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解説記事2006年08月07日 【最新判決研究】 税理士・税務署員の不正行為と重加算税の賦課要件・期間制限(2006年8月7日号・№174)

最新判決研究
税理士・税務署員の不正行為と重加算税の賦課要件・期間制限


東京地裁平成12年(行ウ)第146号 平成13年2月27日判決 税務訴訟資料250号順号8847
東京高裁平成13年(行コ)第77号 平成14年1月23日判決 税務訴訟資料252号順号9050
最高裁平成14年(行ヒ)第103号 平成17年1月17日第二小法廷判決 判例時報1887号36頁
東京高裁平成17年(行コ)第25号 平成18年1月18日判決(差戻し審判決)

品川芳宣
早稲田大学大学院客員教授(専任)
筑波大学名誉教授


一、事実

(1)X(原告、控訴人、被上告人)は、大学教授であるが、昭和62年10月、S会社から代金6,836万円余で買い受けた川崎市多摩区所在の土地(以下「本件土地」という。)を、平成2年9月、T会社に対して、代金1億3,000万円で譲渡(以下「本件譲渡」という。)した。
 Xは、平成3年3月3日、税理士Mに対し、本件譲渡についての平成2年分所得税の確定申告の手続を委任し、同年3月6日、所得税相当額1,800万円と税務代理報酬5万円を支払った。Xの平成2年分所得税の確定申告書は、平成3年3月16日、Y(被告、被控訴人、上告人)税務署長に対し提出された。同申告書によれば、総所得金額999万円余、納付すべき税額7,100円とされていたが、本件譲渡に係る譲渡所得については記載がなかった。Xは、平成9年12月12日、総所得金額1,036万円余、分離短期譲渡所得金額4,882万円余、納付すべき税額2,529万円余とする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出し、平成8年分所得税の還付金により充当された残額2,506万円余を平成9年12月24日から平成10年2月23日までに4回に分けて納付した。
 これに対し、Y税務署長は、平成9年12月19日、Xに対し、過少申告加算税の額を1万1,000円とする賦課決定処分(以下「本件過少加算賦課決定」という。)及び重加算税の額を880万円余とする賦課決定処分(以下「本件重加算税賦課決定」といい、両処分を併せて「本件各賦課決定」という。)をした。
 Xは、本件各賦課決定を不服として、不服申立ての前置を経て(異議決定及び裁決とも棄却)、本訴を提起した。
(2)当時、譲渡に係る所得税は、税務署において作成される事績書等の課税資料、譲渡所得を生じた納税義務者の氏名等を搭載した譲渡者名簿に基づき、納税義務者に申告書用紙等を郵送して確定申告を促して徴税が図られていた。事績書等の課税資料は、納税義務者の転居先の所轄税務署に送付されるが、その授受を確認する手続はとられておらず、課税資料の送付を受けた税務署において、これに基づいて譲渡者名簿が作成される前に課税資料が隠匿され、又は廃棄されると、譲渡所得の発生が事実上把握されず、納税義務者は、譲渡所得の申告をしないことにより、譲渡所得税の納税を免れることができた。
 そこで、Mは、昭和44年、45年ころから、受任した納税義務者について虚偽の転居通知をし、送付を受けた税務署の署員に課税資料を廃棄させ、当該納税義務者の譲渡所得税を申告しない方法による脱税を実行しており、同49年ころからは、O税務署N署員の協力を得ていたところ、平成3年2月中旬ころから3月上旬ころにかけて、虚偽の転居通知をしてO税務署にX他6名の平成2年分の譲渡所得に係る課税資料を送付させ、同署に勤務していたNに廃棄させ、Xらの譲渡所得を申告しないで譲渡所得税を免れることが発覚しないよう取り計らった。
 Nは、謝礼として、Mから合計850万円の支払を受け、平成10年7月3日、加重収賄の罪により懲役3年の有罪判決を受け、Mは、同月21日、平成6年から8年にかけて行った脱税(所得税法違反)及び贈賄につき、懲役4年6月、罰金7,000万円の実刑判決を受けた。

二、争点と当事者の主張

1 争 点
 
① Xによる隠ぺい又は仮装の行為の存否(国税通則法(以下「通則法」という。)68条1項)
② Xによる偽りその他不正の行為の存否(通則法70条5項)
③ 過少申告についての正当な理由の存否(通則法65条4項)

2 Yの主張
(1)Xは、次のとおり、MがXの所得税を逋脱させることを容認した上で、具体的方法をMに委ね、脱税報酬を含め、又はその全額が報酬に充てられても異存はないとの意思の下に、Mに対し、1,805万円を支払い、Mが確定申告書を提出し、これにより、当初から所得を過少に申告することを意図した上で、その意図を外部からも窺いうる特段の行為をしたというべきで、「隠ぺい又は仮装」の行為によって、本件土地の譲渡に係る所得税を免れた。
(2)本件において、Mが、Xから申告手続を依頼され、隠ぺい又は仮装の行為に及んでおり、Mの行為はXの行為と同視し得るというべきで、Xは、Mが架空の経費を計上することを知りながら黙認したものであるが、Mの隠ぺい又は仮装の行為についてのXの認識のいかんにかかわらず、重加算税の賦課要件が満たされる。
(3)Xは、重加算税を賦課されるべき「偽りその他不正の行為」によって本件譲渡に係る所得税額を免れ、本件各賦課決定は、加算税の納税義務成立の日である法定申告期限の経過の時から7年を経過する前にされており適法である。納税者から納税手続を受任した者の行為は、原則として、その効果が本人に帰属し、受任者の行為が納税者の行為と同一視でき、受任者による隠ぺい又は仮装の行為がされた以上、その選任、監督について納税者に過失がない場合を除き、受任者の申告の効果が納税者に帰属する。

