民事2009年10月05日 遺産分割事件の法律相談 執筆者:仲隆
「父が死亡して相続人は長男の私を入れて3人ですが、父は長年認知症だったのに遺産全部を次男に相続させるという自筆遺言書があって次男が独り占めしそうです。そもそも父の遺産は全部父母の農業収入で作ったものですが、私は妻とともに父母の農業をずっと手伝ってきたのに日常の生活費以外何も財産をもらっていないのです。三男は、東京に10年前に建てた三男名義のテナントビルがあるので遺言に文句はないようですが、それも本当は父のビルなんです。結局、私には父が掛けくれていた生命保険があって5000万円の受取人になっているだけです。父は10ヶ月前に死亡しました。遺産には、預貯金約1億円と時価約1億円の自宅土地建物があります。」
このような法律相談を受けたとき、弁護士としてはどう対応すべきか。
認知症の点は遺言無効確認、遺言の有効を前提として遺留分減殺請求、農業への従事について寄与分、三男名義のビルについて遺産確認請求、保険金について特別受益というように個別論点があるが、さて実践となると容易ではない。
手探りに、遺産分割調停申立てを選択する弁護士もいるかも知れない。論点も多く面倒であるし、「もしかして」長男にとって良い合意が得られるかも知れない。しかし、相手方が遺言書の有効性を前提とする限り話し合いは困難である。調停期日を数回重ねたあげく、不調になると一からやり直しである。それが予測されるならば(予測すべきであるが)、はじめからやみくもに調停を申し立てるべきではない。
間違いないことは、早急に次男に対し、仮定的に遺言の有効を前提とした遺留分減殺請求の通知を出すことであるが、その後、遺言の無効について私的鑑定によって無効の目安がつけば、ビルについての遺産確認の問題はもともと激しい対立が予想されるのであるから、遺言無効確認と遺産確認を併合提起して訴訟上の和解も期待できるし、仮に判決で遺言が無効となれば寄与分の主張を前提とした遺産分割調停を行い、一応特別受益を踏まえながらもより良い解決が期待できるから、最初から遺産分割調停を行うよりもかえって良い結果になるかもしれないし、訴訟で敗訴すれば長男も「ふんぎり」がつくというものだ。
近年の弁護士人口の急激な増加に伴い、弁護士業務も益々多岐にわたることが予想される中で、弁護士としてはなお一層のスピーディなリーガルサービスが要求されるであろう。
遺産分割事件は、多数当事者を予定しながら、その解決手段として、遺産分割協議、調停・審判手続、訴訟手続等がいろいろと用意されており、弁護士としては、法律的判断を駆使して適切な選択をしていかなければならない。
そこで大事なことは、個別論点につき、いかなる手続があり、どういう見通しが付けられるかについての体系的な知識と理解であろう。面倒だからと思って、かえって面倒にならないように注意すべきである。
(2009年10月執筆)
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