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企業法務2012年02月07日 労使バランスのとれた労働法務を目指して 週の実労働時間はおおむね適正な範囲内 執筆者:山田尚武

 厚生労働省は、平成23年8月29日に、平成22年就業形態の多様化に関する総合実態調査の結果を発表しました。
 この中の労働者に対する調査の結果(調査対象数51,152人、有効回答数33,087人、有効回答率64.7%)によると、平成22年9月最後の1週間の実労働時間は、正社員では「40~45時間未満」が33.0%と最も高い割合となっており、次いで「45~50時間未満」が20.8%、「35~40時間未満」が20.2%となり、労働基準法の定める週40時間を挟んで、週35時間から50時間の間に74.0%の者が収まっています。正社員以外の労働者(契約社員、嘱託社員、出向社員、派遣労働者、臨時的雇用者、パートタイム労働者その他)では、週35時間から50時間の間に契約社員の72.2%、嘱託社員の70.6%、出向社員の72.0%が入っています。一方、パートタイム労働者と臨時的雇用者では、「20時間未満」がそれぞれ24.2%、39.1%で、最も高い割合となっています。さらに、現在の実労働時間について、「今のままでよい」と回答した正社員が66.9%、正社員以外の労働者が69.7%となっています。
 以上の調査結果によれば、労働者の実労働時間は、労働基準法の定める週40時間の辺り(それほど離れていない範囲)に多く分布しています。現状の実労働時間は、労働者の現状肯定的な意見も踏まえると、おおむね適正な範囲に収まっていると言ってよいのではないかと思います。
 ところが、労働者の就労実態、特に労働時間をめぐるマスコミ報道を見ていると、「およそ企業は労働者を酷使し、労働者は長時間労働に喘いでいる。中には賃金を支払わない悪い企業もある。政府は労働基準法を厳格に適用して、企業を厳しく取り締まり、労働者も企業に対しサービス残業代を請求すべきである」、という論調のものが多いように思います。本調査結果からみると、現状認識が不十分であり、結果としてバランスを失した議論となっています。
 もちろん、本調査結果には気になる部分もあります。正社員では、週の実労働時間「50~60時間未満」が13.1%、「60時間以上」が7.1%となり、これを「減らしたい」とする者は「50~60時間未満」の者の50.3%、「60時間以上」の者の67.9%となっています。出向社員でも「50~60時間未満」が13.7%、「60時間以上」が6.7%となり、実労働時間の長い者も見受けられます。このように、長時間労働の実態のある企業もあり、中には、サービス残業(賃金不払残業)問題を抱える企業もあるはずです。とすれば、企業を擁護するばかりの議論も適切ではありません。企業も長時間労働の実態を直視し、サービス残業が発生しないように配慮をし、必要な措置を講じなければなりません。
 労働時間をめぐるマスコミ報道のような労働者寄り一辺倒な議論ではない。しかし、企業の都合や立場ばかり考慮するのでもない。労使のバランス、究極的には企業の営業の自由の保障と労働者の労働基本権の保障の調和が大切です。労使バランスのとれた労働法務こそ、企業のコンプライアンス経営を実現し、ひいては企業価値の最大化に資すると考えています。

(2012年1月執筆)

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