解説記事2007年10月01日 【ニュース特集】 経営陣による企業買収を巡る近時の動向と法的問題(2007年10月1日号・№229)
いま何が問題となっているのか
経営陣による企業買収を巡る近時の動向と法的問題
本格的なM&A(Mergers and Acquisitions.企業の合併・買収)時代を迎えたといわれる近時の日本市場。M&Aに関するコンサルティング・情報提供等を行うレコフによると、わが国企業のM&A件数はこの10年間で約5倍となり、2006年は2,775件、取引金額も15兆円(公表ベース)にのぼるなど過去最高水準であったという。これに伴い、M&Aの手法の1つである経営陣による企業買収(Management Buyout,MBO)も増加、問題が指摘される事例も散見されるようになってきた。今年9月4日には、企業価値研究会が取りまとめた「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する報告書」(平成19年8月2日。以下「MBO報告書」という)に基づき、経済産業省が「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(以下「MBO指針」という(今号16頁参照))を策定し、公表している。
1 MBOによる効用を最近の事案から MBOとは、「現在の経営者が資金を出資し、事業の継続を前提として対象会社の株式を購入すること」(MBO指針)である。一般的には、経営陣の一部が、投資ファンド・ベンチャーキャピタル・金融機関等による金融支援を受け、自社の株式や事業の取得にあたる(図表1参照)。上場会社の場合、大多数の株式取得は公開買付け(TOB)によることとなる。
近時の事例を具体的にみると、
① 子会社(または孫会社等)が親会社(または子会社等)から独立し、または分離される場合(当該会社の経営の自主性拡大や子会社等の独立・分離によるグループ再編が目的とされる場合もある)
② 創業者一族が保有する株式の引取り、または創業家の意向による保有株式の現金化がなされる場合(結果的に、創業家からの事業承継が図られる場合となることもある)
③ 事業環境等から証券取引所への上場を取り止めて株式を非公開化(ゴーイング・プライベート)、社内的な危機意識を共有しながら、市場を気にせず長期的視座に立った抜本的な事業構造改革に取り組む場合
などに利用され、事案によっては複合的に活用されていることがわかる。
③の場合については、ここでは上場会社が非上場化する例を挙げたが、非上場会社にとっても、会社再建的な観点から、構成が変わった新たな株主のもとで、あるいは理解ある別の中核的な株主のもとで事業再構築を進める場合に用いられることがあり、MBO自体は上場・非上場にかかわらず行われるものだ。
最近では、明光商会がベンチャーキャピタルのジャフコと共同で行った事例のように、買収者としての経営陣に従業員が加わる形でなされるMEBO(Management Employee Buyout)もみられるところである。明光商会では、上記②・③を目的として行われ、9月1日付でジャスダック証券取引所の上場が廃止。シュレッダーに依存した体質の改善を図りながら、4年後の再上場を目指すとされている。
また、図表1に掲げたライブドアホールディングス(旧ライブドア)は今年5月、ネット広告販売子会社にあたる米イノベーション・インタラクティブを同社経営陣らが設立したファンドに売却した。弥生の事案とともに形式的には上記①に相当するものといえるが、経営資源をネット事業に集中するなかで非中核事業を売却するグループ再編においてMBOが積極活用されているものとみられる。
東京証券取引所では今年7月9日、キトーの新規上場を公表。同社は昭和19年設立のクレーン等製造・販売大手でジャスダック証券取引所に上場していたが、平成15(2003)年、経営陣が米ファンド、カーライルグループと組んでMBOによる株式非公開化・経営再建を図った結果、今年8月9日、東証第1部への再上場を果たしたものである。
PHS通信会社ウィルコムもカーライルグループが京セラと組み、2004年にKDDIからDDIポケットをMBOにより買収、その後社名変更された会社であるが、加入者・営業収益とも復調を果たしている。いずれも、会社再建過程でMBOが活用された好例といえよう。
2 増加するMBO さて、このようなMBOであるが、経済産業省によると、2003年は34件、2004年は43件、2005年は67件、2006年は80件と着実に件数を伸ばし、今年は5月までの累計で36件(MBO報告書「別紙4:(参考)我が国における昨今のMBOをめぐる動向」参照)と、件数だけをみれば昨年を上回る勢い。
