相続・遺言2023年11月01日 本妻側対愛人の子(2) 執筆者:北村明美
1.夫に愛人がいることが判明した。さらに悪いことに、夫と愛人の間には、子供がいることも判明した。
愛人は、婚姻届を出していない限り、法定相続人にはなれない。
しかし、夫と愛人との間の子供は、法定相続人である。愛人の子に、夫の遺産を渡したくないというのが、本妻側の思いである。
だが、遺留分までゼロにするわけにはいかない。愛人の子供の法定相続分を減らすことはできる。
どうするか。
夫と本妻の子供を増やせば、分母が大きくなるので、愛人の子供の法定相続分を減少させることができる。
「でも、本妻はもう68歳。子供は産めないよ。」
2.そこで、養子縁組をして、すぐにでも、夫の子供を増やすことが考えられる。夫と本妻の間に子供2名、夫と愛人の間に子供1名とすると、P図のとおり、愛人の子供の法定相続分は1/6である。
夫が3名と養子縁組をすると、法定相続分は、妻が1/2、子供は計6名になるので、Q図のとおり、愛人の子供は1/12となる。
養子縁組を3名とすると、愛人の子供の法定相続分を1/6から1/12に減らせるわけである。
「ちょっと待った!確か、養子縁組は実の子がある場合は1名迄、実の子がいなくても2名迄となっていたんじゃなかったですか。」
それは、相続税法のことである。基礎控除額を計算するとき、実子がある場合1人まで、実子がない場合2人までしか、法定相続人の数に加算させませんよというものである。(相続税法第15条)
(2023年)相続税の基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
真に養子縁組をする意思が双方にあるのなら 、民法上は有効である。
3.注意することは、養子にする人の人選である。
(1)Aさん夫婦には、子供は娘1人しかいなかった。蝶よ花よと育てたので、会社の後継者としてやっていけるとは思われなかった。
「実の息子を跡取りにして、出来が悪かったらどうしようもないが、娘の場合、優秀な婿をもらえばよいので、娘でよかったですよ。」とAさんは述べ、紹介してもらい、申し分のない男性を娘の夫とし、Aさん夫婦と養子縁組した。
婿は、創業者の自分のようなパワーはないし、時代は低迷しているので、業績を伸ばすことはできていないが、まじめでそれなりによくやってくれていると思っていた。そうこうするうちに、Aさんに大腸がんが見つかり、入院を何度も繰り返すようになった。
悪いことは続くもので、あのまじめな婿の不貞行為が発覚した。娘は家付き娘でわがままで自由奔放であり、離婚すると言ってきかなかった。
婿に出ていかれたら、今後会社はどうなっていくのか。従業員の生活はどうなるのか。
いまAさんが亡くなると、婿は、法定相続分1/4をもっていってしまうだろう。死んでも死にきれない。
(2)Bさん夫婦は、かわいい孫の太郎を、相続税対策として、養子にした。
太郎は、まじめで几帳面な子で成績も優秀であった。国立系のK大に入学した。
ところが、カルト教団に入信してしまい、家へ帰ってこなくなった。太郎と養子縁組を解消したいが、連絡が取れない。本当に困っている。
***「愛は永遠ではない」ので、実子の配偶者との養子縁組は、よーく見極めてからにしたほうが良いだろう。
孫がまさかカルト教団に入ってしまうなんてとか、養子にした孫にすごい男がついたなど、実際にあった話であるが、孫が将来どうなっていくかまで、なかなか見通すことができないものなのだろう。
実子だって、思ったように育ってくれないのだから、万全ということはないのかもしれない。***
4.養子縁組手続きは、役所にある「養子縁組届」に養親と養子が、それぞれ、署名押印して、他の必要事項を書いて、役所に提出し、受理されれば養子縁組は成立する。養子が未成年の場合、15歳未満の場合の注意点は「養子縁組届」に書いてある。印鑑は認印でよい。
あまりに簡単なので悪用されることもある。要注意だ。
一番の注意点は、養親となる人の署名を決して代筆しないことである。
Cさんは、愛人の子対策や相続税対策で、孫と養子縁組をすることを顧問税理士と相談して実行した。Cさんは、手が少し不自由になったので実子に代筆を頼んだ。
Cさん死後、愛人の子は、養子縁組無効確認訴訟を提起してきたのである。顧問税理士に証人になってもらったが、結局、養子縁組は無効になってしまった。
それに気を強くした愛人の子側は、Cさんの自筆証書遺言無効確認を求めて訴訟を提起し、さらに、Cさんの実子を遺言を偽造したとして、有印私文書偽造・同行使罪で告訴までしたのであった。
(2023年10月執筆)
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執筆者
北村 明美きたむら あけみ
弁護士
略歴・経歴
名古屋大学理学部物理学科卒業
コンピューターソフトウェア会社などに勤務
1985年弁護士登録(愛知県弁護士会所属)
著書・論文
「女の遺産相続」(NTT出版)
「葬送の自由と自然葬」(凱風社・共著)など
「医療事故紛争の上手な対処法」(民事法研究会・共著)
「証券取引法の仲介制度の運用上の問題点」(商事法務 ・1285)
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