解説記事2007年10月08日 【制度解説】 信託法関係政省令の要点(2007年10月8日号・№230)
解説
信託法関係政省令の要点
法務省民事局付 林 史高
法務省民事局付 神吉康二
Ⅰ はじめに
1.公布に至る経緯等 「信託法案」および「信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」は、第164回国会(通常国会)に提出され、継続審議となっていたところ、第165回国会(臨時国会)において、平成18年12月8日に法律として成立し、同月15日に平成18年法律第108号および第109号として公布された。
法務省においては、信託法および信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」という)成立直後から信託法関係の政省令の策定作業を進めていたところ、平成19年7月4日、「信託法施行令」(政令第199号)、「信託法施行規則」(法務省令第41号)、「信託計算規則」(法務省令第42号)、「法務大臣の所管に属する公益信託の引受けの許可及び監督に関する規則の一部を改正する省令」(法務省令第40号。以下「公益信託省令」という)等の政省令を、同月13日、「信託法及び信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う法務省関係政令等の整備等に関する政令」(政令第207号。以下「整備政令」という)を、同年8月4日、「限定責任信託登記規則」(法務省令第46号)をそれぞれ公布するに至ったものである。
本稿は、信託法関係政省令の概要等について紹介するものである。なお、筆者らは法務省において主要な信託法関係政省令の立案事務を担当したものであるが、本稿は筆者らが個人的な立場で執筆するものであり、意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であることをあらかじめお断りしておく。
2.信託法関係政省令の構成 信託法は、技術的・細目的事項につき、政令、法務省令に委任をしているところ、
① 「信託法施行令」は、電磁的方法による通知の承諾等の手続および受益者の定めのない信託の受託者となることができる法人を定めるもの
② 「整備政令」は、整備法の施行に伴い法務省関係政令等を整備するもの
③ 「信託法施行規則」は、信託法中に規定のある各種書面の記載事項等、技術的・細目的事項を定めるもの
④ 「信託計算規則」は、信託の計算・会計に関する事項を定めるもの
⑤ 「公益信託省令」は、信託法および整備法の施行に伴い法務大臣の所管に属する公益信託の引受けの許可及び監督に関する規則を整備するもの
⑥ 「限定責任信託登記規則」は、限定責任信託に関する登記の細目を定めるもの
である。
3.信託法および関係政省令の施行日 信託法関係政省令の施行日は、いずれも信託法の施行の日である。
同法の施行日は、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内で政令で定める日であり、平成19年8月3日に公布された「信託法の施行期日を定める政令」(政令第231号)により同年9月30日と定められ、先般施行されたところである。
Ⅱ 信託法施行令
1.位置付け 信託法施行令は、信託法(以下「法」という)109条2項、110条4項、114条3項、116条1項および附則3項の委任に基づき、電磁的方法による通知の承諾等の手続(1条、2条関係)および受益者の定めのない信託の受託者となることができる法人(3条関係)を定めるものである。
2.電磁的方法による通知・提供の承諾等の手続(1条、2条関係)
(1)信託法の委任規定 受益者集会の招集者等は、招集通知等を、政令で定めるところにより、通知・提供を受ける者の承諾を得たときは、書面での通知・提供に代えて電磁的方法で通知・提供することができる(法109条2項、110条4項、114条3項、116条1項)。
(2)1条、2条の概要 各条1項は、電磁的方法によって受益者集会の招集通知等を通知・提供しようとする者は、あらかじめ、通知・提供の相手方に対し、その用いる電磁的方法の種類および内容を示し、相手方の書面等による承諾を得なければならないとするものである。
また、各条2項は、相手方から書面等により電磁的方法による通知・提供を受けない旨の申出があったときは、招集者等は、招集通知等を電磁的方法によって発してはならないこと、相手方が、再び第1項の規定による承諾をした場合には、電磁的方法による通知・提供をすることができることを定めるものである。
3.受益者の定めのない信託の受託者となることができる法人(3条関係)
(1)法附則3項の概要 法附則3項は、「受益者の定めのない信託(学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とするものを除く)は、別に法律で定める日までの間、当該信託に関する信託事務を適正に処理するに足りる財産的基礎及び人的構成を有する者として政令で定める法人以外の者を受託者としてすることができない。」と規定している。
なお、この附則3項は、受益者の定めのない信託の受託者の資格(受託者の適格事由)を定めたものであって、不適格者を受託者としてされた信託は無効となり、また、信託の途中で受託者が要件を満たさないこととなった場合には、受託者の任務終了事由となるものと解される。
(2)本条の概要 本条は、附則3項の委任に基づき、受益者の定めのない信託の受託者となることのできる法人の要件について定めるものである。
なお、国および地方公共団体は、公共事務を処理するため公権力を認められた法人であり、信託事務を適正に処理するに足りる財産的基礎および人的構成を有しているものと考えられる。
そこで、本条では、国および地方公共団体以外の法人が、受益者の定めのない信託の受託者となる場合についての「財産的基礎」および「人的構成」の要件を定めている。
ア 1号について 本号は、財産的基礎に関する要件を定めており、受益者の定めのない信託の受託者となることのできる法人は、貸借対照表上の純資産の額が5,000万円を超える法人に限ることとしている。
そして、純資産額算定の基準となる貸借対照表については、その信頼性を担保する観点から、公認会計士(外国公認会計士を含む)または監査法人の監査を受け、虚偽、錯誤および脱漏がないことの証明がされたもの(法人の財産の状況を適正に表示しているとの意見が付されているものと同じ意味であると解される)に限ることとしている(1号柱書後段)。
また、当該貸借対照表は、①最も遅い事業年度の終了の日におけるものを原則とし(同号柱書)、②最初の事業年度の終了の日から3か月以内において、当該日における貸借対照表の監査が終了していない法人については、その成立の日におけるものを(同号イ)、③最も遅い事業年度の終了の日から3か月以内において、当該日における貸借対照表の監査が終了していない法人(②の場合を除く)については、当該事業年度の前事業年度の終了の日におけるもの(同号ロ)としている。
イ 2号について 2号では、受益者の定めのない信託の受託者となることができる法人は、業務を執行する社員、理事もしくは取締役、執行役、会計参与もしくはその職務を行うべき社員または監事もしくは監査役(いかなる名称を有する者であるかを問わず、これらの者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む)(以下「役員等」という)のうちに一定の犯罪歴のある者や暴力団員がいない法人に限る旨を定めている。
役員等のなかに犯罪歴のある者や暴力団員が存する法人は、他の法人と比べて、反社会的な活動を行う可能性が高く、受益者の定めのない信託の制度を濫用する可能性も高いと考えられるためである。
(3)その他 法附則3項は、「別に法律で定める日までの間」は「政令で定める法人以外の者を受託者としてすることができない」と規定していることから、将来的には、信託法施行令3条で定めるような制限は見直しされることとなる。
