資料2005年07月30日 【新制度関連資料】 有限責任事業組合(LLP)制度の創設について
有限責任事業組合(LLP)制度の創設について
平成17年7月
経済産業政策局産業組織課
経済産業省では、創業を促し、企業同士のジョイント・ベンチャーや専門的な能力を持つ人材の共同事業を振興するために、民法組合の特例として、1,出資者全員の有限責任、2,内部自治の徹底、3,構成員課税の適用という特徴を併せ持つ有限責任事業組合(LLP)制度を創設し、8月1日から施行します。LLP制度の関連資料を掲載しますのでご参照ください。
【公表資料】
<制度の概要>
1.有限責任事業組合契約に関する法律について(概要)
―共同事業のための新しい組織、LLP制度の創設―
2.有限責任事業組合制度(LLP)の創設について
3.LLPに関する40の質問と40の答え(FAQ)
<法令>
1.有限責任事業組合契約に関する法律について
(要綱・条文・理由・新旧対照条文・参照条文)
2.有限責任事業組合契約に関する法律施行令について
3.有限責任事業組合契約に関する法律施行規則について
<参考>
「有限責任事業組合制度の創設の提案」
(日本版LLP研究会 中間とりまとめ)
有限責任事業組合制度の創設の提案
(中間とりまとめ)
平成16年12月17日
有限責任事業組合制度に関する研究会
海外では、企業同士のジョイント・ベンチャーや専門人材の共同事業を振興するため、LLP(Limited Liability Partnership)やLLC(Limited Liability Company)という新たな事業体制度が整備されている。
これらの事業体は、出資者が出資額までしか事業上の責任を負わず(有限責任制)、出資者が自ら経営を行うので組織内部の取り決めは自由に決めることができる(内部自治原則)。さらに税制面では、LLCやLLPには課税されずに、その出資者に直接課税される(構成員課税制度)ため、LLCやLLP段階で法人課税が課された上に、出資者への配当に課税されることを回避できるメリットがある。
こうした効果により、海外のLLCやLLPは活発に活用されている。米国のLLCは最近10年間で80万社、英国のLLPは制度創設後約3年間で1万社にのぼる利用が報告されている。また、シンガポールでも来年早期の成立を目指して、現在、LLP法案の国会審議が行われている。
【米国のLLC(有限責任会社)】
・ここ10年間で80万のLLCが誕生。
・IBMとインテルなどの共同研究開発ジョイント・ベンチャー、ファンド会社などの金融産業、ソフトウエアやコンテンツ開発などのIT産業での活用が盛ん。
【英国のLLP(有限責任組合)】
・2000年に創設し、1万を超えるLLPが誕生。
・KPMGなどの大手会計事務所、法律事務所、デザイン事務所、IT産業などでの活用が始まっている。
【シンガポールのLLP(有限責任組合)】
・創業や高度サービス産業の振興のためにLLP制度の創設を検討。
・米国や英国の制度を検討し、現在、国会にて審議中。2005年早期の成立を目指している。
ところが、我が国においては、こうした3つの特徴を兼ね備えた事業体は存在しない。
例えば、我が国では、株式会社を活用して共同事業(合弁事業など)を行うことが通例であるが、この場合、出資者は有限責任だが、出資金額の多寡に応じた利益や権限の配分しかできず、税制面では二重課税の調整があるとはいえ、法人課税が課された上に出資者への配当に課税される(法人段階での損失が発生した場合に、出資者の他の所得との通算もできない)。
映画製作委員会や建設共同事業体(ジョイント・ベンチャー)の例に見られるように、共同事業を民法組合で行う場合も見受けられるが、この場合には、出資額の多寡に拘らず利益や権限を出資者の貢献に応じて自由に決めることができ、構成員課税の適用を受けるというメリットがあるものの、出資者は全員無限責任を負うという問題がある。
