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解説記事2004年08月30日 【商法解説】 合同会社の創設について(2004年8月30日号・№080)

合同会社の創設について
日本大学法学部助教授・弁護士(あすか協和法律事務所)  松嶋隆弘


1.はじめに

 商法の認める会社類型としてはこれまで、人的会社として合名会社・合資会社が、物的会社として株式会社・有限会社が存在した。「会社法制の現代化に関する要綱案(第二次案)」(以下、「要綱案(第二次案)」とする。)は、物的会社のうち有限会社を廃止し、株式会社に一本化するとともに、あらたに合同会社という、人的会社と物的会社の双方の特徴を有するハイブリッドな企業形態を創設するものとした。
 合同会社とは、出資者の責任が有限責任でありながら、会社の内部関係については組合的規律が適用される新たな会社類型のことをいう。合同会社は、アメリカにおいて広く用いられているLLC(Limited Liability Company)を日本法に継受したものである。この改正が実現されれば、既存の合名会社・合資会社よりも、合同会社が人的会社の中心的役割を担っていくことになろう。
 本稿では、合同会社の特徴について述べるとともに、合同会社の創設に当たり議論されるべき法的問題を指摘・検討していこうと思う。

2.いわゆる「日本版LLC」の導入を巡る議論

1 いわゆる「日本版LLC」のニーズ
 合同会社に関しては、これまでいわゆる「日本版LLC」という名称で、経団連を始めとするさまざまな立法提言がなされてきた。
 最近では、平成15年11月に経済産業省産業組織課が、「人的資産を活用する新しい組織形態に関する提案―日本版LLC制度の創設に向けて―」と題する報告書(以下、「産業組織課報告書」とする。http://www.meti.go.jp/feedback/downloadfiles/i31117dj2.pdf)により、合同会社の創設を積極的に提案している。今回、要綱案(第二次案)は、いわゆる「日本版LLC」に合同会社という仮称を与え、合名会社・合資会社との規律の一体化を図ろうとしている(第3部 第1の2)。
 いわゆる「日本版LLC」に対するニーズとしては、①.合弁事業、②.ベンチャービジネス、③.投資ファンド(証券化のビークル)、④.戦略的事業再編、⑤.コンサルティング等専門的職業等が挙げられている。
 まず、①.について。例えば、半導体業界などでは、先端技術の開発にあたって、資源・研究開発等のリスクが高すぎ、一社だけではリスクを負担しきれないし、また、石油業界のような化学業界においては、そもそも初期投資が大きすぎ、かつ投資の回収までに時間がかかりすぎるので、一社だけでは、必要な資金調達をなしえない。このような場合においては、従来の株式会社形態を利用するよりも、合同会社を活用することが望ましいとされる。
 次に②.に関して、特にシリコンバレー型のベンチャー企業においては、世界規模での競争に勝ち抜くため、経営資源の集約を行う必要があり、合弁事業が不可欠なところ、一般に起業家は、経営権を失うことをおそれるあまり、外部資金の受け入れをためらうといわれている。合同会社の導入は、内部構造の柔軟性を利用し、このような懸念を解消することに役立つとされる。
 ③.は、法人格がない上、投資対象が限られ、無限責任社員の存在を必須とする投資事業有限責任組合法の不都合性を合同会社により補おうとする発想である。
 ④.の例としては、業界全体で過剰設備を抱えている一方、どの業者もオーナー企業で市場からの退出が困難である場合などを挙げることができよう。この場合において、業界内の企業が設備を共同で出し合い、必要な設備だけ残して事業継続する場合、整備廃棄損の損益通算への切実なニーズがあるとされている。
 最後に⑤.について、事業が物的資産よりも人的資産(専門的技能)によりなされる専門的職業団体(コンサルティング業、公認会計士・税理士や弁護士なども含めて考えてよいだろう。)においては、パートナーが個人資産まで失うことがないようにすることへのニーズがあるとされている。
 では、そもそもいわゆる「日本版LLC」とは、いったいどのようなものなのか。合同会社について検討するための前提として、いわゆる「日本版LLC」の導入に関する議論をみておこう。