その時期については、「受益者の定めのない信託のうち学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とする信託に係る見直しの状況その他の事情を踏まえて検討するもの」(法附則4項)とされている。
公益信託については今回実質的な改正は見送られたが、法務省は、公益法人制度改革関連3法およびこれらの委任を受けた政省令が整備されたことなどを踏まえて、今後、公益信託の改正作業に着手していくことになる。
Ⅲ 整備政令
1.位置付け 整備政令は、信託法および整備法の施行に伴い、後述2~5の4つの観点から、関係政令の規定について所要の整備等を行うものであり、1の政令を廃止し、33の政令を改正している。
なお、信託法および整備法の施行に伴う関係政令の整備については、整備政令以外に「信託法及び信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う金融庁関係政令の整備に関する政令」(平成19年政令第208号)もあり、信託業法施行令等の26の政令を改正している。
以下、整備政令の具体的内容を概説する。
2.根拠となる法律の規定の廃止に伴い、政令の廃止を行うもの 「有価証券ノ信託財産表示及信託財産ニ属スル金銭ノ管理ニ関スル件」は、旧信託法3条2項および21条の規定による委任を受けた勅令であるところ、今回の改正により旧信託法の上記各規定が削除されたことから、これに伴い、上記勅令を廃止するものである。
3.信託の登記・登録に関する関係政令の規定の整備を行うもの 登記・登録が権利変動の第三者対抗要件とされる財産については、信託の登記・登録が信託財産に属することの第三者対抗要件とされていることから(法14条)、各種財産に係る権利変動の第三者対抗要件としての登記・登録制度を定めている関係政令について、信託の登記・登録に関する規定を整備するものである。
その対象となる関係政令およびその改正概要は、次のとおりである。
(1)自動車登録令、航空機登録令 自動車および航空機については、それぞれ登録制度がありながら「信託に関する登録」の制度が用意されていなかったことから、整備法71条による改正後の不動産登記法における「信託に関する登記」と同様の規定を新設するとともに、その他必要な整備を行うものである。
(2)鉱業登録令、漁業登録令、特許登録令、著作権法施行令、回路配置利用権等の登録に関する政令、地球温暖化対策の推進に関する法律施行令 これらは、整備法71条による不動産登記法の改正と同様の観点から、「信託に関する登録」の規定に所要の整備をするとともに、その他必要な整備を行うものである。
なお、プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律施行令および商標登録令についても、著作権法施行令または特許登録令の上記改正に伴う形式的整理を行っている。
(3)不動産登記令、建設機械登記令、船舶登記令、農業用動産抵当登記令 不動産登記令については、整備法71条による不動産登記法の改正に伴う整備を行い、その余の建設機械登記令等については、準用する不動産登記令の条項ずれに伴う整備や不動産登記令の別表の改正と同様の整備を行うものである。
4.権利が信託財産に属することの対抗要件の整備を行うもの
(1)商工債令 これは、商工債について、整備法77条により新設した会社法695条の2(信託財産に属する社債についての対抗要件等)の規定と同様の整備等を行うものである。
(2)日本銀行法施行令、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法施行令ほか4つの独立行政法人関係の政令 これらは、出資者原簿等への記載が譲渡に関する対抗要件となる旨規定されている出資者の持分が信託された場合の対抗要件に係る規定を新設するものである。
5.条ずれ、用語・用字の変更等に伴う関係政令の規定の整理を行うもの 信託法等の改正による条ずれ、用語・用字の変更等に伴う規定の整理を行うものとしては、国有財産法施行令、医療法施行令、中小企業金融公庫法施行令、企業担保登記登録令、国家公務員共済組合法施行令、厚生年金基金令、外国為替令、国民年金基金令、公益信託に係る主務官庁の権限に属する事務の処理等に関する政令、商工組合中央金庫法第二十八条ノ七の債券の募集の受託等に関する政令、確定拠出年金法施行令、確定給付企業年金法施行令がある。
Ⅳ 信託法施行規則
信託法施行規則(以下「施行規則」という)は、法の委任規定に基づき、技術的・細目的事項を定めるものである(1条。以下、Ⅳにおける括弧内の番号は、特に明記したものを除き、施行規則のものである)。
その主なものの内容は、次のとおりである。
1.自己信託に係る公正証書等の記載事項等(3条関係) 施行規則3条は、自己信託をする際に作成する公正証書等の記載事項を定めているところ(法3条3号参照)、①信託の目的、②信託財産を特定するために必要な事項のほか、③自己信託をする者の氏名等、④受益者の定め、⑤信託財産に属する財産の管理・処分の方法等を記載しなければならないこととしている。
2.信託財産の分別管理の方法(4条関係) 施行規則4条は、法34条1項3号の委任を受けて、法務省令で定める財産およびその分別管理方法を定めているところ、①法206条1項その他の法令の規定により、当該財産が信託財産に属する旨の記載または記録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができないとされているものを法務省令で定める財産とし、②当該財産は、当該根拠法令の規定に従い信託財産に属する旨の記載または記録をするとともに、その計算(当該受託者が受託するどの信託にどれだけの財産が帰属するか)を明らかにする方法で分別管理をすることとしている。
3.破産管財人に通知すべき事項(5条関係) 法59条2項は、破産手続の開始決定を受け任務の終了した受託者は、法務省令で定める事項を破産管財人に通知することとしている。
そこで、施行規則5条は、①信託財産に属する財産の内容および所在、②信託財産責任負担債務の内容のほか、③受益者等の氏名または名称および住所、④信託行為の内容を通知しなければならないこととしている。
4.受益者集会(6条~11条関係) 施行規則6条から11条までは、受益者集会に関する細則を定めているところ、受益者集会の制度は、概ね、会社法上の社債権者集会の規律にならっていることから、次のように、会社法施行規則中の社債権者集会に関する規定とほぼ同様の規定を設けている。
(1)受益者集会招集の際の決定事項(6条関係) 施行規則6条は、法108条4号の委任に基づき、受益者集会の招集者が受益者集会を招集する際に決定すべき事項の一部を定めているところ、①受益者集会参考書類(法110条1項参照)に記載すべき事項、②書面による議決権行使の期限、③電磁的方法による議決権行使を許容する場合には電磁的方法による議決権行使の期限等を招集の際に決定しなければならないこととしている。
(2)受益者集会参考書類に記載すべき事項(7条関係) 施行規則7条は、法110条1項等の委任に基づき、受益者集会参考書類に記載すべき事項等を定めているところ、議案のほか、受託者の選解任等に関する議案や信託の変更・併合・分割に関する議案に応じて定められた事項、それ以外の議案についての提案理由を記載しなければならないこととしている。
(3)議決権行使書面に記載すべき事項(8条関係) 施行規則8条は、法110条1項等の委任に基づき、議決権行使書面に記載すべき事項等を定めているところ、①各議案についての賛否を記載する欄、②議決権行使の期限等を議決権行使書面に記載することとしている。
(4)議決権行使書面等の行使期限(9条、10条関係) 施行規則9条および10条は、法115条2項および116条1項の委任に基づき、書面または電磁的方法による議決権行使の期限を定めているところ、いずれも、受益者集会の日時以前の時であって、招集通知を発した日から2週間を経過した日以降の時に限るとしている(6条2号、5号イ参照)。
(5)受益者集会の議事録(11条関係) 施行規則11条は、法120条の委任に基づき、①受益者集会の議事録の作成方法や②議事録の記載事項を定めている。