これに伴って、上場会社が非上場化されることとなるMBOの件数、その公表金額も増加傾向にあるといえる(図表2参照)。MBO報告書では、図表3のように、大型または著名案件も具体的に紹介されている。
MBOの活発化に伴い、ベンチャーキャピタルがMBOへの関与を増やし、投資金額を増額するのはもとより、既存の大手銀行・大手証券等と提携してファンドを組成するなどの報道も多くみられるようになっている。再上場や転売による大きな利益を見込み、収益機会を拡大しようとする動きである。
3 MBOの何が問題となるのか? それでは、MBOの何が問題視されるのだろうか。経済産業省では4月9日、今般のMBO報告書・MBO指針の取りまとめに先だって、産業組織課に「MBO取引等に関するタスクフォース」を設置(本誌207号40頁参照)。議論を開始するにあたり、従前の企業価値研究会(第2期)における議論を踏まえ、問題の所在の確認と論点の洗出しを行っている。
既存株主等からMBO取引の公正性に関する疑義を指摘される場合の法的論点としては、
●①株式取得者の独立性の問題(株式取得者が対象会社に強い影響力を持つことによる利益相反性や情報の非対称性の問題等)、②株式取得に伴う強圧性の問題が指摘されているが、取引の透明性を確保するには、①と②のそれぞれについて検討する必要があるのではないか
●このような要因は、グループ内会社等の利害関係人による株式取得等(親会社が子会社株を買増しする場合など)においても生じうるものと考えられるが、これとの平仄をどのように考えるか
●このような要因に基づいて生じうる疑義を払拭し、取引の透明性を確保するためには、どのような手段が考えられるか
といった点を挙げており、特にここにみられる構造的な利益相反に関する「不透明感」について、MBO報告書・MBO指針は、
と表現している。
その前提は、「まず公開買付けを行った後に、完全子会社化(スクイーズアウト)を実施し、100%株式の取得を行う場合」であるが、端的にいえば、MBOの必要もなく大多数の株主を排除する非上場化を図っていないか、価格を抑えることにより、株主が不利益を被る一方で買収側となる取締役に利益が生じているのではないかという不透明感である。
4 具体的に生じている問題は…… 実際、図表3にも掲げられたうちの次の3件は、問題が顕在化したものといえるだろう。
(1)レックス・ホールディングス レックス・ホールディングスは昨年11月、投資ファンド、アドバンテッジパートナーズの支援により、MBOの一環として行われる株式会社AP8によるレックス社株式のTOBに賛同を表明。TOB期限となった12月12日、AP8は間接保有分を合わせ90%超の株式を取得するに至った。
今年3月には、当初方針どおり、AP8の完全子会社となるための手法として、3月下旬の定時株主総会等において普通株式を全部取得条項付株式とし、当該株式1株につき新たな普通株式0.00004547株を交付する定款変更を行う旨、および1株未満の端数に対して金銭を交付すること、さらに、この場合の1株当たりの対価は過去1か月間の終値の単純平均値202,000円に13.9%のプレミアムを上乗せしたTOB価格と同一の23万円であることを発表した。
4月12日、複数の個人株主が公正な買取価格の決定を東京地裁に申立て。「アドバンテッジ被害者牛角会」によると、2006年の最高値は568,000円で、1年平均では354,929円、6か月平均でも280,805円にのぼるという。
なお、ジャスダック証券取引所の上場廃止は4月29日。また、全部取得日および新たな普通株式の効力発生日は5月9日とされていた。
(2)サンスター サンスターは今年2月、代表取締役会長が代表者を兼務するスイス法人SunsterSAが100%保有する日本法人・SSA株式会社によるサンスター株式のTOBに賛同を表明。MBOの一環として行われたが、従業員持株会が継続保有を決議したことからMEBOとなった。
TOBの結果、SSAの所有する議決権数は50%超となり、同社および株主として留まったSTARLECS株式会社、持株会が全株式を所有することを目的とする定款変更等をこの6月総会で実施。所期の目的は達せられ、7月26日付で大阪証券取引所の上場は廃止された。
しかしながら、TOBに応じなかった株主の株式は全部取得条項付株式とされ、8月1日付で1株650円の対価により強制取得された。
この価格は、過去3か月間の終値の単純平均値530円に対しては約23%、6か月間の平均値548円に対しては約19%のプレミアムが加えられたTOB価格と同一のものであるが、価格に不満を有し、TOBにも応じなかった個人株主が、公正な買取価格の決定を大阪地裁に申し立てているという(日本経済新聞7月7日付報道による)。