そこで、有限責任事業組合制度に関する研究会は、経済産業省の依頼を受けて、本年9月から有限責任事業組合制度(LLP制度)のあり方について精力的に議論を進めてきた。この結果、今回、以下を内容とするLLP制度の骨格について中間的なとりまとめを行うに至った。
経済産業省においては、この取りまとめを踏まえ、関係省庁の協力を求めながら、民法組合制度の特例として、出資者全員が有限責任制のLLP制度を創設し、有限責任制、内部自治、構成員課税の特徴を持つ新たな事業体制度を早急に整備すべきである。
LLPの出資者全員に有限責任制を付与
(1)有限責任制度の導入
出資者全員が無限責任の民法組合契約制度の特例として、出資者全員が有限責任となる新たな組合契約制度(有限責任事業組合契約制度)を設ける。
(2)債権者保護規定の整備
出資者全員の有限責任制を導入することの見返りとして、債権者を保護するための規定を整備する。
有限責任組合であることを対外的に明らかにするための開示ルール
・ 有限責任事業組合契約の登記制度
・ 有限責任事業組合という名称の表示義務
・ 財務データの債権者への開示義務
債権者保護のための組合財産の保全(全員有限責任制の他の組織法制との並び)
・ 設立時の出資金の全額払い込み規制
・ 労務出資の禁止(ただし、労務などの提供を反映した柔軟な損益分配は可能、2.(2)、3.(3)参照)
・ 組合財産の分配規制
(3)有限責任の範囲
(通常の取引債権者に対する出資者の有限責任)
LLPの取引債権者は、LLPの組合財産から弁済を受ける。LLPの出資者は出資金の範囲で責任を負う。
(不法行為により損害を受けた債権者に対する出資者の責任)
LLPの出資者が起こした不法行為により損害を受けた債権者は、LLPの組合財産から弁済を受ける。出資者は出資金の範囲で責任を負うが、不法行為を行った出資者は、不法行為者として無限責任を負う。
(悪意・重過失の業務執行者の第三者に対する責任の明確化)
悪意・重過失でLLP以外の第三者に損害を与えた業務執行者に対しては、その責任を明確化する。
内部自治の徹底
(1)内部組織の柔軟性
民法組合と同様、LLPの業務執行者に対する監視機関の設置は義務づけない。
(2)労務や知的財産、ノウハウの提供などを勘案した柔軟な損益分配
LLPにおける出資者間の損益分配は、原則出資比率に応じて行うものの、LLP法に基づき書面による特別な定めを行えば、労務や知的財産、ノウハウの提供などを勘案して出資比率と異なる損益分配を行うことができる。
共同事業性の確保、構成員課税など税制上の取扱い
(1)共同事業性の確保
債権者保護の観点と構成員課税の適用の観点から、LLPの共同事業性の確保を図る。
重要な意思決定(注1)については、LLP契約発効の要件として契約書への署名を義務付けることなどにより、全員一致による。また、全出資者が何らかの業務執行に参加することとするとともに、その際、参加の形態は出資者の能力に応じて分担することもできることとする(注2)。なお、LLPの共同事業性を満たさない場合は民法組合として扱われる。
(注1)重要な意思決定とは、組合の名称、事業内容、存続期間、組合員の加入、持分譲渡、多額の借財、重要な財産の処分など。
(注2)単にLLP事業に投資だけ行う出資者は認められないと考える(出資のみならず経営に参加して、業務執行を行う、いわゆるハンズオン型の出資はできる)。なお、LLPでは、個人又は法人が組合員となることとする。このため、民法組合はLLPの組合員になることはできず、民法組合の組合員が組合員の資格としてLLPの組合員になることはできない。
(2)構成員課税の適用
LLPでは、共同事業性を確保し、租税回避(組合事業から生じる損失を利用して節税を図る行為 )的な目的で使われることを抑止することにかんがみ、LLP段階では課税せず、出資者に直接課税する仕組み(いわゆる構成員課税)を適用すべきである 。
(3)柔軟な損益分配
