解説記事2006年12月18日 【制度解説】 持分会社に関する諸論点(2006年12月18日号・№191)
解説
持分会社に関する諸論点
法務省民事局付 清水 毅
はじめに
会社法において新たな会社類型として創設された「合同会社」については、同法の施行以後、その設立件数が順調に増加してきているようである。
この合同会社を始めとする持分会社には、株式会社とは異なる点が少なくないため、固有の法的論点もみられる。本稿では、そのような論点のなかから主に登記に関連するものを取り上げ、検討することとしたい。
なお、本稿中「持分会社」と記載している事柄は、合同会社だけでなく、合名会社や合資会社にも共通に当てはまるものである。
Q1 有限責任事業組合(有限責任事業組合契約に関する法律2条)は、持分会社の社員になることができるか。外国法上のいわゆるLLPはどうか。
A1 会社法においては、法人が持分会社の社員になることが明文で想定されている(会社法576条1項4号、598条)。
これに対し、民法上の組合や有限責任事業組合等の法人格のないものについては、法律上、それ自身が権利・義務の帰属主体になることができないため、持分会社の社員になることもできないものと解される。
また、外国法上のLLPについても、そのLLP自身が権利・義務の帰属主体になることができるものでない限り、持分会社の社員になることはできないものと解される。
Q2 「社員の氏名・名称 △△組合 代表組合員 ○○○○」との記載および住所の記載があり、当該代表組合員の押印がされている定款は、持分会社の定款として有効か。
A2 法人格のない組合自身が持分会社の社員になることはできないとしても、法人格のない組合の組合員である自然人または法人が持分会社の社員になることは、もとより可能である。
たとえば、有限責任事業組合の各組合員についてその氏名・名称その他の必要的記載事項(会社法576条)が定款に記載され、その定款にそれぞれが署名等をした場合には、各組合員が持分会社の社員となる。また、組合の代表組合員が各組合員を代理して定款に署名等をすることも可能である。
ただし、当該持分会社の社員が誰であるかは、その実質ではなく、定款の記載・記録から形式的に特定されるべきものである。
したがって、代理人によって定款に署名等がされる場合にも、定款に各社員の氏名・名称および住所(会社法576条1項4号)が明示的に記載・記録されている必要があるものと解される。
そのため、本事案のように、定款に「△△組合 代表組合員 ○○○○」との記載があるだけで、各組合員の氏名等の記載がない場合には、当該組合の各組合員が当該持分会社の社員であると認める余地はないものと解される。
Q3 持分会社を設立する場合、出資金の払込みは、特定の金融機関においてすることを要するか。
A3 持分会社を設立する場合には、株式会社を設立する場合(会社法34条2項参照)とは異なり、出資金の払込みを特定の金融機関(払込取扱機関)においてすることは要せず、設立中の会社に対する払込みであると認められる方法である限り、社員になろうとする者が適宜に合意した方法で払込みを行えば足りる。
持分会社の設立にあたっては、社員になろうとする者のそれぞれが出資金の受領を含む設立事務全般を取り扱う権限を有しているものと解されるから、たとえば、社員になろうとする者のうちの1人を払込取扱者と定め、他の者はそれぞれの出資金をその払込取扱者に直接に受け渡すことによって、払込みを完了することもできる。
なお、合名会社または合資会社を設立する場合には、社員になろうとする者が設立時に出資を完了する必要はない(会社法578条参照)。
Q4 持分会社の設立にあたって、銀行等の口座への払込みをもって出資金の払込みの方法とする場合、当該口座はどのような名義のものであることを要するか。
A4 出資金の払込みは、設立中の会社に対する払込みであると認められる方法によらなければならない。
したがって、持分会社の社員になろうとする者の合意により、銀行等の口座への払込みをもって出資金の払込みの方法と定める場合には、当該口座も、設立中の会社の口座であると認められるものでなければならない。
もっとも、法人格のない設立中の会社の名義で銀行等の口座を開設することは一般に認められていないため、通常、社員になろうとする者(複数いる場合には、それらの者の間で定めた代表者)の名義の口座を用いることになるものと思われる。
また、業務を執行する社員(以下「業務執行社員」という)になろうとする者が法人である場合において、その業務執行社員の職務を行うべき者(以下「職務執行者」という)が選任され、その者の氏名および住所が他の社員になろうとする者に通知されているとき(会社法598条1項)には、当該法人の名義の口座のみならず、当該職務執行者の名義の口座への払込みも、設立中の会社への払込みとして認められるものと解される。
