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解説記事2008年03月03日 【最新判決研究】 アメリカLLCからの分配金の所得区分―アメリカLLCは我が国の「法人」か―(2008年3月3日号・№249)

最新判決研究
アメリカLLCからの分配金の所得区分
―アメリカLLCは我が国の「法人」か―


品川芳宣
早稲田大学大学院客員教授(専任)
筑波大学名誉教授


さいたま地裁平成17年(行ウ)第3号 平成19年5月16日判決
東京高裁平成19年(行コ)第212号 平成19年10月10日判決

一、事実

(1)本件は、X(原告・控訴人)が、平成10年分ないし同12年分所得税につき、アメリカ・ニューヨーク州法に基づいて組成されたリミテッド・ライアビリティー・カンパニー(以下「LLC」という。)であるA・LLC(以下「本件LLC」という。)が行った不動産賃貸業に係る収支及び本件LLC名義の預金利息収入をXの不動産所得及び雑所得として確定申告したことに対し、Y税務署長(被告・被控訴人)が、本件LLCが行う不動産賃貸業によって生じた損益は法人である本件LLCに帰属するもので、Xの課税所得に含まれないとし、本件LLCが平成10年ないし同12年にXに対して送金した分配金(以下「本件分配金」という。)はXの配当所得に該当する等として、平成14年3月14日付で当該各年分に係る更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(両各処分を併せて「本件各処分」という。)をしたため、本件各処分の適否が争われたものである。本訴において、Xは、本件LLCは我が国の租税法上の法人に該当せず、また、本件分配金の一部は出資金の払戻しであって配当所得には当たらないとして、本件各処分の取消しを求めた。
(2)本件LLCに係る事実関係は、次のとおりである。
① Xは、平成2年7月、ニューヨーク州在住のBとの間で、アメリカでパートナーシップ契約を締結し、Aの名で共同して不動産賃貸業を営むことを約した(以下「本件パートナーシップ」という。)。
② Xは、平成3年6月から9月にかけて、MS銀行H支店から5,400万円を借り入れるなどし、本件パートナーシップに出資するために米国へ42万7,694ドルを送金した。この送金額のうち、Xは、その2分の1を出資金とし、残りの2分の1をBへの貸付金とし、Bの出資金とした。
③ X及びBは、本件パートナーシップとして、平成3年9月ころ、不動産購入のための資金とするため、105万8,000ドルを借り入れ、ニューヨーク市所在の物件(以下「本件賃貸ビル」という。)を合計140万7,175ドルで購入し、共同で本件賃貸ビルによる不動産賃貸業を開始した。
④ 平成6年10月、ニューヨーク州において、LLC法(以下「NYLLC法」という。)が施行され、平成9年1月、アメリカにおいて、チェック・ザ・ボックス規則が施行された。
⑤ Xは、平成10年2月、Bから、同人に対し本件パートナーシップ組成時に貸し付けた金額の元利の一部として、20万ドルの返済を受けた。X及びBは、同年3月、本件パートナーシップに対する出資金として各2万5,000ドルを拠出した。
⑥ Xは、Bとの間で、平成10年4月、本件パートナーシップをLLCへ組織変更した。本件パートナーシップに係る資産及び負債は、本件LLCに引き継がれた。XとBの本件LLCに対する持分比率は、チェック・ザ・ボックス規則に基づき、パートナーシップとして課税されることを選択した。
⑦ 本件LLCは、平成10年4月、N・アセットから、本件賃貸ビルを担保として、240万ドルの借入れを行った(以下「本件借入金」という。)。上記貸付の際、N・アセットは、本件賃貸ビルの市場価値を370万ドルと評価した。
⑧ 本件LLCは、平成10年4月、N・アセットからの本件借入金240万ドルのうち一部を平成3年の本件賃貸ビル購入時に行った借入れの返済に充てる(未払いの元利合計96万4,052.19ドル。)一方、X及びBに対し、それぞれ25万ドル及び85万ドルの分配をした。本件借入金の残額は、本件LLCに内部留保された。
⑨ 平成10年5月、BからXに対し、本件パートナーシップ組成時に貸し付けた金額の元利の残額として、2万8,000ドルの返済が行われた。また、Xは、同年8月、Bから、上記貸付金にかかる最終的な精算金額として477ドルを受け取った。
⑩ 本件LLCは、平成11年12月、Xに対し、12万5,000ドルの分配をし、同月22日、Bに対し、同額の分配をした。
 また、本件LLCは、X及びBに対し、平成12年7月、各5万ドルの分配をし、同年12月22日、各4万5,000ドルの分配をした。