2 アメリカにおけるLLCとその普及
(1).LLCとは
  まず、母体であるLLCとは何かについてみておきたい。ここにアメリカ法におけるLLC(Limited Liability Company)とは、ごく大雑把にいえば、コーポレーション(会社)とパートナーシップ(組合)の利点を融合した新しい組織形態である。すなわち、対外的には有限責任の法人でありつつも、対内的には組合的な定款自治による自由な制度設計が可能な企業組織である。
  組合的な対内関係が認められる以上、機関を置かずメンバーが直接経営に当たる形態も当然に認められており、これをmember-managed LLCsという(これに対し、機関を置く場合が、manager-managed LLCsという)。
(2).アメリカ法におけるLLC
  現在アメリカにおいては、広くLLCが利用されている。しかしこのようなLLCの普及は、アメリカでも比較的最近のことである。
  LLCが初めて法制化されたのは、1977年、ワイオミング州においてである。同州が企業誘致のため石油会社に対する措置法として制定したものであった。当初LLCは、なかなか利用されなかったが、課税上の取り扱いが明らかになるにつれ、広く普及していくことになる。
  アメリカにおける事業形態は、内国歳入法(Internal Revenue Code : IRC)上、コーポレーションとパートナーシップに大別される。課税上の特徴であるが、前者(特にわが国の株式会社・有限会社に相当するC Corporation)は、コーポレーションの段階で一度法人所得税を課された上、株主に配当があると、右株主がコーポレーション以外の場合、受け取った配当金額につき通常の所得税を課せられる。いわば二重課税されるのである。
  他方、後者については、構成員段階で初めて課税の問題が生じ(構成員課税)、二重課税の問題は生じない。
  1996年、内国歳入庁は、課税上の取り扱いに関し、チェック・ザ・ボックス規則(Check-the-Box Regulation)と呼ばれる規則を制定した。これは、アメリカ国内の法人に該当しない組織及び外国企業に対し、連邦税に関して企業そのものを課税主体とする事業体課税(コーポレーションとしての課税)か、それとも構成員課税(パートナーシップとしての課税)を採るかの選択権を与えるものである。後者を選択した場合、LLCは納税主体ではなくなり(パススルー課税)、出資者のみに課税されるだけで課税関係は終了する。 
  この規則により、コーポレーションとしての課税を選択しない限り、全てのLLCが連邦税法上パートナーシップとして取り扱われることとなった。そしてこのことがLLCの爆発的普及の大きな原因となった。1995年には全米50州でLLC法が制定されている。

3 産業組織課報告書によるLLC導入の提言
 このようなLLCの普及を背景に、わが国においても同様のハイブリッドな企業形態(いわゆる日本版LLC)を創設すべきだとの主張が強くなされていくことになる。そのもっとも代表的な例は、経済産業省産業組織課による前掲産業組織課報告書である。
 産業組織課報告書は、競争力の源が、物的資産から他社との違いを生み出すことができる人的な資産に変わりつつあるという認識に立ち、所有と経営の分離を前提とする株式会社制度は、大規模な物的資産を形成して事業を展開することを可能とし、重厚長大型産業を担う企業組織には適するが、物的資産よりも人的資産を核として事業を展開しようとする場合には、必ずしも適さないとする。
 その上で産業組織課報告書は、諸外国における有限責任の企業組織を肯定的に紹介・概観し、人的資産重視型の企業組織として、現行法は無限責任の企業形態のみを認め、所有と経営の一致した有限責任の人的企業形態を有していないので、わが国においてもかかる企業形態(いわゆる日本版LLC)が積極的に導入されるべきであると結論づける。
 産業組織課報告書は、いわゆる日本版LLC創設のための方法として、①.有限会社・株式会社を土台とする方法だけでなく、②.投資事業有限責任組合を土台とする方法、③.中小企業等協同組合法に基づく企業組合を土台とする方法、④.合名会社・合資会社を土台とする方法をあげ、それぞれの方法について詳細に検討を加え、どの方法によっても日本版LLC創設が可能である旨指摘している。

3.要綱案にみる合同会社の概要

1 要綱試案と要綱案(第二次案)
 産業組織課報告書を受け、要綱案(第二次案)は、今回合同会社という名称でもって、日本版LLCの導入を図った。要綱試案段階では、有限会社・株式会社を土台としての創設が考えられていたようである。要綱試案では、会社の内部関係と、外部関係とに分け、前者については組合的規律、すなわち合名会社の規律に準ずるものが適用されつつも(商法68条参照)、後者については、基本的に、有限会社や譲渡制限株式会社と同様の規律に従うことになるとされていた。
 要綱案(第二次案)も、基本的にはかかる要綱試案の立場を引き継いでいる。ただ、要綱案(第二次案)では、要綱試案におけるよりも一層合名会社・合資会社との規律の一体化が意図されている。

