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解説記事2006年04月10日 【会社法解説】 図解でわかる法務省令講座―計算書類の作成・監査・承認―(2006年4月10日号・№158)

図解でわかる法務省令講座
―計算書類の作成・監査・承認―

 前法務省民事局付 郡谷大輔


 今回は、計算書類の作成から確定までの手続の流れを解説する。会社法における計算書類の確定作業は、現行商法からそれほど大きくは変わっていない。しかし、機関設計の多様化に伴って会社類型ごとに手続は異なり、監査スケジュールや監査報告の内容については一部修正が加えられているので注意が必要である。

人物紹介
マミ
:霞が関の監査法人に勤める公認会計士。経済産業省・法務省において政策立案・立法作業に携わる。変わらず会社法施行対応に追われる中で、出会いと別れの季節に一抹の寂しさをおぼえる日々をすごしている。
カナ:赤坂の法律事務所に勤める弁護士。法務省において立法作業に携わる。会社法関係省令の公布後、他省令の改正案作りも無事まっとうし、3年10か月ぶりにおそるおそる赤坂に出勤する日々を迎えている。



 会社法における計算書類の作成から確定までの手続の流れは、現行商法と同様、機関設計ごとに異なっている。
 その確定手続を大きく分類すると、「原案の作成」「監査」「承認」という3つの段階に分けることができる。
 以下では、図表1のような機関設計の分類を行った上で、各手続ごとに解説を行うものである。


Ⅰ 作  成

 計算書類の確定手続は、当然のことながら、原案の作成から開始する。これは、すべての会社において共通である。
 原案の作成は、計算書類の作成を担当する取締役が行う(図表1の機関設計中〔A~I〕で該当)が、委員会設置会社(図表1の機関設計中〔J〕に該当。以下同様に示す)では執行役が行うことになる。
 会計参与設置会社(〔A~J〕の全部で会計参与を置くことが可能であり、〔C〕では必須の機関である)においては、会計参与と共同して作成することとなる。
 現行商法との差異は、取締役会設置会社であっても、原案の作成段階で、取締役会の決議が不要であるということである。

Ⅱ 会計監査人の監査

 会計監査人設置会社〔G~J〕においては、会計監査人がまず最初に計算書類の監査を行う(会社法436条2項1号、計算規則154条)。

1 会計監査人への計算書類の提供
 原案を作成した取締役(執行役)は、最初に、会計監査人に対して計算書類を提供することとなるが、この際には、監査役(監査委員会)にも併せて提供しなければならない(計算規則153条)。
 なお、旧商法と異なり、定時株主総会の8週間前までに提供しなければならないといった定時株主総会から逆算した期間規制は廃止されているので、定時株主総会等のスケジュールを見据えて適宜に提供すればよい。
 また、提供方法についても、書面・電磁的方法などの方法を問わない(ただし、提供されることが必要であるので、会計監査人等が受領できない方法で提供するだけでは足りない)。

2 会計監査人の監査
 計算書類を受領した会計監査人は、計算書類の監査を行い、
① 会計監査人の監査の方法およびその内容
② 計算関係書類の適正性についての意見があるときは、その意見
③ ②の意見がないときは、その旨およびその理由
④ 追記情報
⑤ 会計監査報告を作成した日
といった事項を内容とする会計監査報告を作成しなければならない(計算規則154条1項)。
 会計監査人の会計監査報告についての現行商法からの改正点は、図表2のとおりである。
 もっとも、会社法では、現在の監査基準その他の監査上の取扱いに合わせる形で規定を設けているため、実務的な対応は容易であろう。


3 会計監査人の監査スケジュール
 会計監査人の監査スケジュールについては、計算規則158条1項に規定があるが、現行商法から特段の変更はない。
 すなわち、各事業年度に係る単体の計算書類については次に掲げる日のいずれか遅い日となり、連結計算書類については①または③のいずれか早い日となる(図表3参照)。
① 計算書類の全部を受領してから4週間を経過した日
② 附属明細書を受領してから1週間を経過した日
③ 取締役、監査役(監査委員)および会計監査人との間で合意した日
 なお、計算規則158条3項は、何らかの事情で監査期限までに会計監査報告の通知がない場合には、監査を受けたものとみなして、手続を進めることができることを明らかにしたものである。