二、争点及び当事者の主張

1 争点

 本件の主な争点は、次のとおりである。
(1)本件LLCは、我が国租税法上の「法人」に該当するか(争点1)。
(2)本件分配金は、Xの「配当所得」に該当するか(争点2)。
(3)本件分配金が配当所得に該当しないとしてXの所得税の計算をしたことについて、「正当な理由があると認められる」場合に該当するか(争点3)。
2 Xの主張
(1)LLCは、パートナーシップ形態で事業を行うのでは、事業の構成員が無限責任を負うことになるから、構成員をその負担から解放して小規模組織の事業活動の活性化を図るために認められた事業形態であり、そもそも組合的な色彩の強いものである。NYLLC法は、その定義規定において、LLCを非法人組織(unincorporated organization)と位置付け、LLCが法人ではないことを明確にしている。
 アメリカの税法上、LLCは、その持分が公に取引されている場合を除き、法人課税又はパートナーシップ課税のいずれかを任意に選択することができるところ(チェック・ザ・ボックス規則)、本件LLCは、米国国内において、当初よりパートナーシップとして課税されることを選択して納税している。そして、本件LLCを我が国における法制度上の組織と比較すると、(a)有限責任制、(b)構成員による内部自治原則、(c)構成員(パス・スルー)課税のいずれも採用している点で、本件LLCは、日本版LLCとされる合同会社ではなく、むしろ我が国における有限責任事業組合に相当するものである。
(2)仮に、本件LLCが我が国租税法上の法人に該当するとしても、本件LLCが平成10年にXに対し分配した25万ドルのうち、21万3,847ドルはXの本件LLCに対する出資金の払戻しであり、配当所得となるのは3万6,153ドルに過ぎない。
 現地でマネージング・パートナーとして経営に携わっていたBは、日本に在住し本件LLCの実際の経営に携わっていないXの出資に伴うリスクを可能な限り早期に解消しようと考えていた。そこで、XとBは、平成10年にN・アセットから240万ドルの借り入れが可能となったことを契機に、本件LLCにXに対する出資金の払戻しをさせた。
 NYLLC法は、出資金の払戻しについては、明文の規定を置いていない。しかしながら、(a)同法が出資金の拠出については構成員間で締結するオペレーティング契約の自由に広く委ねていること、(b)同法には、分配金の制限や構成員の債権者の権利に対する規定以外に債権者保護のための定めは特になく、最低資本金制度も存在しないのであって、構成員が出資金を払い戻すこと自体は同法に抵触するものではないこと、さらに、(c)同法は、LLC解散時における資産の分配について、構成員に対し、今までに返還されていない範囲で、出資金の返還として分配する旨規定するなど、LLCの解散の前に出資金の払戻しがされることを前提とした規定を置いていることからすると、LLCにおいては、オペレーティング契約に従って、又は構成員全員の承諾によって、適宜出資金の払戻しを行うことは可能であると考えられる。
(3)XとBは、本件パートナーシップを本件LLCへと組織変更したものの、それはアメリカの法制度が変わったことにより、本件賃貸ビルに係る不動産賃貸業の出資者であるX及びBが無限責任を負わず、有限責任を享受できるに至っただけで、事業の実態面はもとより、課税関係上も、従前と何ら変更された点はなかった。また、税務当局は、納税者が適法な税務申告を行い得るよう、通達等をもって周知するなどの措置を取らなかったことから、税務当局内部においても、LLCが我が国租税法上の外国法人に当たることの認識は周知されていなかった。実際、Xが平成10年ないし同12年分(本件各係争年分)につき本件LLCをパートナーシップとして各確定申告をした際も、税務署の職員等から、その点に関する指導等を受けたことはなかった。そして、税務当局が、LLCを法人として取り扱う旨の行政上の見解を示したのは平成13年である。