3 Xの主張
(1)Mは、Xから、平成2年分所得税の申告及び納付を受任し、1,800万円を預かり、Xについて虚偽の転入通知をし、Nが課税資料を廃棄する方法により、Xの所得税申告を妨害し、1,800万円を横領したのであり、Xは、不正行為に巻き込まれ、濡れ衣を着せられたのであって、脱税をする意思や脱税のための積極的な行為はしていない。
(2)Xは、次のとおり、Mの選任及び監督について過失がなかった。
① Xは、税務知識がなく、知人のTに照会して資格のある税理士であることを確認し、Mに対し、平成2年分譲渡所得の申告手続を依頼した。
②Xは、Mに申告手続を委任し、納税資金1,800万円を預け、税務代理報酬5万円を支払い、預り証及び領収書を受領しており、MがNと共謀して納税資金を横領する意図であったことを知る由もなかった。
③ Xは、税務知識に乏しく、当時多忙を極めており、Mを信頼して申告手続を一任し、その後、Xの妻を介して納税が完了したとの報告を受け、平成2年度の納税は終了したと考えたのであり、Mについて「職務の公正を疑わせる事情」は存在せず、選任を中止し、又は監督する必要を感じなかった。
(3)Xは、前記のとおり、脱税をする意思がなく、脱税のための積極的な行為をしておらず、「偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた」事実はなく、納税義務の成立の日から5年を経過した平成8年3月16日以後に平成2年分所得税に係る加算税の賦課決定を行うことは許されない。
(4)Xの平成2年分所得税の申告が過少となったのは、前記のとおり、M及びNによる妨害のためであって、Yの行政処理や指導が的確を欠いたのであり、納税者のみにその責を帰することは酷であり、このような事情は、通則法65条4項に規定する「正当な理由」その他の真にやむを得ない事情がある場合に該当し、Xに対して過少申告加算税を課すことは許されない。

三、一審判決要旨

請求棄却。

(1)本件の認定事実によれば、Xは、Mに、平成2年分所得税の申告を委任する際に、同税の納付すべき税額の一部を免れるよう脱税工作を敢行したものであると認められる。
(2)Xのこのような行為は、同人の平成2年分所得税について、通則法68条1項所定の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装に当たるというべきであるから、本件重加算税賦課決定が課された限度においては重加算税の課税要件が具備しているというべきである。また、かかる行為は、通則法70条5項に規定する偽りその他不正の行為により税額を免れた行為にも当たるというべきであるから、本件各賦課決定が期間制限に違反してされたといえない。

四、控訴審判決要旨

原判決取消し(請求認容)。

(1)重加算税の制度は、これによって悪質な納税義務違反の発生を防止し、申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。この趣旨から、重加算税を賦課するためには、過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為があり、これに合わせた申告がされることを要する。しかしながら、納税者が、資料の隠匿等の積極的な行為をすることまでは必要でなく、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からも窺いうる特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合、重加算税の賦課要件が満たされる。
(2)認定した事実、殊に、800万円も税が減少して得すると説明を受け、支出していないか又は裏付けのない費用を経費として計上して示され、その資格について知人に確認していることからすると、Xは、Mが違法な手段により税額を減少させるのではないかとの疑いを抱いたと推認される。しかしながら、国が資格を付与し、税法に違反する行為を法律で禁止され、懲戒をも課される我が国の税理士制度の下では、納税者は、税理士に対し、税務申告手続の煩わしさから解放されるとともに、法律に違反しない方法と範囲で必要最小限の税負担となるように専門的知識と経験を発揮していわゆる節税をすることをも期待して委任するのであり、これを超えて、脱税をも意図して委任するのではない。Xも、経験したことのない多額の譲渡所得を得、譲渡所得税の申告手続の煩わしさからの解放とともに、いわゆる節税を意図してMに委任したと推認されるものの、同税理士のした前記の説明に疑義を呈しなかったことを超えては、脱税を意図し、その意図に基づいて行動したと認めるには足りない。
(3)税理士は、税務専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。このような公共的な使命を担う税理士は、納税義務者と税務当局のいずれにも偏しない独立した公正な立場で行動すべきもので、Mによる前記方法での脱税について、直ちに委任者であるXの責任を問うことはできない。
(4)Yは、要旨、税理士による脱税について重加算税を賦課することは、生じた国家的損失を当該税理士を委任した納税者に負担させるのが公平である旨主張するが、この主張は、本件において、税理士が脱税し、納税者から金員を騙し取り、国家と共に納税者にも被害を与えており、これらの被害が税務署員の協力なくしては発生しえなかった事実を無視するものである。Xは、税務署勤務の経験を有するMに1,800万円もの多額の金員を騙し取られた被害者であり、税理士と共謀して課税資料を廃棄し、税理士が納税者から金員を騙し取るのを可能にした税務署員は、共犯にほかならない。税務当局も、本件においては、脱税をするような明らかに税理士の資質に欠ける元税務署員を税理士にした点は措いても、税理士の脱税及び部内の共犯者の行為に長年気づいておらず、どちらかといえば、加害者と同視されるべき立場にある。この事実をも踏まえると、Xの過少申告に対する重加算税の賦課は、前記のとおり、事実の裏付けを欠いて是認することができないだけでなく、税務署員及び元税務署員の悪行について甘受すべき非難を納税者に転嫁して免れようとするに等しく、課税法規の適正な適用の見地からも大きな疑問がある。
(5)以上のとおり、本件においては、本件土地の譲渡所得の過少申告について重加算税を賦課すべき要件に欠ける他、譲渡所得等について、平成2年分の所得税の確定申告書の提出期限である平成3年3月15日から5年を超えて、なお過少申告加算税を賦課することのできる事由が認められず、平成9年12月19日付けをもってされた本件重加算税賦課決定等は、通則法70条4項の期間の制限を過ぎた後にされたものとして違法である。