5.信託の併合・分割(12条~17条関係) 施行規則12条から17条までは、信託の併合・分割をする場合に行う、委託者、受託者および受益者の三者の合意の際に明らかにすべき事項の一部と、債権者保護手続において債権者に対して開示すべき事項の一部を定めている。
(1)合意の際に明らかにすべき事項(12条、14条、16条関係) 施行規則12条(併合の場合)、14条(吸収信託分割の場合)、16条(新規信託分割の場合)は、①信託の併合等に関わる他の信託の情報に関する事項、②信託の併合等の条項の相当性に関する事項、③信託の併合等に関わる各信託の財務状況に関する事項等を明らかにすることとしている。
(2)債権者に対して開示すべき事項(13条、15条、17条関係) 施行規則13条(併合の場合)、15条(吸収信託分割の場合)、17条(新規信託分割の場合)は、①信託の併合等に関わる各信託の特定に関する事項、②信託の併合等に関わる各信託の財務状況に関する事項、③関係する債務の履行の見込みに関する事項を開示することとしている。
6.受益証券発行信託(18条~23条関係) 施行規則18条から23条までは、受益証券発行信託を行う際に作成・発行しなければならない受益権原簿の記載事項(18条から21条まで)や受益証券の記載事項(22条、23条)を定めている。
(1)受益権原簿の記載事項(18条、19条関係) 施行規則18条および19条は、法186条の委任に基づき、受益権原簿の記載事項を定めているところ、①受益債権の内容、②受益権について譲渡の制限があるときは、その旨およびその内容、③受益証券発行信託の委託者・受託者に関する事項、④受益証券を発行しない受益権を発行する場合にはその受益権に関する定めの内容、⑤受益証券発行信託の条項等を記載することとしている。
(2)受託者が受益権を取得した場合の特例(20条関係) 施行規則20条は、法197条の委任に基づき、受益証券発行信託の受託者が当該受益証券発行信託の受益権を取得した場合には、当該受益権が固有財産・信託財産・他の信託財産に属するかの別をも受益権原簿に記載することとしている。
(3)受益権原簿記載事項の記載等の請求(21条関係) 施行規則21条は、法198条2項の委任に基づき、受益権原簿の記載請求を受益権の取得者単独でできる利害関係人の利益を害するおそれがない場合を定めているところ、①受益権を取得した者が受益証券を提示して請求した場合、②受益権を取得した者が、受益権原簿に権利者として記載されている者に対し、法198条1項の規定による請求をすべきことを命ずる確定裁判またはこれと同一の効力を有するものの内容を証する書面等を提供して請求した場合等を定めている。
(4)受益証券の記載事項(22条、23条) 施行規則22条および23条は、法209条1項の委任に基づき、受益証券に記載すべき事項の細目について定めているところ、①受益債権の内容、②受益権について譲渡の制限があるときは、その旨およびその内容等、③受益証券発行信託が限定責任信託である場合には、限定責任信託の名称および事務処理地を記載することとしている。
7.限定責任信託(24条関係) 施行規則24条は、法216条2項の委任に基づき、限定責任信託について信託行為に定めなければならない事項の一部を定めているところ、会社における事業年度に相当する「信託事務年度」を定めることとしている。
8.電磁的記録および電磁的方法等(25条~32条関係) 信託法においては、社会全体のIT化に対応する観点から、信託法中の各所において電磁的記録等に関する規定を置いており、その具体的内容については法務省令に委任している。
これらのなかには内容の共通するものも少なくないことから、施行規則の末尾にまとめて規定している。
(1)電磁的記録(25条関係) 施行規則25条は、自己信託の意思表示等を電磁的記録に記録する場合の電磁的記録の具体的内容を定めている。
(2)電磁的記録の作成(26条関係) 施行規則26条は、受託者が作成した計算関係書類等を電磁的記録に置き換えて保存する具体的方法を定めている。
(3)電磁的記録に記録された事項の提供方法(27条関係) 施行規則27条は、計算関係書類等が電磁的記録で作成された場合に、保存義務の免除等を受けるために、当該電磁的記録を受益者等に引き渡す方法を定めている。
(4)電磁的記録に記録された事項の表示方法(28条関係) 施行規則28条は、計算関係書類等が電磁的記録で作成された場合に、受益者等から閲覧の請求があった場合の電磁的記録に記録された事項の具体的な表示方法を定めている。
(5)検査役が提供する電磁的記録(29条関係) 施行規則29条は、検査役の調査結果が電磁的記録で作成された場合の裁判所および受託者等に対する電磁的記録の提供方法について定めている。
(6)電磁的方法(30条関係) 施行規則30条は、受益者集会における議決権の行使が電磁的方法によって行われる場合の具体的内容を定めている。
(7)電子署名(31条関係) 施行規則31条は、受益権原簿記載事項等が電磁的記録に記録され、受益者からの請求に基づき電磁的記録の提供を行う際の、署名または記名押印に代わる措置を定めている(電子署名とされている)。
(8)信託法施行令に係る電磁的方法(32条関係) 施行規則32条は、施行令1条、2条の委任に基づき、通知等の相手方に示す電磁的方法の種類および内容を定めている。
Ⅴ 信託計算規則
信託計算規則(以下「計算規則」という)は、法の委任規定に基づき、信託の計算等に関する技術的・細目的事項を定めるものである(1条。以下、Ⅴにおける括弧内の番号は、特に明記したものを除き、計算規則のものである)。
その主なものの内容は、次のとおりである。
1.定義および会計慣行のしん酌(2条・3条関係) 計算規則は、計算規則で使用する用語を法で使用する用語の例によるなどとし(2条)、また、法が「信託の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従う」としていることから(法13条)、計算規則の用語の解釈および規定の適用に関しても、一般に公正妥当と認められる会計の基準その他の会計の慣行をしん酌しなければならないとしている(3条)。
2.信託帳簿等の作成(4条関係)
(1)信託帳簿の作成 受託者は、信託事務に関する計算ならびに信託財産に属する財産および信託財産責任負担債務の状況を明らかにするため、法務省令で定めるところにより、信託財産に係る帳簿その他の書類または電磁的記録を作成しなければならない(法37条1項)。
そこで、計算規則は、この信託財産に係る帳簿その他の書類または電磁的記録を「信託帳簿」とし(4条1項)、信託帳簿については、信託の実際の利用形態に応じて信託行為の趣旨に沿う適宜のものを作成すれば足りるとする趣旨から、単に、一の書面その他の資料として作成することを要せず、他の目的で作成された書類または電磁的記録をもって信託帳簿とすることができるとしている(同条2項)。また、信託帳簿の作成に当たっては、信託行為の趣旨をしん酌しなければならないとしている(同条6項)。
なお、信託帳簿は、「他の目的で作成された書類又は電磁的記録をもって信託帳簿とすることができる」ことから、受託者が信託帳簿とする以外の目的に作成したものや、受託者以外の者によって作成されたものをもって信託帳簿とすることもできる。
(2)財産状況開示資料の作成 受託者は、毎年1回、一定の時期に、法務省令の定めるところにより、貸借対照表、損益計算書その他の法務省令で定める書類または電磁的記録を作成しなければならない(法37条2項)。
そこで、計算規則は、上記の法務省令で定める書類または電磁的記録を「財産状況開示資料」とし(4条3項)、財産状況開示資料については、信託の実際の利用形態に応じて信託行為の趣旨に沿う適宜のものを作成すれば足りるとする趣旨から、その表示事項等について株式会社の場合のような詳細な規定を設けずに、信託財産に属する財産および信託財産責任負担債務の概況を明らかにするものとしたうえ(同条4項)、信託帳簿に基づいて作成すべきものとしている(同条5項)。また、財産状況開示資料の作成に当たり信託行為の趣旨をしん酌しなければならないことは、信託帳簿と同様である(同条6項)。
