解説記事2006年05月01日 【解説】 議案の決定と定款変更(6)役員報酬に関する議案の留意点(2006年5月1日号・№161)
会社法下の株主総会関係書類・直前総チェック
議案の決定と定款変更(6)役員報酬に関する議案の留意点
三菱UFJ信託銀行 執行役員証券代行部長 中西敏和
Ⅰ 会社法における役員報酬の位置付け
役員の報酬については、平成14年商法改正により、確定金額報酬、不確定金額報酬および非金銭報酬の3つに分けて決議の仕方が定められた(旧商法269条の改正)。
その際、従来から行われていた、報酬枠について株主総会の承認を受け、取締役会決議でこれを配分する方法は、確定額報酬とされ、新たに登場した不確定額報酬の典型的な例としては、業績連動型報酬が掲げられたが、これを採用する会社はわずかにとどまり、非金銭報酬についても、ストック・オプションは適用範囲外とされた。
したがって、報酬体系について実務的に基本的な変更はなされなかったといえる。
会社法では、報酬について、従来どおり、確定金額報酬、不確定金額報酬および非金銭報酬の3通りの報酬を認めたが、報酬を「報酬等」と改め、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益を包含することとしている(会社法361条)(図表1参照)。

Ⅱ 役員賞与の支給に係る留意点
会社法361条により、いわゆる通常の報酬に加えて、役員賞与も同じ規制に服することになる。
役員賞与については、平成16年3月9日に公表された、企業会計基準委員会の実務対応報告第13号「役員賞与の会計処理に関する当面の取扱い」によって、発生時に費用処理するのを原則と定められたが、これまでの慣行に従い利益処分案に記載し、株主総会の承認を得て支給すること(未処分利益の減少として処理)も認められたため、実務的には従来どおりの方法を踏襲するところが少なくなかった。
本年5月1日より前に到来する決算期に係る計算書類については、従来どおり利益処分案に記載し、その承認を得て支払うことができるが、役員賞与金は、5月1日から施行された会社法361条の適用をも受けることになる。
実務的には、本年7月総会(4月期決算)までは従来どおり利益処分案に記載するとともに、報酬として受けることを明らかにするため、参考書類に「取締役に対して金○○円、監査役に対して金○○円の賞与金を支給いたしたくご承認をお願いするものであります。なお、対象となる取締役は○○名、監査役は○○名であります。」といった記載が必要となる。
なお、5月期決算以降は、利益処分案が計算書類から外れるところから、利益処分案として賞与の支給について承認を受けることはできない。したがって、賞与支給議案を別途付議することも考えられるが、いわゆる確定型報酬の中に含めることも考えられる。
この場合、仮に従来の枠で不足するのであれば、枠の拡大を行う必要がある。
賞与を定例報酬の中に含めた場合に、一つだけ気になる点がある。賞与としての上乗せ分を従来どおりのタイミングで支払うとした場合、現行の月額で報酬枠の承認を受けている会社は、賞与支給月だけこれをはみ出すことが考えられる。
仮にこのようなことを考えると、この際年額に改めることも検討の余地はある。
Ⅲ ストック・オプションの付与に係る留意点
1 役員報酬としてのストック・オプション
平成14年改正時は、非金銭報酬の適用外とされたストック・オプションについて、会社法は、非金銭報酬としてとらえているようである。
また、新株予約権が有償であるがゆえに、これを無償で新株予約権を発行することにつき、株主総会の特別決議の承認を要するものと整理されていたが、報酬が報酬等に改められ、「賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける利益」と幅広くとらえた結果、職務執行の対価性を認めることによって、新株予約権を無償で交付するのではなく、発行価額相当を職務執行に対して会社が負う債務と相殺すると考え、報酬(確定額)の一部と取り扱われることになった。
したがって、会社法の下では、有利発行として特別決議を要しない代わりに、報酬決定決議として普通決議により交付することになろう。
監査役についても、そもそも監査役に非金銭報酬が適切かどうかという議論を抜きにすれば、取締役と同じく報酬決議として株主総会の承認を受けることで足りるものと考えられる。
2 従業員・子会社役員等への付与
問題となるのは役員以外、たとえば従業員や子会社・関連会社の役職員への付与についてである。
従業員については、賃金の直接支払いの原則との関係が気になるところであり、子会社・関連会社の役職員については、そもそも会社が報酬等にふさわしい債務を負うかどうかが気になるところである。方向性が示されることが期待される(編注・ストック・オプションの取扱いの詳細について、今号・巻頭特集を参照)。
これらについては、方向性が固まるまでは、手堅く、従来どおり、新株予約権の無償発行として株主総会の特別決議を経て支給することが考えられる。
Ⅳ 退職慰労金の支給に係る留意点
最後に、会社法の施行により直接影響を受けるものではないが、ここ数年、役員退職慰労金を廃止する会社が増加しているという点に留意すべきである。2005年版株主総会白書(旬刊「商事法務」1749号)によると、すでに廃止したと回答した会社が回答会社全体の16.6%に、廃止の予定を含めると26.4%に達している(なお、図表2参照)。
役員退職慰労金が報酬の後払いとして考えるならば、打ち切る場合にはこれまでの在任期間に相当する部分の処理をどうするか、これまで役員退職慰労金として認識していた報酬を今後どう取り扱うかが問題となる。
役員退職慰労金支給議案は、機関投資家の反対票の比率が高い議案の一つでもあり、今後見直しの傾向がさらに強まるものと考えられる。平成14年商法改正で示された三つの報酬体系をうまく活用することによって、各社にふさわしい役員報酬体系を考える時期にさしかかっているのかもしれない。