1 要綱試案と要綱案(第二次案)
(1).内部の規律に関する定款自治
  まず会社の内部関係について。会社の内部関係については合名会社・合資会社との規律の一体化が図られる結果、業務執行その他の内部の規律に関して、広く定款自治に委ねられる(合同会社においては、株式会社と異なり、そもそも会計監査人の設置が全く義務づけられない。)。
  したがって、合名会社と同様、社員が業務執行にあたることが原則となる(要綱案(第二次案)第3部 第2の3(1)①)。業務執行社員には法人もなることができるが、その場合、自然人を職務執行者として選任しなければならない(第3部 第2の3(2)①)。
(2).持分の払戻しによる投下資本の回収
  投下資本の回収についても、合名会社と同様、退社による持分の払戻しによることになる(第3部 第2の5(1)(2))。
(3).社員の入社、持分の譲渡等につき総社員の一致
  社員の入社、持分の譲渡、会社成立後の定款変更については、原則として総社員の一致により行われる(社員の入社、持分の譲渡については第3部 第2の2(2)②、会社成立後の定款変更については、第3部 第2の1)。
(4).解散判決及び除名
  人的つながりが強い会社は、他面において、社員の意思の相違等により、会社運営に支障が生ずる可能性が高い。要綱案(第二次案)は、かかる場合に備え、合名会社の場合と同様に解散判決(商法112条参照)や除名(商法86条)等の制度を設けるものとする(第3部 第2の6(2))。
(5).一人合同会社も認められる
  合同会社においては、現行の株式会社・有限会社と同様に、社員1人のみの設立・存続も認められるが(第3部 第2の2(1))、合名会社についても、合同会社と同様に、社員1人のみの設立・存続が認められることとされている(第3部 第4の1)。

3 会社の外部関係
(1).出資者全員が有限責任
  会社の外部関係について要綱案(第二次案)は、出資者全員の責任を有限責任とすることから(第3部 第2の2(4))、基本的に、有限会社や譲渡制限株式会社と同様の規律に従うものとする。
(2).労務出資の否定
  したがって社員の出資に関しては、まず各社員の出資の目的につき、合名会社と異なり労務出資を認めず、現行の有限会社・株式会社と同様に、金銭その他の財産に限った上(第3部 第2の2(3)①)、全額払込制度を採用する(第3部 第2の2(3)②)。各社員の出資の目的が金銭その他の財産に限られたのは、社員全員が有限責任である会社類型における「出資」を、会社債権者に対する責任財産の会社に対する拠出であると考えたからである。
(3).債権者保護手続について
  債権者保護に関しても、現行の有限会社・株式会社と同様に、(i).貸借対照表・損益計算書の作成義務づけおよび債権者の右書類閲覧請求権(第3部 第2の4(1))、(ii).株式会社と同様の資本制度・財源規制というメニューを用意する(第3部 第2の4(2))。
  ただ、要綱案(第二次案)は、株式会社において要求される決算公告義務について述べるところがない。決算公告義務について設けない趣旨であるとすれば(産業組織課報告書28頁はそのように捉える。)、開示に関して現行の有限会社と同様の規制を考えているものと解される。
(4).業務執行者の第三者に対する責任
  さらに事後的な債権者保護規制として、業務執行者の第三者に対する責任について、株式会社の取締役の第三者に対する責任の規定(商法266条ノ3)と同様の規定を設けるものとする(第3部 第2の3(5))。
(5).社員の退社の際の持分の払戻しの在り方
  要綱試案は、社員の退社の際の持分の払戻しの在り方について、社員の退社による持分の払戻しについても、財源規制を適用し、払い戻すべき価額が会社に現に存する剰余金の額を超える場合には、債権者保護手続(資本減少の手続に相当するもの)を行うものとする案(a案)と、社員の退社による持分の払戻しについては、財源規制を適用せず(払い戻す価額は、会社の計算書類上の純資産額に拘束されない。)、退社に際して清算に準じた債権者保護手続を行うものとする(b案)を併記していた。これは、退社による払戻しを、株式会社における剰余金の分配と同様のものと位置付けるか(a案)、会社の部分的な清算と捉えて、計算書類上の純資産額とは関係なく、退社員に対しその持分に相応した払戻しを保障しようとするか(b案)の考え方の違いである。
  この点につき要綱案(第二次案)は、合同会社の社員が退社するときの持分の払戻しにつき財源規制を適用するとしつつも(第3部 第4の5(2)①)、退社による持分の払戻しは、当該払戻しに伴う欠損金を計上することとなるような払戻しも認め(第3部 第4の5(2)②)、その場合清算に準じた手続を経ることを要求する(第3部 第4の5(2)③)。これはb案的な処理といってよい。

