解説記事2005年04月25日 【ニュース特集】 のれんの一括償却は可能か!?(2005年4月25日号・№112)
企業結合会計基準の適用間近!
のれんの一括償却は可能か!?
平成18年4月1日以後開始する事業年度から適用される企業結合会計基準だが、現在、企業会計基準委員会では、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針などを策定中だ(夏頃公開草案を公表予定)。3月28日には、同適用指針に関する論点整理に対する意見募集を締め切っているが、寄せられたコメントには、のれんの一括償却に関するものなど注目すべきものが含まれている。今回の特集では、企業結合会計基準におけるのれんの概要のほか、上場会社におけるのれんの一括償却に関する現状をお伝えする。
企業結合会計基準ではのれんは20年以内で規則的に償却
商法において、平成9年の合併手続の簡素化、平成11年の株式交換・株式移転制度、平成12年の会社分割制度が導入されるなど、これにより大型合併や共同持株会社の設立が相次いでいるほか、企業買収も年々増加傾向となっている(表参照)。
M&A件数の推移

しかし、日本では、これらの企業結合時における会計処理は明確に定められていないのが現状であった。そこで、企業会計審議会は平成15年10月31日に、「企業結合に係る会計基準の意見書」を公表。平成18年4月1日以後開始事業年度から適用される。
この企業結合会計基準では、パーチェス法と持分プーリング法の2つの会計処理を示している。パーチェス法は被結合会社の資産と負債を公正価値で評価し、資本との差額をのれんとして計上する方法(次頁図参照)。また、持分プーリング法は被結合会社の資産、負債及び資本を帳簿価額のまま受け入れる方法。米国の会計基準ではすでにパーチェス法に一本化されているが、わが国ではパーチェス法を原則としつつも一定の要件の下、プーリング法も認めている点が特徴だ。具体的には、①結合の対価が議決権のある株式である、②結合後の議決権比率が50:50の上下概ね5パーセントポイント以内、③役員数など、②以外の支配関係を示す一定の事実がないといった3要件を満たした場合にのみ適用できる。このため、今後は、パーチェス法が主流になると予想されている。
企業結合の会計処理

パーチェス法が適用される場合にクローズアップされるのが、「のれん」の取扱いだ。のれんとは、被取得企業(又は取得した事業)の取得原価が、取得した資産(又は引受けた負債)に配分された純額を上回る場合の超過した額をいう(下回る場合は負ののれん)。企業結合会計基準によると、のれんについては、「20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。ただし、のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができる。」(企業結合会計基準三2(4))とされている。
現行、個別財務諸表では、商法の規定に基づき、のれん(営業権)は5年以内の均等額以上の償却をすることになっているが、連結財務諸表における連結調整勘定は、20年以内の償却とされている。このため、のれんの償却期間については、連結調整勘定に合わせることにしたもの。また、今後、会社法上も、会計基準に合わせ、省令において20年以内の償却とする改正が行われることになる模様だ。
適用指針の検討状況の整理では全額費用処理は不可
企業結合会計基準を受け、企業会計基準委員会(ASB)では、企業結合専門委員会を設置し、1月28日に「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針の検討状況の整理」を公表。3月28日までコメントを募集していた。
この適用指針の検討状況の整理(第92項)では、のれんの会計処理の留意点として、「のれんの償却期間は投資の実態を適切に反映する」、「のれんを企業結合日に全額費用処理することはできない」といった点が明記されている(下記参照)。
MEMO
① のれんの償却期間は、投資の実態を適切に反映
② のれんを企業結合日に全額費用処理することはできない
③ のれんの償却費は販売費及び一般管理費に計上し、減損処理以外の事由でのれんの償却費を特別損失に計上することはできない(④の場合を除く)
