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解説記事2020年06月29日 ニュース特集 税理士賠償責任事件、不正の発見は顧問契約の善管注意義務の対象か(2020年6月29日号・№840)

ニュース特集
所得拡大促進税制の適用忘れで650万円の損害賠償責任
税理士賠償責任事件、不正の発見は顧問契約の善管注意義務の対象か


 原告(会社)の顧問税理士であった被告が元代表者による横領を見過ごしたことが顧問契約に係る善管注意義務に違反するとして損害賠償が求められた税理士賠償責任事件で、東京地方裁判所(渡邉充昭裁判官)は2月20日、本件顧問契約において、会計書類の内容を調査・確認し、不審点を明らかにして助言・指導するなどの義務が被告の税理士にあったと解することはできないとの判断を示した。ただし、税理士が所得拡大促進税制を適用しなかった点については原告に対する債務不履行があったと判断し、税理士に約650万円の損害賠償責任を命じている。

原告、税務の専門家として不正発見には報告義務あり

 本件は、原告(会社)の顧問税理士であった被告が、原告の元代表者による横領を認識し、あるいは認識し得たにもかかわらず、原告に対する報告や是正・指導を行わなかったとして、業務委託契約に係る善管注意義務に反するとして債務不履行による約3,000万円の損害賠償請求及び、所得拡大促進税制の適用を失念して確定申告をしたことが善管注意義務に違反するものであるとして約1,038万円の損害賠償を請求したものである。
 原告の元代表者が創業の翌年頃から数十万円単位で原告の預金を引き出し(元代表者に対する仮払金で会計処理)、そのほとんどが各会計年度末付近の日付けで現金で全額精算(返金)したものとして記帳されてきており、その結果、原告の帳簿上、1億3,000万円を超える現金が存在することとされていたが、会計処理は架空のものであった。
 原告は、被告は顧問契約(表1参照)に基づき、財務諸表や税務申告書類を作成するに当たって、税務の専門家として高度な善管注意義務を負担しており、税理士法の趣旨に照らせば、不正を発見した場合にはこれを報告すべき義務を負っていたなどと主張していた(表2参照)。

【表1】顧問契約の概要

ア 第1条 委託業務の範囲
  税務に関する委任の範囲は次の項目とする。
  1 原告の法人税、事業税、住民税及び消費税の税務書類の作成並びに税務代理業務
  2 原告の税務調査の立会い
  3 原告の税務相談
  会計に関する委任の範囲は次の項目とする。
  4 原告の仕訳帳、総勘定元帳、残高試算表の作成並びに決算
  5 原告の会計処理に関する指導及び相談
  前記に掲げる項目以外の業務については別途協議する。
イ 第3条 報酬の額
  1 顧問報酬として、月額5万円
  2 税務書類及び決算書類作成の報酬として15万円
  (以下省略)

【表2】主な争点と当事者の主張

原告(株主ら) 被告(役員ら)
被告が顧問契約に基づき横領等の不正を報告するなど、助言・指導して適正な申告書を作成する義務を負っていたか
・被告は、顧問契約に基づき、財務諸表や税務申告書類を作成するに当たって、税務の専門家として高度な善管注意義務を負担していた。これに加えて、税理士法1条及び41条の3の趣旨に照らせば、被告は、不正を発見した場合にはこれを報告すべき義務を負っていたということができることはもとより、税理士としての専門知識や技能に基づいて、依頼者である原告の要望内容が適切か否かについて、調査・確認すべき義務、さらには原告の要望や報告内容に不足や不審な点があればこれを明らかにし、不適切な要望は改めるよう助言・指導して適正な申告書を作成するべき義務をも負っていたと考えるべきである。
・日本税理士会連合会が作成した業務チェックリストに「現金出納帳の残高は、実査又は現金の収支を示す証拠書類との照合確認をしたか」「現金出納帳の推移から見て、異常な入出金や残高については原因を検討したか」を法人税申告に当たって税理士がチェックすべき事項として記載していることからしても、被告には現金の有無や仮払金の精算状況について現金そのものを見るなどして確認するべき義務があったことは明らかである。
・以下の事情からすれば、被告が元代表者による不正を認識し、あるいは容易に認識し得たことは明らかである。
(ア)被告は、顧問契約に基づいて、15年近くにわたり原告の会計を一手に引き受け、総勘定元帳の作成にも携わってきた専門家たる税理士であった。
(イ)不正行為の手法は、期末に多額の仮払金を現金で精算するというものであり、その結果、多額の現金が毎年増加していくという税理士でなくとも不自然さに気付けるような会計処理であった。
・顧問契約に基づく被告の義務の内容は、税務書類の作成、税務代理業務、仕訳帳、総勘定元帳等の作成であり、原告の財産の管理や保護は含まれていない。したがって、現金の実在性の確認や元代表者の不正の発見は、顧問契約に基づく善管注意義務の内容ではない。









