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民事2012年09月13日 相続人がいない! 執筆者:浦岡由美子

 私たちが弁護士として普段接する相続事件の多くは、「きょうだいでもめている」「後妻と先妻の子で争っている」というものです。しかし、時折こんなケースが舞い込みます。
 「妹と一緒にずっと亡母の姉である伯母の面倒をみてきました。伯母はずっと独身で、定年まで教師として勤めていたのですが、子どももいなかったので、私たち姉妹をわが子のようにかわいがってくれましたし、私たちも母を亡くした後も伯母と交流を続けてきました。妹とはせっかくの伯母の遺産なので、半分ずつ分けようということで話がついていますが、手続はどのように進めたらよいでしょうか。」というようなものです。
 ここまでは、弁護士としてまれにきく良い話です。しかし、この後思わぬ事が起きることがあります。伯母の戸籍謄本を調べたところ、伯母にはもう1人きょうだい(弟)がいたことが判明するわけです。相談者にとっては、叔父ということになりますが、姉妹とも一度も会ったことがないばかりか、亡母からも叔父のことを聞かされたことがありません。親戚に問い合わせるなど、さまざまな調査をした結果、この叔父は20年ほど前に突然家を出てしまい、しばらくは音信があったものの、その後は生死も不明だ、というのです。
 ここで弁護士としては、「この方も戸籍に載っている以上、相続人として扱わないとなりません。ただ、長らく生死が不明であるということであれば、書類を整えて家庭裁判所に失踪宣告の審判の申立てをして、審判をしてもらえれば、姉妹2人で遺産相続をすることもできますよ。」などと説明することになります。
 姉妹としては、書類を整えたり、あまり付き合いもない親族に話をきいたり、弁護士費用が嵩んだりと、ただでさえ煩わしい相続に、余計な手間が増えるわけです。「顔を見たこともない人のために、どうしてこんなことをしなければならないのか」という気持ちになるのは当然であり、さらには「伯母さんが遺言を作っておいてくれればこんなことはせずに済んだのに」と、伯母へ恨み言の一つも言いたくなるかもしれません。
 ここで、「伯母様も家出した弟のことなど、忘れていらっしゃったのですよ。それに弟が現われて、『自分も法定相続分を主張する』などと言い出すよりは、ずっとましですよ。」と慰めるのも弁護士の仕事です。
 ご紹介した事例は、一部の相続人が生死不明だった、というものですが、中には、「亡くなられた方に法定相続人がいない」というケースもあります。よくあるのは、いとこ同士からの相談や、亡くなった方におじ、おばはいらっしゃるが、というものです。法定相続人ではなくても、生前に交流があった方であれば、「自分が遺産をいただいてもよいのではないか」という気持ちになることは当然です。こうした方が遺言をしてくれていれば、相続人ではない人にも財産を遺贈することができます。
 ところがそうではない場合、親密な交流があったというような方が財産を取得しようと思うと、①相続財産管理人選任の申立て、②相続財産管理人の選任、③相続債権者などの調査、④相続人捜索の公告、を経て、特別縁故者として相続財産分与の申立てをすることになります。こうしたことに慣れない一般の方にとっては、相当な負担を強いられるわけで、弁護士は依頼者から「ここまでしないといけないのか。そんなつもりで付き合ってきたわけではないのに」という苦情を聞かされることになります。この間弁護士は、粛々と手続が進んでいることを確認しながら、依頼者が財産分与を受けられるように、故人との交流内容を聴き取ってゆく作業をすることになります。
 こうした「相続人の中に不明者がいる」「法定相続人がいない」ケース、は、親族間関係の希薄化、1人っ子、終身未婚者、子どもなし夫婦の増加等の現代の社会事情、家族事情により、今後も増えることでしょう。弁護士としては、そうした事態が予想される方に対しては、生前であれば遺言を作ることをお薦めするわけですが、すでに相続が開始してしまった事案に出会った時にも適切な対応策をお示しできるよう、研鑽してゆきたいと思います。

(2012年9月執筆)

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