(3)テーオーシー テーオーシー(TOC)は今年4月6日、社長が取締役を兼務する有限会社オオタニファンドが100%保有する買収目的会社・有限会社オオタニファンドTOが行う同社株式の全部取得を目指したTOBへの賛同を表明。併せて、TOB成立後には同買収目的会社がTOCを100%子会社化し、TOCは上場廃止となる予定を発表した。MBOの一環として行われるもので、「当社経営陣は、本公開買付け終了後も継続して当社の経営にあたる」とした。
TOB価格は、過去6か月間の終値の単純平均値655円に約22.2%のプレミアムを加えた1株800円。これに対し、不動産投資ファンドの組成・運用等を営む大株主のダヴィンチ・アドバイザーズが4月25日、TOB価格1,100円での対抗提案を行った。会社側のTOB価格について、「貴社が保有している不動産の大きな含み益が反映されておらず、また、それを活用した利益成長も織り込まれていない金額である」として、公正・適切な価格決定がなされたのかに疑問を呈するもので、MBOに対するわが国初の対抗TOBとされる。
会社側は5月12日、TOBの不成立を発表。もっぱらTOB価格が低かったことが要因とされるが、ダヴィンチ社のTOBも、会社側の反対表明、TOBのために行った株主名簿閲覧謄写請求に係る仮処分命令申立事件や1,308円への買付価格引上げ、さらには買付期間の延長等を経て、7月24日、同様に不成立が発表されている。
会社側の反対表明に際しては、ダヴィンチ社から、「TOC取締役会はMBOに賛同しており、善管注意義務の観点から、すべての株主に対して最も高い価額での投資回収の機会を付与されるべき義務を負うに至ったところ、より高い価格でのTOBに反対するのは、すべての株主の共同の利益を無視し、すべての株主に対する善管注意義務に反する行為といわざるを得ない」旨が指摘された。
5 規制でなく実務対応指針として策定 このような問題への対応策を、
① 株主の適切な判断機会の確保
② 意思決定過程における恣意性の排除
③ 価格の適正性を担保する客観的状況の確保
といった観点から整理したのが、今般策定されたMBO指針である。
具体的には、反対株主に対して株式買取請求権・価格決定請求権を確保することや社外役員・第三者委員会等が存在する場合にその判断を尊重すること、問題が生じうる場合に対抗的な公開買付けが可能となるようTOB期間を比較的長期間とすることといった実務上の対応策を取りまとめている(本誌223号40頁参照)。
その位置付け、策定の背景および実務上の具体的対応に関する留意点については、今号16頁以下を参照されたい。
経営陣による企業買収を巡る近時の動向と法的問題
本格的なM&A(Mergers and Acquisitions.企業の合併・買収)時代を迎えたといわれる近時の日本市場。M&Aに関するコンサルティング・情報提供等を行うレコフによると、わが国企業のM&A件数はこの10年間で約5倍となり、2006年は2,775件、取引金額も15兆円(公表ベース)にのぼるなど過去最高水準であったという。これに伴い、M&Aの手法の1つである経営陣による企業買収(Management Buyout,MBO)も増加、問題が指摘される事例も散見されるようになってきた。今年9月4日には、企業価値研究会が取りまとめた「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する報告書」(平成19年8月2日。以下「MBO報告書」という)に基づき、経済産業省が「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(以下「MBO指針」という(今号16頁参照))を策定し、公表している。
1 MBOによる効用を最近の事案から MBOとは、「現在の経営者が資金を出資し、事業の継続を前提として対象会社の株式を購入すること」(MBO指針)である。一般的には、経営陣の一部が、投資ファンド・ベンチャーキャピタル・金融機関等による金融支援を受け、自社の株式や事業の取得にあたる(図表1参照)。上場会社の場合、大多数の株式取得は公開買付け(TOB)によることとなる。

近時の事例を具体的にみると、
① 子会社(または孫会社等)が親会社(または子会社等)から独立し、または分離される場合(当該会社の経営の自主性拡大や子会社等の独立・分離によるグループ再編が目的とされる場合もある)
② 創業者一族が保有する株式の引取り、または創業家の意向による保有株式の現金化がなされる場合(結果的に、創業家からの事業承継が図られる場合となることもある)
③ 事業環境等から証券取引所への上場を取り止めて株式を非公開化(ゴーイング・プライベート)、社内的な危機意識を共有しながら、市場を気にせず長期的視座に立った抜本的な事業構造改革に取り組む場合
などに利用され、事案によっては複合的に活用されていることがわかる。
