民事2009年11月12日 更新料無効判決と消費者契約法10条 執筆者:岡田修一
平成21年7月23日、京都地裁が、借家契約における更新料特約を無効とする判決を出したことは、マスコミ等で大きく報道されました。
その後、同年8月27日には、別件で、大阪高裁が、更新料特約を無効とする判決を出したのですが、その一方で、同年10月29日には、同じく大阪高裁が、更に別件において、今度は、更新料特約を有効とする判断を示しており、高裁レベルで判断が分かれた点でも、社会的な注目を集めました。
上記判決で大きな争点となったのは、いずれも「借家契約更新時に更新料を支払う旨の特約が、消費者契約法10条によって無効といえるか否か」という点です。
この点、借家契約では、更新料特約以外にも、消費者契約法10条を根拠に特約が無効とされた判例が複数存在しており、例えば、定額補修分担金特約を無効とした判決(京都地判H20.4.30)、敷引特約を無効とした判決(神戸地判H17.7.14)、自然損耗も含めて賃借人が原状回復義務を負う旨の特約を無効とした判決(大阪高判H16.12.17)などがあります。
このように、近時注目を集めている消費者契約法10条ですが、報道等では、同条の内容・要件について、必ずしも正確に紹介されていないと感じるものも散見されます。
消費者契約法10条は、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」と定めています。
これは、一読しただけではやや分かりにくい文言なのですが、要約すると、同条は、事業者と消費者間の契約条項中、①民法等に定められた任意規定等に基づく一般的義務と比較して消費者の義務を加重する内容の条項(前段要件)でかつ②当該条項が信義誠実原則に違反して消費者の利益を一方的に害するもの(後段要件)について無効とすることを定めています。
このように、同条は、①②の要件を満たした条項を無効としているのですが、特に結論を左右するのが、②の後段要件といえます。
後段要件は、「信義誠実原則」という一般条項に反するか否かが問題となりますので、当事者間の事情が個別具体的に検討されることになります。
上記に挙げた判例も、問題となった特約の一般的性質(例えば、更新料の法的性質など)のみを検討している訳ではなく、当事者の交渉経過、賃料の額、消費者の負担する義務の程度等の個別具体的な事情も総合的に考慮して判断しているようです(当事者の具体的な交渉経過を重視して、敷引特約の「一部のみ」を無効とした判決として、大阪地判H19.3.30)。
このように、消費者契約法10条に違反するか否かは、あくまで個別具体的な事情に基づいて判断をされることが前提となっているため、上記のとおり、大阪高裁が、ある事例において更新料特約を無効と判断しつつ、別の事例では有効と判断したことも、条文解釈としては、十分にあり得るということになります。
言い換えれば、条文の体裁上は、ある事例において「消費者契約法10条に違反して無効」という判断が出されたからといって、当該判例の結論が、直接的に、他の事例にも当てはまるとは言い切れないことになりますので、その点は、注意が必要ではないかと思われます。
その意味で、近く、更新料特約についての最高裁の判断が出されるかと思いますが、注目されるべきは、最高裁の結論よりも、むしろ判断過程ではないでしょうか。
最高裁の判断が単に個別事情の是非の程度に留まれば、あくまで一つの事例判断に留まることになりますが、もし、最高裁が、更新料の法的性質を正面から論じた上で消費者契約法10条違反と判断されるメルクマールにまで踏み込んだ判断を行った場合は、最高裁が同条の解釈指針を示すことになりますので、他の事例にも大きく影響するということになろうかと思われます。
(2009年11月執筆)
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