④ 重要性が乏しいため、のれんが生じた事業年度の費用として処理する場合の当該費用の表示区分は販売費及び一般管理費とする
⑤ 関連会社と企業結合したことにより発生したのれんは、日本公認会計士協会の会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」第36項に準じ、持分法による投資評価額に含まれていた連結調整勘定相当額の未償却部分と区別せず、企業結合日から新たな償却期間にわたり償却する
⑥ のれんの償却期間及び償却方法は、企業結合ごとに取得企業が決定
会計士協会はのれんの全額費用処理の禁止に賛成意見
日本公認会計士協会は適用指針の検討状況の整理に対して、のれんを企業結合日に全額費用処理することはできないとする案について賛成意見を提出している。
また、のれんの償却期間を短期間(例えば、1年以内など)とする場合には、合理的な理由が必要である旨を明示すべきであるとしている。理由としては、等価交換である限り資産(事業)の取得時に費用処理を行うことはありえず、また、償却期間を短期間とすることは、特殊な事例であり、稀にしか生じないことと考えられるため、取得に当たり予測した投資回収期間が償却期間に見合った短期間であることなど、合理的な理由がなければ認めるべきではないとしている。
国際的な流れに合わず~楽天
一方、楽天株式会社では、のれんの規則的償却について、コメントを寄せている。のれんについては、米国会計基準及び国際会計基準が非償却資産とする旨を明確にしている中、わが国の会計基準がのれんを償却資産とする旨を明確にしていることは、会計基準の国際的なコンバージェンスの観点から望ましくないとコメント。わが国企業によるM&Aの実施を著しく阻害する要因となりかねず、わが国企業の国際競争力強化への妨げにもなりかねないとしている。
のれんを20年以内で規則的に償却する点については、適用指針での検討項目ではなく、すでに前述した企業会計審議会での企業結合会計基準で定めている話だ。
このため、楽天でも、今回の適用指針の検討状況の整理でのコメント募集の範疇を超えるものであるが、その重要性に鑑み、早急な再検討が必要であると主張している。
4月11日に開催された企業会計基準委員会の企業結合・事業分離専門委員会では、こののれんの規則的償却については、企業結合会計基準に関するものであり、検討の対象外とする旨を明らかにしている。
しかし、楽天が提出したコメントは、同社の三木谷社長が自民党の金融調査会・企業会計に関する小委員会合同会議などにおいて、のれんに関する意見陳述を行っているものと同じものであるため、最終的には企業会計基準委員会で何らかの結論を出さなければならないだろうとの認識を示している。場合によっては、参考人として楽天を呼び、意見を述べてもらうことも考えているようだ。
のれんの会計処理

※平成18年4月1日以後開始事業年度から適用
のれんの償却期間の測定は困難~楽天
さらに楽天では、仮にのれんを償却資産とする場合であっても、一括償却の適用の可能性は排除すべきではないとコメントしている。個々ののれんの償却期間を合理的に測定することは、机上の理論としては可能であっても、現実的には極めて困難であると主張。企業結合会計基準でものれんの効果の及ぶ期間をどのように合理的に測定あるいは設定するかについては、何ら言及していないと指摘している。
また、のれんの償却費を画一的に販売費及び一般管理費とするのではなく、一括償却も含め償却期間を短期とする場合には、特別損失とすることも認めるべきとしている。のれんの償却費をすべて販売費及び一般管理費とした場合には、のれんの認識金額の大きさや償却期間の設定によって、企業結合後の毎期の損益計算書上の営業損益又は経常損益に大きな影響を及ぼすこととなり、財務諸表の利用者に企業結合後の経営実態について、誤解を生じさせる懸念があるとしている。
この点について、4月11日に開催された企業会計基準委員会の企業結合・事業分離専門委員会では、企業結合会計基準の解釈として、楽天のコメントのような取扱いができるかどうかを検討するとしている。
有価証券報告書での開示も問題
本誌が平成16年4月から17年3月末までに提出された上場会社の有価証券報告書を調べたところでは、楽天以外にも、のれん(又は連結調整勘定)の効果の発現期間を合理的に見積もることが困難であるなどの理由により、一括償却したことを開示する企業がいくつか見受けられる(次頁参照)。