議案の決定と定款変更(6)役員報酬に関する議案の留意点
三菱UFJ信託銀行 執行役員証券代行部長 中西敏和
Ⅰ 会社法における役員報酬の位置付け
役員の報酬については、平成14年商法改正により、確定金額報酬、不確定金額報酬および非金銭報酬の3つに分けて決議の仕方が定められた(旧商法269条の改正)。
その際、従来から行われていた、報酬枠について株主総会の承認を受け、取締役会決議でこれを配分する方法は、確定額報酬とされ、新たに登場した不確定額報酬の典型的な例としては、業績連動型報酬が掲げられたが、これを採用する会社はわずかにとどまり、非金銭報酬についても、ストック・オプションは適用範囲外とされた。
したがって、報酬体系について実務的に基本的な変更はなされなかったといえる。
会社法では、報酬について、従来どおり、確定金額報酬、不確定金額報酬および非金銭報酬の3通りの報酬を認めたが、報酬を「報酬等」と改め、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益を包含することとしている(会社法361条)(図表1参照)。

Ⅱ 役員賞与の支給に係る留意点
会社法361条により、いわゆる通常の報酬に加えて、役員賞与も同じ規制に服することになる。
役員賞与については、平成16年3月9日に公表された、企業会計基準委員会の実務対応報告第13号「役員賞与の会計処理に関する当面の取扱い」によって、発生時に費用処理するのを原則と定められたが、これまでの慣行に従い利益処分案に記載し、株主総会の承認を得て支給すること(未処分利益の減少として処理)も認められたため、実務的には従来どおりの方法を踏襲するところが少なくなかった。
本年5月1日より前に到来する決算期に係る計算書類については、従来どおり利益処分案に記載し、その承認を得て支払うことができるが、役員賞与金は、5月1日から施行された会社法361条の適用をも受けることになる。
実務的には、本年7月総会(4月期決算)までは従来どおり利益処分案に記載するとともに、報酬として受けることを明らかにするため、参考書類に「取締役に対して金○○円、監査役に対して金○○円の賞与金を支給いたしたくご承認をお願いするものであります。なお、対象となる取締役は○○名、監査役は○○名であります。」といった記載が必要となる。
なお、5月期決算以降は、利益処分案が計算書類から外れるところから、利益処分案として賞与の支給について承認を受けることはできない。したがって、賞与支給議案を別途付議することも考えられるが、いわゆる確定型報酬の中に含めることも考えられる。
この場合、仮に従来の枠で不足するのであれば、枠の拡大を行う必要がある。
賞与を定例報酬の中に含めた場合に、一つだけ気になる点がある。賞与としての上乗せ分を従来どおりのタイミングで支払うとした場合、現行の月額で報酬枠の承認を受けている会社は、賞与支給月だけこれをはみ出すことが考えられる。
仮にこのようなことを考えると、この際年額に改めることも検討の余地はある。
Ⅲ ストック・オプションの付与に係る留意点
1 役員報酬としてのストック・オプション
平成14年改正時は、非金銭報酬の適用外とされたストック・オプションについて、会社法は、非金銭報酬としてとらえているようである。
また、新株予約権が有償であるがゆえに、これを無償で新株予約権を発行することにつき、株主総会の特別決議の承認を要するものと整理されていたが、報酬が報酬等に改められ、「賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける利益」と幅広くとらえた結果、職務執行の対価性を認めることによって、新株予約権を無償で交付するのではなく、発行価額相当を職務執行に対して会社が負う債務と相殺すると考え、報酬(確定額)の一部と取り扱われることになった。
したがって、会社法の下では、有利発行として特別決議を要しない代わりに、報酬決定決議として普通決議により交付することになろう。
監査役についても、そもそも監査役に非金銭報酬が適切かどうかという議論を抜きにすれば、取締役と同じく報酬決議として株主総会の承認を受けることで足りるものと考えられる。
2 従業員・子会社役員等への付与
問題となるのは役員以外、たとえば従業員や子会社・関連会社の役職員への付与についてである。
従業員については、賃金の直接支払いの原則との関係が気になるところであり、子会社・関連会社の役職員については、そもそも会社が報酬等にふさわしい債務を負うかどうかが気になるところである。方向性が示されることが期待される(編注・ストック・オプションの取扱いの詳細について、今号・巻頭特集を参照)。
これらについては、方向性が固まるまでは、手堅く、従来どおり、新株予約権の無償発行として株主総会の特別決議を経て支給することが考えられる。
Ⅳ 退職慰労金の支給に係る留意点
最後に、会社法の施行により直接影響を受けるものではないが、ここ数年、役員退職慰労金を廃止する会社が増加しているという点に留意すべきである。2005年版株主総会白書(旬刊「商事法務」1749号)によると、すでに廃止したと回答した会社が回答会社全体の16.6%に、廃止の予定を含めると26.4%に達している(なお、図表2参照)。
役員退職慰労金が報酬の後払いとして考えるならば、打ち切る場合にはこれまでの在任期間に相当する部分の処理をどうするか、これまで役員退職慰労金として認識していた報酬を今後どう取り扱うかが問題となる。
役員退職慰労金支給議案は、機関投資家の反対票の比率が高い議案の一つでもあり、今後見直しの傾向がさらに強まるものと考えられる。平成14年商法改正で示された三つの報酬体系をうまく活用することによって、各社にふさわしい役員報酬体系を考える時期にさしかかっているのかもしれない。

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