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解説記事2020年10月05日 特別解説 我が国の上場企業による不正〜第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析〜(2020年10月5日号・№852)

特別解説
我が国の上場企業による不正
〜第三者委員会報告書を提出した企業の調査分析〜

はじめに

 本稿では、2014年4月から2020年6月末日までの期間で、不適切な会計処理や不適切な行為について、第三者委員会報告書(第三者を含んだ社内調査報告書等を含む)を公表した企業を題材として、不正の発生原因や類型、特徴点を分析するとともに、2020年度の上半期(1月1日から6月30日まで)に発生した特徴的な不正事例を3件(ネットワンシステムズ、五洋インテックス及びジャパンディスプレイ)取り上げて紹介することとしたい。

調査の対象とした企業

 今回調査の対象としたのは、2014年4月1日から2020年6月30日までの期間に、不適切な会計処理や不適切な行為等について第三者委員会報告書(第三者を含んだ社内調査委員会報告書を含む)を公表した企業(以下、「報告書公表企業」という。)186社である(表1を参照。)。これまでは、年間にほぼ30件のペースで不適切な会計処理に関する調査報告書が公表されてきたが、2019年度は41件、2020年度は上期だけで20件と、2019年度と同様に年間40件ペースになっている。

 なお、調査報告書が公表された事例のうち、得意先が要求するスペックを満たしていない製品を偽って納入していた、等の会計処理とは直接関係しない不適切な事例は、今回の調査の対象からは除いている。
 次に、報告書公表企業の186社を、上場している市場等の区分ごとに分類すると、表2のとおりであった。3,700社弱の上場企業のうち、60%弱が東証1部となっていることから、絶対数でみると東証1部に上場している企業(又はその子会社等)による不適切な会計処理が最も多いが、各市場の上場企業数の合計で除して比率を算出すると、東証1部が4.3%であるのに対して東証2部は5.4%、ジャスダック6.0%、マザーズが5.5%と、いわゆる新興市場に上場している企業のほうが、相対的に見て不適切な会計処理が起こりやすい傾向にあるという結果となった。

不適切な会計処理の分類と発覚の原因等

 不適切な会計処理を生じさせた当事者を分類すると、表3のとおりであった。

 なお、表3の「元役員・従業員」の区分には、組織的ではない、個人的な不正行為(横領、着服等)を分類している。新聞報道等でもよく取り上げられているが、親会社に比べてガバナンスが効きにくく、監視の目が届きにくいとされる連結子会社(特に中国をはじめとする海外の子会社)で不適切な会計処理が発生した事例が多かった。
 次に、不適切な会計処理を形態別に分類すると、表4のとおりとなった。

 会社の業績、特に売上高や利益を実力以上によく見せることを狙ったいわゆる粉飾決算が過半数を占めていたが、その一方で、個人的な動機(ギャンブル等にのめりこんだ末の借金返済や、個人的な遊興費への充当等)による資金の横領や着服等も少なからず存在していた。また、国内外の連結子会社において、本社が十分に管理監督をしないままに現地の担当者に業務を任せきりにしていたり、未知の土地で取引の拡大を拙速に進めようとしたりした結果、不透明な取引や循環取引等に巻き込まれて多額の不良債権や損失が発生したような事例もあった。さらに、「会社の私物化」には、オーナー経営者や創業者が、取締役会の決議等を経ぬままに私情が絡んだ投資を行ったり、公私混同を行ったりしていたような事例が含まれている。
 さらに、不正の具体的な内容を分類すると、表5のとおりであった。

 一つの不適切な会計処理事案の中に、表5の項目が複数含まれることはよくあり、むしろそのような事例のほうが多いが、ここでは便宜的に、それぞれの事案をどれか一つの項目に絞って分類している。架空売上の計上(前倒し計上)、会社資産や会社資金の着服・横領、及び架空在庫の計上という手法は、非常に古典的な、古くて新しい不適切な会計処理の技法であるといえる。
 最後に、不適切な会計処理が発覚した契機を分類すると、表6のようになった。

 調査報告書上は必ずしも明記されていないが、表6の「社内調査」には、企業が自ら異変に気付いて行った自発的な社内調査のほかに、内部・外部から内密の情報提供を受けた上での社内調査も相当数含まれているものと思われる。不適切な会計処理を外部者が発見することは難しく、したがって不適切な会計処理を発見するためには内部通報のほうが有効であると言われることもあるが、今回の調査結果を見る限り、会計監査人(監査法人)や外部からの指摘、あるいは税務調査における指摘など、外部の第三者が介在したことをきっかけとして不適切な会計処理が発覚したケースがかなりの部分を占めていた。内部統制や内部的な自浄作用に加え、会計監査人等による外部からのけん制も、不適切な会計処理の抑止に一定の効果があるものと思われる。

