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解説記事2020年08月03日 ニュース特集 海外租税回避スキームの情報源、当局作成の「国際取引連絡せん」とは(2020年8月3日号・№844)

ニュース特集
不動産売買の仲介業者情報から海外資産把握も
海外租税回避スキームの情報源、当局作成の「国際取引連絡せん」とは


 税務調査等で国際的租税回避が想定される場合に作成されるのが「国際取引連絡せん」だ。国際取引連絡せんは、統括国税実査官(国際担当)が行う租税回避スキーム事案等に対する調査企画・立案で中心となる情報源とされ、調査担当者等には的確な作成が指示されている。海外SPCを利用した投資ファンドへの投資、海外不動産投資、ストックオプション類似の投資プログラムの利用などが作成対象の取引等とされる。また、国際取引連絡せんは、現行制度では課税が困難な事案に対応するための税制改正要望にも使用されているようだ。
 本特集では、課税当局の資料から、国際取引連絡せんの対象取引、資料源開発への活用、調査担当者等向けFAQを確認する。

国際的租税回避スキーム事案を把握する重要ツール

 「国際取引連絡せん」(今号7頁参照)は、国際的租税回避スキーム事案等(①各国の税制の差異や租税条約の違いなどを巧みに利用して租税負担を軽減していると想定される事案、②複雑で解明に高度な調査技術を要する事案)を把握するための重要なツールの一つとされているもの。
 国税局には、調査企画等を担当する統括国税実査官(富裕層担当、国際担当、情報担当、電商担当、消費税担当等)が設置されているが(本誌803号4頁参照)、国際的租税回避スキーム事案等に関する情報収集、実態解明、調査の企画・立案、分析は、国際担当統括国税実査官が実施している。国際取引連絡せんは、国際担当統括国税実査官が調査の企画・立案等を行う際に中心となる情報源とされる。

非居住者への仮装、信託契約の利用なども作成対象に

 国際取引連絡せんは、実地調査、申告審理、法定監査等の際、国際的な取引で、租税回避を図っていると想定される取引、契約等の情報、多額の国外送受金をしているなどの事実を把握した場合に作成される。
具体的な作成対象取引は
 作成対象となる取引・契約等としては、海外SPC、LLC、パートナーシップ等を利用して各種投資ファンドへの投資をしているもの、海外発行債券、海外不動産、不動産投資証券、海外レバレッジド商品等へ投資しているもの、ストックオプション類似の投資プログラムを利用しているもの、非居住者への仮装など居住形態の変更や信託契約を利用した租税回避等が想定されるものなどが掲げられている(参照)。

【表】「国際取引連絡せん」を作成する取引等

①海外SPC(特別目的会社)、LLC、パートナーシップ等の組織(事業体)を利用した各種投資ファンドへの投資(利益の海外留保、損失の前倒し商品、外形的損失の創出等)をしているもの
②海外のタックスヘイブン国等に設立した法人(事業体)を利用して資産運用しているもの
③海外発行債券(ユーロ債、資産流動化債券、外国国債等)、海外不動産(ビル、コンドミニアム等)、不動産投資信託(リート)、海外レバレッジド商品(船舶、航空機リース等)等へ投資しているもの
④ストックオプション類似の投資プログラムを利用しているもの
⑤海外金融機関、プライベートバンク(プライベートバンキング部門を含む)を利用して租税回避を図っていると想定されるもの
⑥非居住者への仮装など居住形態の変更による租税回避が想定されるもの
⑦信託契約を利用した租税回避、課税利益の繰り延べ等を図っていると想定されるもの
⑧国内で投資活動を行っている外国法人等に係るもの
⑨その他、海外取引、海外投資等を通じた租税回避等が想定されるもの
⑩上記①~⑨の取引等を組成・販売するプロモーター及びその顧客等に関するもの