五、上告審判決要旨

原判決破棄、原審差戻し。

1 通則法70条5項の解釈適用

 通則法70条5項の文理及び立法趣旨にかんがみれば、同項は、納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず、納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるものというべきである。前記事実関係によれば、Xは、平成2年分の所得税について、申告を委任したMの前記の脱税行為によりその税額の一部を免れたものということができる。そうすると、Xの同年分所得税に係る重加算税賦課決定等については同項が適用されることになるから、本件各賦課決定はその除斥期間内にされたものというべきである。

2 通則法68条1項の解釈適用
 前記事実関係によれば、Mは、本件土地の譲渡所得に関し、Xに対し、本件土地の買手の紹介料等を経費として記載したメモを示しながら、800万円も税額を減少させて得をすることができる旨の説明をしたが、Xは、上記紹介料を実際に出費していなかったし、出費した旨をMに告げたこともなかったにもかかわらず、上記の説明を受けた上で、Mに対し、平成2年分所得税の申告を委任し、税務代理の報酬5万円のほか、1,800万円を交付したというのである。そうであるとすれば、Xは、Mが架空経費の計上などの違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知していたとみることができるから、特段の事情のない限り、XはMが本件土地の譲渡所得につき架空経費を計上するなど事実を隠ぺいし、又は仮装することを容認していたと推認するのが相当である。原審が掲げる上記の事情だけによって、上記特段の事情があるということはできない。そうすると、Xが脱税を意図し、その意図に基づいて行動したとは認められないとした原審の認定には、経験則に違反する違法があるというべきである。
 そして、本件において、XとMとの間に本件土地の譲渡所得につき事実を隠ぺいし、又は仮装することについて意思の連絡があったと認められるのであれば、本件は、通則法68条1項所定の重加算税の賦課の要件を充足するものというべきであるところ、記録によれば、Mにおいても、Mが本件土地の譲渡所得につき事実を隠ぺいし、又は仮装することについて、Xがこれを容認しているとの認識を有していたことがうかがわれる。そうすると、原審の上記の経験則違反の違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかである。

3 結 論
 以上によれば、原判決は破棄を免れない。そして、XとMとの間に前記の意思の連絡があったと認められるかどうかなどについて、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。


六、差戻し審判決要旨

原判決一部取消し(重加算税部分取消し)。

1 通則法70条5項適用の有無

 通則法70条5項は、納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず、納税者から委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるものと解すべきであるところ、本件において、Xが平成2年分所得税の申告手続をMに委任し、Mが偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者であるXが平成2年分所得税に係る税額の一部を免れたことについては争いがないから、同条5項2号の期間内にされた本件各賦課決定処分に、同条4項に規定する除斥期間経過後であることの違法は認められない。
 この点につき、Xは、Mの行為は、Xによる委任の範囲を越えたものであるから、上記上告審判決の判断の拘束力は及ばないと主張する。しかし、通則法70条は、課税(賦課)権について時的限界を規定するものであり、通則法73条3項に規定する徴収権の消滅時効と同様、納税義務自体の消長又は納税義務の多寡を規定するものではない。そして、通則法70条5項は、同条4項で賦課権の除斥期間を規定した国税についても、偽りその他不正の行為による申告行為等、課税当局の発見、調査が妨げられるような事情があった場合に、その例外を規定するものであって、これは偽りその他不正の行為をした者への制裁を目的としたものではない。したがって、納税者、その補助者又は代理人によるものであっても、納税者の納税義務の確定手続において客観的に「偽りその他不正の行為により全部又は一部の税額を免れ」たとの事実がある場合には、納税者自身が具体的な偽りその他不正の行為を意図し、又は指示したか否かを問うことなく、同条5項が適用されるものと解すべきであり、本件上告審判決の上記説示も同趣旨を説くものと解すべきである。