Q5 持分会社の設立時の資本金の額は、どのように定まるか。
A5 持分会社の設立時の資本金の額は、原則として、設立時の社員になろうとする者が設立に際して履行した出資により持分会社に対し払込みまたは給付がされた財産の価額の範囲内で、社員になろうとする者が適宜に定めた額であるとされており、その額は、零以上でなければならない(会社計算規則75条1項)。なお、設立時の社員が設立に際して履行した出資により持分会社に対し払込みまたは給付がされた財産の価額から設立時の資本金の額を減じて得た額は、当該持分会社の設立時の資本剰余金の額となる(同条2項)。
なお、持分会社のうち、合同会社にあっては、資本金の額が登記事項とされている(会社法914条5号)。
Q6 持分会社において、定款の定めにより、社員以外の者に業務執行権限を付与することができるか。
A6 持分会社の基本的な性質の1つとして、社員が自ら業務を執行するという点がある。
したがって、定款の別段の定めにより持分会社の一部の社員の業務執行権限を奪い、他の社員のみに業務執行権限を認めることは可能であるが(会社法590条1項)、社員以外の者に業務執行権限を付与することは認められない。業務執行権限の存在を前提とする持分会社の代表権についても同様である(同法599条参照)。
このように、定款の定めによって社員以外の者に業務執行権限や代表権を付与することができないのは、登記に関する規律からも明らかである(会社法914条6号等)。
なお、社員以外の者が業務執行社員の代理人として業務の執行に関わることは可能である。また、法人が持分会社の業務執行社員である場合において、当該持分会社の社員以外の者が当該法人に係る職務執行者になることは可能である。
Q7 定款で持分会社の社員の一部が業務執行社員と定められている場合において、当該業務執行社員が辞任したときは、誰が当該持分会社の業務執行権限を有することになるのか。
A7 定款で持分会社の社員の一部を業務執行社員と定めるには、それらの業務執行社員を含む総社員の同意が必要であり(会社法575条1項、637条)(注)、また、業務執行社員が辞任したために社員間で予定していた業務執行社員が存在しなくなるという事態をできる限り回避するために、会社法においては、定款で定められた業務執行社員は、正当な事由がなければ辞任することができないこととされている(同法591条4項)。
定款で定められた業務執行社員が正当な事由に基づいて辞任した場合、その限度において定款の当該定めは当然に効力を失うことになるものと解される。そして、その社員以外にも業務執行社員が定款で定められているときには、別途定款の変更をしない限り、他の業務執行社員のみが業務執行権限を有することになり、また、辞任した社員以外には業務執行社員が定款で定められていない場合には、別途定款の変更をしない限り、辞任した社員を含め、持分会社の社員全員がそれぞれ業務執行権限を有することになるものと解される(会社法590条1項)。
なお、後者の場合には、辞任した社員自身も引き続き業務執行権限を有することになる(したがって業務執行について責任も負担することになる(会社法593条、596条、597条等))が、そもそも持分会社においては、定款で別段の定めがある場合を除き、社員のそれぞれが業務を執行することとされており(同法590条1項)、各社員が任意に業務執行権限を放棄することは許されていない以上、当然の帰結といえる。
(注)定款に別段の定めを置けば、総社員の同意によらずに定款の変更をすることもできるようになるが、そのような定款の別段の定めをする際には、もとより総社員の同意を要する。
Q8 「業務を執行する社員の互選によって、持分会社を代表する社員を定める。」との持分会社の定款の定めは有効か。
A8 持分会社においては、①定款で特定の者を持分会社を代表する社員(以下「代表社員」という)とする旨の定めを置くことのほか、②定款の定めに基づく「社員の互選」により、業務執行社員のなかから代表社員を定めることができることとされている(会社法599条3項)。
このうち、②の「互選」とはお互いのなかから選挙して選び出すことを意味するから、「社員の互選」とは、選任権限を有する社員の全員が被選任資格を有することを当然の前提としている。そして、代表社員の被選任資格を有するものが「業務執行社員」に限られることは、会社法599条3項の文理から明らかであるから、②の場合、代表社員の選任権限を有する社員は、必然的に「業務執行社員」に限られることになる。
すなわち、本事案の定款の定めは、②を明示的に定めたものにほかならないことになる。