③の場合については、ここでは上場会社が非上場化する例を挙げたが、非上場会社にとっても、会社再建的な観点から、構成が変わった新たな株主のもとで、あるいは理解ある別の中核的な株主のもとで事業再構築を進める場合に用いられることがあり、MBO自体は上場・非上場にかかわらず行われるものだ。
最近では、明光商会がベンチャーキャピタルのジャフコと共同で行った事例のように、買収者としての経営陣に従業員が加わる形でなされるMEBO(Management Employee Buyout)もみられるところである。明光商会では、上記②・③を目的として行われ、9月1日付でジャスダック証券取引所の上場が廃止。シュレッダーに依存した体質の改善を図りながら、4年後の再上場を目指すとされている。
また、図表1に掲げたライブドアホールディングス(旧ライブドア)は今年5月、ネット広告販売子会社にあたる米イノベーション・インタラクティブを同社経営陣らが設立したファンドに売却した。弥生の事案とともに形式的には上記①に相当するものといえるが、経営資源をネット事業に集中するなかで非中核事業を売却するグループ再編においてMBOが積極活用されているものとみられる。
東京証券取引所では今年7月9日、キトーの新規上場を公表。同社は昭和19年設立のクレーン等製造・販売大手でジャスダック証券取引所に上場していたが、平成15(2003)年、経営陣が米ファンド、カーライルグループと組んでMBOによる株式非公開化・経営再建を図った結果、今年8月9日、東証第1部への再上場を果たしたものである。
PHS通信会社ウィルコムもカーライルグループが京セラと組み、2004年にKDDIからDDIポケットをMBOにより買収、その後社名変更された会社であるが、加入者・営業収益とも復調を果たしている。いずれも、会社再建過程でMBOが活用された好例といえよう。
2 増加するMBO さて、このようなMBOであるが、経済産業省によると、2003年は34件、2004年は43件、2005年は67件、2006年は80件と着実に件数を伸ばし、今年は5月までの累計で36件(MBO報告書「別紙4:(参考)我が国における昨今のMBOをめぐる動向」参照)と、件数だけをみれば昨年を上回る勢い。
これに伴って、上場会社が非上場化されることとなるMBOの件数、その公表金額も増加傾向にあるといえる(図表2参照)。MBO報告書では、図表3のように、大型または著名案件も具体的に紹介されている。
MBOの活発化に伴い、ベンチャーキャピタルがMBOへの関与を増やし、投資金額を増額するのはもとより、既存の大手銀行・大手証券等と提携してファンドを組成するなどの報道も多くみられるようになっている。再上場や転売による大きな利益を見込み、収益機会を拡大しようとする動きである。


3 MBOの何が問題となるのか? それでは、MBOの何が問題視されるのだろうか。経済産業省では4月9日、今般のMBO報告書・MBO指針の取りまとめに先だって、産業組織課に「MBO取引等に関するタスクフォース」を設置(本誌207号40頁参照)。議論を開始するにあたり、従前の企業価値研究会(第2期)における議論を踏まえ、問題の所在の確認と論点の洗出しを行っている。
既存株主等からMBO取引の公正性に関する疑義を指摘される場合の法的論点としては、
●①株式取得者の独立性の問題(株式取得者が対象会社に強い影響力を持つことによる利益相反性や情報の非対称性の問題等)、②株式取得に伴う強圧性の問題が指摘されているが、取引の透明性を確保するには、①と②のそれぞれについて検討する必要があるのではないか
●このような要因は、グループ内会社等の利害関係人による株式取得等(親会社が子会社株を買増しする場合など)においても生じうるものと考えられるが、これとの平仄をどのように考えるか
●このような要因に基づいて生じうる疑義を払拭し、取引の透明性を確保するためには、どのような手段が考えられるか
といった点を挙げており、特にここにみられる構造的な利益相反に関する「不透明感」について、MBO報告書・MBO指針は、

と表現している。
その前提は、「まず公開買付けを行った後に、完全子会社化(スクイーズアウト)を実施し、100%株式の取得を行う場合」であるが、端的にいえば、MBOの必要もなく大多数の株主を排除する非上場化を図っていないか、価格を抑えることにより、株主が不利益を被る一方で買収側となる取締役に利益が生じているのではないかという不透明感である。
4 具体的に生じている問題は…… 実際、図表3にも掲げられたうちの次の3件は、問題が顕在化したものといえるだろう。
(1)レックス・ホールディングス レックス・ホールディングスは昨年11月、投資ファンド、アドバンテッジパートナーズの支援により、MBOの一環として行われる株式会社AP8によるレックス社株式のTOBに賛同を表明。TOB期限となった12月12日、AP8は間接保有分を合わせ90%超の株式を取得するに至った。
