
パワーハラスメントについて、労働施策総合推進法は、事業主に対し、相談の受付・対応等の雇用管理措置や不利益取扱いの禁止を義務づけています。この義務について厚生労働大臣より求められた報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、20万円以下の過料に処せられるので、公益通報者保護法上の通報対象事実になります。企業としては、外部公益通報によりコンプライアンス違反を問われないようにするため、パワハラの事後対応と予防管理を適切に実行することが求められます。
目 次
1 パワーハラスメント発生後の対応(前編)
2 パワーハラスメントの再発防止
2 パワーハラスメントの再発防止
まず、加害者とならないよう、従業員に対してどのような指導をすればよいのでしょうか。
パワハラの損害賠償責任を認めた判決では、自殺した若い事務員のミスが減らなかった原因として、ベテランの上司が感情的に当該事務員に対する叱責を繰り返したことにより当該事務員の心理的負荷が蓄積されたことも相当程度影響していると判断されています。裁判所は、繰り返される業務上のミスとこれに伴う継続した叱責によるストレスを重視しているのです。パワハラの要因がミスである場合、ミス→叱責→ミス・・・という悪循環が生じます。部下がミスしたことを上司から叱責されることで萎縮してしまうと生産性が低下します。それが上司のイライラが高じる要因となり、言動がエスカレートしてしまいます。負のスパイラルは、部下に与える心理的負荷を増大させて、うつ病を発病させる危険性があるのです。
生産性が低いと評価された従業員がターゲットとなりパワハラが発生すると、被害者がメンタルヘルス不調となり休職や退職をしてしまい、被害者側から損害賠償請求を受ける可能性があります。それだけでなく、職場内のコミュケーションが停滞し、同僚のモチベーションがダウンすることでも退職を招くおそれがあります。これが更なる生産性の低下にもつながります。
人事労務担当者としては、部下に対する接し方や指示出しの態様によっては部下の生産性を低下させ得ることを管理職に教育することが肝要です。
次に、被害者とならないよう、従業員に対してどのような指導をすればよいのでしょうか。
負のスパイラルを食い止めるため、部下のミスと上司の叱責との双方を同時に止めるよう配慮することが重要となります。
パワハラの要因が業務上のミスである場合、職場のサポートにより、ミスの原因究明や改善策を検討します。そのためにも、従業員が適時にハラスメント相談窓口に相談するよう周知することが望ましいです。
一方、ミスの原因は、被害者の業務内容や業務分配が過大であることもあります。上司が業務の負担や遂行状況を観察し、適切に指導をする、被害者の業務量を軽減することが必要です。パワハラをしている管理職では解決できないのであれば、人事労務担当者が早期に介入し、業務分配の見直しや増員を検討すべきです。
また、被害者の言動にも問題があった場合には、当該言動に発言にどのような問題があったのかを人事労務担当者から説明し、今後同様の言動がないように注意すべきです。
さらに、パワハラ問題が解決したらそれでおしまい、ではなく、ここから得られた教訓を再発防止策に反映することが肝要です。パワハラを個別問題として片付けず、職場や組織の問題として、パワハラを発生させる要因を低減し、管理職や従業員に対する意識啓発をします。これにより職場の人間関係が良好となり、コミュニケーションが円滑になります。パワハラ防止対策を実施して職場環境を良好なものとすることで従業員満足度が上昇すると、自社製品の品質とは別に、顧客や取引先へのサービス向上につながります。顧客満足度の上昇にも資するだけでなく、従業員の定着率が上昇することとなるでしょう。
健全な企業経営を持続するためにも、パワハラをめぐるガバナンスを十全にすることが求められています。
以上
<プロフィール>
佐久間 大輔
榎本・藤本・安藤総合法律事務所 弁護士・中小企業診断士
1993年中央大学法学部卒業。1997年東京弁護士会登録。2022年中小企業診断士登録。2024年榎本・藤本・安藤総合法律事務所参画。近年はメンタルヘルス対策やハラスメント対策など予防法務に注力している。日本産業保健法学会所属。
著書は『管理監督者・人事労務担当者・産業医のための労働災害リスクマネジメントの実務』(日本法令)、『過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方』(労働開発研究会)など多数。
DVD「カスタマー・ハラスメントから企業と従業員を守る!~顧客からクレームを受けたときの適切な対応とは~」、「パワハラ発生!そのとき人事担当者はどう対処する?-パワーハラスメントにおけるリスクマネジメント」も好評発売中。
公式ウェブサイト「企業のためのメンタルヘルス対策室/事業承継支援相談室」
https://sakuma-legal.com/

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