損益分配については、原則出資比率に応じて行うものの、LLP法に基づき書面による特別な定めなどを行えば、労務や知的財産、ノウハウの提供などを勘案して、出資比率と異なる損益分配ができ、それが税務上も合理的な範囲内であれば認められるべきである。
(注)現物出資の課税の取り扱い
現物出資に関しては、原則として組合員間で譲渡が行われることから譲渡益課税の対象となるが、現物出資時の課税の繰り延べについては、将来の実ニーズ及び個別の事情に応じて対応すべきと考える。
(4)その他
・ LLPの会計上の計算期間は1年以内とする。出資者の異動ある場合については所要の手当を行う。
・ LLPの出資者として、最低1名(1社)の居住者又は内国法人を置く 。
・ 出資者のLLPからの税務上の損失の取込限度額は出資額を上限とすることが妥当である 。
LLPを幅広く活用するための関連制度の整備
LLPは、民法組合と同様、その業務執行者の名義で契約をし、財産を所有し、訴訟を行うことができ、その効果は全出資者に及ぶ(契約などの主体性)。また、LLPは、民法組合と同様、知的財産権や不動産も組合財産として保有でき、出資者の個人債権者はこれを差し押さえることができない(組合財産の独立性)。
このように、LLPには法人格はないものの、経済主体として十分機能できるが、さらにより円滑にLLPを事業体として活用するために、以下の対応を行う。
(1)特許登録や不動産登記に関する手当て
LLPが行う特許登録については、単なる出資者連名ではなく、出資者のLLP内での肩書き(業務執行役員、パートナーなど)を付記した連名での登録が可能か運用上の問題点も含めて検討が進められている。またLLPが行う不動産登記についても、当該不動産がLLPの財産であることを公示することにより取引の安全性が高まる効果が期待できることから、特許登録と同様、LLPの肩書き付登記を可能とする方向で検討すべきである。
(2)弁護士事務所や公認会計士事務所におけるLLPの活用
各種士業におけるLLPの活用可能性について、国際的な動向、関連法制度における指定社員制度の整備状況、ニーズの有無などを踏まえて検討すべきである。
特に、弁護士及び公認会計士については、既に指定社員制度が整備され、また、LLP類似の制度の活用が国際的に進んでいることから、LLPの活用を積極的に検討すべきである。
(3)許認可事務の合理化
LLPは、出資者が許認可を受けることにより許認可事業を行うことができるが、許認可を受けるに際し、業務執行者名義などで申請が可能となるよう、LLPが行う事業の実態や各法律の性格に応じて適切な手当を講じることを検討すべきである。
(4)LLPの解散・清算の規定の整備及び破産能力の確認
解散・清算の規定の整備
民法組合に関する規定をベースにして、LLPに関する解散・清算の規定を整備する。ただし、構成員全員が有限責任であることから、会社法上の解散・清算規定を参考として、債権者に対する公告・催告などを義務付ける。
破産能力の確認
LLPの破産能力については、今後引き続き検討する。
(脚注1) 民法組合制度を利用した租税回避行為の典型的な事例
出資額を大きく上回る借金をして、航空機や船舶を購入してリース事業を行う事例。この場合、毎年のリース事業収入以上に、航空機などの減価償却(損失)が発生し、出資者は出資額を超える大きな損失を得て、他の所得と通算して節税が可能になる。
こうした租税回避的な仕組みは、大多数の出資者はカネを出すだけで経営に参加をしておらず、LLPとしての共同事業性は有していない。
(脚注2) 出資者の課税所得の計算方法としては、総額方式(組合の損益のみならず、組合の収入・支出及び資産・負債も、それぞれ組合員に帰属する方式)、中間方式(組合の損益のみならず、組合の収入・支出が、それぞれ組合員に帰属する方式)、純額方式(組合の損益のみが組合員に帰属する方式)で行うことができる。
(脚注3) 非居住者等である出資者については、LLPの事業から生じた当該非居住者等に帰属する利益に対して毎年源泉徴収を行うことが妥当である。