例えば、インデックス、パソナ、ファーストリテイリング、グリーンクロス・コア、ベルパーク、エリアリンク、中国電力、前澤給装工業、キヤノン販売である。なお、ライブドアに関しては、従来、営業権を一括償却していたが、平成15年9月期において、5年間での均等償却とすることに会計方針を変更している。
また、アークスについては、財務体質の健全化のため、5年間の均等償却から一括償却に、カネボウは、新たに子会社となった国内連結子会社については、「構造改善のための費用」という不明瞭な理由付けのもと一時償却を行っている。
これら以外についても、金額の重要性が乏しいために一括償却する企業を除き、のれんを一括償却する旨を開示するのみで理由を付記していない企業も多数見受けられるのが現状となっている。
確かに、のれんの一括償却は「5年以内の均等額以上の償却」という商法施行規則に反するものではない。また、すくなくとも新会計基準が適用されるまでは、投資効果が不明確なものがオンバランスされているよりは、一括償却した方が保守主義の観点から望ましいということも考えられる。しかし、保守主義は積極的な理由付けにはなり得ないし、第一、投資効果がある旨の資料を基に取締役会等で決議をしたにも関わらず、実際には、『効果の発現期間を合理的に見積もることが困難であるから一括償却』することの不合理さをぬぐうことは困難といえよう。
こののれんの一括償却に関し、日本公認会計士協会の幹部の一人は、個人的な意見として、あくまでも当該会社と会計士との問題であるとしながらも、「投資効果が分からないものに投資するのはおかしいのではないか」とし、「株主に対する経営者の説明責任をきちんと行っているのかどうか」との疑問を呈している。
前述したとおり、日本公認会計士協会は、「のれんの一括償却は容認できない」というスタンスだ。ただ、あくまでものれんの償却に関しては、会計基準の話であり、現時点において、のれんの償却に関する監査上の取扱いなどを具体的に考えているわけではないとしている。
のれんを一括償却した場合には、長期間にわたり償却を続ける場合と比べ企業の利益が大きく変動することになる。一括償却を行う企業サイドとしては、V字回復を演出できるといった動機もあるかもしれない。いずれにしても、今後の企業会計基準委員会での検討が注目されるところだ。
また、企業結合会計基準では、のれんの金額、発生原因、償却方法、償却期間を注記することになっている。このため、前述したように有価証券報告書での開示面の問題も課題として残されている。
MEMO
のれんの注記
①のれんの金額
②発生原因
③償却方法
④償却期間
のれん(連結調整勘定)の会計処理の注記例(編注:50音順)
のれんの一括償却は可能か!?
平成18年4月1日以後開始する事業年度から適用される企業結合会計基準だが、現在、企業会計基準委員会では、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針などを策定中だ(夏頃公開草案を公表予定)。3月28日には、同適用指針に関する論点整理に対する意見募集を締め切っているが、寄せられたコメントには、のれんの一括償却に関するものなど注目すべきものが含まれている。今回の特集では、企業結合会計基準におけるのれんの概要のほか、上場会社におけるのれんの一括償却に関する現状をお伝えする。
企業結合会計基準ではのれんは20年以内で規則的に償却
商法において、平成9年の合併手続の簡素化、平成11年の株式交換・株式移転制度、平成12年の会社分割制度が導入されるなど、これにより大型合併や共同持株会社の設立が相次いでいるほか、企業買収も年々増加傾向となっている(表参照)。
M&A件数の推移

しかし、日本では、これらの企業結合時における会計処理は明確に定められていないのが現状であった。そこで、企業会計審議会は平成15年10月31日に、「企業結合に係る会計基準の意見書」を公表。平成18年4月1日以後開始事業年度から適用される。