4.合同会社の特徴

 要綱案(第二次案)上の合同会社の特徴は、①.法人格の付与、②.定款自治、③.パススルー等課税上の手当て、④.有限責任の4点にまとめることができる。順次みていこう。

1 法人格の付与
 アメリカにおけるLLCは法人格を有しているので、わが国における合同会社導入も「会社」である以上、当然に法人格を有する。要綱案(第二次案)は、「社員の有限責任が確保され、会社の内部関係については組合的規律(原則として全員一致で定款の変更その他の会社の在り方が決定され、社員自らが会社の業務の執行に当たるという規律)が適用される特徴を有する新たな会社類型(合同会社(仮称))を創設する」とうたっており(要綱案(第二次案)第3部 第1の1)、新たに創設される合同会社が法人格を有することは、当然の前提としている(ちなみに、産業組織課報告書も法人格の付与についてきわめて積極的である。)。

2 定款自治
 半導体業界などにおいて、合同会社を設立して、合弁事業として先端技術の開発をする際、一方の会社が特許を、他方の会社が研究開発設備を提供するとしたら、出資者間の権利義務関係について、出資割合と異なる設計にする必要がある。このため合同会社においては内部構造の柔軟性・定款自治が強く必要とされる。
 ただ、この点は必ずしも合同会社に固有の特徴というわけではない。もともと有限会社こそが「定款自治」を重視した企業設計の会社であったわけだし、近時は株式会社においても定款自治の範囲を拡大しようという考え方が有力であるからである。要綱案(第二次案)をみても、株式会社との違いは、会計監査人の設置が要求されうるかくらいのものである(合同会社においては、まったく会計監査人が要求されていない。)。
 それに、いくら定款自治が拡大されても、実務上定款になじまないものにつき、株主間契約を締結する実際上の必要がなくなるわけではない。
 おそらく、合同会社固有の特徴としては、定款自治の1コロラリーとして、機関を全く置かない制度設計も可能であるということであろう。アメリカでいうところのmember-managed LLCsに相当するものを認めようというのである。
 なお、定款自治を強調するとしても、機関設計を全て定款自治にゆだねることができるのかは、問題である。要綱案(第二次案)はこの点を配慮して、業務執行社員の対会社責任について、減免につき特別の規定を設けないとするとともに(第3部、第2の3(3)②)、業務執行社員につき、民法上の委任の規定に基づく善管注意義務及び忠実義務を負うものとしている(第3部、第2の3(3)①)。これは、業務執行社員の対会社責任を定款自治にゆだねることができるかどうか、理論的に問題となりうるため、意図的にぼかした書き方になっている。

3 パススルー等課税上の手当て
 合同会社を導入しようとするもっとも実践的な目的は、パススルー課税である。いわゆる日本版LLCの導入は実務界のかねてよりの要望であったが、その主要な目的はパススルー課税にある。
 たとえば、日本証券業協会政策委員会が平成14 年6月19日に公にした「今後の金融・証券税制のあり方について」と題する意見書に付随する「税制改革と金融・証券税制のあり方に関するレポート」と題するレポートにおいても、LLCに倣ったパススルー課税を導入することにより、法人税との二重課税の問題を緩和する方法も検討してはどうかとの意見があげられていた(http://www.jsda.or.jp/html/pdf/020621.pdf)。産業組織課報告書も、パススルー課税をいわゆる日本版LLCの特徴として考えている。
 ただ、匿名組合を用いたレバレッジド・リースなどの例を考えれば明らかなように、パススルー課税自体は、匿名組合、民法上の組合といった法人格のない事業形態を用いることで実現可能である。
 そうだとすると合同会社における「パススルー課税」とは、法人格を有する有限責任の企業体でありながらのパススルー課税の実現ということである。
 そもそも事業体に対する課税をどうするかは、すぐれて税法固有の問題であり、法人と構成員との二重課税とするかパススルーとするかは、会社法の問題ではない(現に、日本の有限会社は、アメリカではC corporationとされ、パススルーは認められていないが、その根拠規定は、IRCであって会社法ではない。)。従って、商法の改正を企図する要綱案(第二次案)では、パススルー課税については、何も触れられていない。
 現行税制上、パススルーの有無のメルクマールは法人格にあるとされているので、法人格のある企業体におけるパススルー課税は認められていない。従って、もしも合同会社においてパススルー課税が認められれば、この点が合同会社の最大の特徴ということになる。

