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解説記事2020年06月15日 未公開判決事例紹介 株主総会決議の方法に法令の違反はなかった事件(2020年6月15日号・№838)

未公開判決事例紹介
株主総会決議の方法に法令の違反はなかった事件
東京地裁、議長の裁量権の濫用には当たらず

 本誌831号40頁で紹介した株主総会決議の方法に関する事件の判決全文について、仮名処理した上で紹介する。

○株主総会決議の方法に法令・定款違反があったか否かが争われた事件。東京地方裁判所(坂田大吾裁判官)は、株主総会の議長を務めたのは取締役社長であり、実際の議事進行を他の出席者に委ねることは議長権限として妨げられないとし、また、不規則発言を繰り返した株主を退場させなかったことは議長としての裁量権の逸脱、濫用に当たるとまでは認め難いとの判断を示し、原告の請求を棄却した(令和2年1月29日、棄却)。

主  文

1 本件訴えのうち、被告の平成30年6月27日付けの定時株主総会におけるDを監査役に選任する旨の決議の取消しを求める部分を却下する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1 被告の平成30年6月27日付けの定時株主総会におけるA、B及びCを取締役に選任する旨の決議を取り消す。
2 被告の平成30年6月27日付けの定時株主総会におけるDを監査役に選任する旨の決議を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、被告の株主でありかつ監査役である原告が、被告の平成30年6月27日付けの第53回定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)における決議の方法には法令・定款違反があったなどと主張して、本件株主総会における被告の取締役3名の選任決議及び監査役1名の選任決議の各取消しを求めている事案である。
1 前提事実(争いのない事実は、証拠を掲記しない。)
(1)原告は、被告の株式1万9610株を有する株主であり、被告の監査役であった者である。
(2)被告は、ダイヤモンドの研磨、貴石、半貴石の輸出入及び販売等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(3)平成30年6月27日付けの本件株主総会において、A(以下「A」という。)、B(以下「B」という。)及びC(以下「C」という。)を取締役に選任する旨の決議(以下「本件取締役選任決議」という。)並びにD(以下「D」という。)を監査役に選任する旨の決議(以下「本件監査役選任決議」という。)が行われた。
(4)本件訴訟の係属中である令和元年6月27日、被告の第54回定時株主総会(以下「第54回株主総会」という。)が開催され、取締役であるA、B及びCが第54回株主総会終結の時をもって任期満了となることから、A、B及びCを取締役に選任する旨の決議(以下「本件取締役再任決議」という。)が行われた。
  また、第54回株主総会において、「議案の要領 監査役につき第53回定時株主総会で選任されたD氏につき、同総会決議取消の判決確定を停止条件として、万一の予備的な意味あいで、同人の監査役選任を本総会時に遡及して効力を有するものとして決議すること。」との株主提案に基づき、Dを監査役に選任する旨の決議(以下「本件監査役再任決議」という。)が行われた。(乙39)
2 争点
(1)本件訴えのうち本件取締役選任決議の取消しを求める部分の適法性(本案前の争点)
(被告の主張)

 A、B及びCの取締役の任期は、被告の定款によれば「選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」であるところ、A、B及びCの取締役の任期の終了に当たり、被告において第54回株主総会が開催され、本件取締役再任決議がされた。
 本件取締役再任決議は適法であるから、本件訴えのうち本件取締役選任決議の取消しを求める部分の訴えの利益は消滅した(最高裁判所第一小法廷判決昭和45年4月2日・民集24巻4号223頁)。
(原告の主張)
 本件取締役選任決議が取り消されれば、取締役であるA、B及びCは遡及的にその地位を失い、第54回株主総会については、取締役によらない招集、進行として、決議取消事由があることとなる。
 そして、原告は、第54回株主総会についても決議取消請求をする予定であるから、本件訴えのうち本件取締役選任決議の取消しを求める部分の訴えの利益は消滅していない。
(2)本件取締役選任決議が取り消し得るものであるか否か(本案の争点)
(原告の主張)

ア 被告の定款14条1項は、被告の取締役社長が株主総会の議長となる旨定めているところ、本件株主総会においては、その冒頭から、被告顧問と称するCが進行の補助と称して実質的に議長の権限を行使した。
イ 本件株主総会において、株主と称するNなる人物(以下「N」という。)が大声で不規則発言を繰り返し、監査役である原告は、これを制止してNを退場させることをC及び被告の代表取締役であるAに対して求めたが、両名はこれに応じず、Nの不規則発言等を放置した。
ウ したがって、本件株主総会の招集の手続又は決議の方法は、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なものであるから、本件取締役選任決議は取り消されるべきである(会社法831条1項1号)。
(被告の主張)
ア 被告の代表取締役であるAは、被告の定款14条1項に基づき本件株主総会の議長を務め、議長判断により、運営の進行役をCに任せたにすぎない。Cは、進行役として議長に指示されて経営内容や議案の説明等のために発言をしたが、実質的に議長の権限を行使したものではなく、決議事項の採決は、議長であるAが自ら行った。
イ 本件株主総会において、Nが不規則発言を大声で繰り返した事実はない。その他、株主の発言が議長において制止や退場を求めるほどのことはなく、議場の秩序維持や会議運営上特段の問題はないものと判断された。
ウ したがって、本件取締役選任決議は有効である。
(3)本件訴えのうち本件監査役選任決議の取消しを求める部分の適法性(本案前の争点)
(被告の主張)

