解説記事2007年07月09日 【ニュース特集】 移転価格事務運営要領等を読み解く(2007年7月9日号・№218)

無形資産取引等の適用上の留意点を示す
移転価格事務運営要領等を読み解く
 移転価格税制に係る適用基準等の明確化が図られることになった。無形資産取引や役務提供取引等の適用上の留意点や事前相談の的確な対応を示した「移転価格事務運営要領」が改正されたもの(本誌217号9頁参照)。海外利益の増加や無形資産取引が拡大するなか、移転価格税制に係る更正処分が増加しており、企業側から移転価格税制に係る適用基準の明確化が求められていたものである。今回の特集では、「移転価格事務運営要領」および移転価格税制に係る26事例を示した移転価格税制事例集の主なポイントについて紹介する。

1 無形資産の定義はOECDガイドラインと同義  大手企業などで移転価格税制を巡る更正処分が多発している。国税庁によると、平成17年事務年度における申告漏れ件数は119件と過去最高を記録し、申告漏れ所得金額も2,836億円にのぼっている。更正処分が増加した背景として指摘されているのは無形資産取引の拡大だ。
 日本の本社から国外の製造子会社や販売子会社に対して無形資産の譲渡や使用許諾等が行われ、それにより国外子会社の利益が得られたと判断される取引が増えているが、無形資産取引は目に見えにくく、独立企業間価格の算定上、比較対象とする企業・取引を見出すことが困難とされているからだ。
 今回の「移転価格事務運営要領」の改正の大きなポイントは、この無形資産取引の適用上の留意点を示した点といえる。

残余利益分割法の手順と同じ  まず、調査において検討すべき無形資産(事務運営要領2-11)について、これまで規定されていた「人的資源に関する無形資産」「組織に関する無形資産」の概念を削除し、無形資産の定義の範囲をOECDガイドラインと米国財務省規則の定義規定と同義である旨を明らかにしている(移転価格税制事例集【事例10】参照)。
 そのうえで、無形資産の有無を検討する際、無形資産を有しない類似法人の利益率と比較して高い利益率が認められる場合に、単に利益率の比較結果のみで判断するのではなく、無形資産の形成に係る研究開発等の活動・機能等について十分な分析が必要である旨を明記した。これは、事務運営要領3-5(残余利益分割法による基本的利益算出方法)の手順によることを明確化したものである。
役務提供と無形資産の使用は別の概念  無形資産が役務提供を行う際に使用されているかどうかの調査を行う場合については、役務提供と無形資産の使用は概念的には別のものであることを明確化したうえで、著作権、法人税基本通達20-1-21に定める工業所有権等のほか、顧客リスト、販売網等の重要な価値のあるものといった無形資産を用いているか、当該役務提供が役務の提供を受ける法人の活動、機能等にどのような影響を与えているかについて検討を行う旨を規定している。

移転価格事例集の読み方のポイント(1)
無形資産の取扱い
・販売網は存在するだけでは無形資産としては認められない。ただし、販売網を無形資産と判断する場合の基準として、販売網が他には見られない広範なものやユニーク(独自)なものであることを明示した(移転価格事例集【事例11】参照)。
・事務運営要領2-12に規定する無形資産貢献度判定要素である「意思決定」「リスク管理」の意味を明記。具体的に「意思決定」とは、具体的開発方針の策定・指示、意思決定のための情報収集等の準備業務などを含む判断の要素であり、「リスク管理」とは、たとえば、無形資産の形成等の活動に内在するリスクを網羅的に把握し、継続的な進捗管理等の管理業務全般を行うことによってこれらのリスクを一元的に管理する業務等としている(移転価格事例集【事例13】参照)。

2 独立企業間価格の算定方法についての説明が必要  独立企業間価格の算定方法については、納税者が自ら選択した独立企業間価格の算定に必要な帳簿書類等を税務当局の求めに応じて遅滞なく提示または提出しなければ、推定課税等の適用要件に該当することになる(措置法66条の4第7項・9項)。
 一方、移転価格税制事例集【事例1】では、納税者の確定申告の基礎となった帳簿書類等の検査にあたっては、必要な資料の提出等を求める場合、納税者が採用した独立企業間価格の算定方法による算定結果が独立企業間価格と認められない場合等において、納税者に対し、その理由や調査の結果に基づき納税者が採用した方法に代えて適用する独立企業間価格の算定方法の内容等について十分説明し、納税者の理解を得ていくことに努めることに配意する必要がある旨が明記されている(下記コラム参照)。

