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環境2009年03月12日 PDCA(Plan・Do・Check・Action)で環境法令を理解する 執筆者:梶川達也

 環境法令というと「法令に対応するにはお金がかかる」という声が多く聞かれます。そんな声ならまだましで、「ウチは、汚水で公害問題を起こしたことはない。だから、環境法令で守るべき事項なぞ何もない」と豪語される企業さえあります。
 そうした企業でさえも、CSR(企業の社会的責任)活動を始めたり、ISO14001(環境マネジメントシステムの国際規格)認証を目指すようになったりすると、環境法令とは無縁でなく、積極的に対応することが企業経営にとっても重要であると認識されるようになってきています。つまり、環境法令で求められている事項をPDCAの枠組みで理解し対応することは、CSRという観点だけでなく、結局、自社にとって、ムダな仕事を見直すことで、コストを下げる契機になるということです。以下、A社の事例を取り上げてみましょう。

 A社は愛知県にある自動車部品の製造業で、吹付け塗装工程があるものの、環境負荷は高くないと考えられていました。ところが、顧客へのPRとして、ISO14001認証を取得することになり、環境法令を順守しているかどうかの調査がまず始まることになりました。担当者のBさんは「塗装工程があるから、まずは排水を調べよう」ということで、社内に保管されている排水の測定記録を確認しました。「確かに測定しているけど、毎週1回も!!こんなに頻繁に測る必要はあるのかなぁ」という疑問が浮かびました。それに加え、「あれっ?測定している物質の中に、鉛がないぞ。塗料に含まれているはずなのに。測っているのはPH、窒素、リンとかだなぁ」という点も謎です。そこで、実際に、塗装工程の排水状況を現場に調べに行ったら、塗装工程の課長はこう答えました「Bさん。ご苦労さん。でも、数年前から、塗装工程から出る廃液は、排水処理場に送ってないよ。廃液として産業廃棄物として処理しています。そんなことも知らなかったの?」
 Bさんは自分の不明を恥じながら、「だから、鉛は測定していないんだ」と納得すると同時に、「でも、毎週1回も測る根拠はどこにあるのかな」という疑問は解けないでいました。そこで、排水処理場の課長に聞いてみました。「週1回も測定するのはどうして?」。「排水量が多いと、測定頻度も多くなると聞いていたけど」というのが課長の答えでした。Bさんは再質問しました。「多いと言われますが、廃液として処分するようになってから、排水量は減ったのではないのですか」。「言われてみりゃ、そうだ」と課長。Bさんは思いました。「週に1回測っていると、月に10万円のコストがかかる。年間120万円だ。測定頻度の根拠を調べてみなければ」。
 Bさんがもし、「PDCAでわかる環境法令対応ハンドブック」で、PDCAの考え方で環境法令の基礎を知っていたら、次のようにアプローチして、この疑問を解いていたでしょう。まずは、塗装工程に法令が適用されるかどうか、を調べます。水質汚濁防止法について、Planの段階で「特定施設があるかどうか」で同法が適用されるかどうかが決まります。それによると、この吹付け塗装施設は「酸又はアルカリによる表面処理施設」にあたり、適用されることがわかります。その場合、特定施設として届け出る必要があるので、社内に届出書があるかどうかを調べます。実際、同社では設置の届出はされていました。その中には、汚水等の処理の方法を示すため、排水系統図が記されており、排水処理場を通じて排水されることになっていました。それなのに、今は廃液として処分されています。それが反映されていない届出です。法令によると、汚水等の処理法など、構造等の変更を行うと、事前に変更の届出をすることになっています。Bさんは変更届出書があるかどうか社内を探しましたが、見つかりませんでした。つまり、届出をしてはいないものの、「廃液として処理するようにしたので、鉛などの有害物質の水質測定はやめてしまった」と推測されます。しかし、変更届出未提出という違反となり、届出をする必要があります(Action)。
 ところで、測定頻度の謎はどうなるのでしょう。Bさんは、法令のCheck段階で「測定頻度は法律では定められていない。県の条例で決められている」ことを知っているべきでした。このケースは、条例によっても定めがありませんでした。まだ謎は解けません。測定項目が窒素、リンなど、いわゆる生活環境項目ばかりであることが一つのヒントを与えます。Bさんは、Check段階を調べて、「もしかすると、これは総量規制であり、1日の排水量が200m3以上400m3未満だと、週に1回以上は測る必要があるぞ」ということを知っているべきでした。ところが、測定対象となる物質は同じですが、総量規制と排水基準は測定内容が異なっています。つまり、前者は汚濁負荷量、後者は濃度という違いがあります。実際の測定記録を見てみると、濃度でした。ですから、総量規制が適用されているから測定しているわけではないようです。それに、現在の排水量は、上水使用量から推測すると、40m3/日ほどです。総量規制の対象は1日排水量が50m3以上ですから、こんなに多く測る必要はないと思われます。

 このような調査の結果、以下のように対応することが決まりました。「法令からすると、水質の濃度測定は不要である。週1回測定することになったのは、おそらく、排水を出していたときにやっていた測定業務が、廃液処理に変えた後も、そのまま引き継がれていた。測定業者も『週1回測ると、環境問題にしっかり対応している企業というイメージにつながることになる』という理由で、A社に測定を勧めていたと考えられる。そこで、CSRの観点からは、現在の項目で水質測定は継続するものの、毎月1回測定することにし、必要ない費用を抑えることにする。当然、県に対して、これまでの違反を認め、変更届出をする」。その結果、県も同社の法に則った対応を評価し、同社は、自社基準として生活環境項目を週1回測ることになりました。同社の社会イメージを保ちながらも、コストダウンを実現できることになりました。
 以上のように、環境法令に的確に対応するには、PDCAの枠組みで、法令を理解することが経営問題解決につながることがおわかりになっていただけたかと思います。

(2009年3月執筆)

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