この企業結合会計基準では、パーチェス法と持分プーリング法の2つの会計処理を示している。パーチェス法は被結合会社の資産と負債を公正価値で評価し、資本との差額をのれんとして計上する方法(次頁図参照)。また、持分プーリング法は被結合会社の資産、負債及び資本を帳簿価額のまま受け入れる方法。米国の会計基準ではすでにパーチェス法に一本化されているが、わが国ではパーチェス法を原則としつつも一定の要件の下、プーリング法も認めている点が特徴だ。具体的には、①結合の対価が議決権のある株式である、②結合後の議決権比率が50:50の上下概ね5パーセントポイント以内、③役員数など、②以外の支配関係を示す一定の事実がないといった3要件を満たした場合にのみ適用できる。このため、今後は、パーチェス法が主流になると予想されている。
企業結合の会計処理

パーチェス法が適用される場合にクローズアップされるのが、「のれん」の取扱いだ。のれんとは、被取得企業(又は取得した事業)の取得原価が、取得した資産(又は引受けた負債)に配分された純額を上回る場合の超過した額をいう(下回る場合は負ののれん)。企業結合会計基準によると、のれんについては、「20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。ただし、のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができる。」(企業結合会計基準三2(4))とされている。
現行、個別財務諸表では、商法の規定に基づき、のれん(営業権)は5年以内の均等額以上の償却をすることになっているが、連結財務諸表における連結調整勘定は、20年以内の償却とされている。このため、のれんの償却期間については、連結調整勘定に合わせることにしたもの。また、今後、会社法上も、会計基準に合わせ、省令において20年以内の償却とする改正が行われることになる模様だ。
適用指針の検討状況の整理では全額費用処理は不可
企業結合会計基準を受け、企業会計基準委員会(ASB)では、企業結合専門委員会を設置し、1月28日に「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針の検討状況の整理」を公表。3月28日までコメントを募集していた。
この適用指針の検討状況の整理(第92項)では、のれんの会計処理の留意点として、「のれんの償却期間は投資の実態を適切に反映する」、「のれんを企業結合日に全額費用処理することはできない」といった点が明記されている(下記参照)。
MEMO
① のれんの償却期間は、投資の実態を適切に反映
② のれんを企業結合日に全額費用処理することはできない
③ のれんの償却費は販売費及び一般管理費に計上し、減損処理以外の事由でのれんの償却費を特別損失に計上することはできない(④の場合を除く)
④ 重要性が乏しいため、のれんが生じた事業年度の費用として処理する場合の当該費用の表示区分は販売費及び一般管理費とする
⑤ 関連会社と企業結合したことにより発生したのれんは、日本公認会計士協会の会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」第36項に準じ、持分法による投資評価額に含まれていた連結調整勘定相当額の未償却部分と区別せず、企業結合日から新たな償却期間にわたり償却する
⑥ のれんの償却期間及び償却方法は、企業結合ごとに取得企業が決定
会計士協会はのれんの全額費用処理の禁止に賛成意見
日本公認会計士協会は適用指針の検討状況の整理に対して、のれんを企業結合日に全額費用処理することはできないとする案について賛成意見を提出している。
また、のれんの償却期間を短期間(例えば、1年以内など)とする場合には、合理的な理由が必要である旨を明示すべきであるとしている。理由としては、等価交換である限り資産(事業)の取得時に費用処理を行うことはありえず、また、償却期間を短期間とすることは、特殊な事例であり、稀にしか生じないことと考えられるため、取得に当たり予測した投資回収期間が償却期間に見合った短期間であることなど、合理的な理由がなければ認めるべきではないとしている。
国際的な流れに合わず~楽天
一方、楽天株式会社では、のれんの規則的償却について、コメントを寄せている。のれんについては、米国会計基準及び国際会計基準が非償却資産とする旨を明確にしている中、わが国の会計基準がのれんを償却資産とする旨を明確にしていることは、会計基準の国際的なコンバージェンスの観点から望ましくないとコメント。わが国企業によるM&Aの実施を著しく阻害する要因となりかねず、わが国企業の国際競争力強化への妨げにもなりかねないとしている。