2 過少申告加算税と重加算税の関係
(1)過少申告加算税の賦課は、過少申告に対して経済的不利益を与えることにより、より正確な申告を一般的に奨励し、申告納税方式による税の税額の確定を円滑ならしめることを目的とするものであり、過少申告となったことの原因や、納税者の認識や過失の有無を問うものではない。もっとも、納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、単なる租税法令の不知又は誤解を超えて、真にやむを得ない理由があるときは、「正当な理由」があるものとして、その正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、過少申告加算税を算出することとなる(通則法65条4項)。そして、この過少申告加算税の例外事由である「正当な理由」の主張立証責任は、納税者にあるものと解すべきである。
(2)また、重加算税の制度は、税務行政を混乱させて余分な徴税コストを負担させたという国家的損失を補填させるとともに、一般的に正確な申告を奨励するに止まらず、悪質な納税義務違反に対するより大きな経済的制裁を課することにより悪質な納税義務違反行為への誘因を減殺し、申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。そして、この制度目的及び法の文理に従えば、重加算税の賦課要件としては、過少申告の計算の基礎となるべき事実につき客観的に隠ぺい又は仮装の行為があり、この隠ぺい、仮装の行為に合わせた申告がされるというだけでは足りず、その隠ぺい、仮装の行為が納税者の行為と評価し得る(納税者に帰責すべき)事由が必要である。もっとも、この場合、納税者自身が資料の隠匿、隠ぺい又は仮装等の積極的な行為をすることまでの必要はなく、当該隠ぺい又は仮装の行為をした補助者又は代理人が過少申告の計算の基礎となるべき事実につき架空経費の計上などの違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知していたなど、隠ぺい又は仮装の行為がされることを容認し、その間に意思の連絡がある場合には、通則法68条1項所定の重加算税の賦課の要件を充足するものというべきである。また、補助者又は代理人のした隠ぺい又は仮装の行為が納税者の意図し又は委任した行為とその態様を異にし、又はその態様において過大であったとしても、納税者の目的が納税の一部又は全部を免れることにある以上、隠ぺい又は仮装の行為の態様を異にし又はその態様が過大であることは納税者の目的に反するものではないから、特段の事情のない限り、納税者は使者又は代理人による当該隠ぺい又は仮装の行為をも容認していたものと推認される。
(3)通則法65条の規定による過少申告加算税と同法68条1項の規定による重加算税とは、相互に無関係な別個独立の処分ではなく、上記のとおり重加算税は過少申告加算税の加重形態として理解されるから、重加算税賦課決定は、過少申告加算税において賦課されるべき一定の税額に加重額に当たる一定の金額を加えた額の税を賦課する処分として、過少申告加算税の賦課に相当する部分をその中に含んでいるものと解される。
 したがって、同法68条1項による重加算税の賦課決定に対する取消訴訟において、同項所定の加重事由は認められないが、同法65条所定の過少申告加算税の賦課要件の存在が認められる場合には、上記賦課決定のうち過少申告加算税額に相当する額を超える部分のみを取り消すことができるものと解するのが相当である。

3 通則法68条1項適用の有無
(1)以上の認定事実によれば、税務に疎かったXは、平成3年2月下旬ころ、何が経費となるものかどうかもよく分からないまま、Mに手持ちの資料を示し、あるいは資料はないが本件土地の購入から売却までの出費を述べて、Mからは、譲渡所得税額は概算では2,600万円となるがMが受任した場合には1,800万円程度で済ますことができるであろうとの説明を受け、銀行借入の利息を必要経費に算入した場合の譲渡所得税額の概算は2,310万円程度になることを理解し、更にMの専門的な知識に基づいて正確な計算をし控除可能な諸経費を控除する等すれば最終的には税額が1,800万円程度にまでなるものと理解したものと認められ、この際、Xが資料を示さなかった支出もXの認識において現実の支出又は財貨の移転を伴ったものであり、架空の経費を告知したものではなかった。また、Xは、初対面であったMの税理士としての信用を知人に確認した上で、Mに税務代理を委任したものであり、税額の大さを考えれば、このような慎重さは当然であり、このことから、Mの税額の概算及び説明に不正の疑惑を感じていたのに、あえて税務代理を委任したと解することは相当でない。
 また、本件の認定事実によれば、XがMによる隠ぺい又は仮装の行為による過少申告を容認し、Mとの間に意思の連絡があったということはできず、また、その余の事情も、Mによる隠ぺい行為による譲渡所得の過少申告につき、Xの帰責事由を認めるには足りないから、Xに対して本件重加算税賦課決定をすることはできないものというべきである。

4 通則法65条4項適用の有無
 Mの行為は、Xとの委任契約の履行上の問題として解決すべきものであり、本件事実関係の下において、Xの過少申告は、Mによる事業所得の申告もれあるいはMによる譲渡所得の隠ぺいという違法行為に基づくものであり、それがYの行政処理の盲点を利用したものであったとしても、違法行為に基づく過少申告について正当な理由があることにはならず、他にYの指導上の落ち度によるものということはできないし(Yの落ち度をいう論旨は、Mとの委任契約上の問題をYにすり替えるものというべきである。)、他に本件証拠によっては正当な理由があるとは認められない。

七、解説

はじめに

(1)本件は、大学教授であるXが、本件譲渡に係る所得税の確定申告と納付を税理士であるMに委任し、Mと税務職員Nが共謀して脱税工作を行ってXから預かった納税資金を詐取した場合に、Xに課された重加算税の賦課決定(本件重加算税賦課決定)の適法性(Xにおける隠ぺい又は仮装の存否)が主として争われたものである。
 また、本件重加算税賦課決定等が当該所得税の法定申告期限(平成3年3月15日)から6年9月経過した平成9年12月19日に行われているので、本件各賦課決定につき、通則法70条5項の適用があるか否か(Xにおける偽りその他不正の行為の存否)が問題とされた。更に、本件重加算税賦課決定について「隠ぺい・仮装」が存しない場合には、その取消方法としては、原則として、過少申告加算税相当部分を超える部分が取り消される。しかし、その場合にも、過少申告について「正当な理由」(通則法65条4項)が存すれば、過少申告加算税相当部分を維持する必要がなくなるので、当該「正当な理由」の存否が問題となる。
(2)かくして、一審判決は、本件各賦課決定を適法と認めたが、控訴審判決が、本件において元税務署員であるMと現税務署員であるNの不正行為に着目して、Xには隠ぺい・仮装の行為はなく、加算税の賦課決定の通常の期間制限を超えて賦課決定すべき事由は認められないとして、本件各賦課決定を全部取り消した。これに対し、上告審判決は、原審の判断には違法事由が認められるとして、原審に差し戻したため、差戻し審の判断が注目されていたものである。
 なお、本件に関しては、Mの不正行為である本件と類似の事案に係る重加算税賦課決定の適否について、別途、最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決(平成17年(行ヒ)第9号、以下「最高裁4月20日判決」という。)及び最高裁平成18年4月25日第三小法廷判決(平成16年(行ヒ)第86号、以下「最高裁4月25日判決」という。)が出されているので、それらの判決とも対比して検討する必要がある。