4 有限責任
(1).有限責任の根拠
  一般に企業体において有限責任が認められる根拠については、大要次のようなことがあげられてきた。
  まず第1に、有限責任は会社と取引する相手方のモニタリングコストを削減する。
  第2に、株主は、他の株主についてもモニターする必要がなくなる。したがって、第3に、有限責任は株式譲渡の自由を実現する。前述のとおり有限責任は、調査コスト・取引コストを削減するので、買主は、売主の属性などを考慮することなく、株式を買い受けることができる。これにより、株式の市場価格を通じて取締役をコントロールすることが可能となる。
  第4に、有限責任は、ポートフォリオの分散化を促進する。有限責任会社への投資者は、自己のリスクを分散化により減少しようとするが、無限責任会社では、分散化はかえってリスクを増加させてしまうのである。投資家による分散化は、取締役が、投資者の全資産を危険にさらすことなく、リスクのある事業へ入っていくことを可能にする。これは資本の効率的な運用の実現となる。
(2).合同会社における有限責任の根拠
  以上のとおり、有限責任がその機能を最大限発揮するためには、前提として、所有と経営が分離し、かつ、株式が市場において公開されていなければならない。
  したがって、それらの条件を満たさない場合、すなわち所有と経営が一致し、株式が市場で公開されていないいわゆる小規模閉鎖会社において、有限責任を貫徹すべきかについては、これまで様々な議論がなされてきた。合同会社も、有限責任との文脈においては、後者の類型に属する。従って、合同会社につき、社員全員の有限責任制度(第3部 第2の2(4))を導入するためには、有限責任の根拠との関係が解明される必要がある。
  もっともラディカルな考え方としては、起業家のモチベーションを高め科学技術の発展に寄与するという有限責任の積極面を重視し、このこととの絡みで適宜弊害について、必要な限度で対処をしていけばよいと説くものがある。この見解の根本には、債権者保護規定は会社やその社員の自由の一部を奪うものにほかならないので、債権者保護が厚ければ厚いほど優れた会社法である、とはいえないとして、費用と便益とを比較して適度の保護が模索されなければならない、という発想がある。
  しかし、制度設計に当っては、性悪説的見地に立って議論をしていくべきであるし、そのような目から見る限り、小規模閉鎖会社(合同会社もその典型である。)においては、大規模公開会社における場合以上に、有限責任のメリットは少ない代わりに、その弊害は通常どおりであるといわざるを得ないであろう。以下の理由からである。
  第1に、これらの会社においては、所有と経営が一致しており、極端な場合、同一人物のこともある。従って、経営者に対するモニタリングコストを削減するという有限責任のメリットは、ここでは全く発揮されない。
  第2に、これらの会社においては、株主数が少ないので、株主はしばしば互いを監視できる地位にあることも、第1の理由を補強する。
  第3に、これらの会社においては、株式が市場性を有しないので、市場価格を通じての経営者のコントロールということは考えがたい。多くの場合、投資者と経営者は同一人物なのである。
  第4に、かかる会社においては株式の分散化も生じないので、分散化に関する上述のメリットもここでは発揮されない。
  第5に、もっとも重要なことは、かかる会社においては、有限責任による最適なリスク配分ができないということである。所有者かつ経営者の場合には、それ以外の場合に比し、不適切な事業に会社の全資産が投入されてしまう危険性が高く、その場合、有限責任によりリスクは分散化されるのではなく、他の誰か(=債権者)にそのまま転嫁されてしまう。銀行などの主要な債権者は、経営者個人の連帯保証を求めることで、転嫁されたリスクを再び所有者かつ経営者へと押し戻すことができるので問題ない。しかし、かかる交渉力のない少額債権者や不法行為債権者などの非自発的債権者にとっては、リスクに耐えうる能力がないにもかかわらず、リスクを転嫁されてしまうことになる。
(3).事後規制の果たす役割
  結局、合同会社導入の際には、有限責任によって倒産のリスクを転嫁される債権者(とりわけ小規模債権者や不法行為債権者のような非自発的債権者)の保護を欠かすわけにはいかない。
  今回の要綱案(第二次案)では、株式会社・有限会社における最低資本金制度が廃止されることとされていることとの関係上、合同会社においてはそもそも最低資本金制度は設けられないこととされている。
  したがって、合同会社における債権者保護規制としては、法人格否認の法理や取締役の対第三者責任(商266条ノ3第1項)といった事後規制によるしかない。これらの事後規制の果たす役割は、改正後においては従来にもまして重要になるといわなければならない。

