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解説記事2005年05月09日 【ニュース特集】 「共同事業性の確保」と「柔軟な損益分配」がキーポイント(2005年5月9日号・№113)

ニュース特集
日本版LLP(有限責任事業組合)って何だ?
「共同事業性の確保」と「柔軟な損益分配」がキーポイント

 有限責任事業組合契約に関する法律案(以下「LLP法」という。)は、4月14日に衆議院本会議で可決され、参議院での審議を経て成立が見込まれています。①有限責任制、②内部自治原則、③構成員課税という3つの特徴を有する新たなタイプの事業体の創設に期待が集まっていますが、新制度であるがための不透明感は拭えません。日本版LLPがどのように機能していくかについては、日本版LLP制度の創設理念を支える「共同事業性の確保」と課税上の運用が不透明な「柔軟な損益分配」の取り扱いの明確化がどのように図られるかにかかっています。(LLP法は4月27日の参議院本会議で可決成立しました。)

1.日本版LLP制度の骨格

 個人又は法人が共同して行う事業の健全な発展を図ることが我が国の経済活力を向上する上で重要であることにかんがみ、組合員の責任の限度を出資の価額とする新たな組合契約に関する制度を創設し、組合員の有限責任の担保、これに伴う公示制度の整備及び組合の事業に係る情報開示の充実等の措置を講ずる必要がある。

 政府はLLP法の提案理由を上記のように明らかにしています。
 法案の提案理由には全く記述されていませんが、LLP制度の創設理由は、「構成員課税(パススルー課税)」が適用される有限責任制のある事業体制度の創設であることはこれまでの経過や国会審議においても明らかにされています。上記の提案理由だけであれば、新しく検討されている会社法に規
定される合同会社(日本版LLC)で十分です。この点について、国会審議で政府参考人は次のように答弁しています。日本版LLPは、民法上の組合の特例として、構成員課税が政府内でも認められているようです。
また、現在国会で審議されている会社法及びLLP法の規定から会社(事業体)の特徴は、次頁の表のようになります。


(「LLCとLLPの2種類の制度を並行に立ち上げていくことについて、LLPに法人格を持たせればそれで済むのではないか」という質問に対して)
(答弁)
 LLPに法人格があれば不便がないという御指摘ですが、実は、日本では、このLLPとLLCを分担のようにいたしましたのは、税制上の取り扱いです。
 日本では法人格があれば原則法人課税というのが大原則です。法務省で検討中、審議いただきますLLCの方については税制上の扱いが決まっておりません。施行が来年ですので決まっていませんが、法人格がある以上はなかなか構成員課税というのは難しいんじゃないかなと考えています。
 私どもは、ベンチャー、中小企業が構成員課税という税制上のメリットが使える新しい事業形態をつくるということをまず最優先いたしましたものですから、LLPにつきましては、法人格がない、しかしながら構成員課税ができる。(以下略)



2.共同事業性の確保

 有限責任事業組合制度に関する研究会の中間取りまとめである「有限責任事業組合制度の創設の提案」(以下「提案」という。)は、次のように「共同事業性の確保」について記述しています。
 日本版LLPは民法組合制度の特例として位置付けられていますが、「(民法上の)組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することで効力が発生する(民法667条①)と規定されています。民法組合自体が共同事業を営むための契約であるため、提案が日本版LLPで強調する「共同事業性の確保」は、(注2)にあるように、租税回避行為の主体となるビークルになることを回避するために、投資だけを行う出資者を認めないことに主眼があると思われます。
 「共同事業性の確保」では、「全出資者が何らかの業務執行に参加すること」とされています。しかし、業務執行への参加については様々な形態が考えられます。業務執行への参加として認められる場合、業務執行への参加として認められない場合の例示等が求められます。
 これまで経営陣への報酬の支払が制限される事業体(社会福祉法人など)では、実質的に事業体の経営に従事する者に対する報酬の支払を適正化させるため、事業体の業務執行(経営)に参加しようとする者が役員(理事など)とはならずに、外部から参画して報酬・手数料の支払を事業体から受けるような事例も見受けられました。
 LLPの場合には、LLPから組合員への報酬の支払について、法的な取り扱いが明らかにされておらず(次頁「りんご生産組合事件」参照)、外部への経営委託など「共同事業性の確保」の趣旨から逸脱した運用も懸念されます。LLPに求められる「共同事業性の確保」の内容を具体的に明示しておくことが望まれます。