 第54回株主総会における本件監査役再任決議は適法であるから、仮に本件監査役選任決議に何らかの問題があったとしても、本件監査役再任決議によって、その問題は治癒され又は本件監査役選任決議の有効性は追認されたことになる。
 したがって、本件訴えのうち本件監査役選任決議の取消しを求める部分の訴えの利益は消滅した。
(原告の主張)
 役員は、その選任された時から善管注意義務をもって会社のために職務を果たすのであって、後に遡及的に選任されたとしても過去の遡及期間に会社のために何らの行為をすることもできず、会社法はこのような役員の選任を予定していない。
 役員の選任をした株主総会決議の取消請求訴訟中に会社が当該役員を当該株主総会時に遡って選任することができ、それにより当該取消請求訴訟の訴えの利益がなくなるとすれば、会社は、いかなる違法な手続により役員を選任しても、その株主総会決議の取消請求を免れることとなるのであって、その不当性は明らかである。
 したがって、本件訴えのうち本件監査役選任決議の取消しを求める部分の訴えの利益は消滅していない。
(4)本件監査役選任決議が取り消し得るものであるか否か(本案の争点)
(原告の主張)

ア 会社法343条1項は、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには監査役の同意を得なければならない旨規定しているところ、監査役である原告は上記同意をしなかったため、監査役の選任は、本件株主総会の招集通知において議案とされていなかった。しかるに、Cは、Dを監査役として選任する動議を提出して議場に諮り、その決議を得たとした。
  しかし、会社法304条に基づいて株主が提出することができる修正動議は招集通知に記載された議案及び議案に関する事項に限定されると解されるところ、Cの提出した動議がこれに当たらないことは明白である。また、仮にCの提出した動議が適法であるとしても、招集通知に記載されていなかった監査役の選任について議決権行使書による議決権行使はできないところ、Dを監査役として選任する動議について出席株主の議決権数の算定は行われなかった。さらに、Cは、顧問と称して被告の経営に携わってきた者であり、上記動議は株主としての立場からではなく被告取締役らの代行として同人らの利益のために提出したものであり、実質的に会社法343条1項に違反する。
イ 上記争点(2)の「(原告の主張)」欄ア及びイと同じ
ウ したがって、本件株主総会の招集の手続又は決議の方法は、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なものであるから、本件監査役選任決議は取り消されるべきである(会社法831条1項1号)。
(被告の主張)
ア 原告は、Dを監査役に選任する議案を本件株主総会に提出する旨を決議した被告の平成30年5月21日付けの取締役会に出席したが、上記議案に対して全く異議を述べておらず、これに同意していた。
  しかるに、原告は、同月24日の被告宛ての「御通知兼御質問」と題する書面(乙6の1)において、監査役候補者であるDの学歴、職歴、Aらとの交際関係等を調査・報告するよう被告に対して求めるとともに、Dを監査役に選任する議案を本件株主総会に提出することについて同意していない旨記載しているが、これは、監査役の独立性や地位強化の担保という会社法343条1項の監査役の同意権の趣旨とは無関係な要求であり、多数の株主を抱える被告にとって株主総会招集通知の印刷及び発送の時間的制約が明らかな状況における嫌がらせ行為というべきであるから、同意権の濫用に当たる。したがって、原告による同意の撤回又は新たな不同意の通知は無効であり、同項の規定する同意がないことを理由として本件監査役選任決議が取り消されるべきである旨の原告の主張は、権利の濫用であり、許されない。
イ 本件株主総会の招集通知(甲3)には、「決議事項」として「第4号議案 監査役1名選任の件(取締役会案)」と記載されており、監査役候補者名(取締役会案)が記載されていなかったにすぎないから、Cが株主として本件株主総会に提出したDを監査役として選任する旨の修正動議は、適法である。
  そして、上記修正動議は、本件株主総会において、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主の出席の下、出席株主の議決権の過半数の賛成を受けて可決された。
ウ したがって、本件監査役選任決議は、有効である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件訴えのうち本件取締役選任決議の取消しを求める部分の適法性(本案前の争点))について

