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解説記事2020年06月29日 税務マエストロ 区分記載請求書等保存方式(その3)(2020年6月29日号・№840)

税務マエストロ
区分記載請求書等保存方式(その3)
#249
 税理士 熊王征秀


略歴学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。現在東京税理士会会員相談室委員東京税理士会調査研究部委員東京地方税理士会税法研究所研究員日本税務会計学会委員大原大学院大学教授

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 ta@lotus21.co.jp

マエストロの解説

 前回は、区分記載請求書等の記載要件や追記の方法などについて確認した。今回は、区分記載請求書等に記載する適用税率を誤った場合の処理方法について、令和元年11月に公表され、その後令和元年12月と令和2年1月に立て続けに更新された国税庁の資料「事業者の皆様へ(〜区分経理から消費税申告書の作成まで〜)」(以下「国税庁資料」という)に基づいて、実務上の問題点を検証する。

1 誤った税率に基づいて税込対価を計算したレシートを交付した場合

 課税資産の譲渡等を行った者が適用税率を誤った場合には、下記のように取り扱うこととされている。
(1)税額が増加するケース((誤)8%→(正)10%)
 国税庁資料(8頁)では、適用税率を誤った場合の処理方法として、「……小売店などにおいて、買い手(顧客)に対して誤った税率に基づいて税込対価を計算したレシートを交付していた場合でも、『「取引の事実」に基づく適正な税率で計算して申告する必要があります』としたうえで、次のような事例を掲載している。

<事例>
 標準税率(10%)が適用される商品(日用品:税抜価格10,000円)について、軽減税率(8%)が適用された場合の税込価格10,800円で販売していた場合

 ↓

 適正な税率(10%)により計算した場合の消費税相当額は、以下のとおりとなります。
【販売価格】10,800円→本体価格 9,819円 消費税相当額 981円(10,800×10/110≒981)

 つまり、標準税率(10%)が適用される商品を誤って税込価格10,800円で販売した場合であっても、「10,800円の税込価格を10%の税込価格として計算(申告)しなさい」ということである。結果、商品の販売価格に対する消費税相当額は981円となることから、181円(981円−800円)の増加した消費税相当額は、結果として事業者が身銭を切って負担することとなるようだ。
(2)税額が減少するケース((誤)10%→(正)8%)
 国税庁資料には上記(1)の事例しか書かれていないのであるが、下記の事例のように、軽減税率が適用される商品を誤って標準税率で販売していた場合にも、8%税率で割り戻し計算をすることになるものと思われる。

<事例>
 軽減税率が適用される商品(食品:税抜価格10,000円)に標準税率(10%)を適用して11,000円(税込)で販売していた場合

 ↓

 適正な税率(8%)により計算した場合の消費税相当額は、以下のとおりとなります。
【販売価格】11,000円→本体価格 10,186円消費税相当額 814円(11,000×8/108≒814)

 結果、この商品の販売価格に対する消費税相当額は814円となり、186円(1,000円−814円)の減少した消費税相当額は、事業者が不当利得として収受することになる。
 適用税率を誤って不当に消費税相当額を収受した場合には、まずはお客様に対して店内への貼り紙やホームページなどによりその旨お詫びをするとともに、レシートなどを持参したお客様に対しては、2%の消費税相当額を返金することが必要となろう。それが、商取引のいわば常識である。国税庁資料には、正しい税率による精算という商取引の常識については何も書かれてない。(1)で説明した税額が増加するケースについてしか説明していないのは、事業者に対して誤解を与える要因になるのではないかと危惧している。
 なお、税率の差額200円を返金した場合には、当然のことながら修正後の販売価格10,800円(税込)に対し、軽減税率(8%)を適用して税額計算(申告)をすることになる。

2 誤った税率に基づいて税込対価を計算したレシートを受領した場合

 国税庁資料(10頁)では、「誤った税率に基づいて税込対価を計算したレシートを受領した場合には、取引先に対して『「取引の事実」に基づくレシートの再交付を依頼するといった対応が必要となります。』としたうえで、次のような事例を掲載している。

<事例>
 軽減税率(8%)が適用される商品(飲食料品:税抜価格10,000円×5点)について、標準税率(10%)を適用して55,000円(税込)で販売していた場合

