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厚生・労働2012年03月06日 労使紛争の変化と新しい人事・労務管理のあり方 執筆者:東内一明

1 労使紛争は集団的か個別的か
 労使紛争という言葉から想起するものは、かつては争議であった。すなわち集団的労使紛争である。
 史上この争議件数が最も多かったのは昭和49年で、10462件。そして、平成22年は、驚くなかれ、僅かに682件である。
 これがハッピーな労使関係となったことを意味するなら、大いに喜ぶべきことである。
 しかし、そうではないのである。
 例えば、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」の施行状況についてみる。
 同法が成立した翌年の、平成14年の総合労働相談件数は約62万件。
 いかに多くの人が、法制定の翌年にこの制度を利用したことか。これを昭和49年の争議件数約1万件と比べると、実に愕然とする。
 しかも、8年後の平成22年には、約113万件とほぼ倍増しているのである。
 この法律はもともと個別的労使紛争の激増傾向に対応するために制定されたものであるが、制定後も増加傾向は一貫し、現在も激増中なのである。

2 労働組合の組織率、労働組合員の職種からみるとどうか
 集団的労使紛争が最高潮となった昭和49年は、労働組合の組合員数は、雇用労働者総数3676万の33.9%、約1232万人であった。
 ところが平成22年は、雇用労働者総数が5447万人と当時より48%増加しているのにもかかわらず、労働組合員数は、実数で240万人が減少して998万人となり、すべての労働者の18%の水準に急落している。
 さらに驚くべきことは、非正規労働者の中でも最も低水準の労働条件で働き、多くの問題が発生しているであろうと思える短時間雇用者、いわゆるパートタイマーは、平成22年には1291万人に達しているのであるが、そのうち労働組合員として組織されているのは、僅か5.6%の72万人に過ぎない。
 かつて日本の労働組合は、企業内組合として、企業横断的労働組合組織が持たない、特殊な力を持っていた。
 すなわち、日頃からの親密な感情のやりとりを通じて、社員の表に現れがたい密かな要望をもきめ細かに汲み上げ、事が生じる前に使用者側と事前に協議して適切に解決していたのである。
 しかし、このような企業内労動組合の機能が適切に発揮されるためには、二つの条件が必要である。
 一つは、一定以上の組織率が必要である。
 もう一つは、一の企業内では、概ね同じ労働条件、同じ身分の社員が圧倒的多数でなければならないということである。
 極めて残念なことに、現在の労働組合は、組織率の低下と共に非正規労働者の激増により、この二つの条件のいずれも失っていると言わなければならない状況となりつつある。
 だからこそ、労働者は、正規・非正規を問わず、個別的な方法での労使紛争解決手段を用いるのが主流となっているし、そうせざるを得ないのである。

3 労働条件の設定と人事・労務管理のあり方
 かつて労働条件や人事・労務管理の適否が労働組合の関与の下にあった時代においては、労働条件の設定は労働組合と合意すればある程度その適正さを信じることができたし、その経年的な変化への対応は、労働組合の申し出がない場合は、概ね適切であると安心することができた。
 しかし、今はそうではない。
 労働組合が無言であっても、設定された労働条件が適正であるとは言えなくなっている。適正でない労働条件の下で、人は苦しみつつ働いているし、何らかの解決を求めている人は数多いのである。
 だからこそ、人々は、その解決を求めて様々な機関に駆け込むし、駆け込まざるを得なくなっている。
 むしろそのような場合は、好ましいというべきだろう。
 何故なら、その時点でその職場における問題点が把握できるし、しかもそれぞれの機関は、法の手続きに従って粛々と、合理的な解決方法をさがしてくれるからである。
 しかし、どこかの機関にかけこむという決断ができる労働者は、極めて少数である。
 多くの労働者は、我慢に我慢を続ける。
 そしてある日、その我慢が続けられなくなる。
 そして、ついに労使関係が破綻するのである。

4 今後の人事・労務管理の方向
 筆者の知る多くの企業は、正社員であるかどうかを問わず、その雇用する労働者の全てについて、適法であることはもとより、適切妥当な労働条件や働き方を保証しようとしている。
 しかし、人事・労務管理の法律はきわめて多数に上り、また、たびたび改正されて、昨日の適法な状況が、今日は極めて悪質な違法状態に陥ることも珍しくない。
 加えて、制度を定立する本社部門は、支店、営業所等の遠い現場においても、本社の定立した企業システムが、その意図とおりに、適切に運用されていると信じ込んでいる。
 しかし末端に行けば行くほど、本社部門の信じる状況は神話の如く思える場合が多い。
 このような状況をみると、企業は、積極的に人事労務問題の現状を把握し、積極果敢に改善していく方策が、必要不可欠となっていると思える。
 そうしないと、ある日の朝刊の紙面に、自社の問題がデカデカと書き立てられているのを見る事となっても驚くべきでないし、不思議でもないだろう。

(2012年3月執筆)

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