 そうすると、パートナーシップとしての事業の実態に変更がない上、税務当局からLLCを法人として取り扱う旨の指導がなく、行政上の見解も示されていない本件各係争年分の時点では、Xが従前の申告方法を変えることは期待できず、Xが、本件分配金を外国法人からの配当所得として申告しなかったとしても、その責めに帰することができない客観的な事情があり、かつ、過少申告加算税をXに賦課することは酷というべきである。
3 Y税務署長の主張
(1)所得税法及び法人税法において、法人について明確な定義付けをした規定はない。租税法上定義を置いていない用語については、別意に解すべきことが租税法規の明文又はその趣旨から明らかな場合は別として、それを私法上におけるのと同じ意義に解すべきところ、我が国の私法上、法人とは、「自然人以外のもので、法律上、権利義務の主体たりうるもの」、すなわち、権利を有し、義務を負う能力を法律上有しているものをいうと解される。国際私法上、外国の法律によって設立された事業体について、その設立準拠法の下で与えられた法人格は、我が国においても承認されると解されるところ、外国の法律によって設立され、当該設立準拠法の下で法人格を与えられた事業体は、我が国の私法上(租税法上)の外国法人に該当すると解される。
 本件LLCには、NYLLC法に基づき付与された権利義務の主体となり得る広範な法律上の資格が与えられており、また、本件LLCは、英米法上の法人格を有する団体の要件も具備することから、我が国の租税法上の「法人」に該当する。
(2)法人からの分配金が配当所得に該当するか否かは、それが出資者の地位に基づいて供与した経済的な利益と認められるか否かにより判断されるのであって、出資金の返還が行われたような蛸配当であっても配当所得に該当すると解される。本件分配金は、NYLLC法の規定より、本件借入金の担保とされる本件賃貸ビルの市場価額(370万ドル)が非遡求型の借入れである本件借入金の金額(240万ドル)を超える部分(130万ドル)が、本件LLCにおいて分配可能となることを根拠に、構成員に対して分配されたものと考えられる。また、本件賃貸ビルは、平成3年に140万7,175ドルで取得したものであるところ、本件借入金の借入れに当たって、当該ビルの市場価額は370万ドルと評価されたのであるから、当該ビルには、含み益が約230万ドル生じており、本件分配金は、その利益を観念した上で分配されたものとみることもできる。そうすると、本件分配金は、所得税法上の「配当所得」に該当する。
(3)国税庁は、平成13年に米国LLCに関する税務上の取扱いを公表したものの、それ以前において、米国LLCを我が国の税務上「法人」として取り扱わない旨の公的見解を示したことはなく、そのような行政慣行が運用として定着していたこともない。そして、Xは、本件各係争年分に係る所得税の確定申告をするに当たり、Y税務署長に対して、本件LLCないし本件分配金に係る我が国の税務上の取扱いについて確認した事実は一切なく、自らの解釈に基づき、各確定申告をしたものである。よって、本件においては、過少申告に当たっての「正当な理由」は存しない。

