一般2009年03月26日 謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱ(丁重語)の違い 執筆者:蒲谷宏
敬語と言えば、尊敬語、謙譲語、丁寧語の3種類ということでしたが、2007年に出された「敬語の指針」(文化審議会答申)において、尊敬語、謙譲語Ⅰ、謙譲語Ⅱ(丁重語)、美化語、丁寧語の5種類が提示され、ただでさえわかりにくい敬語がさらに複雑になったなどという批判が起きました。しかし、敬語研究の分野では、敬語は3分類では説明できないということはすでに常識であって、筆者は少なくとも11種類に区分することで、敬語の持つ性質の違いが過不足なく説明できると考えています。それはともかく、「敬語の指針」で特に話題になったのは、謙譲語ⅠとⅡの違いは一体何なのか、ということでした。詳細は「敬語の指針」そのものに譲るとして、具体的な例(自分は社員、相手は課長)で見ていくと、
①その件は、部長に御説明しました。…「御説明する」謙譲語Ⅰ
②その件は、部長に説明いたしました。…「説明いたす」謙譲語Ⅱ(丁重語)
という違いになります。ただしこの例だと、どちらも部長を高めているように見えるので、違いなどはないと思われるかもしれません。
しかし、部長を同僚の山田に変えると、その違いが明確になってきます。
③その件は、山田に御説明しました。…謙譲語Ⅰ
④その件は、山田に説明いたしました。…謙譲語Ⅱ(丁重語)
③は、いわゆる誤用です。「御説明する」では、高める必要のない山田を高めてしまうからです。それに対して、④は誤用ではありません。「説明いたす」という敬語は、山田を高める敬語ではなく、相手の課長に対して改まって伝えることを示す敬語なのです。
さらに実感できる例にするために、相手を課長から部長に変えてみましょう。
⑤その件は、課長に御説明しました。…謙譲語Ⅰ
⑥その件は、課長に説明いたしました。…謙譲語Ⅱ(丁重語)
⑤は誤用ではありません。ただし、課長を高めている点で、相手の部長よりも課長に配慮しているようになってしまい、状況によっては部長の気を悪くするおそれがあるでしょう。それに対して、⑥であれば、そういうことは起こりません。「説明いたす」は、課長を高めているのではなく、あくまでも相手の部長に対して改まって伝えているだけだからです。自らを部長の身に置いたときに、その違いが感じられるのではないでしょうか。
さらに次の問題としては、例えば、自分が新入社員で、課長にも、部長にも配慮しなければならないときには、どういう敬語を使えばよいのかということがあります。そのときには、
⑦その件は、課長に御説明いたしました。…「御説明いたす」謙譲語Ⅰ+謙譲語Ⅱ(丁重語)
のように、「御説明いたす」という敬語を使えばよいでしょう。これで、課長を高め、部長に対して改まって伝えることが可能になります。
「御説明する」「説明いたす」「御説明いたす」の違いは何かと問われたときに、その違いを明確に説くことは難しく、また、そんなことに興味のある人も少ないでしょう。しかし、現実の社会生活ではそれぞれの違いを実感しているはずです。
敬語の分類自体が問題なのではありません。現実のコミュニケーションの中で敬語を使い分けていくことが大切なのです。そのために、それぞれの敬語の持つ性質の違いを知ることが必要になるわけです。
(2009年3月執筆)
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