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解説記事2020年08月03日 SCOPE 裁判相次ぐ評価通達6項適用事案(2020年8月3日号・№844)

課税庁は「裁判例」への落とし込みを意図も……
裁判相次ぐ評価通達6項適用事案


 評価通達6項の適用を認めた高裁判決(本誌841号40頁参照)を受け、納税者は上告申立(及び上告受理申立)手続きを行った。さらに、東京地裁民事2部では、評価通達6項の適用を争点とした別の事案が令和2年7月7日に結審し、令和2年11月に判決言渡しが予定されている。相続税申告に携わる実務家にとっては、「特別の事情」の具体的な適用基準(ex.直前取得・事後売却の意義、取得価額と通達評価額の乖離率、相続税額の軽減効果、借入金による取得)が気になるところであるが、7月7日に結審した事案(下記:もう一つの評価通達6項適用事案)からは、課税庁が、過去の裁判例における判示を念頭に、①「専ら相続税軽減を目的とするものであること」、②「被相続人らの行為の経済的合理性の有無」に着目して、これらの争訟に取り組んでいることを窺い知ることができる。

もう一つの評価通達6項適用事案とは

 本件は、被相続人が所有していた神奈川県横浜市所在の一棟マンション(以下「本件マンション」という。)の相続税評価額が争われた事案である。本件申告等において、納税者(原告)らは、国税庁の定める財産評価基本通達の定めに従って、本件マンションの土地評価は相続税路線価、建物評価は固定資産税評価に基づき、それぞれ算出した。これに対し、相続開始時から4年半近く経過した平成29年12月ころ、課税当局(被告)は、本件マンションは評価通達6の定める「評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産」に該当することから、被告が事後に独自に行った不動産鑑定評価に基づいて算出しなおすべきとして、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
 納税者(原告)が主張する本件マンションの土地評価額は339,256,689円、建物評価額は138,354,420円、被告の主張する土地評価額は830,000,000円、建物評価額は210,000,000円、本件マンションの取得価額は、土地882,352,942円、建物(消費税込)617,647,058円であり、当該不動産を取得するための借入金として15億円が併せて計上されていた。
 本件マンションを取得したのは、平成25年7月25日であり、被相続人の相続開始日は平成25年9月16日であった。
 本件マンションは、単身者用の食事付・家具付の特殊な賃貸マンションであり、設備、サービス等が充実していることから、通常よりも高い賃料及び高い入居率による高い収益性があること、本件マンションの取引価格が同一年中に異常に急騰したことが特徴として挙げられている。

相続税回避事案vs不動産賃貸業の一環

相続税回避事案への適用は確立済み
 課税当局は、本件通達評価額(477,611,109円)と本件売買価額(15億円)との間に著しい乖離(約3.14倍・価額差10億2,238万8,891円)が存在するとしたうえで、このように相続開始の直前に本件マンションの取得及び本件借入金の借入れを行い、本件被相続人の相続税の課税価格が大幅に圧縮され相続税負担が軽減されている背景には、①専ら相続税軽減を目的とするものであること、②本件被相続人が本件マンションを取得する経済的合理性がないこと、との事情が認められ、相続税負担の軽減という効果を享受する余地のない納税者との間での租税負担の公平を著しく害し、また、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反する著しく不公平な結果をもたらしていることは明らかであると主張。また、評価通達6項の適用事案として、「実質的な租税負担の公平という観点から看過しがたい事態」「富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反するもの」と判示した過去の裁判例(東京地裁平成4年3月11日判決、東京地裁平成4年7月29日判決、東京高裁平成5年3月15日判決、東京地裁平成5年2月16日判決)が先例となるとした。このほか、評価通達に定める評価方法では、本件マンションの特殊性等を的確にその評価額に反映させることには限界があるとも主張した。
原告は、「事業の継続」を主張
 一方、納税者は、評価通達6項の適用を争点とした先行事案に即して、本件課税処分が租税法律主義に反するとした主張を行いながらも、先行事案で租税法律主義に反するとした主張が斥けられてきたことを踏まえ、先行事案との相違点を次のとおり主張する。
 「そもそも本件においては、評価通達に『定める評価方法を形式的・画一的に適用することによって、』著しく害されることになるとされる『納税者間の実質的な租税負担の公平』の内容が全く不明瞭であると共に、むしろ、本件各処分が適法と認められることにより、納税者間には、相続税課税上、あるいは経済活動の上で、著しい実質的な不公平が生じる結果をもたらすことになるのであり、本件で『特別の事情が』存在しないことはこの点のみをもってしても明らかである。」
 「連綿と不動産賃貸業を営み、被相続人の死亡後も原告らにおいて不動産賃貸業を継続している本件と、訴訟の当事者たる原告が相続開始後に購入した不動産を売却、処分している先行事案とは、特別な事情の判断において極めて重要な要素についての事実の相違があり、本件の先例とはなり得ない。」
 「(本件の)被相続人及び原告らは、収益性が高く、事業を継続するにつき投資効果が高く、優良物件であると判断された本件不動産を、不動産賃貸業の一環として、レバレッジ効果を引き出すために銀行からの借入れによって購入し、現在に至るまで継続して所有し、不動産賃貸業を継続しているのであり、被告が指摘する他の裁判例と異なり、本件で特別の事情は存在しない。」
 課税庁の経済的合理性の有無の主張に対して納税者は「本件は継続した不動産賃貸業の一環」であると主張し、「特別の事情」があるとする課税処分に反論しており、この点は先行事案との相違点となっている。

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