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解説記事2020年06月01日 SCOPE 判決確定後の遺産分割成立で更正の請求は可能か(2020年6月1日号・№836)

SCOPE
高裁でも納税者が実質勝訴、国は上告
判決確定後の遺産分割成立で更正の請求は可能か


 遺産未分割のため法定相続分により行った相続税の申告に対し課税当局が行った更正処分が判決により取り消された後に、遺産分割協議の成立により相続税法32条1号に基づく更正の請求ができるか否かが争われた事件で、東京高裁は令和元年12月4日、株式の評価方法及び価額に係る判決の判断を理由に更正の請求をすることはできないとの判断を示した。しかし、東京高裁は判決の拘束力に基づき、課税当局は判決における評価方法ないし価額を基礎として課税価格を算定しなければならないと指摘し、更正処分の一部を取消した。原審の東京地裁に引き続き納税者が勝訴した形となった。なお、同事件については国が最高裁に上告している。

東京地裁、前件判決の株式評価の判断に課税当局は拘束

 本件は、納税者が遺産未分割のため法定相続分により相続税の申告を行っていたが、株式の評価を巡る裁判(前件判決、参照)で認められた大会社の類似業種比準方式による評価額を前提として、遺産分割協議成立後に(法定申告期限から5年を経過していたため)相続税法32条1号に基づく更正の請求を行ったもの。これに対して課税当局は当初申告における株式の価額と同額とすべきであるとして、本件更正請求について更正をすべき理由がない旨の通知処分及び増額更正処分を行ったため、これを不服とした納税者が訴訟を提起したものである。

【表】事件の発端〜前件判決とは?〜

 今回の事件の発端となった判決とは、財産評価基本通達が改正(大会社の株式保有割合による株式保有特定会社の判定基準を25%以上から50%以上に改正)されることになった株式保有特定会社の25%ルールに関する裁判のものである。同裁判は、納税者が他の相続人との間で遺産分割協議が成立していなかったことから、相続税法55条に基づき相続分の割合(7分の1)に従って財産を取得したものとしてX社株式を1株11,185円とする相続税の期限内申告書を提出したが、課税当局は、相続財産であるX社(大会社であり、株式保有割合25.9%)の株式が評価通達の規定する株式保有特定会社(株式保有割合25%以上)に該当するとして、純資産価額方式等により1株19,002円とする更正処分を行ったことから納税者が提訴したもの。
 裁判所は、株式保有割合25%以上であれば一律に純資産価額方式等により評価すべき旨を規定した評価通達は不合理である旨を判示したうえで、X社は株式保有特定会社に該当せず類似業種比準方式により評価すべきとし、納税者が勝訴した(東京地裁平成24年3月2日判決及び東京高裁平成25年2月28日判決・本誌442号9頁、490号8頁参照)(編注:本件「前件判決」)。なお、裁判所は、類似業種比準方式によりX社株式の評価額を1株4,653円と認定した。

 原審の東京地裁の判決では、通知処分取消請求に係る訴えについて、増額更正処分は申告又は従前の更正処分に係る税額を減額しない旨の判断を含むものであるから、訴えの利益を欠くとして訴えを却下し、本件更正処分取消請求について、相続税法32条1号に基づく更正の請求は、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由を主張することは許されないが、本件更正処分等は前件判決の理由中における株式の評価方法・価額等についての判断に拘束されるとして、納税者の請求を認容し、課税当局の増額更正処分を取り消す判決を下していた(本誌740号40頁参照)。
相法32条は当初申告の過誤是正にあらず
 国側は、当初申告に存在する過誤是正を求めるために相続税法32条1号に基づく更正の請求をすることは法の予定するところではないなどと主張。東京高裁に控訴していた。

株式の評価方法及び価額に係る判決の判断を理由に更正の請求はできず

 東京高裁(小川秀樹裁判長)は、相続税法32条1号に基づく更正の請求においては、原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由(申告又は従前の更正処分における個々の財産の価額の評価の誤りがあったこと等)を主張することはできないものと解され、その結果として、同号に基づく更正の請求上、課税価格の算定の基礎となる個々の財産の価額は、まずは申告における価額とし、その後の更正処分で変更された価額があるときはその価額を基礎にすべきであるとの見解を示した。本件のような申告後に更正処分の取消訴訟において遺産の評価が改められたという事情は、申告時に内在していた事情であって相続税固有の後発的事情とはいえず、相続税法32条各号に該当する事由は規定されていないとし、東京高裁は各株式の評価方法及び価額に係る前件判決の判断を理由に、同条1号に基づいて更正請求をすることはできないと解するのが相当であるとして被控訴人(納税者)の主張を斥けた。
前件判決の拘束力に基づき更正処分は違法
 しかし、東京高裁は、本件では前件判決の拘束力に基づき、更正処分等が違法であるとして取消請求が認められるとした。具体的に行政処分を取り消す判決は、「その事件」について、当事者たる行政庁その他の関係行政庁を拘束するとされ(行政事件訴訟法33条1項)、「その事件」とは、取消判決に係る行政処分の対象である法律関係と解するのが相当であるとの見解を示し、本件では、前件判決と本件更正処分等はいずれも被相続人の遺産に係る被相続人が納付すべき相続税の課税という同一の法律関係に係るものであるから、本件更正処分等は前件判決との関係で「その事件」に該当するとした。
 その上で東京高裁は、課税当局において前件判決における評価方法ないし価額を基礎として課税価格を算定しなければならないと指摘。相続税法32条1号の「共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格」については、個々の財産の価額につき、申告における価額に従前の更正処分による変更に加え、更に判決による変更を加えた上での価額を基礎として当該遺産分割後の課税価格を計算すべきであるとした。
 その結果、本件通知処分は納付税額が4億4,689万9,300円を超える部分、本件更正処分は申告額である10億7,095万円を超える部分が違法になるとの判断を示した。

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