カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

税務・会計2010年10月14日 「時価」とは何だろう? 執筆者:庄司範秋

 税理士になってからまだ1年を過ぎたばかりであるが、職業会計人である公認会計士や税理士の資産税に関する相談員としての仕事もしてきている。やはり、土地や株式の評価についての質問が多い。ここでいう評価とは、私がこれまで携わってきた「相続税法上の評価」、つまり、相続税や贈与税の課税価格を算定するための評価に限らない。むしろ、売買をする場合の取引時価の算定方法に関する質問の方が多くある。例えば、土地の「時価」といった場合に、1物4価とか5価があると、世間でよく言われている。売買をする場合の価格となる時価(実勢価格)があり、一般の土地取引の指標及び公共事業の適正補償金の算定基準のための公示価格と国土利用計画法に基づく土地取引規制における土地価格算定の基礎及び一般の土地取引の指標のための都道府県基準地価格があり、相続税・贈与税課税のための相続税評価と固定資産税課税のための固定資産税評価がある。
 私の受持分野は、財産評価基本通達に定められている相続や贈与といった財産の無償移転(無償取得)に係る評価が基本ではあるが、個人が土地や取引相場のない株式を譲渡した場合には、譲渡所得という所得税が課税されることになる。この譲渡所得も資産税の担当分野であるために、この取引時価の質問にも応じなければならない。
 では、なぜこのように「時価」についての質問が出てくるのかというと、ひとつには、時価の2分の1を下回る金額で譲渡した場合の所得税法59条に規定する低額譲渡の課税問題があるからであり、もうひとつは、親族間での売買について、贈与税が課税されない価額はいくらなのかという問題があるからである。財産評価基本通達に定める「時価」は、「課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」をいうものとされている。そして、その価額は、客観的要素を考慮した価額であり、主観的な要素は排除される価額ということになる。そうすると、この財産評価基本通達の基本とする「時価」の意義は、すべての取引局面における時価の意義とまったく変わるところはないはずである。しかし、そうはいかないのが、相続や贈与という取引価額のない財産の無償移転(無償取得)に課税するといった観点からの「評価上の安全性」への配慮措置があるからである。土地の路線価の評価水準は、公示価格の80%であるし、取引相場のない株式の評価についても、類似業種比準価額を算定する場合の×0.7、×0.6、×0.5といった評価の安全性へのしんしゃく率をはじめ、いくつかの評価の安全性への配慮がなされている。
 相続や贈与の場合の評価は、財産評価基本通達に定める評価方法となるが、個人が売買する場合の取引価額の算定に当たっては、相続税法上の時価ではなく、所得税法上の時価ということになる。したがって、取引相場のない株式の時価であれば、所得税基本通達59-6に定められた時価算定を行う必要がある。この所得税基本通達も財産評価基本通達の評価方法を準用してはいるものの、純資産価額による評価を行う場合には、財産評価基本通達の定めと違って、1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる時価純資産価額を算出することになるであろう。つまり、土地等は路線価ではなく、実勢価額に置き換える必要があるし、評価差額に対する法人税額等に相当する金額(42%又は45%)は控除しないことになる。
 ただ、類似業種比準方式に準じて所得税法上の時価算定をするといっても、直前期末の決算を基に株式を評価するこの方式では、実勢価額に置き換えようがないと思われる。この場合に、相続・贈与における評価上の安全性への配慮であるしんしゃく率0.7(0.6、0.5)を掛ける部分は、取引社会における時価の算出に適用することが果たして妥当なものなのか疑問があるところだが、このことについては、所得税の取扱いでは特に示されていないので、実際には、この部分も準用しているのが実態ではないかという感じがする。時価評価の話は難題・難解である。

(2010年10月執筆)

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索