共同事業性の確保
 債権者保護の観点と構成員課税の適用の観点から、LLPの共同事業性の確保を図る。
 重要な意思決定(注1)については、LLP契約発効の要件として契約書への署名を義務付けることなどにより、全員一致による。また、全出資者が何らかの業務執行に参加することとするとともに、その際、参加の形態は出資者の能力に応じて分担することもできることとする(注2)。なお、LLPの共同事業性を満たさない場合は民法組合として扱われる。
(注1)重要な意思決定とは、組合の名称、事業内容、存続期間、組合員の加入、持分譲渡、多額の借財、重要な財産の処分など。
(注2)単にLLP事業に投資だけ行う出資者は認められないと考える(出資のみならず経営に参加して、業務執行を行う、いわゆるハンズオン型の出資はできる)。なお、LLPでは、個人又は法人が組合員となることとする。このため、民法組合はLLPの組合員になることはできず、民法組合の組合員が組合員の資格としてLLPの組合員になることはできない。


3.柔軟な損益分配

柔軟な損益分配
 損益分配については、原則出資比率に応じて行うものの、LLP法に基づき書面による特別な定めなどを行えば、労務や知的財産、ノウハウの提供などを勘案して、出資比率と異なる損益分配ができ、それが税務上も合理的な範囲内であれば認められるべきである。
(注)現物出資の課税の取り扱い
  現物出資に関しては、原則として組合員間で譲渡が行われることから譲渡益課税の対象となるが、現物出資時の課税の繰り延べについては、将来の実ニーズ及び個別の事情に応じて対応すべきと考える。


 提案は、上記のように「柔軟な損益分配」について記述しています。
 「柔軟な損益分配」の意図するところ、あるいは、「柔軟な損益分配」を行ったことで生じる寄附金やみなし贈与といった課税上の問題がどのように運用されるかについては、現時点で全く明らかにされていません。
 「柔軟な損益分配」は、「構成員課税」とともに、課税上の問題を生ずるため、LLPの主務官庁である経済産業省は、財務省・国税庁との協議を行って、課税上の取り扱いを明らかにすることと思われます。具体的には、以下のような具体的な問題が提起されることになります。
・出資比率と異なる分配についての税務上の合理的な範囲
・利益と損失の分配割合が異なる合意の可否
・LLPと組合員間の取引(業務執行報酬を含む)は可能か?
・LLPと組合員間の取引(業務執行報酬を含む)における個人組合員の所得区分
・柔軟な損益分配と、種類株式(配当優先株式など)は、寄附金・みなし贈与の適用において同様の取り扱いとなるのか

 LLPが活用されるに当たっては、上記のような課税上の課題に、指針を明示しておくことが望まれます。

柔軟な損益分配(出資比率と異なる分配)の例


COLUMN
りんご生産組合事件とLLPに関する課税上の問題
 民法上の組合(りんご生産組合)が組合員に対して支払った給与の「所得区分」が最高裁で争われ、「組合員である専従者の労務の提供も、一般作業員のそれと同様のものと扱われたと評価することができる」として「給与所得」と判断されました(平成13.7.13第二小法廷判決)。日本版LLPは、民法上の組合の特例ですから、特別な規定が設けられなければ、上記の最高裁判決の射程にあるとも考えられますが、労務の提供の形態が多様であるため、最高裁判決の射程が判明していない状況です。
 組合員に対する給与は、組合内部の損益分配として課税することになるのか、外部取引とするのか、外部取引にすることによる所得区分の変換(りんご生産組合事件では事業所得⇒給与所得)は認められるのか、日本版LLPの普及には明らかにしておきたい難問の解決が残されています。


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