訴訟手続2025年10月19日 民事IT、弁護士登録6割 システム義務化まで半年 習熟足りず当事者不利益も 提供:共同通信社

来年5月までに始まる民事裁判の全面IT化で、弁護士に義務付けられる書類のオンライン提出のため必要なシステムへの登録が、弁護士全体の6割強にとどまっていることが18日、日弁連関係者への取材で分かった。システムは既に導入されており、代理人となる弁護士が習熟していなければ当事者の不利益につながる恐れがある。日弁連は、施行まで約半年に迫る11月から研修を実施し、事前に理解を深めたい考えだ。
システムは「民事裁判書類電子提出システム(mints、ミンツ)」。2022年成立の改正民事訴訟法でオンライン申し立てや訴訟記録の電子化が規定され、弁護士は原則として申し立てや書面提出をミンツで行うことが義務化された。本人訴訟はこれまで同様、書面での提出もできる。
日弁連は今年7月、システム登録に必要な本人確認などの手続きを一括で済ませられる案内を全弁護士に送り、9月末までに約2万人が登録を求めた。それ以前の登録は最高裁からの情報提供に基づき1万人程度と推計され、合計すると、全弁護士約4万7千人のうち約64%に当たる。
企業法務の専門など民事裁判を扱わない弁護士も一定数はいるとみられ、電子提出の義務化後も登録が100%になるとは限らない。ただ、書面では提出できなくなること自体、十分に浸透していないといい、日弁連は11月以降、施行後の運用やシステム操作に関する研修をする予定。各地の弁護士会も裁判所と協議を進めている。
最高裁によると、義務化後のシステムはミンツの改修版で、それまでに登録した人はそのまま利用できる。ベテラン民事裁判官は「施行後の円滑な手続き実現のため、実際に利用する弁護士の習熟が重要だ」と話した。
裁判事務「大変革」着々と 審理長期化の解決策にも
社会全体がデジタル化する中、司法分野でも急速にオンライン手続きの導入が進む。全面IT化の先駆けとなる民事裁判は、当事者の日程調整に時間がかかるなど審理期間の長期化がかねて課題となっており、IT化はその解決策としても期待される。「裁判事務における大変革」(民事裁判官)は今後、民事だけでなく、家事や刑事の分野でも本格化する。
「各地の弁護士会の協力を得ながらデジタル化時代にふさわしい審理運営を実現し、質の高い司法サービスの提供へつなげていく」。最高裁の今崎幸彦(いまさき・ゆきひこ)長官は5月の記者会見で、残り約1年となった民事裁判全面IT化への意気込みを語った。
民事裁判のIT化は2018年3月、政府の有識者検討会が方向性を取りまとめ、ファイル共有やウェブ会議による口頭弁論が順次実現。電子申し立てが盛り込まれ、来年5月までに施行される改正民事訴訟法で、総仕上げとなる見通しだ。
事務の効率化などメリットが大きいとされ、実際にオンラインで手続きをした経験がある弁護士からは「慣れれば難しくない」との声が上がる。
最高裁によると、既に導入されている「民事裁判書類電子提出システム(mints、ミンツ)」は徐々に利用ペースが上がり、今年8月までに約1万件を超えた。この間、補助者として登録できる事務員の人数を増やすなど、弁護士会側の意見を反映しながら改良を重ねてきたという。
民事裁判以外でもIT化は進展している。離婚や相続などを扱う家事事件では、今年3月までに調停で5万3千件以上、審判で5700件以上ウェブ会議が利用された。28年6月までには調停や審判の電子申し立ても導入される。
刑事事件では、逮捕や捜索に必要な令状や書類を電子化し、オンラインでやりとりできるようになる改正刑事訴訟法などが今年5月に成立し、27年3月までに施行予定だ。証拠開示を受けた弁護人が、電子証拠として取得できることも盛り込まれた。数年以内に、司法全体の手続きが大きく様変わりすることになる。
民事裁判のIT化
訴状・準備書面の提出や記録の保管は従来、紙媒体だったが、内閣官房の「裁判手続等のIT化検討会」を経て、オンライン手続きが段階的に導入された。2020年2月、裁判所と弁護士事務所をつなぐウェブ会議での争点整理が開始。24年3月にウェブ口頭弁論が可能になった。地裁や高裁で利用が広がり最高裁でも今年11月に初めて実施される見通し。来年5月までに、訴状の電子送達などが盛り込まれた改正民事訴訟法が施行され、全面IT化が実現する。
(2025/10/19)
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