なお、財産状況開示資料は、貸借対照表や損益計算書であってもよいが(法37条2項参照)、信託財産に属する財産および信託財産責任負担債務の概況を明らかにするものであれば足り、必ずしも貸借対照表や損益計算書の形式をとる必要はない。
3.会計帳簿等を作成すべき信託の特例(5条関係) 計算規則は、①受益権の譲渡が性質上可能であって(法93条1項ただし書参照)、譲渡の制限がなく、かつ、②受託者が信託行為によって第三者の同意・承諾を要せず信託財産に属する財産のうち主要なものの売却等を行う権限を有する信託については、その信託帳簿や財産状況開示資料を限定責任信託における会計帳簿や貸借対照表・損益計算書等とし(5条1項)、その作成方法についても、限定責任信託における会計帳簿や貸借対照表・損益計算書等に関する計算規則の規定に従って行わなければならないものとしている(同条2項)。
これは、限定責任信託(法2条12項参照)では、債権者を保護し、濫用的な利用を防止する観点から、信託に関する財務状況を明らかにさせるため、2で述べた一般の信託の場合とは異なり、4以下で後述するとおりの会計帳簿や貸借対照表・損益計算書等を必ず作成すべきものとしているところ、限定責任信託以外の信託であっても、上記①、②の要件のいずれにも該当するものについては、受益者との関係や受託者と取引をする第三者との関係で、受託者において信託に関する財務状況を明らかにさせる必要性が高いと考えられるからである。
なお、計算規則5条1項1号の「譲渡の制限」とは、信託行為の定めにより、当該信託の受益権について、その譲渡を禁止することのみならず、その譲渡に当たり受託者の承諾を要するとすることなど幅広く譲渡を制限することが含まれるものである(法93条2項本文参照)。また、計算規則5条1項2号の「第三者の同意又は承諾を得ることなく」は、信託行為において、受託者による同号所定の信託財産に属する財産の売却またはこれらに準ずる行為につき、「第三者の同意又は承諾」を要件としていないことを意味し、「当該信託の受託者が信託行為によって有している」とは、当該の受託者が一定の範囲の信託財産に属する財産の売却等を行う権限を法令の規定によって有する場合を除外する趣旨である。
4.限定責任信託の会計帳簿について(6条~11条関係) 限定責任信託の受託者は、法務省令の定めるところにより、限定責任信託の会計帳簿を作成しなければならないことから(法222条2項)、計算規則は、限定責任信託の会計帳簿について、次の点を定めている。
① 書面または電磁的記録をもって作成すべきこと(6条2項)。
② 原則として、資産については、その取得価額(7条1項)を、負債については、その債務額(8条1項)を付さなければならないこと(その例外については、7条2項~6項・8条2項を参照)のほか、のれんについては、所定の場合に限り、計上できること(9条)。
③ 金銭以外の当初拠出財産(信託行為において信託財産に属すべきものと定められた財産をいう)および受益者に給付する金銭以外の信託財産に属する財産の評価方法(10条、11条)
5.限定責任信託の計算関係書類等(12条~23条関係) 限定責任信託の受託者は、法務省令で定めるところにより、その効力発生日における貸借対照表(法222条3項)のほか、毎年、法務省令で定める一定の時期における貸借対照表、損益計算書およびこれらの附属書類その他の法務省令で定める書類または電磁的記録(同条4項)を作成しなければならないことから、計算規則は、限定責任信託の計算関係書類等について、次の点を定めている。
① 法222条4項による書面または電磁的記録を貸借対照表、損益計算書および信託概況報告ならびにこれらの附属明細書とし(12条2項)、その作成時期を信託事務年度の経過後3か月以内とすること(同条3項。なお、会計監査人設置信託の場合については、同条4項参照)。
② 限定責任信託の貸借対照表および損益計算書(以下「計算書類」という)ならびにこれらの附属明細書(以下、計算書類およびその附属明細書を「計算関係書類」という)の表示単位(13条)
③ 効力発生日の貸借対照表(法222条3項)は、効力発生日の会計帳簿に基づいて作成しなければならず(16条)、また、各信託事務年度に係る計算関係書類の作成期間を当該信託事務年度の前年度の末日の翌日(前年度がない場合は効力発生日)から当該年度の末日までの期間(1年を越えることができない)とし(17条1項)、当該当該信託事務年度に係る会計帳簿に基づき作成しなければならないこと(同条2項)。
④ 計算関係書類および信託概況報告等の区分・内容等(14条、15条、18条~23条)
なお、計算書類には、重要な会計方針に係る事項(14条)や追加情報(15条)を注記しなければならない。
また、貸借対照表には、その負債の部に受益債権に係る債務の額を計上することができず(19条)、法225条に規定する給付可能額を注記しなければならない(20条)。
6.限定責任信託における給付可能額の算定方法(24条関係) 限定責任信託における受益者に対する信託財産に係る給付は、法務省令で定める方法で算定される給付可能額を超えてすることはできないところ(法225条)、計算規則は、給付可能額の算定方法を図のとおりとしたうえ(24条1項)、自己受益権の資産としての計上の禁止(同条2項)、信託行為で定めた給付可能額やその算定方法の変更の禁止(同条3項)を定めている。
7.限定責任信託における清算中の信託の特例(25条~29条関係) 計算規則は、限定責任信託に関して信託の清算が開始した場合において、5で述べたところの例外として、法222条4項により清算受託者が作成すべき清算開始の日における財産目録・貸借対照表(26条、27条)、各清算事務年度に係る貸借対照表・事務報告・これらの附属明細書(28条、29条)についての定めを設けている。
8.受益証券発行限定責任信託の会計監査(30条~33条関係) 受益証券発行限定責任信託の会計監査人は、法222条4項の書類または電磁的記録を監査し、法務省令で定めるところにより、会計監査報告を作成しなければならないところ(法252条1項)、計算規則は、会計監査人が、その職務を適切に遂行するため、受託者等との意思疎通を図り、情報の収集および監査の環境の整備に努めなければならないこと(30条)、会計監査報告の作成時期が計算関係書類を受領したときであること(32条1項)、会計監査報告の内容とすべき事項(同条2項、3項)、会計監査人の受託者等に対する会計監査報告の通知時期や会計監査人の監査を受けたものとされる時期(33条)についての定めを設けている。
Ⅵ 公益信託省令
整備法は、旧信託法の一部改正として、その題名を「公益信託ニ関スル法律」としたうえ、旧信託法66条以下の公益信託の監督に関する規定につき、新信託法の規律との調整を図る観点から若干の改正を行っている。
そこで、公益信託省令は、上記改正に伴い、法務大臣の所管に属する公益信託の引受けの許可及び監督に関する規則につき、必要な整備をするものであり、具体的には、信託の変更・併合・分割の許可申請、検査役の選任請求、信託財産管理命令や信託財産法人管理命令の請求等
信託管理人の辞任許可申請等に係る手続を新設するなどしている。
なお、法務省以外の府省でも、その所管に係る公益信託の引受けの許可および監督に関する府省令について、ほぼ同様の改正が行われている。
Ⅶ 限定責任信託登記規則
限定責任信託登記規則は、法247条で準用する商業登記法148条の委任に基づき、限定責任信託の登記の細則について定めているところ、登記簿の編成や印鑑の提出に関する事項のほか、商業登記規則を準用することなどを定めている。
なお、限定責任信託の登記の具体的な手続については、添付書面や登記記録例を示した通達が発出されている(「信託法の施行に伴う限定責任信託の登記事務の取扱いについて(通達)」平成19年8月20日付法務省民商第1680号法務局長・地方法務局長宛法務省民事局長通達参照)。
(はやし・ふみたか/かんき・こうじ)