移転価格事例集の読み方のポイント(2)
独立企業間価格の算定方法
・基本三法に準ずる方法では、基本三法よりも比較対象取引の範囲を広げる考え方を示す(移転価格事例集【事例1】参照)。
・法人および国外関連者双方が重要な無形資産を有していない場合には、残余利益分割法を適用することができない(移転価格事例集【事例7】参照)。
・寄与度利益分割法を適用する場合の分割要因については、国外関連取引の内容に応じて法人または国外関連者が支出した人件費等の費用の額、投下資本の額等、これらの者が当該分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するにふさわしいものを用いる。たとえば、製造、販売等経常的に果されている機能が利益の発生に寄与している場合には、当該機能を反映する人件費等の費用の額や減価償却費などを用いるのが合理的である(移転価格事例集【事例7】参照)。
・取引単位営業利益法の適用における比較対象取引の選定でも、措置法通達66の4(2)-3の比較対象要素を検討して選定を行う旨が明記された(移転価格事例集【事例6】参照)。

3 事前確認制度を明確化  事前確認手続については、未了件数が年々増加している状況がある。平成17事務年度における事前確認手続の未了件数は208件にのぼっている。このような状況を受け、事務運営要領では、事前確認の処理の促進等を図るための事前相談の利用環境整備も行っている。事前確認を行う予定の事前相談を行う納税者に対して、確認申出書の添付資料の作成要領など、事前確認手続に必要な事項を説明するとともに、事前確認の申出を行うべきかどうかの判断ができる必要な情報の提供に努める旨を明記している。
製品のライフサイクルを考慮して5年分  事前確認申請時の提出資料年数については、原則3事業年度分としたうえで、製品のライフサイクル等を考慮して3事業年度分では不十分であると認められる場合には、税務当局は、確認申出法人に対し、5事業年分を求める旨が明記されている(事務運営要領5-3)。また、事前確認申請後に税務当局が資料提出期限を設定する場合には、資料作成等に必要な時間について確認申出法人の事情を勘案して合理的に設定する旨が記載された(事務運営要領5-11)。
臨場前の修正申告なら過少申告加算税の対象外  そのほか、確認法人が所轄税務署長に提出する報告書(事務運営要領5-18)については、事前確認の内容に適合した申告が行われているかどうか検討されることになるが、税務当局による報告書の検討のための確認法人への臨場等の前に確認法人が自主的に修正申告書を提出する場合には、過少申告加算税賦課の対象外としている。

移転価格事例集の読み方のポイント(3)
事前確認制度
・事前確認の申出から事前確認通知までの間に確認対象事業年度に係る申告期限の到来により申告を行った場合においては、事前確認手続が行われている間は、移転価格調査を行わない旨が明記された(移転価格事例集【事例25】参照)。
・相互協議を伴う事前確認の申出に係る審査を終了した場合には、税務当局の審査意見を確認申出法人に伝えることを明記した(移転価格事例集【事例25】参照)。

COLUMN 独立企業間価格の算定方法を巡るトラブルは減少!?  独立企業間価格の算定方法については、たびたび課税庁と納税者との間でトラブルが生じている。国税不服審判所が平成18年9月4日に行った裁決(請求棄却)では、国外関連者の財務諸表および国外関連者との取引価格の算定資料は、国外関連者の有するものであっても、独立企業間価格の検討を行ううえで基本となる資料となるため、措置法66条の4第7項に規定する帳簿書類等に該当するとし、これらの帳簿書類等が遅滞なく提示されない場合には、推定課税の要件を充足するとの判断を示している。また、納税者が主張する再販売価格基準法は合理性がないとしている。
 裁決では、税務当局が算定した独立企業間価格の推定方法でも争われているが、今回示された移転価格事例集では、独立企業間価格の算定方法について納税者に十分な説明を行う旨が明記されている。今後、算定方法を巡るトラブルが減少するか注目される。

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