海外法人設立、海外不動産売買等に係る仲介業者情報を収集

 国際取引連絡せんには、タックスヘイブン国への法人設立、海外金融商品・海外不動産売買に係る仲介業者の情報から租税回避の動きを見せる者や顧客の海外資産を把握する狙いもある。
 課税当局は、資料源開発に有効な情報として、以下の3項目を挙げている。
1.国外送金等調書が提出されていない取引
 国外送受金の事実があるにもかかわらず、KSK資料情報カードが存在していない取引は、金融機関が国外送金等調書を提出していないか、金融機関以外(例えば外資系決済代行業者)が関与している取引、部内において何らかの理由で資料化処理が保留されていることなどが想定される。
 金融機関への資料源開発又は資料化に至るまでの部内情報の見直し等が必要となる可能性がある。
2.租税回避利用地に海外法人を設立した際の情報
 香港、シンガポール、オランダ等、租税回避に使用される国の海外法人設立に至るまでの手続き等の情報(仲介業者の国内住所、名称、業務内容、代金支払先、海外税務申告等)。
 業界情報の把握が必要であり、手続き等の仲介を行った者へ対する資料源開発等を行うことで、事前に租税回避の動きを見せている者(会社)を把握できる可能性がある。
3.海外金融商品・海外不動産売買の仲介業者の情報
 海外金融商品や海外不動産売買の仲介業者について、資産購入・売却に至るまでの手続き等の情報(仲介業者の国内住所、名称、業務内容、代金支払先)。
 上記2.同様に業界情報の把握が必要であり、手続き等の仲介を行った者へ対する資料源開発等を行うことで、当該仲介業者の顧客の海外資産を把握できる可能性がある。

積極的な税制改正要望、逃げ道を塞ぐべく情報蓄積etc.

 前述のように、国際取引連絡せんは、国際担当統括国税実査官が国際的租税回避スキーム事案等に対する調査の企画・立案、分析等を行う際の中心的な情報源とされる。しかし、当該連絡せんの作成に当たっては、調査担当者等が作成すべきかどうか迷うケースもあるようだ。
 この点、課税当局は、調査担当者等向けFAQを作成している(下記参照)。当該FAQは、調査着手前での情報提供も歓迎する、現行制度で課税が困難な場合は積極的に税制改正要望を出していくなどとしており、国際的租税回避スキーム事案等に対する国際担当統括国税実査官のスタンスがうかがえそうだ。
内容確認で有効な資料情報に
 なお、当該FAQに加えて、風評やマスコミ情報を端緒とした想定でも、その内容を確認した一定の事実(公開情報の確認)を付加した場合は、情報としての精度が高く有効な資料情報になることなども周知されている。

【FAQ】 「国際取引連絡せん」を作成すべきかどうか迷った時は……

Q1
 そもそも国際的租税回避であるか否かが判別できないので、作成対象かどうか分からなくて……。
A
 判別作業はお任せください。資料を添えて国際取引連絡せんを作成いただければ、国際統実内で回覧し、各事務系統の職員が多角的に検討します。

Q2
 まだ実態や事実関係が十分に解明できていません。
A
 作業中の状態で結構です。国際統実では、多様な情報源から分析を行い、事実関係を確認するなどして解明に努めます。

Q3
 調査はまだ行っていませんが、租税回避又は租税の軽減を図っている可能性があります。
A
 調査着手前での情報提供も歓迎しています。早期の情報共有に意義があります。

Q4
 課税上の問題はあっても、現行制度では課税が困難なのに、わざわざ連絡せんを作成する意味があるのでしょうか。
A
 制度面から対応できるよう、積極的に税制改正要望を出していきます。その際、現行制度に課税上の不備がある具体例を基に説明する必要があり、こうした情報が大いに役立ちます。

Q5
 国外送金等調書の提出されない方法で海外に送金している例を把握しましたが、送金の情報以外に問題はありません。
A
 調査での増差所得や非違の有無にかかわらず、こうした情報をお待ちしています。各種法定調書により国外財産の把握が進む中、逃げ道を塞ぐべく情報を蓄積しています。

Q6
 時間的制約があり、調査において全貌の解明や課税に至りませんでした。
A
 課税に至らなかったケースは、今後課税するアプローチを研究する好材料となります。調査資料を添えて資料化をお願いいたします。

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