POINT~ここに注意~
原案の作成
~この段階での取締役会決議は不要となった。
会計監査人への提供
~定時株主総会から逆算した期間規制は廃止されており、定時株主総会等のスケジュールを見据えて適宜に提供すれば足りる。
特定取締役・特定監査役
~監査報告を受領し、かつ、監査期限についての合意をする者である。

4 特定取締役・特定監査役
 監査期限を規律する計算規則158条および160条(会計監査人設置会社以外の会社にあっては、計算規則152条)には、監査報告を受領し、または監査期限についての合意をする役割を果たすものとして、特定取締役・特定監査役という用語が使われている。
(1)特定取締役
 特定取締役とは、次のような者である。
監査報告等の通知受領者を定めた場合には、その者
通知受領者を定めていない場合には、監査を受けるべき計算書類の作成に関する職務を行った取締役・執行役
 ここで、監査報告等の通知受領者の定め方については、計算規則は特に制限を設けておらず、重要な業務の執行に当たるものでもないため、必ずしも取締役会の決議によって定める必要はなく、計算書類の作成をした者の間で互選その他の適切な方法で定めれば足りる。
(2)特定監査役
 特定監査役とは、次のような者である。
 ① 監査役会設置会社以外の監査役設置会社
 まず、監査役が1人しか存しない場合には、当該監査役である。
 次に、2人以上の監査役が存する場合には、互選等により通知を行う監査役を定めた場合にはその監査役、定めなかった場合にはすべての監査役となる。
 ② 監査役会設置会社
 監査役会設置会社における特定監査役とは、
監査役会が監査報告の内容の通知をすべき監査役を定めた場合には、当該通知を受ける監査役として定められた監査役
定めなかった場合には、すべての監査役
である。特定取締役の場合とは異なり、必ず監査役会の決議で定めなければならない。
 ③ 委員会設置会社
 委員会設置会社では、必ず、監査委員会が特定監査役となるべき監査委員を指定しなければならない。この指定がなされない場合には、監査報告の通知をする監査委員が存しないこととなる。
 会計監査人設置会社の監査役〔G~I〕は、会計監査人による監査を受けて、監査を行うこととなる。

Ⅲ 会計監査人設置会社の監査役の監査

1 監査役の監査の役割

 会計監査人設置会社の監査役の監査は、計算書類を自ら監査することよりも、計算書類の作成者や会計監査人の職務の遂行状況を監査することの方に力点が置かれている。
 このため、監査役の監査報告の内容としては、現行商法と同様に、会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認めたときは、その旨およびその理由(計算規則155条2号)が定められているほか、会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項(同条4号)が加えられている。

2 会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制
 会計監査人は、会計監査報告を監査役に提供する際に、会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項として、
① 独立性に関する事項その他監査に関する法令および規程の遵守に関する事項
② 監査、監査に準ずる業務およびこれらに関する業務の契約の受任および継続の方針に関する事項
③ 会計監査人の職務の遂行が適正に行われることを確保するための体制に関するその他の事項
を通知しなければならない。ただし、既にすべての監査役が知っている事項は、通知することを要しない(計算規則159条)。
 これは、会計監査人である監査法人や公認会計士側で定めている事項であるが、監査役は、これらの体制を含めて、現実に行われた会計監査人の監査の相当性を判断することとなる。

3 会計監査人設置会社の監査役の監査スケジュール
 会計監査人設置会社の監査役の監査スケジュールについては、計算規則160条1項に規定があるが、現行商法からの変更は特にない。
 すなわち、各事業年度に係る単体の計算書類については次に掲げる日のいずれか遅い日となり、連結計算書類についてはいずれか早い日となる(図表3参照)。
① 会計監査報告を受領してから1週間を経過した日
② 取締役および監査役との間で合意した日
 なお、計算規則160条3項は、監査報告を通知しない場合の計算規則158条3項と同趣旨の規定である。

Ⅳ 会計監査人設置会社の監査役会の監査

1 監査役会の監査報告

 会計監査人設置会社において監査役会が置かれている場合〔I〕には、各監査役の監査報告に基づき、監査役会としての監査報告を作成することとなる(計算規則156条1項)。
 監査役会の監査報告の内容は、監査役会としての監査の方法・内容が加わるだけで、その他の点は監査役の監査報告と同じである(同条2項)。
 なお、Ⅲで述べた監査スケジュールは、監査役会設置会社においては、監査役会の監査報告の作成時点までのものであることに注意が必要である。