Q9 株式会社が持分会社の業務執行社員である場合において、当該株式会社の代表取締役が当該持分会社の業務を執行することはできるか。
A9 法人が持分会社の業務執行社員である場合、当該業務執行社員の職務を執行する権限を有するのは当該業務執行社員の職務執行者に限られる。
したがって、本事案における株式会社の代表取締役は、当該株式会社を代表する権限を有することをもって直ちに当該持分会社の業務を執行する権限を有することにはならない。
ただし、当該株式会社の代表取締役を職務執行者として選任することは可能である。
Q10 持分会社の業務執行社員である法人が、その職務執行者を選任する場合、どのような手続を経る必要があるか。
A10 会社法においては、職務執行者の選任手続に関し、特別の規律は設けられていない(会社法598条1項参照)。
したがって、法人がその職務執行者を選任する場合には、法令、定款等に基づいて当該法人が服すべき一般的な規律に従って選任すれば足りることになる。
たとえば、取締役会設置会社(委員会設置会社を除く)である株式会社が持分会社の業務執行社員である場合には、取締役会の決議によって職務執行者を選任しなければならない(会社法362条2項1号)。
なお、取締役会は、原則として、業務執行の決定を取締役に委任することが可能であるが、業務執行社員が株式会社である場合における職務執行者の選任については、登記通達において、当該選任に係る登記(会社法914条8号等)の申請書に、当該株式会社の業務執行の決定機関において選任したことを証する議事録等として「取締役が選任したことを証する書面(取締役会設置会社にあっては取締役会の議事録、委員会設置会社にあっては執行役が選任したことを証する書面)」を添付しなければならないこととされている(「会社法の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて(通達)」平成18年3月31日付法務省民商第782号法務局長・地方法務局長宛法務省民事局長通達第4部第2、2(3))。
Q11 法人が持分会社の業務執行社員である場合において、複数の職務執行者を選任することはできるか。
A11 複数の職務執行者を選任することもできるものと解される。
ただし、複数の職務執行者は、原則として、それぞれが当該社員の職務を執行する包括的な権限を有しており、その権限に制限を加えても、当該制限を善意の第三者に対抗することはできないものと解される。そして、この「第三者」には、当該持分会社外の第三者(取引の相手方、債権者等)はもとより、当該持分会社の社員も含まれる。
したがって、当該株式会社がその内部決定等によって複数の職務執行者のそれぞれが行うべき職務執行権限に制限(たとえば、職務執行者AおよびBのうち、Bには単独で当該持分会社の業務の決定を行う権限を与えない等の制限)を設けていた場合であっても、その制限を善意の他の社員に対抗することはできない。
また、そのような制限についての定めを総社員の同意によって当該持分会社の定款に設けておくなどの方法をとれば、他の社員に対してもその制限を対抗することが可能であるが、そのような場合であっても、持分会社外の善意の第三者に対抗することはできない。
Q12 法人が持分会社の業務執行社員である場合において、職務執行者の任務懈怠により、当該持分会社または第三者に損害が生じたときは、職務執行者および当該法人の双方が損害賠償責任(会社法596条、597条)を負うことになるのか。
A12 法人が持分会社の業務執行社員である場合、会社法の規律の実効性を担保するため、業務執行社員に課せられる義務と同一の義務が職務執行者に対しても課せられる(会社法598条2項)。この義務には、業務執行社員の持分会社に対する損害賠償責任(同法596条)および第三者に対する損害賠償責任(同法597条)も含まれる。
したがって、職務執行者の任務懈怠により、当該持分会社または第三者に損害が生じた場合、職務執行者および当該法人の双方がそれらの損害賠償責任を負うことになる。そして、職務執行者と当該法人とが損害賠償責任を負う場合は、複数の業務執行社員が損害賠償責任を負う場合と同様に、連帯債務の関係に立つものと解される。
なお、職務執行者が当該法人の指図に従って業務執行社員としての職務を行った場合であっても、その行為に客観的に任務懈怠が認められるときは、職務執行者も任務懈怠による損害賠償責任を負い得ることになることに留意すべきである(もっとも、職務執行者に故意・過失(持分会社に対する損害賠償責任の場合)や悪意・重大な過失(第三者に対する損害賠償責任の場合)が認められない場合には、当該損害賠償責任は否定されることになる)。(しみず・つよし)