のれんを20年以内で規則的に償却する点については、適用指針での検討項目ではなく、すでに前述した企業会計審議会での企業結合会計基準で定めている話だ。
このため、楽天でも、今回の適用指針の検討状況の整理でのコメント募集の範疇を超えるものであるが、その重要性に鑑み、早急な再検討が必要であると主張している。
4月11日に開催された企業会計基準委員会の企業結合・事業分離専門委員会では、こののれんの規則的償却については、企業結合会計基準に関するものであり、検討の対象外とする旨を明らかにしている。
しかし、楽天が提出したコメントは、同社の三木谷社長が自民党の金融調査会・企業会計に関する小委員会合同会議などにおいて、のれんに関する意見陳述を行っているものと同じものであるため、最終的には企業会計基準委員会で何らかの結論を出さなければならないだろうとの認識を示している。場合によっては、参考人として楽天を呼び、意見を述べてもらうことも考えているようだ。
のれんの会計処理

※平成18年4月1日以後開始事業年度から適用
のれんの償却期間の測定は困難~楽天
さらに楽天では、仮にのれんを償却資産とする場合であっても、一括償却の適用の可能性は排除すべきではないとコメントしている。個々ののれんの償却期間を合理的に測定することは、机上の理論としては可能であっても、現実的には極めて困難であると主張。企業結合会計基準でものれんの効果の及ぶ期間をどのように合理的に測定あるいは設定するかについては、何ら言及していないと指摘している。
また、のれんの償却費を画一的に販売費及び一般管理費とするのではなく、一括償却も含め償却期間を短期とする場合には、特別損失とすることも認めるべきとしている。のれんの償却費をすべて販売費及び一般管理費とした場合には、のれんの認識金額の大きさや償却期間の設定によって、企業結合後の毎期の損益計算書上の営業損益又は経常損益に大きな影響を及ぼすこととなり、財務諸表の利用者に企業結合後の経営実態について、誤解を生じさせる懸念があるとしている。
この点について、4月11日に開催された企業会計基準委員会の企業結合・事業分離専門委員会では、企業結合会計基準の解釈として、楽天のコメントのような取扱いができるかどうかを検討するとしている。
有価証券報告書での開示も問題
本誌が平成16年4月から17年3月末までに提出された上場会社の有価証券報告書を調べたところでは、楽天以外にも、のれん(又は連結調整勘定)の効果の発現期間を合理的に見積もることが困難であるなどの理由により、一括償却したことを開示する企業がいくつか見受けられる(次頁参照)。
例えば、インデックス、パソナ、ファーストリテイリング、グリーンクロス・コア、ベルパーク、エリアリンク、中国電力、前澤給装工業、キヤノン販売である。なお、ライブドアに関しては、従来、営業権を一括償却していたが、平成15年9月期において、5年間での均等償却とすることに会計方針を変更している。
また、アークスについては、財務体質の健全化のため、5年間の均等償却から一括償却に、カネボウは、新たに子会社となった国内連結子会社については、「構造改善のための費用」という不明瞭な理由付けのもと一時償却を行っている。
これら以外についても、金額の重要性が乏しいために一括償却する企業を除き、のれんを一括償却する旨を開示するのみで理由を付記していない企業も多数見受けられるのが現状となっている。
確かに、のれんの一括償却は「5年以内の均等額以上の償却」という商法施行規則に反するものではない。また、すくなくとも新会計基準が適用されるまでは、投資効果が不明確なものがオンバランスされているよりは、一括償却した方が保守主義の観点から望ましいということも考えられる。しかし、保守主義は積極的な理由付けにはなり得ないし、第一、投資効果がある旨の資料を基に取締役会等で決議をしたにも関わらず、実際には、『効果の発現期間を合理的に見積もることが困難であるから一括償却』することの不合理さをぬぐうことは困難といえよう。