三、一審判決要旨

請求棄却。


1 争点1(本件LLCの外国法人該当性)
(1)所得税法2条及び法人税法2条は、内国法人を国内に本店又は主たる事務所を有する法人と定義し、外国法人を内国法人以外の法人と定義しているが、我が国の租税法上、法人そのものについて定義した規定はない。
 納税義務は、各種の経済活動ないし経済現象から生じてくるのであるが、それらの活動ないし現象は、第一次的には私法によって規律されている。したがって、租税法がそれらを課税要件規定の中に取り込むに当たって、私法上におけるものと同じ概念を用いている場合には、別の意義に解すべきことが租税法規の明文又はその趣旨から明らかな場合は別として、それを私法上におけるものと同じ意義に解するのが、法的安定に資する。そうすると、租税法上の法人は、民法、会社法といった私法上の概念を借用し、これと同義に解するのが相当である。したがって、例えば、会社法上すべての「会社」が法人である以上(会社法3条、旧商法54条1項)、そのすべてが法人税の納税義務を負うことと考えられ、その中には、持分会社である合名会社、合資会社や合同会社も含まれる(会社法2条1号、旧商法53条)し、その他、個別の立法において法人格を与えられているあらゆる法人(公共法人を除く)が何らかの形で法人税の納税義務を負うことになる。つまり、我が国の租税法上、「法人」に該当するかどうかは、私法上、法人格を有するか否かによって基本的に決定されていると解するのが相当である。
(2)そして、外国の法令に準拠して設立された社団や財団の法人格の有無の判定に当たっては、基本的に当該外国の法令の内容と団体の実質に従って判断するのが相当であり、本件LLCは、NYLLC法に準拠して設立され、その事業の本拠を同州に置いているのであるから、本件LLCが法人格を有するか否かについては、法の内容と本件LLCの実質に基づき判断するのが相当である。
(3)そこで、これを検討すると、次のとおりである。
① 証拠によれば、英米法における法人格を有する団体の要素には、(a)訴訟当事者になること、(b)法人の名において財産を取得し処分すること、(c)法人の名において契約を締結すること、(d)法人印(corporate seal)を使用することなどが含まれることが認められる。
② NYLLC法の関係規定をみるに、同法に基づき設立されたLLCは、その名において訴訟手続等の当事者となることができるし、また、不動産や動産を取得したり、その財産又は資産の全部又は一部を処分したりすることができることが認められる。さらに、当該LLCは、証券に係る取引、種々の契約の締結に加えて、広範な権能を有していることが認められる。
③ 次に、本件LLCについてみるに、その名において訴訟手続等の当事者となることができると考えられ、また、本件オペレーティング契約にも、本件LLCが訴訟当事者となり、訴状等の送達を受けることを前提とした規定があることが認められる。
 また、本件LLCは、本件オペレーティング契約において、本件賃貸ビルを所有することを前提とする規定をした上で、NYLLC法の規定に基づき、X及びBの共同事業用の資産であった本件賃貸ビルを引き継ぎ、所有していることが認められる。さらに、本件LLCは、その名において、本件借入金の融資を受ける際に、抵当権を設定し、抵当証券を発行していること、また、その名において、不動産管理会社に本件賃貸ビルの管理を委託する契約を締結していることが認められる。
④ そうすると、本件LLCは、NYLLC法に基づき、その名において、(a)訴訟当事者になること、(b)財産を取得し、処分すること、(c)契約を締結する権能を有し、実際に、訴訟手続の当事者となることや財産を所有することを前提とした規定を本件オペレーティング契約に置いた上で、その名において、財産を所有・管理し、契約を締結していることが認められる。
⑤ 加えて、NYLLC法は、州政府に基本定款を提出した時点でLLCが設立される旨規定し、同法に基づき設立されたLLCを構成員からは独立した法的主体(separate legal entity)と位置付けている。さらに、同法は、LLCの個別財産について、LLCの構成員は、一切の利益ないし持分(interest)を有しないと規定している。
(4)以上の事実を総合すると、本件LLCは、NYLLC法上、法人格を有する団体として規定されており、自然人とは異なる人格を認められた上で、実際、自己の名において契約をするなど、X及びBからは独立した法的実在として存在していることが認められる。
 そうすると、本件LLCは、アメリカ・ニューヨーク州法上法人格を有する団体であり、我が国の私法上(租税法上)の法人に該当すると解するのが相当である。
2 争点2(本件分配金の配当所得該当性)