持分会社に関する諸論点
法務省民事局付 清水 毅
はじめに
会社法において新たな会社類型として創設された「合同会社」については、同法の施行以後、その設立件数が順調に増加してきているようである。
この合同会社を始めとする持分会社には、株式会社とは異なる点が少なくないため、固有の法的論点もみられる。本稿では、そのような論点のなかから主に登記に関連するものを取り上げ、検討することとしたい。
なお、本稿中「持分会社」と記載している事柄は、合同会社だけでなく、合名会社や合資会社にも共通に当てはまるものである。
Q1 有限責任事業組合(有限責任事業組合契約に関する法律2条)は、持分会社の社員になることができるか。外国法上のいわゆるLLPはどうか。
A1 会社法においては、法人が持分会社の社員になることが明文で想定されている(会社法576条1項4号、598条)。
これに対し、民法上の組合や有限責任事業組合等の法人格のないものについては、法律上、それ自身が権利・義務の帰属主体になることができないため、持分会社の社員になることもできないものと解される。
また、外国法上のLLPについても、そのLLP自身が権利・義務の帰属主体になることができるものでない限り、持分会社の社員になることはできないものと解される。
Q2 「社員の氏名・名称 △△組合 代表組合員 ○○○○」との記載および住所の記載があり、当該代表組合員の押印がされている定款は、持分会社の定款として有効か。
A2 法人格のない組合自身が持分会社の社員になることはできないとしても、法人格のない組合の組合員である自然人または法人が持分会社の社員になることは、もとより可能である。
たとえば、有限責任事業組合の各組合員についてその氏名・名称その他の必要的記載事項(会社法576条)が定款に記載され、その定款にそれぞれが署名等をした場合には、各組合員が持分会社の社員となる。また、組合の代表組合員が各組合員を代理して定款に署名等をすることも可能である。
ただし、当該持分会社の社員が誰であるかは、その実質ではなく、定款の記載・記録から形式的に特定されるべきものである。
したがって、代理人によって定款に署名等がされる場合にも、定款に各社員の氏名・名称および住所(会社法576条1項4号)が明示的に記載・記録されている必要があるものと解される。
そのため、本事案のように、定款に「△△組合 代表組合員 ○○○○」との記載があるだけで、各組合員の氏名等の記載がない場合には、当該組合の各組合員が当該持分会社の社員であると認める余地はないものと解される。
Q3 持分会社を設立する場合、出資金の払込みは、特定の金融機関においてすることを要するか。
A3 持分会社を設立する場合には、株式会社を設立する場合(会社法34条2項参照)とは異なり、出資金の払込みを特定の金融機関(払込取扱機関)においてすることは要せず、設立中の会社に対する払込みであると認められる方法である限り、社員になろうとする者が適宜に合意した方法で払込みを行えば足りる。
持分会社の設立にあたっては、社員になろうとする者のそれぞれが出資金の受領を含む設立事務全般を取り扱う権限を有しているものと解されるから、たとえば、社員になろうとする者のうちの1人を払込取扱者と定め、他の者はそれぞれの出資金をその払込取扱者に直接に受け渡すことによって、払込みを完了することもできる。
なお、合名会社または合資会社を設立する場合には、社員になろうとする者が設立時に出資を完了する必要はない(会社法578条参照)。
Q4 持分会社の設立にあたって、銀行等の口座への払込みをもって出資金の払込みの方法とする場合、当該口座はどのような名義のものであることを要するか。
A4 出資金の払込みは、設立中の会社に対する払込みであると認められる方法によらなければならない。
したがって、持分会社の社員になろうとする者の合意により、銀行等の口座への払込みをもって出資金の払込みの方法と定める場合には、当該口座も、設立中の会社の口座であると認められるものでなければならない。
もっとも、法人格のない設立中の会社の名義で銀行等の口座を開設することは一般に認められていないため、通常、社員になろうとする者(複数いる場合には、それらの者の間で定めた代表者)の名義の口座を用いることになるものと思われる。
また、業務を執行する社員(以下「業務執行社員」という)になろうとする者が法人である場合において、その業務執行社員の職務を行うべき者(以下「職務執行者」という)が選任され、その者の氏名および住所が他の社員になろうとする者に通知されているとき(会社法598条1項)には、当該法人の名義の口座のみならず、当該職務執行者の名義の口座への払込みも、設立中の会社への払込みとして認められるものと解される。