こののれんの一括償却に関し、日本公認会計士協会の幹部の一人は、個人的な意見として、あくまでも当該会社と会計士との問題であるとしながらも、「投資効果が分からないものに投資するのはおかしいのではないか」とし、「株主に対する経営者の説明責任をきちんと行っているのかどうか」との疑問を呈している。
前述したとおり、日本公認会計士協会は、「のれんの一括償却は容認できない」というスタンスだ。ただ、あくまでものれんの償却に関しては、会計基準の話であり、現時点において、のれんの償却に関する監査上の取扱いなどを具体的に考えているわけではないとしている。
のれんを一括償却した場合には、長期間にわたり償却を続ける場合と比べ企業の利益が大きく変動することになる。一括償却を行う企業サイドとしては、V字回復を演出できるといった動機もあるかもしれない。いずれにしても、今後の企業会計基準委員会での検討が注目されるところだ。
また、企業結合会計基準では、のれんの金額、発生原因、償却方法、償却期間を注記することになっている。このため、前述したように有価証券報告書での開示面の問題も課題として残されている。
MEMO
のれんの注記
①のれんの金額
②発生原因
③償却方法
④償却期間
のれん(連結調整勘定)の会計処理の注記例(編注:50音順)
会社名 (括弧内は監査法人名) | 注記内容(一部抜粋) |
アークス (新日本監査法人) | 従来、営業権については商法の規定に基づき5年間の均等償却を実施しておりましたが、当連結会計年度より営業権取得時に全額費用処理する方法に変更いたしました。 この変更は、平成14年11月のアークスグループ形成、更には今後のアークスグループとしての事業活動の拡大に伴い、他の大手流通グループ等との競争が益々激しくなることが予想されることから、アークスグループにおいてもグループの財務体質のより一層の健全化並びに強化が急務となったことによるものです。 このような状況下において、従来営業基盤のなかった道南の中心地区で(株)道南ラルズ(旧(株)北海道流通企画)が、函館地区を中心に事業を展開していた、(株)ユニークショップつしまから、平成15年12月にアークスグループ発足後初めて営業の譲受を受け、800,000千円の営業権を取得いたしました。これを契機に、平成16年2月16日開催の取締役会にて財務体質のより一層の健全化並びに強化の方針が決議され、営業権の資産計上を廃止しております。 この変更により、従来の方法に比べ営業利益及び経常利益は165,665千円、特別損失815,302千円それぞれ増加し、税金等調整前当期純利益は649,636千円少なく計上されております。 この会計処理の方法の変更が下期に行われたため、当中間連結会計年度においては従来の処理方法によっております。当中間連結会計年度において、年度末と同様の方法によった場合、当中間連結会計期間の営業利益及び経常利益は16,710千円、特別損失が32,012千円それぞれ増加し、税金等調整前当期純利益は15,302千円少なく計上されることとなります。(※平成16年2月期) |
インデックス (明和監査法人) | 連結調整勘定の償却については、投資効果の発現すると見積もられる期間で償却しております。但し、金額が少額の場合は、発生年度で全額償却しております。 なお、発生額のうち効果の発現する期間を合理的に見積もることが困難なものについては、一括償却を行い、特別損失に計上しております。 当社では、当期において国内をはじめ米国及び欧州での企業の買収を行いましたが、企業買収方法の多様化・複雑化等に伴い、連結調整勘定の発生原因も複雑化しております。また、当社の事業環境は、急速な技術革新や競争激化が進行しており、その効果の発現期間を合理的に見積もることが非常に困難になっております。このような状況を鑑みた結果、当連結会計年度より上記の償却を行っております。(※平成16年8月期) |
エリアリンク (優成監査法人) | 第8期(平成14年12月期)において、取得した営業権については一括償却しておりましたが、当事業年度において取得した営業権については、その効果の発現期間を合理的に見積もることが可能であり、かつ、金額的にも重要であることから、期間損益計算の適正化を図ることを目的として、投資の効果が及ぶ期間(5年)で均等償却することに致しました。 その結果、一括償却した場合と比べ、営業利益、経常利益及び税引前当期純利益は、57,302千円多く計上されております。 なお、未償却残高は無形固定資産として計上されております。(※平成16年12月期) |