(1)所得税法上、配当所得とは、法人から受ける剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし、資本剰余金の額の減少に伴うものを除く。)、利益の配当、剰余金の分配(出資に係るものに限る。)等に係る所得等をいう。そして、会社からの分配は、会社の正式な決算手続きに基づき利益が分配されたものでなくても、実質的にみてそれが出資者が出資者である地位に基づいて受ける利益の配分と見られる限りにおいて、配当所得となるものと解される(最高裁昭和43年11月13日判決・民集22巻12号2449頁参照)。
(2)前記事実関係によれば、(a)本件賃貸ビルは、平成3年の購入時に約140万ドルであったものが、平成10年の本件借入金の借入時には370万ドルで評価され、購入時以降、本件賃貸ビルが減価償却していることを考慮すると、上記借入時には、230万ドル以上の含み益が生じていたこと、(b)本件LLCは、本件各係争年分の利益として、平成10年は4万9,122ドル、平成11年は2万7,680ドル、同12年は12万8,479ドルの合計20万5,281ドルの利益を計上したことが認められる。
 ところで、証拠によれば、NYLLC法は、LLCの分配金に対する制限規定を設け、その債権者の保護を図っているところ、同規定によれば、LLCは、当該分配時において、当該LLCの全資産の公正市場価額が全負債を超える範囲において、構成員に対する分配ができること(ただし、ある負債について、債権者の遡求権が特定の財産に限定されている場合等には、当該財産の公正市場価額が、当該負債を超える部分についてLLCの資産に含まれる。)が認められる。この規定によれば、非遡求型の負債である本件借入金の担保とされる本件賃貸ビルの市場価額(370万ドル)が、本件借入金(240万ドル)を超える範囲(130万ドル)については、本件LLCにおいて、構成員に分配することが可能な額となることが認められる。
 そして、前記事実関係によれば、本件LLCは、平成10年に110万ドル(X25万ドル、B85万ドル)、平成11年に25万ドル(X、Bに各12万5,000ドル)、平成12年に19万ドル(X、Bに各9万5,000ドル)の合計154万ドルの分配(本件分配金)をしていることが認められる。
 また、上記のXに対する本件分配金は、いずれもXの管理する銀行の口座に入金され、Xの資産として運用されていることが認められる。さらに、本件借入金はいわゆる非遡求型の融資であり、本件LLCが債務不履行をしても、本件賃貸ビル以外の財産からこれが回収されることはないのであるから、Xが本件分配金を確定的に入手したと評価することも可能である。そして、本件記録によれば、Xにおいて、本件分配金の各分配以降、本件LLCに対し出資金を追加拠出するようなことはなかったことが認められる。
 加えて、本件LLCのアメリカにおける税務申告書においても、本件分配金は、いずれも単に分配(distribution)と記載され、出資金の払戻し(return of contribution)と記載されるとか出資金の拠出(contribution to capital)が負の計上とされるなど、当該支出が法的に出資金の払戻しであることを明確にした記載はない。
(3)以上の事実を総合すると、本件分配金は、これを実質的にみると、本件LLCにおいて、本件賃貸ビルの市場価額が増加し含み益が生じたことや、不動産賃貸業による利益が計上されたことを背景に、剰余資金をその出資者であるX及びBに利益の配分として分配したものと認めるのが相当である。したがって、平成10年分ないし12年分の本件分配金については、本件LLCがXの出資者である地位に基づいて供与した経済的な利益であり、いずれもXの配当所得に該当する。
3 争点3(「正当な理由」の存否)
(1)国税庁は、平成13年、そのホームページ上でアメリカLLCを法人として取り扱う旨公表しているところ、それ以前において、課税当局がアメリカのLLCを我が国の税務上法人として取り扱わない旨の公的見解を示した形跡はないし、Xに対し、その前提に基づいた納税指導が行われたような事実も窺えない。さらに、X本人によれば、Xは、本件各確定申告をするに当たり、LLCの我が国の税務上の取扱いについて、税務当局等に確認したことは認められず、かえって、アメリカにおける税務上の取扱いが日本でも踏襲されることを疑わずに本件各確定申告を行ったことが窺われる。
(2)以上の事情を総合すると、Xにおいて、本件分配金が配当所得に当たると認識し得る余地がなかったとはいえず、これを所得税額の計算の根拠としなかったこと等について、真にXの責めに帰することができない客観的な事情があったとまではいえない。
 よって、Xには本件過少申告を行うにつき、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があったということはできない。

