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解説記事2020年09月07日 ニュース特集 帳簿等の不提示による仕入税額控除否認事件で控訴棄却(2020年9月7日号・№848)

ニュース特集
消費税制度の本質・骨格と相反する条文解釈の是非 判断は最高裁へ
帳簿等の不提示による仕入税額控除否認事件で控訴棄却


 東京高裁第9民事部(小川秀樹裁判長)は令和2年8月26日、納税者が帳簿等を提示しなかったことが「帳簿等を保存しない場合」に該当するものとして消費税等の仕入税額控除を否認した更正処分等の取消請求控訴事案について、「(原審の判示する)解釈は国民にとって不意打ちとなるような不当な拡張解釈とはいえず、租税法律主義に反するものともいえない。」などと判示し、控訴を棄却する判決を言い渡した(本誌813号40頁、817号40頁参照)。
 訴訟代理人は、控訴審判決後の本誌の取材に対し、上告の姿勢を示している。

無予告調査への反発が38億円余もの追徴課税処分を招く結果に

 本件は、控訴人が、課税庁の職員から受けた調査において、消費税法30条7項に規定する当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除(仕入税額控除)に係る帳簿及び請求書等(帳簿等)を提示しなかったことにより、同項にいう「帳簿等を保存しない場合」に当たることを理由に、処分行政庁から、当該課税期間に係る仕入税額控除は認められないとして、消費税及び地方消費税(消費税等)に係る更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を受けたため、これらの処分の各取消しを求める事案である。
 原判決は、上記各処分はいずれも適法であるとして控訴人の請求をいずれも棄却し、控訴人は、これを不服として本件控訴を提起した。
 納税者が帳簿等を提示しなかった背景には無予告調査への反発があったが、結果としてこれが38億円余にも上る追徴課税処分へとつながっており、その“高すぎる代償”にも関心が寄せられていた。

控訴人は原審の解釈を「租税法律主義に反する解釈」と批判

 控訴審において、控訴人は以下の補充主張を行っている。
1 本件調査における帳簿等の不提示が法30条7項にいう帳簿等を「保存しない場合」に当たらず、また、帳簿等の提示の求めに対し「応じ難いとする理由」があることについて
(1)租税法律主義に反する解釈はとり得ないこと

 事業者が消費税法施行令50条1項の定めるとおり、法30条7項に規定する帳簿等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、通則法74条の2第1項3号に基づく税務職員による検査に当たって適時これを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、法30条7項にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に当たると解することは、提示しないことが「保存しない場合」に当たると拡張して解釈するものであり、消費税制度の本質や法30条7項の意義に反し、そして、納税者の利益を害し、憲法84条の定める租税法律主義に反するものであるからとり得ない。
 すなわち、現行の消費税制度は、消費税が売上高税ではなく、付加価値税の性格を有するとして、課税の集積を避けるため、前段階控除方式(課税売上に係る税額から課税仕入れに係る税額を控除する方式)を採用し、課税仕入れの税額控除を行うことを本質、骨格とする累積排除型間接税としている。これに対し、法30条7項は、帳簿等を保存しない場合に仕入税額控除を適用しないとするものであり、上記の消費税の本質、骨格に反し、例外的に本来控除すべき仕入消費税額を控除しないとするものであるから、法30条7項所定の「保存」の文言については、納税者の利益のためにも拡張解釈は許されず、厳格に解釈すべきである。
 最高裁平成13年(行ヒ)第116号同16年12月16日第一小法廷判決・民集58巻9号2458頁、最高裁平成16年(行ヒ)第37号同16年12月20日第二小法廷判決・裁判集民事215号1005頁(本件各最高裁判決)における上記解釈と同様の「適時保存」の解釈は、「保存」は「適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存する場合」でなければならないとする点では限定解釈であるが、「保存」に「提示」が含まれるとする点では拡張解釈であり、租税法律主義の要素である課税要件法定主義に反し、納税者の利益に反する不合理な解釈である。また、帳簿等を「保存しない場合」に「課税機関の調査における不提示」が含まれることについては、課税機関の調査の態様が提示の求め方(口頭か文書か)、相手方(本人か税務代理人か)、期間、回数、納税者側の都合、提示拒否の理由・仕方等、様々であり、いかなる場合に「保存しない場合」に該当するのかは極めて不明確であるから、上記解釈は租税法律主義の要素である課税要件明確主義にも反する不当なものであるといえる。
 このほか控訴人は、(2)本件は本件各最高裁判決の事案とは異なる事案である、(3)本件における帳簿等の不提示は、控訴人の「真意・意向」に反するものであり、法30条7項所定の「保存しない場合」に当たるとされる「不提示」とみるべきではなく、また、不提示には提示の求めに対し「応じ難いとする理由」がある、(4)本件調査担当者は、控訴人に対して帳簿等の提示を求める際、控訴人が仕入税額控除を否認されることを知らないでいることを認識しながら、仕入れ税額控除否認の仕組みを説明教示しなかったから、本件調査における帳簿等の提示の求めは違法であり、不提示には提示の求めに対し「応じ難いとする理由」がある、などと主張していた。