・原告において、創業の翌年頃から頻繁に数十万円単位で原告の預金及び現金が引き出され、原告がこれらの引き出しを元代表者への仮払金として会計処理し、これらの仮払金のほとんどについて元代表者が現金で全額精算(返金)したものとして処理してきたこと、元代表者がそのような処理をした上で現金を横領していたことは認める。
各申告において所得拡大促進税制の税額控除をしなかったことによる損害の内容及び金額について
・被告は、各申告の際、原告が税額控除制度の適用要件を満たしているにもかかわらず、何ら検討せず、また、原告に対して税額控除制度について説明したり資料の提供を求めたりすることなく、漫然と税額控除をしないまま申告を行った。 ・各申告の際、原告が税額控除制度の適用要件を満たしていたこと、被告が各申告において税額控除制度を適用して税額控除することを失念していたことについては認める。

裁判所、顧問契約に会計書類の不正調査義務はなし

 裁判所は、被告が原告の会計書類上現金の残高が年々増加していたことを把握していたとしても、直ちに元代表者が横領行為に及んでいることを被告が認識していたことにはならないと指摘した上で、本件については、被告の税理士に会計書類及びその作成過程から把握される不審点を調査確認し、不正があればこれを是正指導する義務が顧問契約上、被告にあったといえるか否かであるとした。
顧問契約からは不正調査義務等はなし
 裁判所が検討したところでは、まず顧問契約には「会計に関する委任の範囲」として、「原告の仕訳帳、総勘定元帳、残高試算表の作成並びに決算」「原告の会計処理に関する指導及び相談」との定めがあったものの、会計不正の調査義務は明示されていないとし、会計処理の基本的事項についての指導や相談を受ける業務を行う義務を超えて、会計書類等から把握される不審点を調査確認し、不正があればこれを是正指導する義務が被告にあったものと解することは困難であるとした。
税理士法には監査等が含まれるとは解せず
 また、裁判所は、税理士法2条2項が定める財務に関する業務が同条1項に定める税務代理、税務書類の作成、税務相談といった税務に関する業務に付随する業務として位置付けられていることからすれば、税理士法2条2項が定める財務に関する事務の中に公認会計士法2条1項に定めるような「財務書類の監査又は証明」業務等が含まれていると一般的に解することはできないとした。税理士法41条の3についても、同条は脱税等の税理士の本来的な業務である税務に関する不正についてこれを認識した場合に助言するべき義務を規定したものにすぎないとし、税理士法を根拠に顧問契約の解釈を補い、顧問契約上、会計書類等から把握される不審点を調査確認し、不正があれば是正指導する義務が被告にあったと解釈することも困難であるとした。

税理士法41条の3(助言義務)
 税理士は、税理士業務を行うに当たつて、委嘱者が不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れている事実、不正に国税若しくは地方税の還付を受けている事実又は国税若しくは地方税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部若しくは一部を隠ぺいし、若しくは仮装している事実があることを知つたときは、直ちに、その是正をするよう助言しなければならない。

日税連のチェックリストの義務付けはなし
 日本税理士会連合会の業務チェックリストに関しては、「現金出納帳の残高は、実査又は現金の収支を示す証拠資料との照合確認をしたか」などの記載はあるが、裁判所は、税理士業界で業務チェックリストに列挙されている事項について、税理士自らが確認すべきことが義務付けられているとの確立されたものであることを示す証拠はないと指摘した。
 したがって、本件顧問契約において、会計書類の内容を調査・確認し、不審点を明らかにして助言・指導する義務が被告の税理士にあったと解することはできないと結論づけた。
税額控除適用失念で善管注意義務違反
 しかし、原告の各申告において、所得拡大促進税制の適用要件を満たしていたにもかかわらず、被告が税額控除をしなかったことは、顧問契約に基づく善管注意義務違反、すなわち債務不履行があったと判断。被告の税理士に対して過大納付分及び税理士費用の合計で約650万円の損害賠償責任を認容した。

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