(脚注4) 民法組合等の他の組合についても、租税回避防止の観点から、損失の取込制限が設けられる予定。
(参考1)
有限責任事業組合制度に関する研究会
委員名簿
※敬称略
座長 能見 善久 東京大学法学部教授
副座長 山田 誠一 神戸大学法学部教授
阿部 泰久 日本経済団体連合会 産業本部 産業基盤グループ長
石綿 学 森・濱田松本法律事務所 弁護士
大杉 謙一 中央大学法科大学院教授
大橋 善光 読売新聞 編集委員
沖野 眞已 学習院大学法科大学院教授
佐藤 学 株式会社三井住友銀行 経営企画部金融調査室グループ長
宍戸 善一 成蹊大学法科大学院教授
須田 徹 税理士法人トーマツ 理事長 公認会計士
高橋 真人 住友商事株式会社 主計部次長
高橋 祐介 岡山大学法科大学院助教授
武井 一浩 西村ときわ法律事務所 弁護士
中村 慈美 中村慈美税理士事務所 税理士
成毛 眞 株式会社インスパイア 代表取締役
畑 伸夫 石油連盟 企画部長
平野 嘉秋 日本大学商学部教授
若林 拓朗 先端科学技術エンタープライズ株式会社 代表取締役
渡部 國男 キヤノン株式会社 常務取締役 企画本部長
<オブザーバー>
寺本 昌広 法務省民事局 参事官
(参考2)
有限責任事業組合制度に関する研究会
検討経過
○ 第1回研究会(9月17日(金))
【テーマ】日本版LLP制度に対するニーズについて
1.日本版LLP制度の検討の背景と概要
2.海外におけるLLP類似の制度の実態と活用例
3.日本版LLP制度に係る論点
○ 第2回研究会(10月8日(金))
【テーマ】出資者の有限責任と債権者保護規定のあり方
1.出資者の有限責任の考え方
2.有限責任制の確保に伴う債権者保護規定
○ 第3回研究会(11月11日(木))
【テーマ】法的主体性に関する考え方と税制上の取り扱い
1.法的主体性に関する考え方
2.日本版LLPの共同事業性と税制上の扱いについて
○ 第4回研究会(12月10日(金))
【テーマ】有限責任事業組合制度の創設の提案(案)について
平成17年7月
経済産業政策局産業組織課
経済産業省では、創業を促し、企業同士のジョイント・ベンチャーや専門的な能力を持つ人材の共同事業を振興するために、民法組合の特例として、1,出資者全員の有限責任、2,内部自治の徹底、3,構成員課税の適用という特徴を併せ持つ有限責任事業組合(LLP)制度を創設し、8月1日から施行します。LLP制度の関連資料を掲載しますのでご参照ください。
【公表資料】
<制度の概要>
1.有限責任事業組合契約に関する法律について(概要)
―共同事業のための新しい組織、LLP制度の創設―
2.有限責任事業組合制度(LLP)の創設について
3.LLPに関する40の質問と40の答え(FAQ)
<法令>
1.有限責任事業組合契約に関する法律について
(要綱・条文・理由・新旧対照条文・参照条文)
2.有限責任事業組合契約に関する法律施行令について
3.有限責任事業組合契約に関する法律施行規則について
<参考>
「有限責任事業組合制度の創設の提案」
(日本版LLP研究会 中間とりまとめ)
有限責任事業組合制度の創設の提案
(中間とりまとめ)
平成16年12月17日
有限責任事業組合制度に関する研究会
海外では、企業同士のジョイント・ベンチャーや専門人材の共同事業を振興するため、LLP(Limited Liability Partnership)やLLC(Limited Liability Company)という新たな事業体制度が整備されている。
これらの事業体は、出資者が出資額までしか事業上の責任を負わず(有限責任制)、出資者が自ら経営を行うので組織内部の取り決めは自由に決めることができる(内部自治原則)。さらに税制面では、LLCやLLPには課税されずに、その出資者に直接課税される(構成員課税制度)ため、LLCやLLP段階で法人課税が課された上に、出資者への配当に課税されることを回避できるメリットがある。
