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民事2008年06月11日 成年後見制度の実情について 執筆者:北新居良雄

 人口統計によれば、国民総人口1億2,777万人(平成18年10月1日現在)に対し65歳以上の「高齢者」人口は20.8%(約2,660万人)に達しており、この高齢化率は今後も上昇を続け2055年(平成67年)には40.5%(同年の75歳以上の「後期高齢者」の割合は、26.5%)にも達するものと推計されています。近い将来でも、2015年ではこの割合は26.9%に、2020年には29.2%に達する模様で(内閣府の「高齢社会白書」平成19年版)、この世界史上前例のない急速に進む高齢化に対し、次々と国家レベルでの対策が迫られているという厳しい現実が示されています。また、この高齢社会の中身は、高齢者1人を支える現役世代(生産年齢に属する人々)の人口がますます減少する一方で、平均寿命が延びることによって医療費や介護費用ばかりでなく老後の生活資金の確保を要する期間も延長されるという問題、すなわち、医療・介護保険制度や年金問題および老後の財産管理・活用に関する問題を抱えるというものです。平成12年4月に発足した現在の成年後見制度は、このような高齢社会の深刻化を背景にしたものです。
 そして、実際に、成年後見関係事件(後見開始、保佐開始、補助開始及び任意後見監督人選任事件)の申立件数は年々増加し、全国で平成17年度が2万1,114件であったものが、平成18年度には3万2,629件に上っており、平成12年度に比較して約3.5倍の伸びになっています(最高裁事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況~平成18年4月から平成19年3月~」)。東京家裁(本庁)においても、平成19年(ただし1月~12月末まで)の成年後見等開始件数は2,195件に及び、監督事件の事件数も5,340件に及んでいると報告されています(平成20年2月22日東京三弁護士会合同研修会における東京家裁後見センターの報告)。
 このような社会的ニーズの増加は、2040年に高齢者人口が3,852万人(推計)に達するまで当分の間続くものと予想されますが、この制度の円滑な運用を確保するための大きな課題は、成年後見人等に就任して言わば「他人の財産の管理」を「適正に行う」人材および人員数の確保です。また、その財産管理は、親族の利益や相続対策等のために行うものではなく、専ら本人の利益のために行うべきことが最優先されるものです。最近の判例では、成年後見人に就任した親族による横領に関し業務上横領罪を適用し、親族相盗例の準用を否定した事例もあるなど(最高裁平成20年2月18日第一小法廷判決、原審仙台高裁秋田支部平成19年2月8日判決について判例タイムズ1236号104頁)、被後見人等本人が能力を失っているため後見人等をコントロールできないことを奇貨として、本人に対し損害を加えたり、自己の利得を図るような非行に対して、裁判所は強い姿勢で臨んでいます。
 しかし他方、この厳しい裁判所の姿勢は、各地の家裁では事件数の増加に対して家裁自身による監督では万全を期し難く、発見が遅れ損害回復が困難であるという事情も反映しているものと思われます。したがって、非行に対しては事後的でも一罰百戒的に臨まざるを得ないと考えられるのです。
 弁護士については、各弁護士会で成年後見センターや高齢者・障害者の権利擁護センターなどの設置や、研修や研究の機会を重ねていますが、今後、家庭裁判所からは、成年後見人等直接財産管理に当る者の推薦ばかりでなく、親族後見人等による財産管理の監督を行う後見監督人や保佐監督人等への就任を要請される機会が増加するものと予想されます。また、公的後見人や法人後見の整備や育成も今後の課題であると思われます。

(2008年6月執筆)

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