東京高裁は「不当な拡張解釈とはいえず」と判示

 東京高裁は、主たる争点において、次のとおり判示して控訴人の主張をいずれも斥け、控訴を棄却する判決を言い渡した。
1 本件調査における帳簿等の不提示が法30条7項にいう帳簿等を「保存しない場合」に当たらず、また、帳簿等の提示の求めに対し「応じ難いとする理由」があるとの主張について
 事業者が、消費税法施行令50条1項の定めるとおり、法30条7項に規定する帳簿及び請求書等(帳簿等)を整理し、これらを所定の期間及び場所において、通則法74条の2第1項3号に基づく税務職員による検査に当たって適時これを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、法30条7項にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に当たり、事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを証明しない限り、同条1項の規定は、当該保存がない課税仕入れに係る課税仕入れ等の税額については適用されないものと解すべきであり(本件各最高裁判決参照)、その理由は、原判決「事実及び理由」欄に記載のとおりである。
 控訴人は、法30条7項の規定する「帳簿及び請求書等を保存しない場合」につき、上記のように解することは、不当な拡張解釈であり、消費税制度の本質や法30条7項の意義、そして、納税者の利益を害し、憲法84条の定める租税法律主義に反するものであると主張する。
 しかし、法が採用する申告納税制度の趣旨及び仕組み並びに法30条7項の趣旨(原判決参照)に照らせば、上記のように解するのが相当であり、また、法令により帳簿書類の備付け、記録及び保存義務が課されていること並びに納税義務者が果たすべき役割及び税務署長が果たすべき役割(申告の審査、税務調査の実施等)は広く国民に知られ、法30条7項は、同項所定の場合には同条1項を適用しない旨、疑問の余地のない明確な文言で定めていることを踏まえれば、上記のような解釈は国民にとって不意打ちとなるような不当な拡張解釈とはいえず、租税法律主義に反するものともいえない。
 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

控訴人訴訟代理人、「最高裁大法廷の審理にふさわしい事案」と回答

 本件控訴審判決を受け、本誌は控訴人訴訟代理人の山下清兵衛弁護士に取材を行った。
記者「山下先生、上告する意向でしょうか?」
山下弁護士「そうなると思う。」
記者「最高裁大法廷での逆転判決を目指すことになりますね?」
山下弁護士「この事件は、最高裁大法廷の舞台にふさわしい事案だと思う。」
 過去の裁判例などの経緯を踏まえると、本件は、納税者が勝訴するためには、(最高裁)判例の変更を要するものと思われる。すなわち、最高裁大法廷での審理を経ての逆転判決を目指すことになる。最高裁の壁は相当に高いものと想定されるが、山下弁護士は、理論的には消費税制度の本質・骨格と相反する条文解釈、さらには、結果としての巨額課税処分の不当性に対して、闘志を奮い立たせているようにも窺えた。

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