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民事2009年10月13日 認知症高齢者虐待の実情 執筆者:冨永忠祐

 わが国は、人口の5人に1人以上が65歳以上の高齢者であるという、世界でも類を見ない、なおかつ、人類がこれまで経験したことのない超高齢社会に突入しています。その上、認知症に罹患している高齢者は、推計200万人にも及ぶと言われています。
 認知症高齢者は、日々の生活にいろいろな支障を来たしますが、こうした判断能力の衰えた高齢者の財産を管理し、日常生活をサポートするための法的な仕組みとして、平成12年から成年後見制度がスタートしています。しかし、成年後見制度の利用者数は、年々増加の傾向にあるとは言っても、まだまだ僅少で、平成20年における1年間の成年後見制度の申立件数は、わずか2万6459件しかありません。従って、推計200万人もの認知症高齢者がいるにもかかわらず、ほんの数%しか、成年後見制度が利用されていないことになります。
 成年後見制度を利用していない認知症高齢者の大半は、自宅で家族の介護を受けて生活をしています。しかし、認知症高齢者の介護は、家族に多大な身体的・精神的負担を課すことになります。徘徊したり、異物を食べようとしたり、部屋を汚物で汚したり、意味もなく夜中に起こされたり、お金を盗まれたと被害妄想で騒ぎ立てたり…。家族は、いっときも目を離すことができません。
 こうした異常行動が、たまに起きるというのであれば、まだ耐えられるかもしれません。しかし、現実には、こうした異常行動は、毎日繰り返され、そして、いつまでも続きます。
 ある日、介護者に、身体的にも精神的にも限界が訪れます。度重なる心労と肉体的疲労に加え、認知症高齢者をこれから何年も介護しなければならないという絶望感と、自分だけが犠牲になる不平等への怒りから、正常な思考ができなくなります。高齢者虐待の動機が、ここに芽生えます。
 厚労省の調査によると、高齢者虐待は、約85%が同居者による虐待です。同居者が高齢者を虐待する理由はいろいろです。虐待者の暴力的性向が原因の場合もあるでしょう。逆に、長年、虐待者が親から虐げられてきたことを恨み、親が年老いたことを契機に、復讐する事例もあるでしょう。
 しかし、そのような虐待者の暴力的性向や、虐待者と被虐待者との特殊な人間関係が原因ではなく、ごく普通の、どちらかと言えば円満な家族関係であったにもかかわらず、高齢者虐待が生ずることがあります。これが上記の、介護疲れによる虐待です。
 介護疲れによる虐待では、まず、自己の介護負担を少しでも軽減しようとします。洗っても、掃除をしても、どうせまた汚すのだからとの理由で、洗濯や掃除の回数を減らします。排泄物の処理について、できるだけ手抜きのできる方法を考えます。徘徊をしてしまう本人の保護のためだからと自分に言い聞かせて、高齢者をベッドに縛ります。
 虐待者の中には、自分が虐待を行っていることを自覚していない者も少なくありませんが、介護疲れによる虐待者は、多くの場合、自分の行為が(法的に虐待にあたるかどうかはともかく)「不適切な行為」であるとの自覚を有していると思われます。しかし、その自覚がありながらも、そうせざるを得ないと自己の行為を正当化しようとする点に、介護疲れによる虐待の特徴があります。
 しかし、この正当化は誤りです。「そうせざるを得ない」ということは、単なる思い込みにすぎない場合がほとんどです。新たに介護サービスを導入したり、ケアマネジャーと相談して介護サービスの利用の仕方を工夫することによって、介護負担が軽減され、介護疲れによる虐待が解消する可能性は決して小さくないのです。
 介護保険法が改正され、平成18年4月から地域包括支援センターが全国に設置されています。この地域包括支援センターは、介護に関わる様々な相談に応じてくれますので、介護負担が過多であると考えている方は是非相談をして下さい。また、地域包括支援センターは、高齢者虐待問題に対しても積極的に取り組んでいますから、虐待を発見した者は通報して下さい。通報者のプライバシーは厳守されます。
 介護疲れによる虐待は、虐待される認知症高齢者だけでなく、その家族をも不幸にします。虐待を撲滅するためには、福祉の専門家の協力を仰ぎながら、適切なケアを受けることが不可欠です。そして、こうしたコーディネイトを行うためにも、成年後見制度の普及が必要です。推計200万人もの認知症高齢者がいる現実を踏まえると、成年後見制度普及に向けた人的・経済的支援のために、国の施策が急務とされる所以です。

(2009年10月執筆)

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