信託法関係政省令の要点
法務省民事局付 林 史高
法務省民事局付 神吉康二
Ⅰ はじめに
1.公布に至る経緯等 「信託法案」および「信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」は、第164回国会(通常国会)に提出され、継続審議となっていたところ、第165回国会(臨時国会)において、平成18年12月8日に法律として成立し、同月15日に平成18年法律第108号および第109号として公布された。
法務省においては、信託法および信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」という)成立直後から信託法関係の政省令の策定作業を進めていたところ、平成19年7月4日、「信託法施行令」(政令第199号)、「信託法施行規則」(法務省令第41号)、「信託計算規則」(法務省令第42号)、「法務大臣の所管に属する公益信託の引受けの許可及び監督に関する規則の一部を改正する省令」(法務省令第40号。以下「公益信託省令」という)等の政省令を、同月13日、「信託法及び信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う法務省関係政令等の整備等に関する政令」(政令第207号。以下「整備政令」という)を、同年8月4日、「限定責任信託登記規則」(法務省令第46号)をそれぞれ公布するに至ったものである。
本稿は、信託法関係政省令の概要等について紹介するものである。なお、筆者らは法務省において主要な信託法関係政省令の立案事務を担当したものであるが、本稿は筆者らが個人的な立場で執筆するものであり、意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であることをあらかじめお断りしておく。
2.信託法関係政省令の構成 信託法は、技術的・細目的事項につき、政令、法務省令に委任をしているところ、
① 「信託法施行令」は、電磁的方法による通知の承諾等の手続および受益者の定めのない信託の受託者となることができる法人を定めるもの
② 「整備政令」は、整備法の施行に伴い法務省関係政令等を整備するもの
③ 「信託法施行規則」は、信託法中に規定のある各種書面の記載事項等、技術的・細目的事項を定めるもの
④ 「信託計算規則」は、信託の計算・会計に関する事項を定めるもの
⑤ 「公益信託省令」は、信託法および整備法の施行に伴い法務大臣の所管に属する公益信託の引受けの許可及び監督に関する規則を整備するもの
⑥ 「限定責任信託登記規則」は、限定責任信託に関する登記の細目を定めるもの
である。
3.信託法および関係政省令の施行日 信託法関係政省令の施行日は、いずれも信託法の施行の日である。
同法の施行日は、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内で政令で定める日であり、平成19年8月3日に公布された「信託法の施行期日を定める政令」(政令第231号)により同年9月30日と定められ、先般施行されたところである。
Ⅱ 信託法施行令
1.位置付け 信託法施行令は、信託法(以下「法」という)109条2項、110条4項、114条3項、116条1項および附則3項の委任に基づき、電磁的方法による通知の承諾等の手続(1条、2条関係)および受益者の定めのない信託の受託者となることができる法人(3条関係)を定めるものである。
2.電磁的方法による通知・提供の承諾等の手続(1条、2条関係)
(1)信託法の委任規定 受益者集会の招集者等は、招集通知等を、政令で定めるところにより、通知・提供を受ける者の承諾を得たときは、書面での通知・提供に代えて電磁的方法で通知・提供することができる(法109条2項、110条4項、114条3項、116条1項)。
(2)1条、2条の概要 各条1項は、電磁的方法によって受益者集会の招集通知等を通知・提供しようとする者は、あらかじめ、通知・提供の相手方に対し、その用いる電磁的方法の種類および内容を示し、相手方の書面等による承諾を得なければならないとするものである。
また、各条2項は、相手方から書面等により電磁的方法による通知・提供を受けない旨の申出があったときは、招集者等は、招集通知等を電磁的方法によって発してはならないこと、相手方が、再び第1項の規定による承諾をした場合には、電磁的方法による通知・提供をすることができることを定めるものである。
3.受益者の定めのない信託の受託者となることができる法人(3条関係)
(1)法附則3項の概要 法附則3項は、「受益者の定めのない信託(学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とするものを除く)は、別に法律で定める日までの間、当該信託に関する信託事務を適正に処理するに足りる財産的基礎及び人的構成を有する者として政令で定める法人以外の者を受託者としてすることができない。」と規定している。
なお、この附則3項は、受益者の定めのない信託の受託者の資格(受託者の適格事由)を定めたものであって、不適格者を受託者としてされた信託は無効となり、また、信託の途中で受託者が要件を満たさないこととなった場合には、受託者の任務終了事由となるものと解される。
(2)本条の概要 本条は、附則3項の委任に基づき、受益者の定めのない信託の受託者となることのできる法人の要件について定めるものである。
なお、国および地方公共団体は、公共事務を処理するため公権力を認められた法人であり、信託事務を適正に処理するに足りる財産的基礎および人的構成を有しているものと考えられる。
そこで、本条では、国および地方公共団体以外の法人が、受益者の定めのない信託の受託者となる場合についての「財産的基礎」および「人的構成」の要件を定めている。
ア 1号について 本号は、財産的基礎に関する要件を定めており、受益者の定めのない信託の受託者となることのできる法人は、貸借対照表上の純資産の額が5,000万円を超える法人に限ることとしている。
そして、純資産額算定の基準となる貸借対照表については、その信頼性を担保する観点から、公認会計士(外国公認会計士を含む)または監査法人の監査を受け、虚偽、錯誤および脱漏がないことの証明がされたもの(法人の財産の状況を適正に表示しているとの意見が付されているものと同じ意味であると解される)に限ることとしている(1号柱書後段)。
また、当該貸借対照表は、①最も遅い事業年度の終了の日におけるものを原則とし(同号柱書)、②最初の事業年度の終了の日から3か月以内において、当該日における貸借対照表の監査が終了していない法人については、その成立の日におけるものを(同号イ)、③最も遅い事業年度の終了の日から3か月以内において、当該日における貸借対照表の監査が終了していない法人(②の場合を除く)については、当該事業年度の前事業年度の終了の日におけるもの(同号ロ)としている。
イ 2号について 2号では、受益者の定めのない信託の受託者となることができる法人は、業務を執行する社員、理事もしくは取締役、執行役、会計参与もしくはその職務を行うべき社員または監事もしくは監査役(いかなる名称を有する者であるかを問わず、これらの者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む)(以下「役員等」という)のうちに一定の犯罪歴のある者や暴力団員がいない法人に限る旨を定めている。
役員等のなかに犯罪歴のある者や暴力団員が存する法人は、他の法人と比べて、反社会的な活動を行う可能性が高く、受益者の定めのない信託の制度を濫用する可能性も高いと考えられるためである。
(3)その他 法附則3項は、「別に法律で定める日までの間」は「政令で定める法人以外の者を受託者としてすることができない」と規定していることから、将来的には、信託法施行令3条で定めるような制限は見直しされることとなる。
その時期については、「受益者の定めのない信託のうち学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とする信託に係る見直しの状況その他の事情を踏まえて検討するもの」(法附則4項)とされている。