1 「隠ぺい又は仮装」の意義
(1)過少申告に基づく重加算税の賦課要件は、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」(通則法68Ⅰ)であるが、この場合、まず、「隠ぺい又は仮装」の意義が問題となる。
 この意義について、裁判例では、かつて、和歌山地裁昭和50年6月23日判決(税資82号70頁)が、「「……隠ぺい、又は仮装し」とは、不正手段による租税徴収権の侵害行為を意味し、「事実を隠ぺい」するとは、事実を隠ぺいしあるいは脱漏することを、「事実を仮装」するとは、所得・財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいい、いずれも行為の意味を認識しながら故意に行うことを要するものと解すべきである。」と判示し、その後の裁判例等に影響を及ぼしてきた(注1)。また、最近の裁判例では、京都地裁平成4年3月23日判決(税資188号826頁)が、次のようにも判示している。
 「同条項の隠ぺいし、仮装するとは、申告納税制度をとる所得税について租税を逋脱する目的をもって、故意に税額等の計算の基礎となる事実を隠匿し、または作為的に虚偽の事実を附加して調査を妨げるなどの行為をいう。隠ぺいには、右基礎事実を隠匿し、その事実の存在を不明にし、仮装は、虚偽の事実が存在するかのように装うことをもって足り、その発見の難易を問うものではない。もとより、納税者においてその行為を、隠ぺい又は仮装と考えただけでは足りず、客観的な隠ぺい、仮装行為が必要である。」
(2)このような「隠ぺい又は仮装」の意義についての前掲裁判例上の考え方に照らし、当該賦課要件を充足するためには、まず、納税者例の「故意」(認識)の要否が問題とされる。この問題については、最高裁昭和62年5月8日第二小法廷判決(税資158号592頁)が、次のとおり判示したことにより、「課税要件となる事実を隠ぺい又は仮装することについての認識があれば足り、その後の過少申告等についての認識までは必要としない」という考え方が、その後の裁判例において支配的となっている。
 「国税通則法68条に規定する重加算税は、同法65条ないし67条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、同法68条1項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ペいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。」
(3)また、平成12年7月に公表された国税庁の取扱い(平成12年7月3日付課所4-15「申告所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」)では、「隠ぺい又は仮装」の意義について、二重帳簿の作成等の不正事実をいうものとし、隠ぺい又は仮装の行為については、特段の事情がない限り、納税者本人が当該行為を行っている場合だけでなく、配偶者又はその他の親族等が当該行為を行っている場合であっても納税者本人が当該行為を行っているものとして取り扱う、としている(注2)。
(4)本件においては、Xから本件土地の譲渡に係る所得税の確定申告について委任を受けた税理士であるMが、虚偽のXの転居通知をして他の税務署へ課税資料を送付させ、送付先の税務署の職員Nにその課税資料を廃棄させることにより、Xの譲渡所得税を免れさせたというものであるから、「隠ぺい又は仮装」という客観的事実があったことは明らかである。
 また、Mらが当該「隠ぺい又は仮装」の事実を認識し、かつ、税を免れることを認識していたことも明らかであるが、仮にXが当該事実を認識していなかった場合に、前掲最高裁昭和62年5月8日第二小法廷判決が判示する「認識」(故意)の要件を充足しているか否かは、Mの行為をXの行為と同視し得るか否かが問題となる。この点について、一審判決は、従前の裁判例に照らして、税務代理をした税理士Mの行為と本人Xの行為と同視し得ると判断したものと考えられる。しかし、控訴審判決がそれを否定し、上告審判決がその考え方を更に否定したものであるが、結局、Mらの隠ぺい又は仮装行為が即Xの行為と同視し得るかについては、通則法68条1項にいう「納税者」の解釈のあり方に関わってくることになる。

