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企業法務2014年10月09日 情報漏洩と懲戒処分 執筆者:弁護士法人 御堂筋法律事務所

 企業の顧問弁護士をしておりますと、しばしば、経営者の方や人事部に所属する方から、懲戒処分に関するご相談を受けます。懲戒処分をしたいのだけれどそもそも懲戒処分をすることができるのか、できるとしても適切な処分はどれか、懲戒処分の効力が争われた場合はどうなるのか、どういった手続を執ればよいのか等、悩みは尽きません。なんといっても懲戒処分は使用者と従業員の利害が対立している場面ですので、勢いに任せて懲戒処分を行うことはできません。慎重に事実関係を確認し検討を加えてこそ、初めて懲戒処分を行えるかどうかについて方針を立てることができるものです。しかし、他方で、事実確認や処分決定の手続を迅速に行う必要もあり、懲戒処分を行う側としてはジレンマを感じる場面もあるでしょう。また、仮に「横領があった」、「セクハラがあった」という事実を確認できたとしても、その事案における適切な処分を機械的、自動的に判断できるわけではないところが悩みどころです。
 最近、通信教育を手掛ける大手企業の顧客情報の流出に関して大きく報道されました。言うまでもなく、情報漏洩の予防は会社にとって極めて重要ですので、情報漏洩が起きないよう対策を講じることが何より肝要です。そのことを前提としつつも、万が一、情報漏洩が生じてしまった場合に懲戒処分を実施するにあたっては、どのような点に留意すればよいのでしょうか。以下では、情報漏洩(またはその危険のある行為)を行った従業員に対する懲戒処分を検討する際のポイントについて、裁判例を交えてご紹介いたします。
 まず、懲戒処分を行う場合、懲戒事由が就業規則に規定されている必要がありますが、情報の漏洩等が懲戒事由に該当することを明確に規定しておくべきでしょう。例えば、懲戒事由として「会社の業務上の秘密を外部に漏洩したとき又は漏洩しようとしたとき」、「会社の情報が記録された媒体(USBその他データの記録媒体を含む。)を業務上の必要性なく社外へ持ち出すこと」、「会社の情報を業務上の必要なく社外へ持ち出すこと(会社の情報が記録された紙媒体、電磁的記録媒体等を物理的に社外へ持ち出すことのほか、電子メールや社外のサーバーを用いて電子データを会社の管理外へ持ち出すことも含む。)」等という条項を定めておき、これらの行為が懲戒事由に該当することについて明確化すべきです。
 次に、当該事案の事実関係を精査していくことになりますが、その際、〈1〉情報の量、機密性の程度、情報漏洩の期間及び回数、〈2〉故意によるものか過失によるものか、〈3〉情報の流出の経緯、故意による場合はその動機、〈4〉社内の情報の管理体制、〈5〉第三者への漏洩の有無、〈6〉情報漏洩により実害が生じているか等をメルクマールに懲戒処分について検討を加えていきます。
 実際の事案でも、顧客リストを第三者へメール送信した従業員に対する懲戒解雇を無効とした裁判例(東京地裁平成24年8月28日判決)がある一方で、取引先リストや従業員の昇給に関するデータをプリントアウトして社外に持ち出した従業員に対する懲戒解雇を有効とした裁判例(大阪地裁平成24年11月2日判決)もあります。両裁判例は、就業規則において情報漏洩に関する明文の規定が置かれていた点、顧客(取引先)リストが第三者に渡された点、実害が生じているという認定はなされていない点は共通していますが、判断が分かれています。その理由としては、大阪地裁判決の事案が東京地裁判決の事案よりも、情報の機密性が高く、仮に漏洩した場合に会社に与える実害が大きいこと、東京地裁判決の事案では従業員に不正な目的がなかったと認定されたこと等が影響していると思われます。
 その他に参考になる裁判例として、大阪地裁平成25年6月21日判決があります。同裁判例では、上司の許可を得たうえで私物のハードディスクを会社に持ち込み業務に利用していた従業員が、自主退職をするにあたり取引先の情報等が保存された当該ハードディスクを持ち帰ったことに対してなされた懲戒解雇について、就業規則においては、情報漏洩の場合はその事案が重篤な場合に限り懲戒解雇処分を行う旨の限定的な定めがあることを前提として、会社において情報の管理が適切になされていなかったことや情報の第三者への流出が認められないこと等を理由に懲戒解雇が無効とされています。
 情報漏洩に対する懲戒処分といっても、事案に即した判断が必要なこと、また就業規則の定め方にも留意する必要があることをご理解いただけたことと思います。
 懲戒処分に関する判断にあたっては、上記メルクマールに沿った検討だけでなく、自社の過去の懲戒処分事例、対象従業員の懲戒処分歴等をも検討することになることにご留意ください。
 ところで、昨今、ソーシャルメディアの利用が拡大していることもあり、従業員が意図せずに情報が漏洩するケースも今後増えることが予想されます。会社が情報の取扱いについて社内ルールの制度化も社内教育も実施していない場合には、従業員に対する懲戒処分が困難となる場合も想定されます。他方で、会社が対策を万全に取っていた場合には、たとえ意図せずに情報が漏洩した場合であっても、これら社内ルールを遵守していないことを認識している以上、懲戒処分を行うことも可能なケースがあると思われます。
 困ったことに、懲戒処分をすべきかどうかの判断を迫られる場面は突然やってくることが多いのですが、事前に準備できる(しておくべき)こともあり、懲戒処分についての知識を蓄えて整理しておくことは非常に有意義なことです。
 適切な制度や就業規則を早期に整備して、問題が生じた都度より適切に懲戒処分を行う等して対処しておくことが、漏洩の防止にも繋がるでしょう。

(2014年10月執筆)

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