四、控訴審判決要旨

控訴棄却。
(1)当裁判所も、Xの請求は理由がないから、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加し、又は訂正するほかは、原判決の事実及び理由を引用する。
(2)NYLLC法には、その内部関係について、アグリーメント契約において別段の定めをすることができる旨の規定が存在しているものの、他方で、前記のとおり、同法に基づいて設立されるLLCは、その名において訴訟手続等の当事者となることができ、不動産や動産を取得し、その財産又は資産の全部又は一部を処分することができ、さらに、証券に係る取引、種々の契約の締結に加えて、その同法に規定される行為を行う広範な権能を有していることが認められ、同法に基づき設立された本件LLCの本件オペレーティング契約にも、その名において訴訟当事者になり、財産を取得、処分し、契約を締結する権能を有し、訴訟手続の当事者となることや財産を所有することを前提とした規定があり、本件LLCは、自然人とは異なる人格を認められた上で、実際にも、その名において、財産を所有、管理し、契約を締結するなど、X及びBからは独立した法的実在として存在しているから、我が国の私法上(租税法上)の法人に該当すると解するのが相当である。
(2)Xは原判決がその認定の根拠とした本件賃貸ビルの市場価額と本件借入金の差額130万ドルが分配可能であることや、本件分配金の分配以降、本件LLCに対し追加出資することがなかったことは、本件分配金の法的性質とは全く関連性がなく、本件分配金の法的性質及び出資金を追加拠出するか否かはオペレーティング契約に基づき構成員の合意によって決定されるものであると主張する。
 しかしながら、本件分配金は、前記認定のとおり、実質的にみると、本件LLCにおいて、本件賃貸ビルの市場価額が増加し本件借入金の借入れ時には230万ドル以上の含み益が生じたことや、平成10年ないし平成12年の間に不動産賃貸業による利益として合計20万5,281ドルが計上されたことを背景に、剰余資金をその出資者であるX及びBに利益の配分として分配(distribution)したといえるものである。そして、本件LLCの平成10年(1998年)の勘定科目一覧表においては同年4月27日、本件LLCからXに対する分配(distribution)として25万ドルが支払われたこと、Bも、同年8月28日、Xに対して送信したファックスにおいて、Xに対する分配(distribution)として25万ドルを支払った旨記載していること、この分配金について、出資金の返還部分とそれ以外の分に分けられた形跡もないこと、X本人も、『1つ1つのものが、これがすべて出資金の返還に当たるとか、これが要するに現地で稼得した私のその年度分の収入であるとか、細かくは突き合わせてはおりません。』として、平成10年の分配金は出資金の返還部分とそれ以外の分に分けられていなかったことを認める供述をしていることからすれば、上記分配金受領時にBとXとの間で同分配金が出資金の返還である旨の合意がされたものと認めることはできない。また、本件オペレーティング契約は、出資金の拠出、利益及び損失の分配を定めた規定はあるが、出資金の払戻しに関しての分配については何ら規定されていない。
(3)X及びBは、本件パートナーシップを本件LLCに転換することによって、本件賃貸ビルに係る共同事業について、有限責任を享受できるようになるとともに、本件LLCに係る契約書等では、本件LLCが当事者となり、本件オペレーティング契約7条には、本件LLCが本件賃貸ビルを所有する旨の規定があることなどに照らすと、XにおいてパートナーシップからLLCへ本件賃貸ビルに係る共同事業の形態を変更するに当たって、日本の税務上何らかの変化があり得ることを想定できなかったということはできないものであり、アメリカにおける課税についてパス・スルー課税の選択がされたからといって、我が国における課税が同様のものと信ずることに客観的な理由があるということはできない。確かに、Xは、前記のとおり、本件各更正等に係る税務調査にも極めて協力的であったことがうかがわれるところであるが、前記のとおり、過少申告加算税は、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置であって、違反者の意図を問うことなく、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであるから、Xについて過少申告による納税義務違反の事実があること自体を否定することができないことはもとより、Xが本件各確定申告に当たり、同申告書を税理士に依頼し、その税理士を信頼していたからといって、Xが税務当局に確認をしなかったのは、正に主観的な事情にすぎず、真にXの責めに帰することができない客観的な事情が存在するとはいえない。
 また、Xは、当時税務当局に確認してもLLCを法人として取り扱うことが明らかにされたのは平成13年であるから適切な指導が得られなかった旨主張するが、その主張は、推測に基づくものであって採用できない。

