カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

税務ニュース2004年06月10日 判決理由を紹介、生計を一にする妻への税理士報酬訴訟 全面的に納税者の主張は採用されず

 夫である弁護士が生計を一にする妻に支払った税理士報酬の必要経費算入の可否を主たる争点とする国・東京都に対する不当利得返還請求控訴事件の判決が、平成16年6月9日、東京高等裁判所第23民事部で言渡された。
 国らの控訴が認められ、被控訴人(弁護士)の請求は棄却される逆転判決となった。
 東京高裁の判断の内容を判決からお伝えする。(判決原文をそのままお伝えするものではありません。)

《裁判所(東京高裁)の判断》
1 被控訴人(原告・弁護士)の国らに対する請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は以下のとおりである。

2 本件各処分等が当然無効であるとの主張について
(1) 被控訴人は、当然無効であるとの前提から不当利得返還請求訴訟を提起しているので、本件各処分等が当然無効となるかについて判断する。
(2) (前略)、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者右処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である(最判昭48.4.26)。
(3) しかしながら、本件において、各処分等を当然無効ならしめる前記例外的な事情があるものと解することは困難である。その理由は以下のとおり。
  ア 課税要件の根幹についての内容上の過誤の該当性について
    本件は、被控訴人に事業所得があるものとして所得税及び個人事業税に関する課税処分
   がされたこと自体には何ら問題がなく、ただ、事業所得の金額が争われているにすぎな
   い。その理由として本件税理士報酬等の支払に法56条の規定を適用することの可否が
   争われているものの、そのゆえをもって、前記課税要件の根幹についての問題があると
   認めることは、以下の点(略・「各処分の経緯」)からしても困難。
  イ 不服申立期間の徒過について
    被控訴人が弁護士であり、審査請求を行っていることからすれば、被控訴人は、裁決
   後、いったんは本件各処分等の効力を争うことを断念したものと推認される。そうする
   と、本件は、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間
   の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受さ
   せることが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には該当し得ないと
   いうほかない。
(4) 本件各処分等に重大かつ明白な違法があるとは到底いうことができない。