カネボウ (中央青山監査法人) | 連結調整勘定の償却については、その個別案件ごとに判断し、当期に株式を追加取得した海外子会社については20年以内の合理的な年数で均等償却を行っている。また、当期新たに子会社となった国内連結子会社については、構造改善のための費用として一時償却を行っている。(※平成16年3月期) |
キヤノン販売 (新日本監査法人) | 連結調整勘定の償却については、原則として発生日以降その効果が発現すると見積もられる期間(5年間)で均等償却しております。 なお、借方発生額のうちその効果の発現する期間を合理的に見積もることが困難なものについては、発生時に一括償却しております。(※平成16年12月期) |
グリーンクロス・コア (中央青山監査法人) | 当連結会計年度についての営業権は、その効果の発現する期間を合理的に見積もることが困難であるため、発生時に一括償却しております。(※平成16年8月期) |
中国電力 (あずさ監査法人) | 連結調整勘定の償却は、5年間で均等償却している。 なお、中国通信ネットワーク(株)の株式取得にかかる連結調整勘定については、競争激化の著しい情報通信市場環境において、その効果の発現期間を合理的に見積もることが困難であり、財務の健全性の観点から当連結会計年度に一括償却を行い、特別損失として計上している。(※平成15年3月期) |
パソナ (中央青山監査法人) | 連結調整勘定の償却については5年間の均等償却を行っております。連結調整勘定の金額が僅少なものについては発生時に一括償却をしております。 但し、株式会社コン・ビの株式取得に係る連結調整勘定の償却については、人材派遣業界における当該子会社の営業上の優位性たる超過収益力の効果が発現する期間を合理的に見積もることが困難であり、当該子会社の実態を適切に反映させるために発生時に一括償却し、特別損失としております。(※平成15年5月期) |
ファーストリテイリング (新日本監査法人) | 連結調整勘定は、アパレル業界の特性により流行に左右されやすく、イメージ・ブランドが企業の価値の大きな比重を占める傾向にあるため、その効果の発現する期間を合理的に算定することが極めて困難であり、発生時に一括償却しております。 持分法の適用にあたり発生した投資差額につきましても、連結調整勘定の償却と同様、発生時に一括償却しております。(※平成16年8月期) |
ベルパーク (中央青山監査法人) | 当連結会計年度に取得したものに関しては、一括償却しております。 当社の属する携帯電話関連業界については、競争激化に伴い経営環境に不確実性が増しており、被買収企業が営む事業等の効果の発現期間を合理的に見積もることは困難となっております。従って、当連結会計年度の発生額については、発生時に一括償却し、特別損失として計上しております。(※平成16年12月期) |
前澤給装工業 (あずさ監査法人) | 藤伸商事株式会社について発生した連結調整勘定は、その効果の発現する期間が短期であるが、合理的に見積もることが困難であるため、保守主義の見地から、発生時に一括償却をしております。(※平成15年3月期) |
ライブドア (港陽監査法人) | 営業権については、投資の効果が及ぶ期間(5年)で均等償却しております。 (会計方針の変更) 従来、営業権は発生時に特別損失として全額費用処理しておりましたが、当期において取得した営業権の金額が多額になり金額的重要性が増加したため、期間損益計算の適正化を図ることを目的として、投資の効果が及ぶ期間(5年)で販売費及び一般管理費として均等償却する方法に変更いたしました。 この変更により従来の方法と比べ、税金等調整前当期純利益は1,224,316千円多く計上されており、営業利益、経常利益は149,155千円少なく計上されております。 なお、未償却残高は、無形固定資産の「営業権」として独立掲記しております。 (※平成15年9月期) |
楽天 (新日本監査法人) | 営業権については、その効果の発現する期間を合理的に見積もることが困難であるため、発生時に一括償却しております。(※平成15年12月期) |
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