2020年上半期に発生した特徴的な不適切な会計処理の事例

 表1で紹介しているように、2020年1月1日から6月30日までの間に第三者委員会報告書が公表された不適切な会計処理にかかる事例は20件あったが、以下では、2020年上半期(1月〜6月)に生じた不適切な会計処理のうち、ネットワンシステムズ、五洋インテックス、及びジャパンディスプレイの3社の事案を取り上げて概要を紹介するとともに、簡単にコメントすることとしたい。

循環取引への関与(ネットワンシステムズ他)

 2020年の1月から3月にかけて、循環取引に関与した各社から、プレス・リリースや第三者委員会調査報告書が相次いで公表された(表7参照)。

 ネットワンシステムズ社が公表した調査報告書によれば、2019年11月、東京国税局による税務調査の過程で、一部取引について納品の事実が確認できない取引がある旨の疑義があるとの指摘を受けたことが調査の契機となった。
 当該納品の事実が確認できない取引は、中央省庁をエンドユーザーとする架空の物品販売を内容とする商流取引を順次繰り返す形で行われていた。この不正行為の期間中、営業第1チームのマネージャーであったA氏が、本不正行為による取引の当事会社の担当者らと連絡を取り合い、A氏の部下らに対して必要書類の一部の作成を命じ、A氏の上長に対して架空の商流取引である事実を秘して決裁を受け、本不正行為に係る取引を実行していた。
 中央省庁の商流取引における本来の取引の流れは、「メーカー(→仕入業者)→ネットワン社→落札業者→省庁」となるが、この不正行為の場合の取引の流れは、「仕入業者→ネットワン社→落札業者→仕入業者」となり、架空の物品販売であるため、製品の実際の納入はなく、帳票類の受渡しと代金名目での金銭の授受のみが当事会社間で行われていた。そして、循環取引の例にもれず、取引が繰り返される度に売上が計上され、かつ売上代金の金額が加算されていった。
 ネットワン社は、特別調査委員会からの報告を踏まえ、営業取引に関する基本方針として、
当社グループの付加価値(当社独自のサービスやソリューション等)が認められる案件のみを対応することや、発注権限と検収権限を営業部門から切り離すこと、仕入先からの直送取引は原則禁止とするとともに、納期等の事情により直送が必要な場合は、商流取引に該当しないことの承認を購買部から事前に得るとともに、顧客による検収確認を義務付けるなどの再発防止策を講じているとしている。
 なお、ネットワン社は、最終報告書の公表に先立ち、2020年2月13日に、特別調査委員会の中間報告書受領及び公表に関する説明会を開催しており、その際の質疑応答(要旨)を公表している。興味深い内容のため、一部を抜粋して紹介することとしたい。

Q. 前回の再発防止策から期間を空けることなく不祥事が起こっている。再発防止策が効かなかった理由をどう考えているか(注)。
A. 深くお詫び申し上げる。再発防止策自体は効いていたが、前回とは全く違う方法ですり抜けられてしまったという事実がある。伝票が偽造されて社外で案件名がすり替えられる、それが回って当社には元の案件名として戻ってくる等は想定していなかった。
  特別調査委員会の専門家からも、現時点では、当社のガバナンスの体制は他社と比べてよくできているのに抜けられてしまったとの心証を持っているとコメントを頂いている。また、A氏も関係各社の担当者も長く同じ部門にいたことから、ローテーションが必要と考えている。顧客からのエビデンスの入手などの案件に関する確認の厳格化も含め、対応策を考える必要がある。
(注)ネットワンシステムズ社は、2013年3月、得意先である十六銀行向け商談の担当者が、システム開発業務を委託する際に水増し発注を繰り返し、総額約8億円の損失が発生したことを公表している(この際も、特別調査委員会調査報告書が公表された)。
Q. 現金の勘定は合っていたのか。おかしいと判断できるチェック体制はなかったのか。
A. チェックは明確に行われていて、当社内では勘定は合っていた。ただ、その勘定の整合性は、A氏が発行した偽造注文書による案件名のすり替えで成立していたものであった。会社でのガバナンスは前回の不祥事以降力を入れているが、それを無効化されたのだと考えている。
Q. 不正を主導したA氏のバックグラウンドと動機は。個人で金銭を得ていたのか。
A. 動機は明確には分かっていない。本人は会社の業績に貢献しようとしたと話している。
  なお、A氏はマネージャーと呼ばれる部長の下の管理職であり、営業マンとしての評価は高かった。

 なお、監査を実施する会計監査人の側にも課題がないわけではない。日本公認会計士協会は、2011年9月15日付で、会長通牒平成23年第3号「循環取引等不適切な会計処理への監査上の対応等について」を公表して会員である監査法人や公認会計士に対して注意喚起をしたほか、2020年2月14日付の会長声明「最近の不適切会計に関する報道等について」においても、「複数の大手上場企業が関与する循環取引について、新聞等による報道及び企業からの情報開示が行われている。」として、改めて注意喚起を行っている。
 循環取引に限らず、会計上の不祥事の再発防止がいかに難しいかを改めて考えさせられる事例である。