五、解説

はじめに
 本件は、アメリカのLLC(本件LLC)からその構成員であるXに対して送金された分配金(本件分配金)が、我が国の所得税法上の配当所得と該当するか否かが主として争われたものである。本件LLCは、アメリカでは、チェック・ザ・ボックス規則に基づいて構成員課税を受けており、法人税課税を受けていなかったので、我が国の法人税法上の「法人」に該当するか否かが、まず、争われることとなった。また、Xが本件LLCから送金を受けた分配金(本件分配金)の所得税法上の配当所得該当性も争われることになったが、この争点も、本件LLCが我が国の税法上の「法人」に該当するか否かが前提となる。また、本件LLCが「法人」に該当する場合であっても、「剰余金の配当」(所法24①)であるのか、「資本(出資)の払戻し」であるのかが問題となる。
 更に、本件のようなLLC課税問題については、アメリカ等における納税者の選択による構成員課税が我が国においてそのまま認められるものか否かが問題となり、国税庁がその取扱いを明確にしたのは平成13年6月のことであるが、それまでの間、本件のような過少申告等が生じた場合に、過少申告加算税等を免除する「正当な理由」(通法65④、66①等)に当たるか否かも問題とされた。
 以下、これらの問題点について、論じることとする。
1 本件LLCの「法人」該当性
(1)アメリカのLLCは、各州が制定するLLC法(Limited Liability Company Act)に基づいて設立される事業体である。LLC法は、1977年(昭和52年)に初めてワイオミング州において制定されて以降、各州において相次いで制定され(本件で問題となったニューヨーク州では、1994年(平成6年)に制定)、現在では、全州において制定され、その数も百数十万社を超えている。
 このように、LLC法制定後の短期間に多数のLLCが設立されている最大の原因は、その課税制度にあるといわれている。アメリカでは、LLCに対して、チェック・ザ・ボックスにより、法人税の課税か、構成員課税かの選択を認めている。そのため、構成員の所得の多寡やその趨勢と当該LLCの所得(損失)の稼得状況に応じて、法人税課税か構成員課税のいずれか有利な方法を選択し得ることになる。この場合、LLCを利用した課税の繰延べを容易にする。
 したがって、一面では、新しい事業体(LLC)を設立して、新たな投資(設備投資等)を促進し、景気対策にも寄与することになるが、他面では、構成員に対する所得課税の繰延べを容易にし、一種のタックス・シェルターの存在を公認することになる。
(2)このような方法で急増してきたLLCの存在は、アメリカのLLCが我が国に進出してくる場合もあるし、我が国の居住者等がアメリカのLLCの構成員になることもあるので、我が国の法人税法又は所得税法において、課税上、LLCを「法人」として取り扱うべきか否かが大きな問題となる。
 また、アメリカやイギリスにおけるLLCの経済効果に着目して、我が国においても、そのような事業体を設けるべきであるとする等の事業体課税論が活発となり、新設の会社法において導入された合同会社について、日本版LLCとしての役割が期待された。
 しかしながら、我が国の税制においては、伝統的に、私法上の「法人」に対しては、法人税を課税することとしており(法法4)、人格のない社団等(注1)に対しても、これを法人とみなして法人税を課税することとしている(法法3)ため、「会社」と称する「合同会社」に対して、法人税を課さないとすることに違和感が生じることになる。また、アメリカにおけるLLCに対する構成員課税が同国の法人税収の大幅な減収を招き、そのことが、我が国の課税当局に警戒感を与えることになったようでもある。
 かくして、我が国の日本版LLC(合同会社)に対する構成員課税の選択は頓挫(立法措置の見送り)することになるのであるが、アメリカのLLCを我が国の税法において「法人」として扱うか否かは、法解釈上の問題として残されることとなった。
(3)この解釈は、不服申立ての段階でも争われることとなったが、国税不服審判所が最初に判断を示したのが平成13年2月26日裁決(裁決事例集61号102頁)である。この裁決では、本件と同じくニューヨーク州法に基づいて設立されたLLCの不動産賃貸業から生じた損失(不動産所得)が当該LLCの構成員である審査請求人に帰属するものとして平成9年分の所得と損益通算ができるか否かが争われ、当該LLCの「法人」該当性が問題となった(課税処分は平成11年2月3日付)。
 本裁決は、「我が国の私法(租税法)上の外国法人とは、「外国の法律によって設立され、その設立準拠法の下で法人格が与えられたもの」をいうと解される。」と判断し、かつ、ニューヨーク州のLLC法の内容を検討した上で、「JLLCは、その設立準拠法であるニューヨーク州LLC法の下で法人格(権利・義務の主体となることのできる法律上の資格)を付与された事業体であり、かかる法律上の資格と実態を有するJLLCは、我が国の私法(租税法)上の外国法人に該当し、JLLCが行う事業から生じる損益は、JLLC自体に帰属すると認めるのが相当である。」と判断し、当該審査請求人の請求を棄却している。
 なお、本件の裁決は、平成16年11月11日裁決(裁決番号平160021、登載誌なし)であるが、前記平成13年2月26日裁決同様、本件LLCの「法人」該当性を容認している。
(4)また、国税庁は、平成13年6月以降、そのホームページにおいて、アメリカLLCに係る税務上の取扱いについて、次のように回答している(注2)。

