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一般2008年04月02日 通訳の質について アジアスポーツ法学会国際学術大会での経験 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:菅原哲朗

 北京の秋空は青い。北京市街地から郊外に約30キロ、万里の長城で有名な八達嶺高速道路に乗り1時間弱の旅程で、中国政法大学の昌平区キャンパスに到着する。市街地の排気ガスを吹き飛ばす北京郊外の寒風とともに「北京秋天」は爽やかだ。
 2007年11月9日から11日まで、中国政法大学(1952年創設、学生数約9000人の法学専門大学)においてアジアスポーツ法学会国際学術大会が開催された。テーマは「オリンピックにおける法律問題」だ。中国法学会スポーツ法研究センターは総力を挙げて日本・韓国および中国全土から120名を超える法学研究者を集め、この大会を主催した。
 北京は「One World One Dream(一つの世界、一つの夢)」のスローガンで2008年オリンピックを国家プロジェクトと位置づけ、政治経済への飛躍的な好機と捉えている。北京五輪を運営する国家体育総局政策法規司の役員や北京オリンピック組織委員会の事務メンバーも参加した。

 私は中国に出張するときは優秀な中国人通訳をつける。今回の北京では北京外語大の大学院修士2年生だ。静粛な学会報告の際は、声を発するわけにはいかないので、速記のようにノートに日本語で翻訳要旨を書き出し、ザワザワした討議では、中国語で論争する概要を小声で通訳する。韓国での国際学術大会と異なり、中国では論争点と進行状況が的確に理解できる。これもひとえに通訳の質に関わっている。
 とりわけ論争における通訳の役割は重要だ。中国共産党の某高官は、日本大使時代から日本語に熟達し名手と高名だが、数年前北京で開催された公式行事での質疑応答ではあえて日本語通訳をつけ、微妙に訳が違うと日本語添削を平然とする姿を垣間見た。部下の通訳も緊張していた。もし玉虫色の合意文書で言葉の行き違いが生まれれば、通訳の間違いと反論できるテクニックだ。
 2005年設立から2年経過し、今回の北京におけるアジアスポーツ法学会の理事会では任期満了により、会長職が韓国から中国に移動した。当然のことながら会長選出の為の理事会の討議は、日本語・ハングル・中国語が飛び交い、時折英語とドイツ語が混じる。同時通訳は無理なので理事の中で、日本語とハングルの二ヶ国語に精通する教授と日本語とハングル・中国語の3ヶ国語に精通する教授が、論争に加わりたい誘惑を抑えてボランティアで交互通訳する。論争の種は理事の数に疑義があったことで、過去の議事録をパソコンから引っ張り出して理事会は夕食後延々3時間、深夜にまで及んだ。

 分科会ではスポーツ選手のアマチュアとプロとの線引きつまり境界が中国選手の場合は明確でない。国家政府部門のチームに所属する選手はもちろん公務員ではない。しかし、海外派遣や強化費など選手活動は国家に管理される、選手の法的地位はどうなるのか討議が活発になされた。
 また、中国政府関係者の関心事は、中国人観客のスポーツマナーやオリンピック期間中に、外国人が中国の法律違反をしたときに、如何に対処するかである。論理的にはその国の法律違反をすれば、その国の法的処罰を受けることは当然である。しかし、中国の遅れている面や経済格差、さらには北京オリンピックに反対している一部中国人を探し出してきて外国人記者が取材し、人権問題だと批判的なマスコミ報道をする。放置すれば社会秩序に不利益を被らせる。もとより、外国人記者は賓客であり、大切に接待したい。どうバランスを取るか、担当者は神経質になっている。
 私の意見は、マスコミの報道規制は自由な言論活動を束縛することで、自由主義諸国には受け入れられない。国際社会のルールに反した行為をその国の政府がしているのを、外国政府や外国のマスメディアが批判するのも自由だ。国際世論をコントロールしようとすることは、世界経済市場をコントロールすることと同じで不可能だ。その外国人記者の処罰を国際社会から非難されることもあり得る。中国政府が検閲して、マスコミを押さえつけることよりも、上手な対応はマスコミにオリンピックに絡む小さな美談を多く報道させることだ。フィクションではなく、真実の小さな美談が心の琴線に触れ、外国人も含め多数の人々の心を捉えることになる、と事例を交えて話しをした。この提言が生かされるか、否か、結果はオリンピック後に分かる。

(2007年11月執筆)

一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 全115記事

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  2. 「老後は旅先で」~シニアの新しい生き方~
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  4. 「企業国外投資管理弁法」の概要
  5. 楽しさと便利さが、庶民の生活を作る。
  6. 中国会社法「司法解釈(4)」の要点解説
  7. 日本産業考察活動メモ
  8. 長江文明・インダス文明、再来の始まりを予感
  9. 中国国務院より「外資誘致20条の措置」が公布されました
  10. 中国の対日投資現状とトレンド(2)~中国の対日投資の論理とトレンド~
  11. 観光気分の危機管理
  12. 訴訟委任状に公証人の認証が必要か?
  13. 『外商投資企業設立及び変更届出管理暫定弁法』の解説
  14. 婚活は慎重に!とある中国人女性と日本人男性の事例
  15. 新旧<適格海外機関投資家国内証券投資の外国為替管理規定>の比較
  16. 中国では、今年から営業税から増値税に切り換え課税するようになりました。
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  18. 過度な中国経済悲観論について思うこと
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  20. 203高地への道
  21. 中国大陸における債権回収事件(後編)
  22. 中国大陸における債権回収事件(前編)
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  25. 再び動き出した中国の環境公益訴訟
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  30. 日中平和友好条約締結35周年に思う
  31. 中国におけるネットビジネス事情
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  34. 公共交通機関のサービス体制
  35. 「ありがとう」を頻繁に口にすることの効果
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  37. 事業再編の意外な落とし穴
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  39. いまこそ日本企業家の心意気を持って
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  44. 若い世代を引きつける京劇
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  50. 中国でも「禁煙」規定が発効
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  54. 広州・北京に見るストライキ事情
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  70. 中国の携帯電話産業
  71. メラミン混入粉ミルク事件
  72. 大連市の公証人役場
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  76. 四川大震災に想う
  77. 日・中企業間の契約交渉の実例
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  79. レジ袋の有料化
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  81. 「中国餃子バッシング」に思う
  82. 中国の休日
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  105. 203高地や旅順口などの戦跡を訪れて思う
  106. 「ソウルで味わった韓流の逞しさ」
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  108. くれぐれも御用心
  109. 海外旅行は、法リスクの宝庫だ。
  110. 互いの理解
  111. 信頼関係の形成に向けて
  112. 中国憲法における「改革・開放」路線
  113. 苦情処理センターの効用
  114. 信頼できる中国人パートナーを得る
  115. 外国への進出と契約
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