公益信託については今回実質的な改正は見送られたが、法務省は、公益法人制度改革関連3法およびこれらの委任を受けた政省令が整備されたことなどを踏まえて、今後、公益信託の改正作業に着手していくことになる。
Ⅲ 整備政令
1.位置付け 整備政令は、信託法および整備法の施行に伴い、後述2~5の4つの観点から、関係政令の規定について所要の整備等を行うものであり、1の政令を廃止し、33の政令を改正している。
なお、信託法および整備法の施行に伴う関係政令の整備については、整備政令以外に「信託法及び信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う金融庁関係政令の整備に関する政令」(平成19年政令第208号)もあり、信託業法施行令等の26の政令を改正している。
以下、整備政令の具体的内容を概説する。
2.根拠となる法律の規定の廃止に伴い、政令の廃止を行うもの 「有価証券ノ信託財産表示及信託財産ニ属スル金銭ノ管理ニ関スル件」は、旧信託法3条2項および21条の規定による委任を受けた勅令であるところ、今回の改正により旧信託法の上記各規定が削除されたことから、これに伴い、上記勅令を廃止するものである。
3.信託の登記・登録に関する関係政令の規定の整備を行うもの 登記・登録が権利変動の第三者対抗要件とされる財産については、信託の登記・登録が信託財産に属することの第三者対抗要件とされていることから(法14条)、各種財産に係る権利変動の第三者対抗要件としての登記・登録制度を定めている関係政令について、信託の登記・登録に関する規定を整備するものである。
その対象となる関係政令およびその改正概要は、次のとおりである。
(1)自動車登録令、航空機登録令 自動車および航空機については、それぞれ登録制度がありながら「信託に関する登録」の制度が用意されていなかったことから、整備法71条による改正後の不動産登記法における「信託に関する登記」と同様の規定を新設するとともに、その他必要な整備を行うものである。
(2)鉱業登録令、漁業登録令、特許登録令、著作権法施行令、回路配置利用権等の登録に関する政令、地球温暖化対策の推進に関する法律施行令 これらは、整備法71条による不動産登記法の改正と同様の観点から、「信託に関する登録」の規定に所要の整備をするとともに、その他必要な整備を行うものである。
なお、プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律施行令および商標登録令についても、著作権法施行令または特許登録令の上記改正に伴う形式的整理を行っている。
(3)不動産登記令、建設機械登記令、船舶登記令、農業用動産抵当登記令 不動産登記令については、整備法71条による不動産登記法の改正に伴う整備を行い、その余の建設機械登記令等については、準用する不動産登記令の条項ずれに伴う整備や不動産登記令の別表の改正と同様の整備を行うものである。
4.権利が信託財産に属することの対抗要件の整備を行うもの
(1)商工債令 これは、商工債について、整備法77条により新設した会社法695条の2(信託財産に属する社債についての対抗要件等)の規定と同様の整備等を行うものである。
(2)日本銀行法施行令、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法施行令ほか4つの独立行政法人関係の政令 これらは、出資者原簿等への記載が譲渡に関する対抗要件となる旨規定されている出資者の持分が信託された場合の対抗要件に係る規定を新設するものである。
5.条ずれ、用語・用字の変更等に伴う関係政令の規定の整理を行うもの 信託法等の改正による条ずれ、用語・用字の変更等に伴う規定の整理を行うものとしては、国有財産法施行令、医療法施行令、中小企業金融公庫法施行令、企業担保登記登録令、国家公務員共済組合法施行令、厚生年金基金令、外国為替令、国民年金基金令、公益信託に係る主務官庁の権限に属する事務の処理等に関する政令、商工組合中央金庫法第二十八条ノ七の債券の募集の受託等に関する政令、確定拠出年金法施行令、確定給付企業年金法施行令がある。
Ⅳ 信託法施行規則
信託法施行規則(以下「施行規則」という)は、法の委任規定に基づき、技術的・細目的事項を定めるものである(1条。以下、Ⅳにおける括弧内の番号は、特に明記したものを除き、施行規則のものである)。
その主なものの内容は、次のとおりである。
1.自己信託に係る公正証書等の記載事項等(3条関係) 施行規則3条は、自己信託をする際に作成する公正証書等の記載事項を定めているところ(法3条3号参照)、①信託の目的、②信託財産を特定するために必要な事項のほか、③自己信託をする者の氏名等、④受益者の定め、⑤信託財産に属する財産の管理・処分の方法等を記載しなければならないこととしている。
2.信託財産の分別管理の方法(4条関係) 施行規則4条は、法34条1項3号の委任を受けて、法務省令で定める財産およびその分別管理方法を定めているところ、①法206条1項その他の法令の規定により、当該財産が信託財産に属する旨の記載または記録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができないとされているものを法務省令で定める財産とし、②当該財産は、当該根拠法令の規定に従い信託財産に属する旨の記載または記録をするとともに、その計算(当該受託者が受託するどの信託にどれだけの財産が帰属するか)を明らかにする方法で分別管理をすることとしている。
3.破産管財人に通知すべき事項(5条関係) 法59条2項は、破産手続の開始決定を受け任務の終了した受託者は、法務省令で定める事項を破産管財人に通知することとしている。
そこで、施行規則5条は、①信託財産に属する財産の内容および所在、②信託財産責任負担債務の内容のほか、③受益者等の氏名または名称および住所、④信託行為の内容を通知しなければならないこととしている。
4.受益者集会(6条~11条関係) 施行規則6条から11条までは、受益者集会に関する細則を定めているところ、受益者集会の制度は、概ね、会社法上の社債権者集会の規律にならっていることから、次のように、会社法施行規則中の社債権者集会に関する規定とほぼ同様の規定を設けている。
(1)受益者集会招集の際の決定事項(6条関係) 施行規則6条は、法108条4号の委任に基づき、受益者集会の招集者が受益者集会を招集する際に決定すべき事項の一部を定めているところ、①受益者集会参考書類(法110条1項参照)に記載すべき事項、②書面による議決権行使の期限、③電磁的方法による議決権行使を許容する場合には電磁的方法による議決権行使の期限等を招集の際に決定しなければならないこととしている。
(2)受益者集会参考書類に記載すべき事項(7条関係) 施行規則7条は、法110条1項等の委任に基づき、受益者集会参考書類に記載すべき事項等を定めているところ、議案のほか、受託者の選解任等に関する議案や信託の変更・併合・分割に関する議案に応じて定められた事項、それ以外の議案についての提案理由を記載しなければならないこととしている。
(3)議決権行使書面に記載すべき事項(8条関係) 施行規則8条は、法110条1項等の委任に基づき、議決権行使書面に記載すべき事項等を定めているところ、①各議案についての賛否を記載する欄、②議決権行使の期限等を議決権行使書面に記載することとしている。
(4)議決権行使書面等の行使期限(9条、10条関係) 施行規則9条および10条は、法115条2項および116条1項の委任に基づき、書面または電磁的方法による議決権行使の期限を定めているところ、いずれも、受益者集会の日時以前の時であって、招集通知を発した日から2週間を経過した日以降の時に限るとしている(6条2号、5号イ参照)。
(5)受益者集会の議事録(11条関係) 施行規則11条は、法120条の委任に基づき、①受益者集会の議事録の作成方法や②議事録の記載事項を定めている。