2 「納税者」の意義と税理士の行為
(1)通則法68条1項にいう「納税者」については、同法2条5号の定義の文理のみにこだわって解釈すると、隠ぺい又は仮装の行為者は、個人については、納税者本人に限定すべきであり、法人についてはその法人を代表すべき代表取締役等本人に限定すべきであるとする解釈も成り立ち得よう。
 しかしながら、重加算税制度がそもそも納税義務違反に対する行政制裁であること、かかる納税義務については、納税者本人以外の従業員等の補助者又は納税申告の委任を受けた代理人が当該国税の課税標準等の計算に従事することにより履行されることが多いこと、かかる行政制裁よりもはるかに厳しい要件の下に罰せられる逋脱氾に対しては、「代理人、使用人その他の従業者」が脱税行為をした場合には、罰則規定が別途設けられていること(所法244、法法164等参照)等からみて、通則法68条の規定は、隠ぺい又は仮装の行為者について納税者本人に限定することを予定していたものとも解し得ない(注3)。
 この点について、京都地裁平成4年3月23日判決(税資188号826頁)は、「納税者自身が、隠ぺい、仮装行為を行なうのはもとよりのこと、納税者が他人にその納税申告を一任した場合、その受任者又はその受任者が租税を逋脱する目的をもって、故意に前示基礎事実を隠ぺい又は仮装した場合にも、特段の事情がない限り、同条項にいう納税者が『隠ペいし、又は仮装した』に該当するというべきである。」と判示しており、多くの裁判例が同様に判示している(注4)。
 なお、大津地裁平成6年8月8日判決(税資205号311頁)は、前掲判決にいう「特段の事情」に関し、「もっとも、受任者が隠ぺい又は仮装を行った場合でも、(a)その受任者の選任・監督について納税者に過失がないとか、(b)納税者が正当な税額の納税をする意思でそれに相当する額の金銭を受任者に現実に交付したのに、受任者がこれを着服横領して自分の利益を図ったといった特段の事情がある場合には、納税者自身にそれによる不利益を課することが相当でないと解する余地もある。」と判示している。
(2)このように、従前の裁判例及び前記通達の考え方からすれば、納税者が他人にその納税申告を一任し、その受任者が課税要件事実を隠ぺい又は仮装した場合には、特段の事情がない限り、納税者自身が「隠ぺいし、又は仮装した」ことに該当するものと解されている。
 その中でも、特に税理士が関与した場合について、東京高裁平成3年5月23日判決(税資183号807頁)では、「仮に、控訴人代表者がK税理士に具体的に右のような指示(編注・有価証券売却益を決算書及び確定申告書から除外すること)をしていないとしても、控訴人は、その委任を受けた税理士の隠ぺい行為について、その責めを免れるものではない。」と判示している。この判決からは、税務代理を業とする(税理士法2Ⅰ①)税理士の行為については、特段の事情が容認されるケースは自ら限定されるものと考えられる。
 本件においては、Xは、大学教授の職にあり、本件係争の平成2年分以前の所得税については自己の責任で確定申告を行っていたというのであるが、平成2年分所得税についてのみ、確定申告書の提出とその記載事項について確認もせず、当該税額の納付済の確認もしていなかったことが窺われるという不自然さがあり、かつ、当初、Mから本来ならば2,600万円余の納税を要する旨説明を受けていた旨の事実も存する。
 このような不自然さ等に鑑みれば、Xは、Mの選任過程と納税申告手続の過程において、Mの不当な節税(又は租税負担回避)手腕を相当に期待していたことが推認される。このような状況の下において、一審判決は、特段の事情も認め難いとして、本件重加算税賦課決定を適法と認めたものと考えられる。
(3)しかしながら、控訴審判決は、Mの不正行為は認定したものの、元税務署員であったMと現税務署員であるNが共謀して脱税工作を行ったことを重視し、Xには、重加算税を課すべき帰責事由はなく、かつ、賦課決定の期間制限を延長すべき偽りその他不正の行為もなかったものと判断して、本件各賦課決定を全部取り消した。
 これに対し、上告審判決は、Mの不正行為について通則法70条5項の適用を認めた上で、本件重加算税賦課決定に関し、Mの不正行為については、特段の事情がない限り、Xがその不正行為を容認していたと推認するのが相当であるところ、原審の認定は安易に特段の事情を容認したものと認められる旨判示して、原審に差し戻した。
 かくして、差戻し審判決は、上告審判決の趣旨に則って本件における賦課決定の期間制限の延長を容認し、重加算税(加算税)の解釈論を判示した上で、本件の事実関係を詳細に認定し、XがMの不正行為を容認し、Mとの間に意思の連絡があったということはできないと認定して、本件重加算税賦課決定について重加算税部分を取り消した。
 このように、納税申告を受任した税理士の不正行為を納税者本人が容認していたか否かによって重加算税の賦課決定の適否を判断する考え方(特段の事情の容認)は、前掲の最高裁4月20日判決及び最高裁4月25日判決においても採用されている。したがって、従来の裁判例においては、特段の事情を厳しく解して税務代理をした税理士の不正行為が納税者本人の帰責事由に当たると認定されてきたが(注5)、本件の差戻し審判決や前掲各最高裁判決においては、特段の事情を従前よりも弾力的に解しているように認められる。

