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契約2014年05月08日 契約の交渉段階における説明義務 執筆者:植松勉

1 民法(債権法)の改正に向けて、様々な論点が取り上げられ議論が交わされています。この中で、「契約の交渉段階における説明義務(情報提供義務)について、具体的な規定を設けるか」という議論があります。

2 法律上の「権利」や「義務」は、原則として、契約を結ぶことによって発生します。したがって、契約を結ぶ前の交渉段階で、説明「義務」が生じることがあると言われても、ピンとこない方がいらっしゃるかもしれません。
 しかし、ある事業者が、消費者に対して、故意にリスクの説明をしないまま、複雑な仕組みの金融商品を売り込むケースを想定してみてください。このまま消費者が契約を結ぶことをよしと考える方はまずいないでしょう。
 金融商品の取引に代表されるように、一定の取引分野では、それを専門に扱う事業者と消費者との間には、情報量に大きな格差が認められます。現行法のもとにおいても、こうした分野の取引では、消費者保護を目的として、業法や特別法によって事業者に一定の説明義務が課されています(銀行法12条の2、保険業法300条、金融商品販売法3条、宅地建物取引業法35条、消費者契約法4条1項・2項ほか)。

3 これに対して、契約当事者が対等な関係にある(情報量にさほどの格差が存在しない)と考えられる場合、契約を結ぶ際に必要な情報は、各当事者が自ら収集するのが原則です。現行の民法も、契約の交渉段階における説明義務について、具体的な規定を置いていません。
 しかし、だからといって、不実の情報によって契約が結ばれることは、やはり妥当でないでしょう。実例ですが、事実上破たんしている金融機関が、破たんの事実を告げずに出資の勧誘を行って出資を受けたケースで、最高裁は、「当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、・・・相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがある」との判断を示しています(最判平23・4・22判時2116・53)。
 先ほど述べたとおり、現行の民法は、交渉段階における説明義務について具体的な規定を置いていませんが、最高裁は、「信義則(民法1条2項)」を根拠に、説明義務を導いているのです。

4 信義則という概念は、曖昧といえば曖昧なものです。このため、民法改正作業の中で、信義則を根拠とした説明義務について、どのような場面で説明を要することとなるのか具体的に規定することが提案されているのです。確かに、規定があった方がわかりやすいことは間違いないでしょう。しかし、これには反対意見も唱えられています。「過不足なく具体化できるのか」というものです。反対意見を唱えている論者も、説明義務を認めること自体に反対しているわけではありません。

5 いずれにせよ、私は、常々、法律の条文知識を中途半端に有しているよりは、フェアであるとか、信義則といった観点から物事を考えられる人の方が、法律上の問題を抱え込まないと主張しています。自分にとって有利な契約は、是非とも結びたいと考えるのが人の常でしょうが、「信義則」をお忘れなく。

(2014年5月執筆)

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