こうした効果により、海外のLLCやLLPは活発に活用されている。米国のLLCは最近10年間で80万社、英国のLLPは制度創設後約3年間で1万社にのぼる利用が報告されている。また、シンガポールでも来年早期の成立を目指して、現在、LLP法案の国会審議が行われている。
【米国のLLC(有限責任会社)】
・ここ10年間で80万のLLCが誕生。
・IBMとインテルなどの共同研究開発ジョイント・ベンチャー、ファンド会社などの金融産業、ソフトウエアやコンテンツ開発などのIT産業での活用が盛ん。
【英国のLLP(有限責任組合)】
・2000年に創設し、1万を超えるLLPが誕生。
・KPMGなどの大手会計事務所、法律事務所、デザイン事務所、IT産業などでの活用が始まっている。
【シンガポールのLLP(有限責任組合)】
・創業や高度サービス産業の振興のためにLLP制度の創設を検討。
・米国や英国の制度を検討し、現在、国会にて審議中。2005年早期の成立を目指している。
ところが、我が国においては、こうした3つの特徴を兼ね備えた事業体は存在しない。
例えば、我が国では、株式会社を活用して共同事業(合弁事業など)を行うことが通例であるが、この場合、出資者は有限責任だが、出資金額の多寡に応じた利益や権限の配分しかできず、税制面では二重課税の調整があるとはいえ、法人課税が課された上に出資者への配当に課税される(法人段階での損失が発生した場合に、出資者の他の所得との通算もできない)。
映画製作委員会や建設共同事業体(ジョイント・ベンチャー)の例に見られるように、共同事業を民法組合で行う場合も見受けられるが、この場合には、出資額の多寡に拘らず利益や権限を出資者の貢献に応じて自由に決めることができ、構成員課税の適用を受けるというメリットがあるものの、出資者は全員無限責任を負うという問題がある。
そこで、有限責任事業組合制度に関する研究会は、経済産業省の依頼を受けて、本年9月から有限責任事業組合制度(LLP制度)のあり方について精力的に議論を進めてきた。この結果、今回、以下を内容とするLLP制度の骨格について中間的なとりまとめを行うに至った。
経済産業省においては、この取りまとめを踏まえ、関係省庁の協力を求めながら、民法組合制度の特例として、出資者全員が有限責任制のLLP制度を創設し、有限責任制、内部自治、構成員課税の特徴を持つ新たな事業体制度を早急に整備すべきである。
LLPの出資者全員に有限責任制を付与
(1)有限責任制度の導入
出資者全員が無限責任の民法組合契約制度の特例として、出資者全員が有限責任となる新たな組合契約制度(有限責任事業組合契約制度)を設ける。
(2)債権者保護規定の整備
出資者全員の有限責任制を導入することの見返りとして、債権者を保護するための規定を整備する。
有限責任組合であることを対外的に明らかにするための開示ルール
・ 有限責任事業組合契約の登記制度
・ 有限責任事業組合という名称の表示義務
・ 財務データの債権者への開示義務
債権者保護のための組合財産の保全(全員有限責任制の他の組織法制との並び)
・ 設立時の出資金の全額払い込み規制
・ 労務出資の禁止(ただし、労務などの提供を反映した柔軟な損益分配は可能、2.(2)、3.(3)参照)
・ 組合財産の分配規制
(3)有限責任の範囲
(通常の取引債権者に対する出資者の有限責任)
LLPの取引債権者は、LLPの組合財産から弁済を受ける。LLPの出資者は出資金の範囲で責任を負う。
(不法行為により損害を受けた債権者に対する出資者の責任)
LLPの出資者が起こした不法行為により損害を受けた債権者は、LLPの組合財産から弁済を受ける。出資者は出資金の範囲で責任を負うが、不法行為を行った出資者は、不法行為者として無限責任を負う。
(悪意・重過失の業務執行者の第三者に対する責任の明確化)
悪意・重過失でLLP以外の第三者に損害を与えた業務執行者に対しては、その責任を明確化する。
内部自治の徹底
(1)内部組織の柔軟性
民法組合と同様、LLPの業務執行者に対する監視機関の設置は義務づけない。