Q5 持分会社の設立時の資本金の額は、どのように定まるか。
A5 持分会社の設立時の資本金の額は、原則として、設立時の社員になろうとする者が設立に際して履行した出資により持分会社に対し払込みまたは給付がされた財産の価額の範囲内で、社員になろうとする者が適宜に定めた額であるとされており、その額は、零以上でなければならない(会社計算規則75条1項)。なお、設立時の社員が設立に際して履行した出資により持分会社に対し払込みまたは給付がされた財産の価額から設立時の資本金の額を減じて得た額は、当該持分会社の設立時の資本剰余金の額となる(同条2項)。
なお、持分会社のうち、合同会社にあっては、資本金の額が登記事項とされている(会社法914条5号)。
Q6 持分会社において、定款の定めにより、社員以外の者に業務執行権限を付与することができるか。
A6 持分会社の基本的な性質の1つとして、社員が自ら業務を執行するという点がある。
したがって、定款の別段の定めにより持分会社の一部の社員の業務執行権限を奪い、他の社員のみに業務執行権限を認めることは可能であるが(会社法590条1項)、社員以外の者に業務執行権限を付与することは認められない。業務執行権限の存在を前提とする持分会社の代表権についても同様である(同法599条参照)。
このように、定款の定めによって社員以外の者に業務執行権限や代表権を付与することができないのは、登記に関する規律からも明らかである(会社法914条6号等)。
なお、社員以外の者が業務執行社員の代理人として業務の執行に関わることは可能である。また、法人が持分会社の業務執行社員である場合において、当該持分会社の社員以外の者が当該法人に係る職務執行者になることは可能である。
Q7 定款で持分会社の社員の一部が業務執行社員と定められている場合において、当該業務執行社員が辞任したときは、誰が当該持分会社の業務執行権限を有することになるのか。
A7 定款で持分会社の社員の一部を業務執行社員と定めるには、それらの業務執行社員を含む総社員の同意が必要であり(会社法575条1項、637条)(注)、また、業務執行社員が辞任したために社員間で予定していた業務執行社員が存在しなくなるという事態をできる限り回避するために、会社法においては、定款で定められた業務執行社員は、正当な事由がなければ辞任することができないこととされている(同法591条4項)。
定款で定められた業務執行社員が正当な事由に基づいて辞任した場合、その限度において定款の当該定めは当然に効力を失うことになるものと解される。そして、その社員以外にも業務執行社員が定款で定められているときには、別途定款の変更をしない限り、他の業務執行社員のみが業務執行権限を有することになり、また、辞任した社員以外には業務執行社員が定款で定められていない場合には、別途定款の変更をしない限り、辞任した社員を含め、持分会社の社員全員がそれぞれ業務執行権限を有することになるものと解される(会社法590条1項)。
なお、後者の場合には、辞任した社員自身も引き続き業務執行権限を有することになる(したがって業務執行について責任も負担することになる(会社法593条、596条、597条等))が、そもそも持分会社においては、定款で別段の定めがある場合を除き、社員のそれぞれが業務を執行することとされており(同法590条1項)、各社員が任意に業務執行権限を放棄することは許されていない以上、当然の帰結といえる。
(注)定款に別段の定めを置けば、総社員の同意によらずに定款の変更をすることもできるようになるが、そのような定款の別段の定めをする際には、もとより総社員の同意を要する。
Q8 「業務を執行する社員の互選によって、持分会社を代表する社員を定める。」との持分会社の定款の定めは有効か。
A8 持分会社においては、①定款で特定の者を持分会社を代表する社員(以下「代表社員」という)とする旨の定めを置くことのほか、②定款の定めに基づく「社員の互選」により、業務執行社員のなかから代表社員を定めることができることとされている(会社法599条3項)。
このうち、②の「互選」とはお互いのなかから選挙して選び出すことを意味するから、「社員の互選」とは、選任権限を有する社員の全員が被選任資格を有することを当然の前提としている。そして、代表社員の被選任資格を有するものが「業務執行社員」に限られることは、会社法599条3項の文理から明らかであるから、②の場合、代表社員の選任権限を有する社員は、必然的に「業務執行社員」に限られることになる。
すなわち、本事案の定款の定めは、②を明示的に定めたものにほかならないことになる。
Q9 株式会社が持分会社の業務執行社員である場合において、当該株式会社の代表取締役が当該持分会社の業務を執行することはできるか。