3 「偽りその他不正の行為……」との関係
(1)通則法上、過少申告に係る更正又は賦課決定の期間制限は、原則として、当該国税の法定申告期限から3年以内とされている(通則法70条1項1号)が、「偽りその他の不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ」た国税(当該国税に係る加算税及び過怠税を含む。)についての更正決定等(注6)については、当該国税の法定申告期限又は当該加算税の納税義務の成立(通常、法定申告期限の経過の時(通則法15Ⅱ⑬))から7年以内となる(通則法70Ⅴ)。かくして、「偽りその他の不正の行為……税額を免れ」ることの意義が、重加算税の賦課要件との関係で問題となる。
 この点、名古屋地裁昭和46年3月19日判決(税資62号344頁)は、「「偽りその他不正の行為」とは脱税を可能ならしめる行為であって、社会通念上不正と認められる一切の行為を包含するものと解すべき」と判示した上で、裁決で「隠ぺい又は仮装行為」がないとして重加算税の賦課決定が取り消されたとしても、「偽りその他不正の行為」があるとして除斥期間を延長してなされた更正処分の効力に影響を及ぼさない旨判示している。
 この判決は、「偽りその他不正の行為」の概念の方が広いことを意味し、実務上で重加算税の対象となる所得の範囲よりも逋脱罪における犯則所得の範囲の方が広い(例えば、青色特典益取崩しの取扱い)ことからも首肯できる。
 他方、所得税法238条等の文言と通則法70条5項の文言が同じこと(特に、「税額を免れ」)からすれば、逋脱罪の構成要件たる犯意が立証されたとき(脱税事件として告発又は起訴されたとき(最終的には、判決が確定した時を意味しようが))に限定して、更正決定等の期間制限が延長されるべきとする解釈もあり得ることになる。
 しかしながら、課税の実務では、期間制限の延長と逋脱罪の関係については、可罰性の有無の問題であって、逋脱罪の成立とは関係なく、「偽りその他不正の行為」(実質的に「隠ぺい・仮装行為」と同義となろうが)があれば、「税額を免れ」の認識に関係なく、期間制限が延長されているようである。この点、前記解釈論との関係で疑義が残る(注7)。
(2)しかしながら、本件の各判決においては、このような吟味が不十分である。すなわち、一審判決は、「隠ぺい又は仮装」に当たれば、「偽りその他不正の行為……」に当たると判断し、控訴審判決は、「隠ぺい又は仮装」が存しなければ、「偽りその他の不正の行為」も存しないと判断している。
 更に、上告審判決は、「納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず、納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合」には、通則法70条5項が適用されると判断し、差戻し審判決も、期間制限の延長は行政制裁でないからとして、この考え方に従っている。
 ところで、重加算税の賦課決定は、それが申告秩序維持のための行政制裁であることに鑑み、「隠ぺい・仮装」という外形的事実を重視し、「税を免れる」という逋脱の認識を要しないというのが判例の考え方であった(注8)。これに対し、更正決定等の期間制限の延長等の要件となる「偽りその他不正の行為により……税額を免れ」(通則法70Ⅴ、73Ⅲ、同旨67Ⅰ)については、前述のように、逋脱罪の構成要件に酷似しているので、重加算税の賦課よりも一層「税を免れる」という逋脱の認識が重要であるように考えられる。
 ところが、本件の一審判決を除く各判決と最高裁4月20日判決及び同4月25日判決は、重加算税の賦課については、「税を免れる」ことについての納税者本人の認識を重視している。そして、本件の上告審判決及び差戻し審判決は、更正決定等の期間制限の延長については、そのような認識を全く無視している。このような差異については、前述の解釈論とは異なって、裁判所が新たな判断を示したようにも解せるが、むしろ、通則法68条1項の適用要件と通則法70条5項等の適用要件について、それぞれの文理に即して十分な検討を怠っているようにも考えられる。

4 加算税賦課に関する「正当な理由」
(1)通則法上、過少申告加算税、無申告加算税及び不納付加算税については、過少申告等について、「正当な理由」が存する場合には、その部分について過少申告加算税等は賦課されないこととされている(通則法65Ⅳ、66Ⅱ、67Ⅰただし書)。
 そして、この「正当な理由」については、多くの判決が納税相談等における税務職員の誤指導があった場合にはこれに当たる旨判示しており(注9)、国税庁の取扱い通達においても、これを容認している(注10)。これは、課税庁側に何らかの不手際があった場合には、納税者側の過少申告等における帰責事由を緩めたものとも考えられる。
 ところで、重加算税の賦課に関しては、無申告加算税及び不納付加算税に代えて課(徴)する場合には、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められるとき(通則法68Ⅱかっこ書)又は国税を法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められるとき(通則法68Ⅲかっこ書)には、重加算税は賦課されないが、過少申告加算税に代えて課す場合には、正当な理由の存否とは関係なく重加算税が賦課される。しかし、このような立法上の差異については、納得できる合理的な理由があるとも考えられない(注11)。
(2)この点について、本件の控訴審判決は、前述のように、元税務署員であったMと現税務署員であるNとの不正行為を重視して、本件重加算税賦課決定を取り消したのであるが、通則法68条1項の規定についての文理解釈の当否はともかくとして、むしろ、同項の適用において「正当な理由」を容認すべきことを示唆したものと評価し得る。
 しかしながら、このような重要な論点が存するにもかかわらず、上告審判決において一切言及されることはなかったし、差戻し審においては、一転して、「Mによる譲渡所得の隠ぺいという違法行為に基づくものであり、それがYの行政処理の盲点を利用したものであったとしても、違法行為に基づく過少申告について正当な理由があることにはならず」と判示して、過少申告加算税の賦課自体においても正当な理由の存在を否定した。
 ところで、最高裁4月20日判決及び同4月25日判決では、本件の類似事案(Mと税務署員と共謀による不正事実の存否等が問題とされている)について、「正当な理由」の存否が争われたところ、前者は、当該共謀の事実も認められず、納税者自身も過少申告の事実を確認しなかったから、「正当な理由」は認められないとし、後者は、当該共謀の事実が認められる等として、「正当な理由」を認めている。このような最高裁判決の考え方については、本件の差戻し審判決が再上告されていることもあり、本件についても、共謀の存否等に関して平仄が合った判断が示されることが予測される。
 いずれにしても、本件のような税理士と税務署員の共謀による不正工作に関して納税者の過少申告に「正当な理由」が認められるとすれば、先例として注目されることになる。

