引当金、のれん、無形資産といったおなじみの項目のほか、不確実な税務ポジションや債権・投資の評価、退職給付・年金、偶発負債(訴訟)等、いわゆる会計上の見積りに関連する項目が上位に並んでいる。2019年度についてみると、子会社に対する投資の回復可能性(個別財務諸表上のKAM)の件数が大幅に増えたが、全体としてみると、2017年度、2018年度及び2019年度で各社の監査報告書で多く記載されたKAMの項目には大きな相違は見られなかった。
 また、表2には記載しなかったが、2019年度では、「IFRS第16号の新規適用」に関連するKAMが11社の監査報告書に記載された。IFRS第16号「リース」はこれまでのIAS第17号に置き換わる新たな基準書であり、2019年12月期から適用が開始された。これまでは費用として処理されていたオペレーティング・リースに係る使用権を無形資産としてオンバランスし、対応するリース負債も計上する会計処理が新たに導入されている。
 2017年度及び2018年度も同様であったが、金融機関の監査報告書で、ITシステムと内部統制がKAMとして記載されるケースが多かった。また、表2の14番目に出てくる「例外的事項(exceptional items)」とは、我が国では「特別損益項目」とされる項目である。これらは、IFRSでは営業損益に含められるため、営業損益の内訳としてどのように表示するかが論点になりうる。

英国企業以外の主要な欧州企業の監査報告書に記載されたKAMの分析

 次に、STOXX600株価指数の構成銘柄として採用されている欧州の企業のうち、英国以外の企業を100社選定し、英国企業と同様の方法・内容による分析を試みた。調査対象とした100社の2019年度の監査報告書に記載されたKAMは合計で324個。1社平均だと3.24個であった。2018年度の実績は合計で342個、1社あたり3.42個であるため、KAMの記載個数は若干減少したといえる。英国企業の監査報告書に記載されているKAMは平均で4.2個から4.3個程度であるため、欧州大陸の企業の方が約1個分、少ないことになる。この傾向は2017年度からずっと変わっていない。KAMの記載数別に企業数を集計すると、表3のとおりとなった。なお、表3でも、参考のために、2017年度と2018年度の実績を併記している。

 英国企業の場合と同様に、監査報告書にKAMが1個も記載されていない企業はなかった。
 2019年度の場合、調査対象とした主要な欧州の企業(英国企業を除く)で6個以上のKAMが監査報告書に記載された企業は1社もなかった(英国企業の場合には、調査対象とした100社中22社の監査報告書に、6個以上のKAMが記載されていた。)。それが、KAMの記載個数(合計や1社当たりの平均)が減少した大きな原因となっている。
 次に、KAMの項目別に、記載された個数が多かった項目を示すと、表4のとおりであった(KAMとして2019年度の監査報告書に記載された個数が10件以上の項目をピックアップした)。

 表2の英国企業の場合と同様に、見積りの不確実性が高い項目が上位に並んでいるが、欧州大陸の企業の場合には、英国の企業と比較して、のれんや無形資産に関連する項目(簿価、評価、減損等)が占める割合がより高くなっている。なお、表4でも、参考として2017年度及び2018年度の監査報告書にKAMとして記載された個数を併記している。大別すると、のれんを含む無形資産の評価に関連するグループと、収益認識のグループ、引当金や偶発負債、訴訟のグループ、並びに税金に関連するグループ(不確実な税務ポジション、繰延税金資産の回収可能性と評価)の4つのグループに大別されるKAMが、かなりの部分を占めているということができよう。なお、表4には含めなかったが、2019年度には16社の監査報告書において、「IFRS第16号の新規適用」がKAMとして記載されていた。

米国企業の監査報告書におけるCAMの記載状況

 英国や欧州大陸の企業の監査報告書におけるKAMの記載状況と比較するために、本誌の5月18日号(No.834)「主要な米国企業の監査報告書に記載された監査上の重要な事項(CAM)」で取り上げた、米国企業の監査報告書に記載された監査上の重要な事項(CAM)の記載状況や内容を紹介してみたい。なお、調査対象は、米国ニューヨークの証券取引所に株式を上場し、S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)株価指数100(S&P500中、時価総額の特に大きい、超大型株100銘柄で構成)に選定されている各社を中心とした100社の直近期のForm10-K(SECに提出される年次報告書)に掲載されている監査報告書である。決算期が異なる企業も一部にあるが、2019年12月期決算にかかるForm10-Kに織り込まれた監査報告書が、調査対象のほとんどを占めている。なお、米国企業(大規模早期提出会社(large accelerated fillers))の監査報告書については、2019年6月30日以降終了事業年度の監査から、CAMの記載が要求されるようになった。
 まず、2019年度の監査報告書におけるKAM/CAMの記載数別に英国、欧州大陸及び米国企業の数を一覧で示すと、表5のとおりとなった。

 主要な米国企業の監査報告書に記載されたCAMは、1社当たりの平均で1.97個。2個を割り込む低水準であった(米国は2019年度がCAMの導入初年度である)。主要な英国企業の半分以下であり、欧州大陸企業の6割強の水準である。監査報告書への記載数だけで判断するのは難しいものの、KAMに比べ、CAMの方がより重要性の高い項目に絞り込んだうえで記載がなされているように見受けられる。
 次に、CAMの項目別に、監査報告書に記載された個数が多かった項目を示すと、表6のとおりであった。

 このほか、退職給付・年金(8件)や、保険関連(6件)、石油やガスの埋蔵量の見積り(4件)、繰延税金資産の回収可能性の評価(3件)、棚卸資産の評価(3件)などの記載が見られた。
 大きなくくりで分類すると、主要な英国企業や欧州大陸の企業の場合と同様に、税務関連(税務リスク、不確実な税務ポジション、未実現のタックスベネフィットの評価、及び税効果)、定額償却を行わないのれんや耐用年数を確定できない無形資産の簿価や減損に関するもの、偶発負債、訴訟や引当金に関するもの、収益認識と値引き、リベート等に関するものの、合計4つのグループで大半が占められている。その他の項目も、金融商品の評価や取得・企業結合の会計処理など、英国や欧州大陸の主要な企業の監査報告書に記載されているKAMと大きな相違は見られなかったといってよいと思われる。

終わりに

 次回は、英国又は欧州の主要な企業の監査報告書に記載された監査上の主要な検討事項(KAM)の具体的な記載事例(リスクの概要と監査上の対応、監査人の見解等)を紹介することとしたい。

参考資料
本誌5月18日号(No.834)「主要な米国企業の監査報告書に記載された監査上の重要な事項(CAM)」

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