解説記事2005年12月19日 【ニュース特集】 2005年の租税訴訟番付(2005年12月19日号・№143)

ニュース特集
2005年の租税訴訟は納税者の勝ち越し?
2005年の租税訴訟番付


 納税者側が勝てないとされてきた租税訴訟において、2005年(集計上は2004年12月~2005年11月)は異例の年、本誌がお伝えしてきた主要な租税訴訟事案では、納税者側勝訴の判決が数多く見られます。租税訴訟の実数はともかく、6頁の2005年租税訴訟星取表によれば、納税者側が勝ち越しています。
 しかも、「航空機リース訴訟」・「興銀訴訟」などは、正に納税者側と課税庁側が互角に組み合ってがっぷり四つ相撲の様相を見せていました。納税者側が健闘した背景には、「司法による(税務)行政に対するのチェック機能の強化」という司法制度改革の動きもありました。納税者と課税庁の争いを相撲になぞって、振り返ることにします。

租税訴訟に大きなインパクトを与えた興銀訴訟
 2004年12月の興銀訴訟判決から、租税訴訟が大きく変わってきた印象を受けます。興銀税務訴訟では、訴額が大きいこともありますが、興銀側が数多くの意見書・証拠資料を提出して、訴訟をリードしてきました。最高裁では、判断が分かれた下級審判決や、裁判の動向を見極めた上で、興銀側で「社会通念」に争点を絞り、勝訴判決を導き出しました。横綱相撲を感じさせます。
 更に課税庁側を圧倒したのが、航空機リース訴訟でした。納税者側は、名古屋地裁・津地裁・静岡地裁・名古屋高裁で勝訴しました。課税庁は名古屋高裁での敗訴判決を受けて訴訟継続(上告)を断念しました。民法上の組合契約が争点となりましたが、名古屋地裁が「処分証書の法理」を打ち出して、課税処分を取り消したのをきっかけとして、納税者側は勝ち続けることになりました。

納税者勝訴の決まり手は「処分証書の法理」
 航空機リース訴訟及び匿名組合方式による「国際的租税回避スキーム」での納税者側勝訴の決まり手は、「処分証書の法理」というものです。「処分証書の法理」では、契約書のような文書の成立の真正が確かめられれば、その証明力は、事後的に否定する主張よりも証明力が高くなります。この法理では、私法と租税法との関係において、私法における法律関係が租税法の適用において、前提となります。事後的な対応とならざるを得ない課税庁には厄介なものといえるでしょう。
 ジュリストが「企業税制の理論と実務」を連載して、法律家の間に、「私法ルール」の優先を印象付けました。司法制度改革において、「司法による行政のチェック機能の強化」が標榜されてきたことも、租税訴訟の動向に影響を与えてきたものと思われます。


課税庁勝訴事案では、座布団が舞った!
 立ち合いに成功して東京地裁の行政事件専門部(2部・3部)で勝訴してきたSO訴訟については、課税庁が高裁などで寄り返してからは、横綱の貫禄を見せて、勝訴しました。しかし、課税庁勝訴事件については、納税者の不信が解消されていないものがほとんどです。SO訴訟は主たる争点において決着したものの、課税時期の状況・課税根拠などから、租税行政への不信が解消されていません。宮岡訴訟については、1次訴訟の最高裁判決後の2次訴訟判決について、宮岡弁護士は課税庁の対応に納得できずに控訴しています。張江訴訟では、多くの税理士がアンケートなどで、納税者側の主張を支持してきましたが、裁判所の判断からは排斥されています。取り組み(訴訟終結)後に座布団が舞った状況であり、課税庁は勝訴判決からも、税務行政改善のヒントを得るべきものと思われます。




税務通達にも厳しい司法判断
 歯科技工業の簡易課税の事業区分を争点とする訴訟では、名古屋地裁民事9部(加藤幸雄裁判長)は、『国民に義務を賦課する租税法の分野においては、国民に不測の不利益を与えぬよう、特に厳格な解釈態度が求められるというべき』と判示した上で、通達(日本標準産業分類による区分)に基づく課税処分を斥けています。この他、右山訴訟での課税実務の否認、評価通達総則6項の適用否認、法人税額等相当額の控除不適用の否認など、税務通達にとらわれない租税判決が2005年には見られるようになってきました。
 一方、課税庁勝訴事案では、「税務代理権の侵害」などで、裁判所が「税務の執行」へ信頼を寄せていることがうかがわれます。

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