A9 法人が持分会社の業務執行社員である場合、当該業務執行社員の職務を執行する権限を有するのは当該業務執行社員の職務執行者に限られる。
したがって、本事案における株式会社の代表取締役は、当該株式会社を代表する権限を有することをもって直ちに当該持分会社の業務を執行する権限を有することにはならない。
ただし、当該株式会社の代表取締役を職務執行者として選任することは可能である。
Q10 持分会社の業務執行社員である法人が、その職務執行者を選任する場合、どのような手続を経る必要があるか。
A10 会社法においては、職務執行者の選任手続に関し、特別の規律は設けられていない(会社法598条1項参照)。
したがって、法人がその職務執行者を選任する場合には、法令、定款等に基づいて当該法人が服すべき一般的な規律に従って選任すれば足りることになる。
たとえば、取締役会設置会社(委員会設置会社を除く)である株式会社が持分会社の業務執行社員である場合には、取締役会の決議によって職務執行者を選任しなければならない(会社法362条2項1号)。
なお、取締役会は、原則として、業務執行の決定を取締役に委任することが可能であるが、業務執行社員が株式会社である場合における職務執行者の選任については、登記通達において、当該選任に係る登記(会社法914条8号等)の申請書に、当該株式会社の業務執行の決定機関において選任したことを証する議事録等として「取締役が選任したことを証する書面(取締役会設置会社にあっては取締役会の議事録、委員会設置会社にあっては執行役が選任したことを証する書面)」を添付しなければならないこととされている(「会社法の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて(通達)」平成18年3月31日付法務省民商第782号法務局長・地方法務局長宛法務省民事局長通達第4部第2、2(3))。
Q11 法人が持分会社の業務執行社員である場合において、複数の職務執行者を選任することはできるか。
A11 複数の職務執行者を選任することもできるものと解される。
ただし、複数の職務執行者は、原則として、それぞれが当該社員の職務を執行する包括的な権限を有しており、その権限に制限を加えても、当該制限を善意の第三者に対抗することはできないものと解される。そして、この「第三者」には、当該持分会社外の第三者(取引の相手方、債権者等)はもとより、当該持分会社の社員も含まれる。
したがって、当該株式会社がその内部決定等によって複数の職務執行者のそれぞれが行うべき職務執行権限に制限(たとえば、職務執行者AおよびBのうち、Bには単独で当該持分会社の業務の決定を行う権限を与えない等の制限)を設けていた場合であっても、その制限を善意の他の社員に対抗することはできない。
また、そのような制限についての定めを総社員の同意によって当該持分会社の定款に設けておくなどの方法をとれば、他の社員に対してもその制限を対抗することが可能であるが、そのような場合であっても、持分会社外の善意の第三者に対抗することはできない。
Q12 法人が持分会社の業務執行社員である場合において、職務執行者の任務懈怠により、当該持分会社または第三者に損害が生じたときは、職務執行者および当該法人の双方が損害賠償責任(会社法596条、597条)を負うことになるのか。
A12 法人が持分会社の業務執行社員である場合、会社法の規律の実効性を担保するため、業務執行社員に課せられる義務と同一の義務が職務執行者に対しても課せられる(会社法598条2項)。この義務には、業務執行社員の持分会社に対する損害賠償責任(同法596条)および第三者に対する損害賠償責任(同法597条)も含まれる。
したがって、職務執行者の任務懈怠により、当該持分会社または第三者に損害が生じた場合、職務執行者および当該法人の双方がそれらの損害賠償責任を負うことになる。そして、職務執行者と当該法人とが損害賠償責任を負う場合は、複数の業務執行社員が損害賠償責任を負う場合と同様に、連帯債務の関係に立つものと解される。
なお、職務執行者が当該法人の指図に従って業務執行社員としての職務を行った場合であっても、その行為に客観的に任務懈怠が認められるときは、職務執行者も任務懈怠による損害賠償責任を負い得ることになることに留意すべきである(もっとも、職務執行者に故意・過失(持分会社に対する損害賠償責任の場合)や悪意・重大な過失(第三者に対する損害賠償責任の場合)が認められない場合には、当該損害賠償責任は否定されることになる)。(しみず・つよし)
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