四半期レビュー報告書を受領せぬまま四半期報告書を提出した事例(五洋インテックス)

 ジャスダック上場でカーテンなどインテリアテキスタイルの専門商社である五洋インテックス(以下「五洋」という。)は、2020年3月期第2四半期報告書について、四半期レビューの重要論点とされる継続企業の前提に関する資料を会計監査人に提出しなかったこと、一方で四半期レビューの手続が未了のまま四半期報告書を提出したこと、また、それら状況にもかかわらず、適時な開示等の必要な対応を行わなかったことなどから、3月12日付で、東京証券取引所から特設注意市場銘柄に指定されるとともに、上場契約違約金として2000万円の支払いが求められることとなった。五洋は2020年3月4日付で調査委員会による調査報告書を公表しているが、調査報告書の中では、四半期報告書の提出期限である2019年11月15日の前後から12月初旬にかけて、会社と監査法人とがやりとりしたメールが生々しく記載されている。時間的な締め切りが刻々と迫る切羽詰まった状況の中、会社側と東京証券取引所とのやり取りや監査法人との意思疎通の行き違い等がリアルに再現されており、大変興味深い。
 なお、五洋は、以前にも別の会計上の不祥事(自らが主体的に関与していない取引について売上高と売上原価を両建てで計上したほか、架空売上を計上)により、第三者委員会の調査報告書を公表している(2018年5月7日付)。

極めて長期間、かつ広範にわたる不適切な会計処理(ジャパンディスプレイ)

 ジャパンディスプレイ(以下「JDI」という。)は、ソニー、東芝及び日立製作所の中小型液晶ディスプレイ事業を統合した会社である。韓国・台湾勢との競争による液晶パネルの価格下落で、赤字が続いていた日本の各電機メーカーのディスプレイ事業のうち、スマホ向けに利益が見込める中小型液晶パネル事業のみを、日本政府系の投資ファンドである産業革新機構の主導で再編した会社であり、中小型液晶パネルで世界シェア1位(会社発足当時)の「日の丸液晶」パネルメーカーとして大きな期待がかけられていた。しかし、2020年4月13日付で公表された第三者委員会による調査報告書において、上場直後の2013年から直近に至るまで、大規模な不適切な会計処理が行われていたことが明らかになり、資本市場・株式市場に大きな衝撃が走った。第三者委員会による調査は、経営陣の指示により過年度の決算について不適切な会計処理を行っていた旨の通知を、2019年11月26日に元経理・管理統括部長から会社が受けたことを契機として実施された。
 第三者委員会報告書によると、不正疑義の内容は11項目にも及んでおり、「不正のデパート」ともいえる様相を呈している。
① 100億円規模の架空在庫(仕掛品)の計上
② 滞留・過剰在庫について実態と異なる販売見込み等を用いることによる評価損の計上回避
③ 本来費用計上すべき消耗品を貯蔵品に振り替えることによる利益操作
④ 本来計上すべき費用や損失の先送りや資産化による利益操作
 ・治具の改造に係る費用を固定資産として計上、研究開発用マスク購入費を固定資産として計上など。
⑤ 海外向け販売代理店への買戻条件付販売による売上計上
⑥ 大口顧客に対して販売した製品保証に関する費用の先送り
 ・大口顧客への製品不良の賠償費用について、いったん計上した費用を取消して先送りした。
⑦ 海外受託製造会社(Electronics Manu-facturing Service)及び海外製造子会社におけるJDI帰責の損失に関する引当金の未計上及び先送り
⑧ 固定資産の減損損失の回避
 ・再稼働の見込みのない遊休資産について、本来は減損損失を計上すべきであったところ、会計監査人に対し、再稼働の予定があるかのような説明を行うことにより、減損損失の計上を回避した。
⑨ 本来費用処理すべきものを固定資産の取得価額に算入することによる利益確保
 ・工場ラインの立上費用やIT業務委託費を有形・無形固定資産の取得原価に算入した。
⑩ 関係会社に対して四半期ごとに支出した研究開発委託費を出資に振り替えることによる損失回避
 ・まだ契約変更の高度の蓋然性が客観的に認められない時点において、出資への契約変更を根拠に費用計上を回避した。
⑪ 段階利益(利益表示区分)の操作による営業利益の過大計上
 ・実際には稼働していた設備の減価償却費を営業外費用として計上した。

 JDI社は、「日の丸液晶」「産業再生機構が手掛けた会社」など、良くも悪しくも注目度が高い会社であったため、経営陣も必要以上に力が入り、液晶業界が極めて浮沈が激しいことも相まって、職員に対して業績の達成を長期間にわたって無理強いしたものと考えられる。
 ソニー、東芝、日立製作所といった、我が国を代表する電機メーカーが母体であることから、管理部門にも質量ともにそれなりのレベルの人材がそろっていたはずであり、業務フローやマニュアル等も整備されていた可能性が高いと思われるが、これらは経営者や管理者の姿勢次第で簡単に無力化されてしまうことをまざまざと示している事例と言えよう。

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