コラム2008年01月28日 【Sammys Cafe】 株主優待と利益供与(2008年1月28日号・№244)

コンプライアンスの秘訣を指南するみんなの会社法
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株主優待と利益供与

by TMI総合法律事務所 弁護士 葉玉匡美
港区の一角に、ちっぽけなカフェがある。そこは、なぜか会社法に詳しいマスターが、悩み多き法務担当者に心休まるコーヒーを差し出す大人の隠れ家。
Welcome to SAMMYS Cafe

Sammy 毎年、御社の株主総会の終了後にアイドルドライバーの鮎さんが歌いますよね。私はあれが楽しみで、御社の株式を売れません。
恵比寿トラック そうでしょ。鮎さんの歌は大好評なので、今年は議決権行使書面を送ってくれた株主を総会出席者と同視して、鮎さんの特製CDを送る予定なんだよ。
Sammy
 そうですか。でも、どうせなら議決権の行使をしない株主にも送った方がいいかもしれませんね。

1 株主優待制度の類型

 株主優待制度とは、株式会社がその株主に対して、剰余金の配当とは異なる一定の利益を与える制度のことをいいます。
 株主優待制度は、社会的儀礼や自社商品の販売促進の目的で株主に利益を供与するものであり、剰余金の配当とは異なり、株主平等の原則が適用されません。そのため、全株主に原則として保有株式数に応じて供与する配当類似型のほか、全株主に一律に利益を供与する頭数型や、議決権を行使した株主に対してのみ利益を供与する議決権行使型など様々な方法が採られています。
 このような利益供与の方法は、株主優待の趣旨と密接に関連しており、配当類似型や頭数型は安定株主の醸成や販売促進等を目的とすることが多く、議決権行使型は社会的儀礼または株主総会の定足数の確保を目的とすることが多いように思います。
 もっとも、会社が、保有株式数とは無関係に、株主に利益を供与する場合には、株主に対する利益供与の禁止(120条1項・947条)との関係を注意深く検討する必要があります。

2 社会的儀礼と利益供与

 株主優待制度が、120条1項や947条に違反するかどうかは、会社の利益供与が「株主の権利の行使に関し」行われたかどうかによります。
 「株主の権利の行使に関し」とは、一般に「株主の権利行使に影響を与える趣旨で」という意味といわれています。議決権や単独株主権・少数株主権の行使または不行使に影響を与える趣旨であれば、広く株主の権利の行使に関するものに該当するのです。
 配当類似型や頭数型の株主優待制度は、株主の権利行使の有無を問わず利益を供与するものですから、個々の株主の権利の行使に影響を与える効果はありませんし、安定株主の醸成や自社製品の販売促進目的は株主の権利の行使に関するものには該当しませんから、これらの株主優待制度はさほど心配する必要はありません。
 難しいのは、議決権行使型の株主優待制度です。株主の権利の行使に関するものかどうかは利益供与をした行為者の主観的要件ですから、まずは、行為者が当該株主優待をどのような趣旨で行ったかを考えるわけですが、これが、株主の議決権行使を促進することを目的とするものではなく、株主総会に出席した株主に対する手土産の趣旨であったり、株主総会出席株主との公平の見地から議決権行使書面を送付した株主に送付する記念品の趣旨であったり、いわゆる社会的儀礼の意味しかないとすれば、理論的には、株主の権利の行使に関するものには該当しません。
 ただし、裁判で当該要件が争点になった場合には、行為者の意思は客観的証拠から認定されることが多いため、行為者が責任を免れるためには、
① 1人あたりの金額が、社会通念上、儀礼の範囲にとどまる程度の額であること
② 株主に対して提供した額が会社の財産的基礎を揺るがさない程度のものであること
③ 株主の権利の行使に影響を及ぼす可能性がないものであること
などの事情が必要でしょう。

3 定足数の確保と利益供与

 それでは、行為者が、議決権行使型株主優待を、株主総会への出席や議決権行使書面の送付を促進し、定足数を確保する目的で行った場合はどうでしょうか。
 この場合、行為者は株主に議決権を行使させようとしているのですから、「株主の権利の行使に関する利益供与に該当する」という考え方もありうるでしょう(モリテックス事件・東京地判平成19年12月6日参照)(編注・事件の経緯等について、本誌240号66頁参照)。
 しかし、たとえば、業務執行者が、株主総会の出席率を上げるため、株主総会後にコンサートを開催することを、「総会出席権の行使に関する利益供与である」と考えるとすれば、多くの人は違和感を覚えるのではないでしょうか。それは、定足数を充たさずに決議が不成立となれば、会社の運営に深刻な影響をもたらす場合もありますし、できるだけ多くの株主が議決権を行使することにより株主の意思を正確に反映した意思決定をすることができるようになることを考えると、業務執行者としては、株主総会への出席や議決権行使を促す適切な措置を行うことこそが、その職責をまっとうすることになるからだと思います。
 そもそも、株主に対する利益供与の禁止の趣旨は、会社の業務執行者等が会社や子会社の資金を利用して会社に有利に働くような権利の行使をさせたり、会社に不利な提案に反対させたりすることを防止することにあります。
 そうだとすれば、①議決権の行使または不行使および特定の議案に対する賛否に影響を及ぼす意思がなく、かつ、②実際にそのような影響を及ぼす可能性のない方法で行われたものであるならば、それは単に「定足数の確保」という株主総会の決議要件を充たす目的で行われたものであり、個々の株主の議決権行使に関して行われたものとは認められないと解すべきでしょう。
 他方、会社が、議決権行使書面の賛否の欄が空白である場合には会社提案に賛成したものとみなす旨の取扱いをするようなケースでは、議決権行使書面の送付そのものによって、会社提案への賛成を促す効果を有することになりますから、株主の権利の行使に関する利益供与であると認定される可能性が高いと思います。
 このように議決権行使型株主優待制度は、刑事罰にもかかわるセンシティブな面がありますので、慎重のうえにも慎重に制度を構築してください。

Sammy いいこと教えたんですから、よかったら、そのCDのなかで鮎さんとデュエットさせてもらえませんか?
恵比寿トラック なるほど。Sammyさんの歌声を入れれば、利益供与ではなく、害悪供与になるから、リスクがなくなるということだね(笑)。でも、Sammyさんをスタジオに入れたら、鮎さんの身にリスクが生じそうだからダメ!

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