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民事2008年09月24日 有責配偶者の離婚請求 執筆者:冨永忠祐

 わが国には協議離婚の制度がありますから、夫と妻が離婚に合意すれば、わざわざ裁判所に申立てをしなくても、役所に離婚届を提出するだけで、簡単に離婚することができます。
 しかし、夫婦の一方が離婚に反対している場合や、慰謝料など離婚の条件をめぐって合意が成立しない場合には、最終的には、裁判所で離婚判決を得なければ、離婚することができません。裁判所で離婚が認められるか否かで、よく問題になるのが、いわゆる有責配偶者からの離婚請求です。
 「有責」とは、文字どおり、責任が有る、すなわち、夫婦が破綻するに至った原因を作り出した責任があるということです。典型的には不貞です。例えば、ほかに女性を作って家庭を捨てた夫から、離婚の請求がなされた場合、裁判所は離婚を認めるのでしょうか。
 かつて最高裁は、その場合、離婚請求を棄却しました。もしそのような離婚請求が認められるならば、妻は「踏んだり蹴ったり」であって、夫の「不徳義勝手気儘」は許されないという名判決(「踏んだり蹴ったり判決」と呼ばれています)が出されました。
 ところが、昭和62年になると、最高裁は方針を変更します。有責配偶者からの離婚請求も認めることになったのです。ただし、この事件では、夫婦がともに70歳以上で、別居期間が実に約36年もの長期間に及んでいたという特殊な事情がありました。これだけ長い間別居しているということは、夫婦と言っても名ばかりで、全く形骸化していると考えられたわけです。
 もっとも、最高裁は、残された家族のことを軽視しているのではありません。未成熟子がいる場合や、離婚後に配偶者が経済的に苛酷な状態におかれる場合などには、依然として、離婚請求を認めていません。つまり、有責配偶者からの離婚請求が認められるのは、残された家族が不幸な生活を強いられない場合に限られるのです。
 昭和62年以降、現在に至るまで、有責配偶者からの離婚請求については、数々のケースにおいて離婚が認められています。平成2年に最高裁は、別居期間8年弱のケースでも、離婚を認めました。さらに、平成14年に東京高裁は、別居期間6年のケースでも、離婚請求を認容しました。ただし、いずれも別居期間だけが判断要素になっているわけではなく、そのほかの様々な要素を総合的に斟酌して、離婚認容の結論を導いていることに注意が必要です。例えば、平成14年の東京高裁の判決では、夫の不貞以前に、妻にも相当の落ち度があったことが、比較的短い別居期間でも離婚を認めた要因になっています。
 そのような状況下において、平成19年に東京高裁は、夫が不貞をして家を出て、別居期間も相当程度長期間に及び、夫婦が全く破綻しているケースでも、なお夫からの離婚請求を棄却しました。このケースでは、重度の障害をもった子ども(成人)がいたのです。離婚後も、妻は子どもの介護に忙殺され、就職することもままならないことが考慮されています。残された家族のことを考えれば、妥当な結論だと思いますが、他方で、今後も形ばかりの夫婦関係が継続してしまうという問題もあります。
 有責配偶者からの離婚請求を論じる際に、気を付けなければならないことは、夫婦が破綻した後に不貞が行われた場合には、以上のような考え方が適用されないということです。なぜなら、その場合は、不貞が原因となって夫婦が破綻したわけではないからです。そのため、裁判実務では、破綻が先か、それとも不貞が先か、がしばしば争点になります。破綻が先なら離婚が認められるが、不貞が先なら離婚が認められないのです。
 このような実務の運用の下では、単に不貞が行われたという事実だけでなく、不貞の時期まで証明する必要があります。そのため、ときには、興信所による報告書、関係者の陳述書、交際相手とのメールのやり取りなど、ありとあらゆる証拠が裁判所に提出され、熾烈な戦いに発展してしまう傾向にあります。
 しかし、中傷合戦は、子どもの将来に悪影響を与えかねません。夫婦は離婚しても、子どもにとっては、父親・母親であることに変わりがないのです。裁判の勝ち負けに熱くなるよりも、子どもの幸せをまず第一に考えなければなりません。

(2008年9月執筆)

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