経営・総務2024年12月23日 経営理念の大切さとその使用方法 執筆者:岩田健一

■ 経営理念の意義とは?
企業の「軸」とも言える経営理念は、会社の存在理由や価値観を明文化したもので、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」などの形で表されます。
• ミッション:企業が果たすべき使命や存在意義
• ビジョン:企業が目指す未来の姿(1年後、5年後、10年後など)
• バリュー:ビジョン実現を後押しするこだわり。行動指針や価値基準
これらは、いわば企業の「羅針盤」であり、「判断基準」を提供する役割を果たします。特に、共同経営や事業承継の場面では、経営理念があるかどうかで経営の成否が分かれることもあります。
例えば、共同経営では、経営者同士の価値観が一致しないと意見が対立し、関係が悪化するケースが多くあります。しかし、事前に会社の価値観を明文化し、合意形成しておけば、Aさんの意見、Bさんの意見ではなく、「会社としてどうするべきか?」という視点で議論が進むため、判断がスムーズになります。
また、事業承継の際にも、経営理念は大きな役割を果たします。社長が変わると社員は不安を感じがちですが、経営理念が明確であれば、「社長は変わったが会社の価値観は変わらない」と認識され、社員の動揺を最小限に抑えることができます。
■ 経営理念の具体的な活用方法
1. 日々の意思決定の基準にする
経営者は日々、無数の意思決定を求められます。例えば、商品開発の方向性、人材の採用や配置、取引先との交渉方針などです。この際、経営者の気分や好みで判断をしてしまうと、現場は混乱します。
一方、経営理念に基づいて判断を行えば、社員も「何を基準に判断すれば良いか」が明確になり、自立的な行動が促されます。
これは、権限委譲にもつながります。経営者がすべての判断を下さなくても、現場の社員が自らの判断で動けるようになるため、業務のスピードも向上します。
2. 人事評価・人材育成の指針にする
人材の評価は「スキル」と「理念への共感」という2つの軸で考えるべきです。以下の4象限の考え方がその代表例です。
能力 / 共感 | 理念に共感する | 理念に共感しない |
能力が高い | 幹部社員に育成 | 問題社員(要注意) |
能力が低い | 育成対象(将来性あり) | 退職候補(リストラ対象) |
特に「能力が高いが理念に共感しない社員」は注意が必要です。一見、即戦力に見えますが、理念に共感していないため、長期的には会社の成長を阻害する恐れがあります。経営者が「能力が高いから辞めさせられない」と判断しがちなタイプですが、経営理念を基準にすると「長期的に会社にとってプラスかどうか」が明確になり、決断がしやすくなります。
3. 採用活動の基準にする
採用面接の場では、スキルや経験だけでなく、「価値観のマッチ度」を重視すべきです。経営理念が明確な会社では、面接時に「当社の理念は◯◯です。この理念にどのように貢献できそうですか?」と求職者に尋ねることができます。
理念に共感していない求職者は、仮に入社しても早期離職したり、問題社員になったりする可能性が高いです。一方、理念に共感して入社した人は、教育コストや管理コストが低くなるケースが多いです。そのため、経営理念を採用基準の一つに加えることで、入社後のミスマッチが減り、生産性が向上します。
4. 事業承継時の社員の動揺を防ぐ
事業承継では、先代社長から後継者への引き継ぎが行われますが、価値観の違いから社員が離職するケースが少なくありません。特に、後継者が新しい方針を打ち出すと、これまでのやり方に馴染んでいた社員が不安を感じることがあります。
しかし、経営理念が明確であれば、社員は「会社の価値観は変わらない」と感じ、離職する人が減ります。経営理念は「経営者の想いを承継するツール」としても有効です。
■ 経営理念の作り方と言語化のポイント
経営理念の言語化は、意外と難しい作業です。なぜなら、人は自分の考えを自分で深掘りするのが得意ではないからです。自分一人で経営理念を考えようとすると、表面的な言い換えに終始してしまいがちです。
そのため、第三者の問いかけが重要です。外部のコンサルタントや専門家のサポートを受けることで、客観的な視点から「なぜそう思うのか?」と質問され、内面的な想いが引き出されるのです。
経営理念の作成は、「社長の想い」だけではなく、「会社の想い」を言語化する作業でもあります。経営者の個人的な願望だけではなく、「この会社は何のために存在しているのか」という本質的な問いに答えることが求められます。
■ まとめ
経営理念は、単なるスローガンではありません。企業の「羅針盤」として、意思決定の基準となり、社員の行動指針となり、採用や人事評価などの基準となります。
共同経営や事業承継では、経営理念があることで意思決定のぶれを防ぎ、社員の不安を軽減することが可能です。さらに、理念の言語化は一人で行うのではなく、第三者のサポートを受けながら深掘りするのが効果的です。
経営者の皆さん、あなたの会社には明確な経営理念がありますか? もしなければ、今が見直すチャンスです。経営理念は、単なる言葉ではなく、事業の方向性を決定づけるものです。
これからの時代に求められるのは、ブレない経営の「軸」を持つ企業です。
あなたの会社の「軸」は明確ですか?
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(2024年12月執筆)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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執筆者

岩田 健一
組織開発コンサルタント・キャッシュフローコーチ・社会保険労務士(お金と人事のコンサルティング岩田事務所 代表)
略歴・経歴
心理学科卒・信用金庫職員・調剤薬局経理職を経て2014年8月開業。
答えを教えず答えを引き出すコーチングをベースとした社長相談で、納得の経営判断をサポートする。
クライアントの悩みに合わせて相談に応じるため、相談で取り扱うテーマは、経営理念の見直し、目的目標の明確化、事業戦略の整理、責任分担(組織図)の明確化、従業員のキャリアパスの明確化、理想人材像の明確化、サクセッションプラン、人事制度の明確化、部下との関わり方など、多岐にわたる。
必要に応じて組織診断、人材診断、社員研修、ミーティングの進行役なども行う。
「面倒見の良さ」「相手の話を心から聴く力」「難しいことを分かりやすく説明する力」「あれもこれも相談できる知識の広さ」に定評がある。
人生理念
「誠実・他社貢献・自然体」
ミッション
「会社の成長と社員の幸せの両立を実現し、笑顔あふれるつながり作りに貢献する。」
バリュー
「真の悩みに寄り添い、安心を与えるコンサルティング」
保有資格は特定社会保険労務士・CFP・1級FP技能士など多数。
経営に役立つ365日毎日ブログを3000日(8年3か月)以上継続している。
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