(2)労務や知的財産、ノウハウの提供などを勘案した柔軟な損益分配
LLPにおける出資者間の損益分配は、原則出資比率に応じて行うものの、LLP法に基づき書面による特別な定めを行えば、労務や知的財産、ノウハウの提供などを勘案して出資比率と異なる損益分配を行うことができる。
共同事業性の確保、構成員課税など税制上の取扱い
(1)共同事業性の確保
債権者保護の観点と構成員課税の適用の観点から、LLPの共同事業性の確保を図る。
重要な意思決定(注1)については、LLP契約発効の要件として契約書への署名を義務付けることなどにより、全員一致による。また、全出資者が何らかの業務執行に参加することとするとともに、その際、参加の形態は出資者の能力に応じて分担することもできることとする(注2)。なお、LLPの共同事業性を満たさない場合は民法組合として扱われる。
(注1)重要な意思決定とは、組合の名称、事業内容、存続期間、組合員の加入、持分譲渡、多額の借財、重要な財産の処分など。
(注2)単にLLP事業に投資だけ行う出資者は認められないと考える(出資のみならず経営に参加して、業務執行を行う、いわゆるハンズオン型の出資はできる)。なお、LLPでは、個人又は法人が組合員となることとする。このため、民法組合はLLPの組合員になることはできず、民法組合の組合員が組合員の資格としてLLPの組合員になることはできない。
(2)構成員課税の適用
LLPでは、共同事業性を確保し、租税回避(組合事業から生じる損失を利用して節税を図る行為 )的な目的で使われることを抑止することにかんがみ、LLP段階では課税せず、出資者に直接課税する仕組み(いわゆる構成員課税)を適用すべきである 。
(3)柔軟な損益分配
損益分配については、原則出資比率に応じて行うものの、LLP法に基づき書面による特別な定めなどを行えば、労務や知的財産、ノウハウの提供などを勘案して、出資比率と異なる損益分配ができ、それが税務上も合理的な範囲内であれば認められるべきである。
(注)現物出資の課税の取り扱い
現物出資に関しては、原則として組合員間で譲渡が行われることから譲渡益課税の対象となるが、現物出資時の課税の繰り延べについては、将来の実ニーズ及び個別の事情に応じて対応すべきと考える。
(4)その他
・ LLPの会計上の計算期間は1年以内とする。出資者の異動ある場合については所要の手当を行う。
・ LLPの出資者として、最低1名(1社)の居住者又は内国法人を置く 。
・ 出資者のLLPからの税務上の損失の取込限度額は出資額を上限とすることが妥当である 。
LLPを幅広く活用するための関連制度の整備
LLPは、民法組合と同様、その業務執行者の名義で契約をし、財産を所有し、訴訟を行うことができ、その効果は全出資者に及ぶ(契約などの主体性)。また、LLPは、民法組合と同様、知的財産権や不動産も組合財産として保有でき、出資者の個人債権者はこれを差し押さえることができない(組合財産の独立性)。
このように、LLPには法人格はないものの、経済主体として十分機能できるが、さらにより円滑にLLPを事業体として活用するために、以下の対応を行う。
(1)特許登録や不動産登記に関する手当て
LLPが行う特許登録については、単なる出資者連名ではなく、出資者のLLP内での肩書き(業務執行役員、パートナーなど)を付記した連名での登録が可能か運用上の問題点も含めて検討が進められている。またLLPが行う不動産登記についても、当該不動産がLLPの財産であることを公示することにより取引の安全性が高まる効果が期待できることから、特許登録と同様、LLPの肩書き付登記を可能とする方向で検討すべきである。
(2)弁護士事務所や公認会計士事務所におけるLLPの活用
各種士業におけるLLPの活用可能性について、国際的な動向、関連法制度における指定社員制度の整備状況、ニーズの有無などを踏まえて検討すべきである。
