解説記事2020年08月24日 SCOPE 税理士報酬、家を継がない相続人が支払い拒否でトラブル(2020年8月24日号・№846)
東京地裁、税理士報酬は旧報酬規定の7割相当
税理士報酬、家を継がない相続人が支払い拒否でトラブル
今回紹介する税理士報酬等請求事件は、被相続人の家の顧問税理士(原告)が相続税の申告等の際に家を継いでいない相続人2人(被告)から報酬の支払いを拒否されたもの。裁判所は、原告と被告との間に委任契約があったと認めたが、支払うべき報酬額は税理士会の旧税理士業務報酬規定の約7割相当であると算定した(東京地裁、令和2年3月10日判決、平成29年(ワ)第15804号)。原告である税理士の請求額は被告1人に対して各517万円であったが、裁判所により最終的には各自60万円となっている。
依頼者は家を継ぐ相続人のみと主張、他の相続人は報酬の支払いを拒否
本件は、税理士である原告が、被告らを含む相続人らから、相続にかかる遺産分割協議や相続税の申告手続に関する業務等を依頼されこれを履行したが、被告ら(被相続人の次女及び三女)は委任の事実自体を否認して一切の金員を支払わなかったことから、被告ら各自に対して各業務にかかる委任契約に基づく報酬請求として約517万円の支払いを求めた事件である。
被告らは、原告にとっての依頼者は相続人の1人である長女のみというべきであると主張(表参照)。仮に相続税申告手続等の委任契約の成立が認められたとしても、遺産分割協議の立会いや、遺産分割協議が成立したときの相続税の申告以外の事項が委任の対象になることはないなどとした。
【表】争点と当事者の主な主張
原告(税理士) | 被告(相続人ら) |
委任契約の成否及びその内容 | |
・相続人らは平成21年4月26日、被相続人の遺産分割や相続税申告に関する協議を行うために参集し、被告らを含む相続人らとの間で被相続人の相続にかかる遺産分割協議ないし相続税申告手続を原告に委任する旨の委任契約が成立した。 ・原告は被相続人の家の顧問税理士であり、被相続 人の夫の相続に際しても遺産分割協議に基づいた相続税の申告手続を行っており、本件委任契約の当事者の合理的意思解釈としては、相続にかかる遺産分割協議及び相続申告手続のみならず、遺産分割協議が終局的に解決し、これに基づく相続税の申告等が終了するに至るまでの一切の手続を原告に委ねたものと解するのが相当である。 |
・被告らは、平成21年4月26日に参集した際、原告が相続にかかる遺産分割協議に立ち会うことや、遺産分割協議が成立した時に原告が相続税の申告を行うことについて大まかな了解をしていた。しかし、原告は被相続人の家を継ぐことになる長女に与しており、原告にとっての依頼者は長女のみというべきである。 ・被告らは、原告が遺産分割協議に立ち会うことや、遺産分割協議が成立したときに原告が相続税の申告を行うとの説明しか受けていないことから、仮に委任契約の成立が認められたとしても、これら以外の事項が委任の対象となることはない。 |
委任事務の履行の有無及び相当報酬額 | |
・委任契約においては報酬についての具体的な合意 はされていないが、相続した額に従って報酬を負担してもらうといった程度の簡単な説明はしていた。本件の報酬額は、東京税理士会の旧税理士業務報酬規定等に照らし、被告らにそれぞれにつき合計517万1,442円(※)とするのが相当である。 ※517万1,442円の報酬額は、申告業務(652万5,000円)、更正請求(127万5,000円)、修正申告(127万5,000円)、税務調査対応の成功報酬(612万3,600円)、立会いの日当(130万円)、延納申請(20万円)、消費税を加算した合計額1,803万4,488円に被告らが納めるべき相続税額の相続税総額に対する割合(約28.7%)を乗じたもの。 |
・そもそも原告と被告らとの間では報酬支払に関する合意がされておらず、本件申告は被相続人の長女のために行われたものといわざるを得ない。 ・旧税理士業務報酬規定は報酬の最高限度額を定めたものであり、規定どおりの金額が請求できるわけではない。 |
裁判所、税理士と相続人の間で委任契約の締結は明らかと判断
東京地方裁判所(齊藤学裁判官)は、被告らは平成21年4月26日に税理士である原告が被相続人の相続にかかる遺産分割協議に立ち会うことや、遺産分割協議が成立したときに原告が相続税の申告を行うことについて大まかな了解をしていることのほか、原告が相続税の申告をし、申告書には被告らの押印もされていることなどに照らすと、原告と被告らとの間において委任契約が締結されたことは明らかであるとした。加えて裁判所は、被告らは原告が遺産分割協議において専ら長女に与していたことなどを理由に委任契約の成立を否認するが、契約の成否自体に影響すべき事情とはいえないとした。
税理士の行った個々の業務を個別に判断
裁判所は、委任契約の内容に関しては原告に委ねたものということができるとしたが、原告が行った個々の業務が原告の主張する「相続税の申告等が終了するに至るまでの一切の手続」に該当し、委任契約に含まれるか否かは、個別に判断せざるを得ないとした。
その上で裁判所が被告らの支払うべき相当報酬額について検討を行ったところによれば、本件委任契約につき、旧報酬規定によった場合に被相続人の相続人全員に対して請求することのできる報酬は、相続税の申告にかかる397万5,000円及び遺産分割協議の立会い日当にかかる45万円であると算定した。
ただし、旧報酬規定は報酬の上限を規定したものであること、原告は長年被相続人の家の顧問税理士を務めており、相続人らとしては旧報酬規定を提示されていたとしても、その上限額を負担する意思を示したとは考え難いことなどからすると、相続税の申告につき相続人らが負担すべき報酬の総額は、旧報酬規定の約7割の278万円が相当であるとした。そして、被告らが最終的に納めることになった相続税額の相続税総額に対する割合は各18.4%であることからすると、原告が被告ら各自に請求できる金額は51万円であり、これに遺産分割協議の立会い日当として相当である5万円を加えると、原告が被告ら各自に請求できる金額は60万4,800円(消費税込み)が相当であるとの判断を示した。
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