2 監査役会の監査報告の審議方法
 計算規則156条3項においては、会計監査人設置会社の監査役会は、監査役会監査報告の作成に当たって、1回以上、会議を開催する方法または情報の送受信により同時に意見の交換をすることができる方法により、監査報告の内容を審議しなければならないこととされている。

3 監査報告書の通数
 監査役会設置会社〔F、I〕では、各監査役および監査役会がそれぞれ監査報告を作成することとなる。
 しかし、監査報告書という書面の作成については、会社法・計算規則ともに特に規制を設けていないので、必ずしもそれぞれの監査報告ごとに監査報告書を作成する必要はなく、すべてまとめて1通とすることも可能である。

Ⅴ 監査委員会の監査報告

 委員会設置会社〔J〕においては、会計監査人の監査の後、監査委員会の監査が行われる。監査役設置会社とは異なり、各監査委員の監査報告の作成は必要ない。
 監査委員会の監査報告の内容も、監査役の監査報告の内容と基本的に同一であるが、監査委員会の監査報告は、監査役会と異なり、必ず監査委員会の決議によって決定されなければならない(計算規則157条)。
 なお、監査スケジュールは、監査役と同様である(会計監査人設置会社〔G~I〕の監査スケジュールについては、図表3参照)。

カナ:監査役会と監査委員会の監査報告では何が異なるのかしら?
マミ:監査報告の内容は基本的に同じだけれど、監査委員会の監査報告には決議が必要よ。

Ⅵ 会計監査人設置会社以外の株式会社の監査役の監査

 会計監査人設置会社以外の株式会社においては、監査役〔B、D~F〕が計算書類の監査を行うこととなる。
 この場合における監査役の監査報告の内容は、 会計監査人設置会社以外の株式会社においては、監査役〔B、D~F〕が計算書類の監査を行うこととなる。
 この場合における監査役の監査報告の内容は、計算規則150条に規定があるが、Ⅱで述べた会計監査人の会計監査報告の内容と基本的には同一である。
 また、監査スケジュールも、会計監査人の監査スケジュールと同様である。

Ⅶ 会計監査人設置会社以外の株式会社の監査役会の監査

 会計監査人設置会社以外の株式会社の監査役会〔F〕の監査については、監査報告の内容が、Ⅱの監査報告、すなわち、会計監査人の会計監査報告の内容と同一である点を除けば、各監査役の監査報告に基づき作成すべきこと(計算規則151条1項)、審議のために1回以上、会議を開催する方法または情報の送受信により同時に意見の交換をすること(同条3項)も、会計監査人設置会社の場合と異なるところはない。
 また、監査役会と監査役の監査報告書の作成についても、会計監査人設置会社の監査役会の監査(Ⅳ参照)と変わるところはない。

Ⅷ 計算書類の取締役会における承認

1 取締役会の承認

 取締役会設置会社〔C~F、H~J〕においては、計算書類および附属明細書について、取締役会の承認を受けなければならない(会社法436条3項)。
 また、会計監査人や監査役等の監査を受けなければならない会社〔E、F、H~J〕においては、承認の対象は、監査を受けた計算書類(計算規則158条3項等により監査を受けたものとみなされたものを含む)であるから、仮に、作成段階で取締役会の決議を行っていたとしても、この決議をもって監査後の承認を省略することはできない。

2 計算書類が確定する場合
 計算書類についての取締役会の承認によって、株主総会を待たずに計算書類が確定する場合がある。
 具体的には、会計監査人設置会社〔H~J〕において、計算規則163条各号に掲げる要件のすべてに該当している場合である(要件については、表4参照)。
 この場合には、定時株主総会においては、計算書類は報告すれば足り、承認決議を要しないことになる(会社法439条)。


POINT~ここに注意~
監査役会の審議方法
~監査役会は、監査報告を作成するに当たり、1回以上、審議をしなければならない。
取締役会の承認対象
~承認すべき計算書類は、監査を受けた計算書類である。
取締役会決議による計算書類の確定
~会計監査人設置会社において、無限定適正意見がある場合等一定の要件を満たしていれば、取締役会の決議によって確定する。