5 有限会社と合同会社との違い
 結局、有限会社と合同会社との違いは、①.機関を全く置かない制度設計を許すことができるか否かということと、②.パススルー税制が認められるかの2点しかないのではないか。特に前者は、出資者が取締役となれば、少なくとも業務執行上は何ら問題ない。
 したがって、合同会社の最大のメリットは、パススルー課税にあることになる。せっかく合同会社を創設しても、パススルー課税が認められなければ、たんなる有限会社類似のものが1つ創設されたにすぎない。
 結局、税制の話を別にすれば、合同会社は有限会社のスクラップアンドビルドにすぎないという批判は、その限度では、かなりの的を射たものであることになる。

5.まとめに代えて

 以上見たとおり、合同会社の本質はパススルー課税に尽きる。うがった見方をすれば、現行有限会社におけるパススルーを課税当局は絶対に認めないであろうから、パススルー課税を実現するために、有限会社に代えて新たに会社を新設したにすぎない、ということもできよう。
 筆者としては、パススルー課税自体については反対ではないものの、①.かかる立法の仕方は課税により法の実体を歪めるものであること、②.債権者保護規制が極めて手薄であり、有限責任と債権者保護とのバランスがとれていないこと(もっとも合同会社に限らず、この点は要綱案(第二次案)全体に共通する問題であるが。)については、強く批判せざるを得ない。合同会社創設の暁には、適切な運用により制度の不備が補われることを期待するものである。
 最後にまとめに代えて、定款自治に関し一言述べておきたい。合同会社においては、今回定款自治が広く認められた株式会社よりも定款自治に任される余地が大きい。したがって、適切な定款のプランニングが必要不可欠になる。
 これまでの会社法は、ある程度不自由であった代わりに、事業者が弁護士を用いずに会社を比較的簡単に利用することが可能であった(いわばマクドナルド型またはプレタポルテ型)。それに対し今回の改正では、自由である代わりに、全部自分のリスクで制度設計をしなければならない(いわばアラカルト型またはオートクチュール型)。弁護士の役割は、これまで以上に大きなものとなろう。
 例えば、イギリス会社法では、定款自治を広く認める一方で、模範付随定款(Table Aという)について規定し、特に定款に別段の定めを置かない限り、模範付随定款の規定が、当該会社の定款の定めとして機能するというふうに仕組まれている。今後、このような何らかの実務上の工夫が必要なように思われる。

松嶋隆弘 (まつしまたかひろ)

 昭和43年生まれ。日本大学法学部および同大学院法学研究科博士前期課程修了後、司法修習(第48期)を経て現職。
 著書として、「ヴァーチャル株主総会の可能性について」取締役の法務88号(平成13年)80頁、「役員選任決議の繰り返しと先行決議の訴えの利益~瑕疵連鎖説を中心に~」中村一彦教授古稀記念『現代企業法の理論と課題』(平成14年、信山社)323頁、「遺言による企業承継に関する一考察~受遺者の選定の委任の活用~」商工金融52巻7号25頁、「企業承継の観点からみた相続させる遺言」判例タイムズ1113号(平成15年)33頁、「債務の株式化に関する一考察」酒巻俊雄教授古稀記念論文集『21世紀の企業法制』(平成15年、商事法務研究会)793頁等。
 なお、所属するあすか協和法律事務所の弁護士を中心とした平成14年改正商法の解説書として、坂田桂三・根田正樹・明石一秀編『改正商法の完全実務解説―14・15年改正と16年以降の改正動向』(財経詳報社)がある。


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