特に、弁護士及び公認会計士については、既に指定社員制度が整備され、また、LLP類似の制度の活用が国際的に進んでいることから、LLPの活用を積極的に検討すべきである。
(3)許認可事務の合理化
LLPは、出資者が許認可を受けることにより許認可事業を行うことができるが、許認可を受けるに際し、業務執行者名義などで申請が可能となるよう、LLPが行う事業の実態や各法律の性格に応じて適切な手当を講じることを検討すべきである。
(4)LLPの解散・清算の規定の整備及び破産能力の確認
解散・清算の規定の整備
民法組合に関する規定をベースにして、LLPに関する解散・清算の規定を整備する。ただし、構成員全員が有限責任であることから、会社法上の解散・清算規定を参考として、債権者に対する公告・催告などを義務付ける。
破産能力の確認
LLPの破産能力については、今後引き続き検討する。
(脚注1) 民法組合制度を利用した租税回避行為の典型的な事例
出資額を大きく上回る借金をして、航空機や船舶を購入してリース事業を行う事例。この場合、毎年のリース事業収入以上に、航空機などの減価償却(損失)が発生し、出資者は出資額を超える大きな損失を得て、他の所得と通算して節税が可能になる。
こうした租税回避的な仕組みは、大多数の出資者はカネを出すだけで経営に参加をしておらず、LLPとしての共同事業性は有していない。
(脚注2) 出資者の課税所得の計算方法としては、総額方式(組合の損益のみならず、組合の収入・支出及び資産・負債も、それぞれ組合員に帰属する方式)、中間方式(組合の損益のみならず、組合の収入・支出が、それぞれ組合員に帰属する方式)、純額方式(組合の損益のみが組合員に帰属する方式)で行うことができる。
(脚注3) 非居住者等である出資者については、LLPの事業から生じた当該非居住者等に帰属する利益に対して毎年源泉徴収を行うことが妥当である。
(脚注4) 民法組合等の他の組合についても、租税回避防止の観点から、損失の取込制限が設けられる予定。
(参考1)
有限責任事業組合制度に関する研究会
委員名簿
※敬称略
座長 能見 善久 東京大学法学部教授
副座長 山田 誠一 神戸大学法学部教授
阿部 泰久 日本経済団体連合会 産業本部 産業基盤グループ長
石綿 学 森・濱田松本法律事務所 弁護士
大杉 謙一 中央大学法科大学院教授
大橋 善光 読売新聞 編集委員
沖野 眞已 学習院大学法科大学院教授
佐藤 学 株式会社三井住友銀行 経営企画部金融調査室グループ長
宍戸 善一 成蹊大学法科大学院教授
須田 徹 税理士法人トーマツ 理事長 公認会計士
高橋 真人 住友商事株式会社 主計部次長
高橋 祐介 岡山大学法科大学院助教授
武井 一浩 西村ときわ法律事務所 弁護士
中村 慈美 中村慈美税理士事務所 税理士
成毛 眞 株式会社インスパイア 代表取締役
畑 伸夫 石油連盟 企画部長
平野 嘉秋 日本大学商学部教授
若林 拓朗 先端科学技術エンタープライズ株式会社 代表取締役
渡部 國男 キヤノン株式会社 常務取締役 企画本部長
<オブザーバー>
寺本 昌広 法務省民事局 参事官
(参考2)
有限責任事業組合制度に関する研究会
検討経過
○ 第1回研究会(9月17日(金))
【テーマ】日本版LLP制度に対するニーズについて
1.日本版LLP制度の検討の背景と概要
2.海外におけるLLP類似の制度の実態と活用例
3.日本版LLP制度に係る論点
○ 第2回研究会(10月8日(金))
【テーマ】出資者の有限責任と債権者保護規定のあり方
1.出資者の有限責任の考え方
2.有限責任制の確保に伴う債権者保護規定
○ 第3回研究会(11月11日(木))
【テーマ】法的主体性に関する考え方と税制上の取り扱い
1.法的主体性に関する考え方
2.日本版LLPの共同事業性と税制上の扱いについて
○ 第4回研究会(12月10日(金))
【テーマ】有限責任事業組合制度の創設の提案(案)について
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