 ↓

 適正な税率(8%)で再交付を受けたレシートに基づき記帳するとともに、修正後の支払対価の額54,000円(税込)により仕入控除税額を計算することとされています。

 適用税率が誤っている場合には、そもそもが区分記載請求書等の記載要件を満たさないこととなるので、買い手側としてはレシートの再発行を受けない限り、仕入税額控除は認められないことになるようだ(税率の差額1,000円(5,000円−4,000円)については、当然に売り手から買い手に返金されるものと思われる。)。
 また、国税庁資料には上記の事例((誤)10%→(正)8%のケース)しか書かれていないのであるが、標準税率が適用される商品について、誤って軽減税率に基づいて税込対価を計算したレシートを受領した場合((誤)8%→(正)10%のケース)にも、レシートの再交付を依頼して、税率の差額については追加払いをすることになるものと思われる。

3 記載要件と追記の関係

 仕入税額控除の規定は、法定事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が適用要件とされている。したがって、適用税率を誤ったことにより課税仕入れに係る支払対価の額が誤っている請求書等の保存では、仕入税額控除の要件を満たさないことになる。また、国税庁資料(10頁)によれば、適用税率の誤りによる税込対価の額の誤りは、「追記」による補正も認めないこととしているようだ。

4 適用税率の判定

 飲食料品の譲渡の判定に当たっては、販売する事業者が、人の飲用又は食用に供されるものとして譲渡した場合には、顧客が飲食以外の目的で購入し、使用したとしても軽減税率の適用対象となる(軽減通達2)。よって、買い手の立場からしてみれば、その商品の税率が8%なのか10%なのかという判断は売り手の意思に委ねられているのであり、買い手の用途により勝手に決めることはできないことになる。
 国税庁の軽減税率Q&A(個別事例編)の問20では、食品添加物として、食品表示法に規定する表示がされている重曹を販売する場合には、たとえ「清掃用に使用することができる」との表示があったとしても軽減税率を適用することとしている。
 では、食品添加物としての表示がない重曹が8%で販売されていた場合には、買い手は売り手から10%税率に基づいて計算したレシートの再交付を受け、差額の2%を追加払いしなければいけないのであろうか? また、売り手が食品添加物としての表示を忘れたことをもって、10%の標準税率が適用されることになるのであろうか?
 買い手は商品を購入するたびに、容器のラベルに食品添加物としての表示があるかどうかをいちいち確認する義務があるのであろうか? また、売り手が飲食料品と認識して販売した商品について、買い手が適用税率の変更を求めることなど現実問題としてできるのであろうか……このようなことを実務の現場で実行することは事実上不可能なのである!

5 通知義務と書類の再発行の関係

 適用税率の誤りに気がついた場合には、商取引の原則として、請求書等の交付者(譲渡者)は、請求書等の受領者(譲受者)に対し、その旨を通知するとともに、正しい請求書等を発行する義務があるものと思われる。よって、事業者間取引であれば、販売先にその旨を通知するとともに、正しい請求書等を発行することになろう。また、請求書等の受領者(譲受者)から正しい請求書等の再交付を求められた場合には、請求書等の交付者(譲渡者)は、取引の事実に基づいた売上金額により計算(申告)する義務があるはずだ。税率の差額を精算するかしないかは、いわゆる値決めの問題であるから、互いに協議の上で決定することになろうかと思われる(次頁事例参照)。

<事例1>

 標準税率が適用される商品(日用品:税抜価格10,000円)に軽減税率(8%)を適用して10,800円(税込)で販売していた場合(税率が増加するケース《(誤)8%→(正)10%》)

<事例2>

 軽減税率が適用される商品(食品:税抜価格10,000円)に標準税率(10%)を適用して11,000円(税込)で販売していた場合(税率が減少するケース《(誤)10%→(正)8%》)

6 修正申告と更正の請求

 確定申告書の提出期限後に税率の誤りに気がついた場合には、譲渡者と譲受者について、それぞれ次のように取り扱うことになるものと思われる。
(1)譲渡者の取扱い
 譲渡者が、標準税率が適用される商品について軽減税率を適用した場合には、税額が増加することから修正申告が必要になる。これとは逆に、軽減税率が適用される商品について標準税率を適用した場合には、税額が減少することから更正の請求ができるものと思われる。
(2)譲受者の取扱い
 仕入税額控除の規定の適用を受けようとする事業者は、法定事項が記載された帳簿及び請求書等を整理し、帳簿についてはその閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日、請求書等については受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存することが義務付けられている(消令50①)。よって、翌課税期間の開始から2か月を経過した日以後に請求書等の再発行を受けたとしても、保存期間の要件を満たさないことから仕入税額控除は認められないことになるのではないかと危惧している。

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