 被告は、A、B及びCの取締役の任期の終了に当たり、第54回株主総会において本件取締役再任決議がされたことにより、本件訴えのうち本件取締役選任決議の取消しを求める部分の訴えの利益が消滅したと主張する。
 しかしながら、本件取締役選任決議が取り消された場合には、同決議により選任された取締役が招集手続に関与した第54回株主総会における本件取締役再任決議は、いわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、不存在であると解されるから、上記の特段の事情も認められない本件においては、第54回株主総会において本件取締役再任決議がされたとしても、本件訴えのうち本件取締役選任決議の取消しを求める部分の訴えの利益は失われないというべきである。
 したがって、被告の上記主張は理由がなく、本件訴えのうち本件取締役選任決議の取消しを求める部分は適法であるというべきである。
2 争点(2)(本件取締役選任決議が取り消し得るものであるか否か(本案の争点))について
(1)原告は、被告の定款14条1項において被告の取締役社長が株主総会の議長となる旨定められているところ、本件株主総会においては、被告の取締役社長であったAではなく、Cが進行の補助と称して実質的に議長の権限を行使したから、決議の方法が定款に違反する旨主張する。
  証拠(甲5の1・2、乙2の1・2)によれば、被告の取締役社長であったAは、本件株主総会の冒頭、出席株主に対して謝辞を述べ、自らが議長を務める旨を宣言した後に、総会を円満に進行するために、Cに総会の進行役を補助してもらう旨述べ、その後は、主としてCが議事を進行し、経営内容について説明を行った後、株主からの質問を受け付けたり、監査役である原告に対して監査報告を求めたりしていること、Aは、会議の途中で、不規則発言を行った株主を退場させない旨の判断を行い、第4号議案である「監査役1名選任の件(取締役会案)」について監査役である原告に対して意見陳述の機会を与えた後、第1号議案から第4号議案までの各議案について拍手による採決を行い、全ての議案が可決された旨述べ、本件株主総会の閉会を宣言したことが認められる。
  議長がその立会いの下で実際の議事進行を他の出席者に委ねることは議長の権限行使として妨げられないものと解されることに加えて、上記認定の本件株主総会の経過に照らすと、本件株主総会において議長を務めたのは、被告の取締役社長であったAであり、Cは、議長であるAの立会いと監修の下、同人の意思に基づいて議事進行を委ねられていたにすぎないと認めるのが相当であるから、Cが議長の権限を行使したことをもって決議の方法が定款に違反する旨をいう原告の上記主張は、理由がない。
(2)原告は、本件株主総会において、株主と称するNが不規則発言を繰り返し、監査役である原告がこれを制止してNを退場させることを求めたにもかかわらず、A及びCがこれに応じず、Nの不規則発言等を放置したことを理由として、本件取締役選任決議が取り消されるべきものである旨主張する。
  確かに、証拠(甲5の1・2)によれば、Nは、本件株主総会において、原告の発言中に、「なにやってたんだ、今まで。」、「さっさとやれよ。」、「邪魔すんな。」、「もういいよ。」、「善管注意義務違反だ。」などと不規則発言を繰り返したこと、原告がA及びCに対してNの退場を求めたにもかかわらず、A及びCはNを退場させなかったことが認められる。
  しかしながら、上記不規則発言の内容及び程度に照らすと、議長であるAがNを退場させなかったことが、議長としての裁量権の逸脱、濫用に当たるとまでは認め難いし、上記(1)のとおり、原告は、第4号議案について意見陳述の機会を与えられているから、上記不規則発言により、本件株主総会の決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なものとなったと認めることはできない。
  したがって、原告の上記主張もまた理由がない。
(3)以上によれば、本件取締役選任決議は、有効というべきである。
3 争点(3)(本件訴えのうち本件監査役選任決議の取消しを求める部分の適法性(本案前の争点))について
 前記前提事実(4)のとおり、Dを監査役に選任する旨の本件監査役選任決議の取消しを求める本件訴えが係属中に、被告は、第54回株主総会において、本件監査役選任決議の取消しを停止条件としてDを監査役に選任する旨の本件監査役選任決議と同一内容の本件監査役再任決議を行っている。そして、本件監査役再任決議の取消しの訴えの出訴期間が経過していることは当裁判所に顕著な事実である。
 そうすると、本件においては、仮に本件監査役選任決議に取消事由があるとしてこれを取り消したとしても、その判決の確定により、本件監査役再任決議が本件監査役選任決議に代わってその効力を生ずることになるのであるから、本件監査役選任決議の取消しを求める実益はないというべきであり、他に本件訴えのうち本件監査役選任決議の取消しを求める部分につき訴えの利益を肯定すべき特別の事情があるものとは認められない。
 したがって、本件訴えのうち本件監査役選任決議の取消しを求める部分は不適法であるというべきである。
第4 結論
 よって、その余の争点について判断するまでもなく、本件訴えのうち本件監査役選任決議の取消しを求める部分は不適法であるからこれを却下し、原告のその余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第8部
         裁判官 坂田大吾

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