5.信託の併合・分割(12条~17条関係) 施行規則12条から17条までは、信託の併合・分割をする場合に行う、委託者、受託者および受益者の三者の合意の際に明らかにすべき事項の一部と、債権者保護手続において債権者に対して開示すべき事項の一部を定めている。
(1)合意の際に明らかにすべき事項(12条、14条、16条関係) 施行規則12条(併合の場合)、14条(吸収信託分割の場合)、16条(新規信託分割の場合)は、①信託の併合等に関わる他の信託の情報に関する事項、②信託の併合等の条項の相当性に関する事項、③信託の併合等に関わる各信託の財務状況に関する事項等を明らかにすることとしている。
(2)債権者に対して開示すべき事項(13条、15条、17条関係) 施行規則13条(併合の場合)、15条(吸収信託分割の場合)、17条(新規信託分割の場合)は、①信託の併合等に関わる各信託の特定に関する事項、②信託の併合等に関わる各信託の財務状況に関する事項、③関係する債務の履行の見込みに関する事項を開示することとしている。
6.受益証券発行信託(18条~23条関係) 施行規則18条から23条までは、受益証券発行信託を行う際に作成・発行しなければならない受益権原簿の記載事項(18条から21条まで)や受益証券の記載事項(22条、23条)を定めている。
(1)受益権原簿の記載事項(18条、19条関係) 施行規則18条および19条は、法186条の委任に基づき、受益権原簿の記載事項を定めているところ、①受益債権の内容、②受益権について譲渡の制限があるときは、その旨およびその内容、③受益証券発行信託の委託者・受託者に関する事項、④受益証券を発行しない受益権を発行する場合にはその受益権に関する定めの内容、⑤受益証券発行信託の条項等を記載することとしている。
(2)受託者が受益権を取得した場合の特例(20条関係) 施行規則20条は、法197条の委任に基づき、受益証券発行信託の受託者が当該受益証券発行信託の受益権を取得した場合には、当該受益権が固有財産・信託財産・他の信託財産に属するかの別をも受益権原簿に記載することとしている。
(3)受益権原簿記載事項の記載等の請求(21条関係) 施行規則21条は、法198条2項の委任に基づき、受益権原簿の記載請求を受益権の取得者単独でできる利害関係人の利益を害するおそれがない場合を定めているところ、①受益権を取得した者が受益証券を提示して請求した場合、②受益権を取得した者が、受益権原簿に権利者として記載されている者に対し、法198条1項の規定による請求をすべきことを命ずる確定裁判またはこれと同一の効力を有するものの内容を証する書面等を提供して請求した場合等を定めている。
(4)受益証券の記載事項(22条、23条) 施行規則22条および23条は、法209条1項の委任に基づき、受益証券に記載すべき事項の細目について定めているところ、①受益債権の内容、②受益権について譲渡の制限があるときは、その旨およびその内容等、③受益証券発行信託が限定責任信託である場合には、限定責任信託の名称および事務処理地を記載することとしている。
7.限定責任信託(24条関係) 施行規則24条は、法216条2項の委任に基づき、限定責任信託について信託行為に定めなければならない事項の一部を定めているところ、会社における事業年度に相当する「信託事務年度」を定めることとしている。
8.電磁的記録および電磁的方法等(25条~32条関係) 信託法においては、社会全体のIT化に対応する観点から、信託法中の各所において電磁的記録等に関する規定を置いており、その具体的内容については法務省令に委任している。
これらのなかには内容の共通するものも少なくないことから、施行規則の末尾にまとめて規定している。
(1)電磁的記録(25条関係) 施行規則25条は、自己信託の意思表示等を電磁的記録に記録する場合の電磁的記録の具体的内容を定めている。
(2)電磁的記録の作成(26条関係) 施行規則26条は、受託者が作成した計算関係書類等を電磁的記録に置き換えて保存する具体的方法を定めている。
(3)電磁的記録に記録された事項の提供方法(27条関係) 施行規則27条は、計算関係書類等が電磁的記録で作成された場合に、保存義務の免除等を受けるために、当該電磁的記録を受益者等に引き渡す方法を定めている。
(4)電磁的記録に記録された事項の表示方法(28条関係) 施行規則28条は、計算関係書類等が電磁的記録で作成された場合に、受益者等から閲覧の請求があった場合の電磁的記録に記録された事項の具体的な表示方法を定めている。
(5)検査役が提供する電磁的記録(29条関係) 施行規則29条は、検査役の調査結果が電磁的記録で作成された場合の裁判所および受託者等に対する電磁的記録の提供方法について定めている。
(6)電磁的方法(30条関係) 施行規則30条は、受益者集会における議決権の行使が電磁的方法によって行われる場合の具体的内容を定めている。
(7)電子署名(31条関係) 施行規則31条は、受益権原簿記載事項等が電磁的記録に記録され、受益者からの請求に基づき電磁的記録の提供を行う際の、署名または記名押印に代わる措置を定めている(電子署名とされている)。
(8)信託法施行令に係る電磁的方法(32条関係) 施行規則32条は、施行令1条、2条の委任に基づき、通知等の相手方に示す電磁的方法の種類および内容を定めている。
Ⅴ 信託計算規則
信託計算規則(以下「計算規則」という)は、法の委任規定に基づき、信託の計算等に関する技術的・細目的事項を定めるものである(1条。以下、Ⅴにおける括弧内の番号は、特に明記したものを除き、計算規則のものである)。
その主なものの内容は、次のとおりである。
1.定義および会計慣行のしん酌(2条・3条関係) 計算規則は、計算規則で使用する用語を法で使用する用語の例によるなどとし(2条)、また、法が「信託の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従う」としていることから(法13条)、計算規則の用語の解釈および規定の適用に関しても、一般に公正妥当と認められる会計の基準その他の会計の慣行をしん酌しなければならないとしている(3条)。
2.信託帳簿等の作成(4条関係)
(1)信託帳簿の作成 受託者は、信託事務に関する計算ならびに信託財産に属する財産および信託財産責任負担債務の状況を明らかにするため、法務省令で定めるところにより、信託財産に係る帳簿その他の書類または電磁的記録を作成しなければならない(法37条1項)。
そこで、計算規則は、この信託財産に係る帳簿その他の書類または電磁的記録を「信託帳簿」とし(4条1項)、信託帳簿については、信託の実際の利用形態に応じて信託行為の趣旨に沿う適宜のものを作成すれば足りるとする趣旨から、単に、一の書面その他の資料として作成することを要せず、他の目的で作成された書類または電磁的記録をもって信託帳簿とすることができるとしている(同条2項)。また、信託帳簿の作成に当たっては、信託行為の趣旨をしん酌しなければならないとしている(同条6項)。
なお、信託帳簿は、「他の目的で作成された書類又は電磁的記録をもって信託帳簿とすることができる」ことから、受託者が信託帳簿とする以外の目的に作成したものや、受託者以外の者によって作成されたものをもって信託帳簿とすることもできる。
(2)財産状況開示資料の作成 受託者は、毎年1回、一定の時期に、法務省令の定めるところにより、貸借対照表、損益計算書その他の法務省令で定める書類または電磁的記録を作成しなければならない(法37条2項)。
そこで、計算規則は、上記の法務省令で定める書類または電磁的記録を「財産状況開示資料」とし(4条3項)、財産状況開示資料については、信託の実際の利用形態に応じて信託行為の趣旨に沿う適宜のものを作成すれば足りるとする趣旨から、その表示事項等について株式会社の場合のような詳細な規定を設けずに、信託財産に属する財産および信託財産責任負担債務の概況を明らかにするものとしたうえ(同条4項)、信託帳簿に基づいて作成すべきものとしている(同条5項)。また、財産状況開示資料の作成に当たり信託行為の趣旨をしん酌しなければならないことは、信託帳簿と同様である(同条6項)。