3 法56条の規定自体又はこれに基づく本件各処分等が違憲であるとの被控訴人の主張について
(1) 被控訴人が主張する違憲違法事由が認められるかどうかについて、検討する。
(2) 法56条の規定の解釈適用について
  ア 法56条の「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払
   を受ける場合」の解釈
  (ア) 被控訴人の主張⇒独立した事業を営む配偶者との間の契約関係に基づく役務の提供に
    対する対価については、法56条の適用はなく、必要経費として認められるべきである。
     控訴人らの主張⇒事業者が生計を一にする親族に対して支払った対価に相当する金額
    は一律に必要経費に算入されない趣旨である。
  (イ) 法56条の立法経緯及び立法趣旨の検討
  (ウ) a 同条の規定について当初から何らかの限定解釈がされていたとは認められない。
      むしろ、弁論の全趣旨によれば、同条の規定及びこれを引き継いだ法56条の規定
      は、課税実務上、一貫して何らの限定解釈もされることなく適用されてきたものと
      認められる。
     b 法56条の「事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を
      受ける場合」との文言についても、その範囲を全く限定していないものであること
      は明らか。以下の点からも裏付けられる。
     (a)法56条には、対価の内容に関して何らかの限定をすることをうかがわせる文
      言が全く見当たらない。給与所得当に限定するとか、あるいは、事業所得を除外す
      るとかの規定は存しない。
     (b)法56条の「その他の事由」については、特段の限定を付する趣旨を読み取る
      ことはできない。
       法56条の「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族」の「親族」は民法
      725条の規定による親族を意味し、「その他の」との文言に「配偶者」に準じる親
      族に限定する趣旨は含まれないことが明白である。同一条文中の「事業に従事した
      ことその他の事由」の解釈も、これと同様。
    c 青色事業専従者の給与の必要経費算入を認める法57条の規定は、青色申告の普及
     育成という政策目的によるものであると認められるから、同条の存在及び解釈は、法
     56条の上記解釈に影響を及ぼすものではない。
  (エ) 以上の検討によれば、法56条の「事業に従事したことその他の事由により当該事業
    から対価の支払を受ける場合」とは、親族が、事業自体に何らかの形で従たる立場で参
    加する場合、事業者に雇用されて従業員としてあくまでも従属的な立場で労務又は役務
    の提供を行う場合及びこれらに準ずるような場合のみを指すものと解することはでき
    ず、親族が、独立の事業者として、その事業の一環として納税者たる事業者との取引に
    基づき役務を提供して対価の支払を受ける場合も、上記要件に該当するものというべ
    きである。
    事業の形態・事業から対価の支払を受ける親族がその事業に従属的に従事しているか否
    か、対価の支払の事由、対価の額の妥当性などといった個別の事情によって、同条の適
    用が左右されるものとは解されない。
  (オ) したがって、妻(税理士)が被控訴人(弁護士)から本件税理士報酬等の支払を受け
    ることは、法56条所定の、被控訴人の営む事業所得を生ずべき事業に「従事したこ
    とその他の事由により」当該事業から対価の支払を受ける場合に該当するものである。
  イ  法56条の「生計を一にする」の解釈
  (ア) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んで
    いると認められる場合を除き、法56条の「生計を一にする」に該当するものと解され
    る。
  (イ) これを本件についてみるに、妻(税理士)は、被控訴人と生計を一にする配偶者であ
    り、法56条所定の「居住者と生計を一にする配偶者」に該当する。
  (ウ) 妻(税理士)が、被控訴人とは独立に仕事をしている(税理士事務所の経営)・事業と
    家計が区別されているなどの事情があるとしても、いずれも消費生活における区分を述
    べるものではないから、「生計を一にする」との要件を満たすとの前記判断は左右され
    ない。家計費を一定の割合で負担している事実は、「生計を一にする」との要件を否定
    する方向に働くものとはいえず、むしろ逆にこれを裏付けるものである。
  ウ 以上によれば、妻(税理士)が被控訴人から税理士報酬の支払を受けたことは、法56条の
   適用要件に該当するものである。
(3) 法56条の規定の憲法適合性について
  ア 被控訴人は、法56条が違憲であるとの主張をしているので検討する。
  イ 最高裁大法廷判決(昭和60.3.27)の引用
  ウ 法56条が憲法13条、14条に違反しないことは、上記最高裁大法廷判決(昭和
   60.3.27)の趣旨に徴して明らかである。
   ・ 法56条の立法目的は、累進税率を採用する所得税制のもとで、正当なものと認めら
     れる。
   ・ 法は、所得税について個人単位課税を採用しているが、他方において、世帯を単位とし
     た担税力を考慮することにもなお一定の合理性があることにかんがみ、(中略)、個
     人単位を貫徹しているわけではない。
   ・ 生計を一にする親族間で支払われる対価は、家計から逸出しておらず、生計を一にす
     る親族内で留保されているとみることもできることからすれば、(中略)支払をした
     者の所得に対応する累進税率によって所得税を課税すべき担税力を認めたことについ
     て、直ちに合理性を否定することが出来ない。
   ・ 親族間で家計の一環として所得税負担を調整することも可能であるため、立法目的との
     関連で著しく不合理であることが明らかとはいえない。
  エ 租税法の定立については立法府の裁量的判断を尊重せざるを得ないことからすれば、法
   56条の規定は、何らかの限定解釈をするまでもなく、憲法14条1項の規定に違反する
   ものと言うことはできない。
  オ (法56条の適用を不合理とする見解もみられるが、)しかしながら、法56条につい
   て、現時点で、著しく不合理であることが明らかとはいえない。立法府の判断をまつべき
   ものといわざるを得ない。
(4) 本件各処分等の適用違憲について
  ア 被控訴人は、法56条が合憲であるとしても、本件各処分等は適用違憲であると主張して
   いるので検討する。
  イ 本件では、税理士報酬等の金額が不当に高額であるといった事情はうかがわれず、同一の
   顧問契約に基づく第三者の弁護士の税理士報酬等の支払について必要経費算入が認められ
   ることと対比すると、違和感を抱かれることも理解することができなくはない。
   しかしながら、(中略)被控訴人と妻(税理士)とが生計を一にしており、家計内で所得
   税の負担の調整を図ることが十分可能であることからすれば、本件について法56条を適
   用することが違憲であると判断することはできない。

4 結論
  以上によれば、被控訴人の控訴人らに対する本件不当利得返還請求は、いずれも理由がない
 ものである。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索