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企業法務2014年12月05日 評価通達に定める評価方法 執筆者:梶野研二

 相続税や贈与税の課税上、租税負担の実質的な公平を確保し、安定した課税手続を実現させるとともに、納税者にも予見可能性を与えるとの観点から、財産評価基本通達等の評価通達が定められ、土地や株式など主要な種類の財産の価額は評価通達に定められた評価方法に従って評価されています。
 それでは、評価通達は、各種の財産の評価方法をどのような考え方に基づいて定めているのでしょうか。

 評価通達は、相続税法第22条の法令解釈通達ですから、同条の「時価」が適正に算定されるものでなければなりません。評価額が時価よりも高く算定されることも、時価よりも低く算定されることも問題です。評価額が時価を上回る違法な課税は回避されなければなりませんから、評価の安全性に配慮することはもちろん大切なことですが、さりとて、これを重視するあまり、時価に比して著しく低い価額が算出されることがあってはなりません。
 また、公平な課税にも配慮する必要があります。同じ財産について、取得者によって異なった評価額が算出されたり、ある種類の資産が他の種類の財産に比べて有利又は不利に評価されることは極力回避されるべきです。
 事業承継や生活の保障といった観点から何らかの配慮をすることは時価の解釈と法律で手当てすべき事項を混同するものです。
税務当局としては大量に発生する相続税事案を処理しなければならず、また、納税者としても低コストで評価額を算出することができる簡便性の観点も忘れてはなりません。その際、評価方法が明確に定められ、誰が評価したとしても一定の価額が算出できるものでなければなりません。これは公平性の要請にも合致するものです。
 最近の複雑化・国際化・高度化する経済取引を考えれば、新たな形態の財産にも適用することができるよう、また経済環境の変化に対応できるよう柔軟性を有したものであることも必要です。
しかしながら、これらの要請は、互いに矛盾する点もあります。簡便性や評価の安全性を重視すれば、適正性や公平性が犠牲にされます。明確性を重視してできる限り厳密な評価方法を定めると、時代の変化に柔軟に対応することができなくなります。

 評価通達に期待される多くの要請を全て受け入れて各財産の評価方法を定めることはおそらく不可能でしょう。評価通達に期待される多くの要請のうちのあるものを重視すれば、他の要請は自ずと犠牲にされることになります。評価通達に定められた非公開株式の評価方法についても、これらの相矛盾する多くの要請を踏まえながら、その一部を犠牲にして定められたものでしょう。
 非公開株の評価額を巡る相続税又は贈与税の争いも、そのほとんどは、当該要請の基になる理念のうち、何を重視するのかという争いであると言えます。
 たとえば、かつて相続税の節税策として流行したいわゆるA社B社方式は、納税者が通達に定められた評価方法をそのまま適用することが公平に資すると主張したのに対し、課税庁は適正性や実質的な公平性の観点から、評価通達に定められた評価方法を一律適用することを否定したものでした。
 また、評価通達には、少数株主の取得した株式については、簡便性の観点から配当還元方式という極めて簡易な評価方法が定められており、この方式を適用することができる者については、明確に定められています。この定めによれば、評価会社に対して一定程度の影響を与えることが可能な者についても配当還元方式が適用されることとなってしまう場合もありますが、このような場合、課税庁からは、適正性の観点から、より時価の算定方法として合理的な原則的な評価方法を適用すべきだという指摘がされることがあります。
 最近、通達改正につながったとして話題になった株式保有特定会社の定義についても、それが明確に定められていたために、経済社会環境の変化に対応しきれなかったものであり、柔軟性が犠牲にされていた例ということができます。

 評価通達が期待されているさまざまな理念のうち、最も重視されなければならないのは、適正性であることはいうまでもありません。評価通達は、相続税法第22条の「時価」の解釈を示したものであり、税法に従った課税が要請される租税法律主義の下では、通達の定めを理由に時価とは異なる価額で相続税や贈与税の課税がされてはならないということを忘れないでいただきたいと思います。

(2014年11月執筆)

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