5 本件各判決の意義と問題点
(1)以上のように、本件は、譲渡所得の納税申告の委任を受けた税理士(M)が、知人の税務署員(N)と共謀して、不正な過少申告を行い、納税者(X)から預っていた納税資金を詐取した場合に、重加算税が賦課されるか、及び加算税の賦課決定の期間制限が延長され得るかが、争われたものである。
 かくして、一審判決は、従前の裁判例に従って、本件重加算税賦課決定及び本件過少申告加算税賦課決定をそれぞれ適法と認めたのであるが、控訴審判決は、MとNの共謀による不正事実を重視し、Xに隠ぺい・仮装についての帰責事由はないとして、また、当該事由は通則法70条5項に定める「偽りその他不正の行為」にも当たらないとして、本件重加算税賦課決定を全部取り消した。
 これに対し、上告審判決は、Mが行った不正行為が「偽りその他不正の行為」に該当するとした上で、重加算税の賦課決定を回避し得る「特段の事情」について原審が十分な認定をしていないとして、本件を原審に差し戻した。そのため、差戻し審判決は、上告審判決の趣旨に則り、本件各賦課決定の期間制限の延長を容認し得るとした上で、本件の事実関係の下では、XとMとの間にM等がした隠ぺい又は仮装行為について意思の連絡があったとは認められないとし、かつ、過少申告について正当な理由が認められないとして、過少申告加算税相当額を上回る部分の本件重加算税賦課決定を取り消した(一部取消し)。
 このような各判決については、納税申告の委任を受けた税理士の不正行為について、それぞれ異なった見地から重加算税(又は過少申告加算税)賦課決定の当否が判断されたものとして注目されるものである。特に、差戻し審判決については、重加算税賦課部分の判断につき、類似事案に係る最高裁4月20日判決及び同4月25日判決と共通した論点がある。
(2)しかしながら、これらの各判決については、幾つかの問題点が指摘できる。まず、本件の上告審判決は、前述したように、賦課決定の期間制限の延長については、XがMの不正行為を容認(認識)していることを要件とする必要はないとしながらも、重加算税の賦課においては、そのような認識の存否を問題にしていることである。そして、このような判断は、差戻し審判決にもそのまま影響を及ぼすことになった。また、Mと税務署員との共謀による不正行為が問題になったことでは共通する最高裁4月20日判決及び4月25日判決においても、納税者本人が税理士等による不正行為を認識していなかったとして当該重加算税賦課決定を取り消している。
 このような裁判例の傾向については、判例の動きであると評価されるであろうが、納税申告を受任した税理士の不正行為を納税者本人が認識していたことを課税庁側に立証を求めることになるので、申告秩序維持のためという行政制裁たる重加算税制度の趣旨にそぐわないように考えられる。もっとも、これらの各判決は、税理士の不正行為について納税者本人の帰責事由とならないとする特段の事情を認めた一つの事例に過ぎないと解することができれば、その影響も少ないものと考えられる。
 次に、本件と類似する事実関係の下における過少申告に関し、最高裁4月20日判決は、税理士と税務署員の共謀もなかったとして、「正当な理由」を否定したのに対し、最高裁4月25日判決は、当該共謀の事実を認めて「正当な理由」を容認しているが、本件の差戻し審判決は、当該共謀の事実が認められるとしても、それは「正当な理由」に当たらないとしていることが対比される。これらの対立についても、本件の再上告審において決着がつくものと考えられる。

(注1)名古屋地裁昭和55年10月13日判決(税資115号31頁)、京都地裁平成元年9月22日判決(同173号831頁)、大阪高裁平成3年4月24日判決(同183号364頁)、品川芳宣『附帯税の事例研究 第三版』(財経詳報社)261頁以下等参照)。
(注2)国税庁では、各税目ごとに重加算税の取扱いを公表しているが、各税目間の取扱いの齟齬等が問題とされる(品川芳宣『租税法律主義と税務通達』(ぎょうせい)82頁以下参照)。
(注3)前出(注1)書300頁以下参照。
(注4)大阪地裁昭和36年8月10日判決(行裁例集12巻8号1608頁)、静岡地裁昭和44年11月28日判決(税資57号607頁)、東京地裁昭和55年12月22日判決(同115号882頁)、東京高裁昭和57年9月28日判決(同127号1068頁)、名古屋地裁平成10年10月28日判決(同238号892頁)等参照。
(注5)前出(注1)書318頁参照。
(注6)更正決定等とは、更正若しくは決定又は賦課決定をいう(通則法58Ⅰ①)。
(注7)品川芳宣「重加算税賦課に求められる課税の明確性-日本税理士会連合会税制審議会答申をもとに-」税理43巻6号6頁参照。
(注8)最高裁昭和62年5月8日第二小法廷判決(訟務月報34巻1号149頁)、福井地裁平成2年4月20日判決(税資176号647頁)、大阪地裁平成3年3月29日判決(同182号878頁)、神戸地裁平成4年9月30日判決(同192号809頁)、大阪高裁平成6年4月27日判決(同201号262頁)、東京高裁平成11年2月24日判決(同240号895頁)等参照。
(注9)大阪地裁昭和43年4月22日判決(税資52号674頁)、長崎地裁昭和44年2月5日判決(同56号23頁)、東京地裁昭和46年5月10日判決(同62号658頁)、札幌地裁昭和50年6月24日判決(同82号238頁)等参照。
(注10)平成12年7月3日付「申告所得税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」第1の1(4)参照。
(注11)前出(注1)書249頁参照。

品川芳宣(しながわ・よしのぶ)

国税庁審理課課長補佐、東京地裁調査官、税務大学校教育二部長、国税庁資産評価企画官、同徴収課長、同管理課長、高松国税局長などを経て、平成7年筑波大学教授。平成17年早稲田大学大学院客員教授(専任)、筑波大学名誉教授、税務大学校客員教授。弁護士
【主要著書】
『課税所得と企業利益』(税務研究会)、『役員給与税務事例集』(商事法務研究会)、『役員報酬の法律と実務』(同)、『附帯税の事例研究』(財経詳報社)、『法人税の判例』(ぎょうせい)、『相続税財産評価の論点』(同)、『重要租税判決の実務研究・増補改訂版』(大蔵財務協会)、『役員報酬の税務事例研究』(財経詳報社)、『租税法律主義と税務通達』(ぎょうせい)、『徹底解明相続税財産評価の理論と実践』(同)他多数。

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