今年3月には、当初方針どおり、AP8の完全子会社となるための手法として、3月下旬の定時株主総会等において普通株式を全部取得条項付株式とし、当該株式1株につき新たな普通株式0.00004547株を交付する定款変更を行う旨、および1株未満の端数に対して金銭を交付すること、さらに、この場合の1株当たりの対価は過去1か月間の終値の単純平均値202,000円に13.9%のプレミアムを上乗せしたTOB価格と同一の23万円であることを発表した。
4月12日、複数の個人株主が公正な買取価格の決定を東京地裁に申立て。「アドバンテッジ被害者牛角会」によると、2006年の最高値は568,000円で、1年平均では354,929円、6か月平均でも280,805円にのぼるという。
なお、ジャスダック証券取引所の上場廃止は4月29日。また、全部取得日および新たな普通株式の効力発生日は5月9日とされていた。
(2)サンスター サンスターは今年2月、代表取締役会長が代表者を兼務するスイス法人SunsterSAが100%保有する日本法人・SSA株式会社によるサンスター株式のTOBに賛同を表明。MBOの一環として行われたが、従業員持株会が継続保有を決議したことからMEBOとなった。
TOBの結果、SSAの所有する議決権数は50%超となり、同社および株主として留まったSTARLECS株式会社、持株会が全株式を所有することを目的とする定款変更等をこの6月総会で実施。所期の目的は達せられ、7月26日付で大阪証券取引所の上場は廃止された。
しかしながら、TOBに応じなかった株主の株式は全部取得条項付株式とされ、8月1日付で1株650円の対価により強制取得された。
この価格は、過去3か月間の終値の単純平均値530円に対しては約23%、6か月間の平均値548円に対しては約19%のプレミアムが加えられたTOB価格と同一のものであるが、価格に不満を有し、TOBにも応じなかった個人株主が、公正な買取価格の決定を大阪地裁に申し立てているという(日本経済新聞7月7日付報道による)。
(3)テーオーシー テーオーシー(TOC)は今年4月6日、社長が取締役を兼務する有限会社オオタニファンドが100%保有する買収目的会社・有限会社オオタニファンドTOが行う同社株式の全部取得を目指したTOBへの賛同を表明。併せて、TOB成立後には同買収目的会社がTOCを100%子会社化し、TOCは上場廃止となる予定を発表した。MBOの一環として行われるもので、「当社経営陣は、本公開買付け終了後も継続して当社の経営にあたる」とした。
TOB価格は、過去6か月間の終値の単純平均値655円に約22.2%のプレミアムを加えた1株800円。これに対し、不動産投資ファンドの組成・運用等を営む大株主のダヴィンチ・アドバイザーズが4月25日、TOB価格1,100円での対抗提案を行った。会社側のTOB価格について、「貴社が保有している不動産の大きな含み益が反映されておらず、また、それを活用した利益成長も織り込まれていない金額である」として、公正・適切な価格決定がなされたのかに疑問を呈するもので、MBOに対するわが国初の対抗TOBとされる。
会社側は5月12日、TOBの不成立を発表。もっぱらTOB価格が低かったことが要因とされるが、ダヴィンチ社のTOBも、会社側の反対表明、TOBのために行った株主名簿閲覧謄写請求に係る仮処分命令申立事件や1,308円への買付価格引上げ、さらには買付期間の延長等を経て、7月24日、同様に不成立が発表されている。
会社側の反対表明に際しては、ダヴィンチ社から、「TOC取締役会はMBOに賛同しており、善管注意義務の観点から、すべての株主に対して最も高い価額での投資回収の機会を付与されるべき義務を負うに至ったところ、より高い価格でのTOBに反対するのは、すべての株主の共同の利益を無視し、すべての株主に対する善管注意義務に反する行為といわざるを得ない」旨が指摘された。
5 規制でなく実務対応指針として策定 このような問題への対応策を、
① 株主の適切な判断機会の確保
② 意思決定過程における恣意性の排除
③ 価格の適正性を担保する客観的状況の確保
といった観点から整理したのが、今般策定されたMBO指針である。
具体的には、反対株主に対して株式買取請求権・価格決定請求権を確保することや社外役員・第三者委員会等が存在する場合にその判断を尊重すること、問題が生じうる場合に対抗的な公開買付けが可能となるようTOB期間を比較的長期間とすることといった実務上の対応策を取りまとめている(本誌223号40頁参照)。
その位置付け、策定の背景および実務上の具体的対応に関する留意点については、今号16頁以下を参照されたい。
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