なお、財産状況開示資料は、貸借対照表や損益計算書であってもよいが(法37条2項参照)、信託財産に属する財産および信託財産責任負担債務の概況を明らかにするものであれば足り、必ずしも貸借対照表や損益計算書の形式をとる必要はない。
3.会計帳簿等を作成すべき信託の特例(5条関係) 計算規則は、①受益権の譲渡が性質上可能であって(法93条1項ただし書参照)、譲渡の制限がなく、かつ、②受託者が信託行為によって第三者の同意・承諾を要せず信託財産に属する財産のうち主要なものの売却等を行う権限を有する信託については、その信託帳簿や財産状況開示資料を限定責任信託における会計帳簿や貸借対照表・損益計算書等とし(5条1項)、その作成方法についても、限定責任信託における会計帳簿や貸借対照表・損益計算書等に関する計算規則の規定に従って行わなければならないものとしている(同条2項)。
これは、限定責任信託(法2条12項参照)では、債権者を保護し、濫用的な利用を防止する観点から、信託に関する財務状況を明らかにさせるため、2で述べた一般の信託の場合とは異なり、4以下で後述するとおりの会計帳簿や貸借対照表・損益計算書等を必ず作成すべきものとしているところ、限定責任信託以外の信託であっても、上記①、②の要件のいずれにも該当するものについては、受益者との関係や受託者と取引をする第三者との関係で、受託者において信託に関する財務状況を明らかにさせる必要性が高いと考えられるからである。
なお、計算規則5条1項1号の「譲渡の制限」とは、信託行為の定めにより、当該信託の受益権について、その譲渡を禁止することのみならず、その譲渡に当たり受託者の承諾を要するとすることなど幅広く譲渡を制限することが含まれるものである(法93条2項本文参照)。また、計算規則5条1項2号の「第三者の同意又は承諾を得ることなく」は、信託行為において、受託者による同号所定の信託財産に属する財産の売却またはこれらに準ずる行為につき、「第三者の同意又は承諾」を要件としていないことを意味し、「当該信託の受託者が信託行為によって有している」とは、当該の受託者が一定の範囲の信託財産に属する財産の売却等を行う権限を法令の規定によって有する場合を除外する趣旨である。
4.限定責任信託の会計帳簿について(6条~11条関係) 限定責任信託の受託者は、法務省令の定めるところにより、限定責任信託の会計帳簿を作成しなければならないことから(法222条2項)、計算規則は、限定責任信託の会計帳簿について、次の点を定めている。
① 書面または電磁的記録をもって作成すべきこと(6条2項)。
② 原則として、資産については、その取得価額(7条1項)を、負債については、その債務額(8条1項)を付さなければならないこと(その例外については、7条2項~6項・8条2項を参照)のほか、のれんについては、所定の場合に限り、計上できること(9条)。
③ 金銭以外の当初拠出財産(信託行為において信託財産に属すべきものと定められた財産をいう)および受益者に給付する金銭以外の信託財産に属する財産の評価方法(10条、11条)
5.限定責任信託の計算関係書類等(12条~23条関係) 限定責任信託の受託者は、法務省令で定めるところにより、その効力発生日における貸借対照表(法222条3項)のほか、毎年、法務省令で定める一定の時期における貸借対照表、損益計算書およびこれらの附属書類その他の法務省令で定める書類または電磁的記録(同条4項)を作成しなければならないことから、計算規則は、限定責任信託の計算関係書類等について、次の点を定めている。
① 法222条4項による書面または電磁的記録を貸借対照表、損益計算書および信託概況報告ならびにこれらの附属明細書とし(12条2項)、その作成時期を信託事務年度の経過後3か月以内とすること(同条3項。なお、会計監査人設置信託の場合については、同条4項参照)。
② 限定責任信託の貸借対照表および損益計算書(以下「計算書類」という)ならびにこれらの附属明細書(以下、計算書類およびその附属明細書を「計算関係書類」という)の表示単位(13条)
③ 効力発生日の貸借対照表(法222条3項)は、効力発生日の会計帳簿に基づいて作成しなければならず(16条)、また、各信託事務年度に係る計算関係書類の作成期間を当該信託事務年度の前年度の末日の翌日(前年度がない場合は効力発生日)から当該年度の末日までの期間(1年を越えることができない)とし(17条1項)、当該当該信託事務年度に係る会計帳簿に基づき作成しなければならないこと(同条2項)。
④ 計算関係書類および信託概況報告等の区分・内容等(14条、15条、18条~23条)
なお、計算書類には、重要な会計方針に係る事項(14条)や追加情報(15条)を注記しなければならない。
また、貸借対照表には、その負債の部に受益債権に係る債務の額を計上することができず(19条)、法225条に規定する給付可能額を注記しなければならない(20条)。
6.限定責任信託における給付可能額の算定方法(24条関係) 限定責任信託における受益者に対する信託財産に係る給付は、法務省令で定める方法で算定される給付可能額を超えてすることはできないところ(法225条)、計算規則は、給付可能額の算定方法を図のとおりとしたうえ(24条1項)、自己受益権の資産としての計上の禁止(同条2項)、信託行為で定めた給付可能額やその算定方法の変更の禁止(同条3項)を定めている。
7.限定責任信託における清算中の信託の特例(25条~29条関係) 計算規則は、限定責任信託に関して信託の清算が開始した場合において、5で述べたところの例外として、法222条4項により清算受託者が作成すべき清算開始の日における財産目録・貸借対照表(26条、27条)、各清算事務年度に係る貸借対照表・事務報告・これらの附属明細書(28条、29条)についての定めを設けている。
8.受益証券発行限定責任信託の会計監査(30条~33条関係) 受益証券発行限定責任信託の会計監査人は、法222条4項の書類または電磁的記録を監査し、法務省令で定めるところにより、会計監査報告を作成しなければならないところ(法252条1項)、計算規則は、会計監査人が、その職務を適切に遂行するため、受託者等との意思疎通を図り、情報の収集および監査の環境の整備に努めなければならないこと(30条)、会計監査報告の作成時期が計算関係書類を受領したときであること(32条1項)、会計監査報告の内容とすべき事項(同条2項、3項)、会計監査人の受託者等に対する会計監査報告の通知時期や会計監査人の監査を受けたものとされる時期(33条)についての定めを設けている。
Ⅵ 公益信託省令
整備法は、旧信託法の一部改正として、その題名を「公益信託ニ関スル法律」としたうえ、旧信託法66条以下の公益信託の監督に関する規定につき、新信託法の規律との調整を図る観点から若干の改正を行っている。
そこで、公益信託省令は、上記改正に伴い、法務大臣の所管に属する公益信託の引受けの許可及び監督に関する規則につき、必要な整備をするものであり、具体的には、信託の変更・併合・分割の許可申請、検査役の選任請求、信託財産管理命令や信託財産法人管理命令の請求等
信託管理人の辞任許可申請等に係る手続を新設するなどしている。
なお、法務省以外の府省でも、その所管に係る公益信託の引受けの許可および監督に関する府省令について、ほぼ同様の改正が行われている。
Ⅶ 限定責任信託登記規則
限定責任信託登記規則は、法247条で準用する商業登記法148条の委任に基づき、限定責任信託の登記の細則について定めているところ、登記簿の編成や印鑑の提出に関する事項のほか、商業登記規則を準用することなどを定めている。
なお、限定責任信託の登記の具体的な手続については、添付書面や登記記録例を示した通達が発出されている(「信託法の施行に伴う限定責任信託の登記事務の取扱いについて(通達)」平成19年8月20日付法務省民商第1680号法務局長・地方法務局長宛法務省民事局長通達参照)。
(はやし・ふみたか/かんき・こうじ)
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