Ⅸ 株主への提供

 取締役会設置会社〔C~F、H~J〕においては、Ⅷで述べた計算書類等の取締役会における承認後、定時株主総会の招集の通知に際して、当該承認を受けた計算書類等を提供しなければならない(会社法437条)。

1 提供すべき計算書類等
 計算規則161条1項は、「提供計算書類」として、機関設計ごとの提供すべき計算書類について定めている。
 基本的には、会計監査報告や監査報告がある場合には、計算書類と併せてこれらのものも提供することとなるが、次のような例外がある。
会計監査権限しかない監査役の監査報告は提供することを要しない。
2以上の監査役が存する場合において、監査報告の内容が同一であれば1つの監査報告のみを提供することも可能である。
監査期限の到来によって監査を受けたものとみなされた場合には、その旨のみ通知すれば足りる。
 なお、連結計算書類の提供に際しては、会計監査報告・監査報告の提供は任意となっている(計算規則162条2項)。

2 過年度事項の提供
 計算規則161条3項・162条3項には、過年度事項(過去の事業年度に係る貸借対照表、損益計算書または株主資本等変動計算書に表示すべき事項)の提供についての規定が設けられているが、これは、現在、いくつかの会社では実務上行われているものを確認的に規定するにとどまるものである。
 また、過年度事項は、計算書類の内容ではなく、定時株主総会の招集に際して提供されるものにすぎないので、株主総会に提出されるものとして監査役の調査(会社法384条)の対象となるものの、会計監査人の監査の対象にはならない。
 なお、計算規則161条3項後段は、過年度修正についての規定であるが、具体的な過年度修正の取扱いについては、今後、制定されるであろう会計基準次第ということになる。

3 WEB開示
 計算書類の提供についても、WEB開示が認められる。この開示方法は、株主総会参考書類、事業報告、計算書類および連結計算書類について認められているが、それぞれ制度の内容が多少異なっている(図表5参照)。

 また、計算書類・連結計算書類の提供に際しては、会計監査報告・監査報告を提供する場合がある。
 この場合において、WEB開示の利用により計算書類・連結計算書類の一部が株主に提供されないときは、会計監査人・監査役等は、取締役に対し、株主に現実に提供されている計算書類等は監査報告の対象の一部であることを併せて通知するよう請求することができる(計算規則161条6項・162条6項)。

Ⅹ 株主総会への提出

 最後に、計算書類等は定時株主総会に提出されることとなる(会社法438条1項)。計算書類等の承認・確定は、原則として株主総会の決議によりなされるが、機関設計による差異がある。

1 提出の意義、承認・報告
 取締役会設置会社〔C~F、H~J〕においては、既に各株主に対して招集通知の発送に併せて提出・提供されているため、WEB開示制度を採用している場合であっても、改めて計算書類の全文を株主に手交する必要はない。会計監査人設置会社である取締役会設置会社〔H~J〕では、事前の取締役会決議で確定され、株主総会には報告されるだけである。
 他方、取締役会を設置していない会社〔A、B、G〕においては、株主総会の場で、計算書類を提示することによって承認を求めることとなる。
 以上の手続を経て、計算書類が確定することとなるが、計算書類が確定した場合の法的効果については、図表6を参照されたい。


2 計算書類の公告
 計算書類は、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、損益計算書)またはその要旨を公告するか、インターネットによって5年間継続的に開示しなければならない(会社法440条1項~3項)。
 ただし、証券取引法の規定に基づき有価証券報告書を提出しているような株式会社においては、公告をする必要はない(同条4項)。
 そして、公告をする場合の注記の省略や要旨の内容については、計算規則第6編(164条~176条)に規定が設けられている。

今週のおさらい 9
計算書類の作成等手続には現行商法と同様に機関設計ごとの差異
  取締役会の承認対象が監査済みのものとなるほかは監査期間など大きな変更はない。
会計監査人設置会社の監査役の監査報告に新たな内容
  会計監査人は、「会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制」を監査役に通知する必要がある。
定時総会招集の通知に際しては、原則、計算書類と監査報告・会計監査報告(ある場合)を併せて提供
  取締役会設置会社においては、WEB開示制度を採用している場合であっても、株主に計算書類が提供されており、株主総会の場で改めて提供する必要はない。

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