 ある事業体を我が国の税務上、外国法人として取り扱うか否かは、当該事業体が我が国の私法上、外国法人に該当するか否かで判断することになります。
 LLC法に準拠して設立された米国LLCについては、以下の理由等から、原則的には我が国の私法上、外国法人に該当するものと考えられます。
① LLCは、商行為をなす目的で米国の各州のLLC法に準拠して設立された事業体であり、外国の商事会社であると認められること。
② 事業体の設立に伴いその商号等の登録(登記)等が行われること。
③ 事業体自らが訴訟の当事者等になれるといった法的主体となることが認められていること。
④ 統一LLC法においては、「LLCは構成員(member)と別個の法的主体(a legal entity)である。」、「LLCは事業活動を行うための必要かつ十分な、個人と同等の権利能力を有する。」と規定されていること。
 したがって、LLCが米国の税法上、法人課税又はパス・スルー課税のいずれの選択を行ったかにかかわらず、原則的には我が国の税務上、「外国法人(内国法人以外の法人)」として取り扱うのが相当です。
 ただし、米国のLLC法は個別の州において独自に制定され、その規定振りは個々に異なることから、個々のLLCが外国法人に該当するか否かの判断は、個々のLLC法(設立準拠法)の規定等に照らして、個別に判断する必要があります。

(5)かくして、本件においては、我が国租税法におけるアメリカLLCの「法人」該当性が法廷において初めて争われることになったが、本件一審判決は、前述のように、「我が国の租税法上、「法人」に該当するかどうかは、私法上、法人格を有するか否かによって基本的に決定されていると解するのが相当である。」と判示し、本件の事実関係を総合し、「本件LLCはNYLLC法上、法人格を有する団体として規定されており、自然人とは異なる人格を認められた上で、実際、自己の名において契約をするなど、X及びBから独立した法的実在として存在していることが認められる。」と判示して、本件LLCが我が国租税法上の「法人」に該当することを認めている。また、本件控訴審判決も、前述のように、原判決とほぼ同じ理由によって、本件LLCが我が国租税法上の「法人」に該当することを認めている。これらの判決の考え方は、前述のような我が国の法人課税制度の実態に照らし、妥当なものと考えられる。
2 本件分配金の「配当所得」該当性
(1)本件LLCが我が国の租税法(所得税法)上の「法人」に該当することになると、Xが本件LLCから送金を受けた分配金(本件分配金)が、所得税法上の所得に該当するか否か(所得に該当しない場合には、出資金の払戻し又は仮受金等か)、所得に該当する場合の所得区分が問題となる。
 この点、所得税法24条1項は、「配当所得とは、法人(<略>)から受ける剰余金の配当(<略>)、利益の配当(<略>)、剰余金の分配(出資に係るものに限る。)<略>(以下この条において「配当等」という。)に係る所得をいう。」と定めている。よって、本件分配金がこの「配当等」に該当すれば、それが出資の払戻しか否か等の問題も解消することになる。このような所得税法上の「配当所得」の解釈に関しては、所得税基本通達24-1では、次のように定めている。

24-1 法第24条第1項に規定する「利益の配当、剰余金の分配(出資に係るものに限る。)」には、法人が確定した決算において利益又は剰余金の処分により配当又は分配をしたものだけでなく、株主(出資者を含む。以下24-3までにおいて同じ。)に対しその株主である地位に基づいて供与した経済的な利益が含まれる。

 そして、この通達にいう「……株主である地位に基づいて供与した経済的な利益」には、いわゆる蛸配当、株主平等の原則に反する配当等のように、商法上不当、違法な配当であっても、所得税法上の「配当所得に含まれるもの」と解されている(注3)。また、このような解釈は、最高裁昭和35年10月7日第二小法廷判決(民集14巻12号2420頁)が、「所得税法上の利益配当とは、必ずしも商法の規定に従って適法になされたものに限らず、商法が規制の対象とし、商法の見地から不適当とされる配当(たとえば、蛸配当、株主平等の原則に反する配当等)の如きも、所得税法上の利益配当のうちに含まれるものと解すべきことは所論のとおりである。」と判示していることに依拠している(注4)。
 なお、本件一審判決も、前述のように、最高裁昭和43年11月13日大法廷判決(民集22巻12号2449頁)(注5)を引用し、「配当所得」の範囲が会社の正式手続による利益配当に限らないことを明らかにしている。
(2)ところで、本件においては、Xが本件LLCから分配を受けた金員(本件分配金)が所得税法上の「配当所得」に該当するか否かが争われたものである。そして、本件各判決は、①NYLLC法の規定によれば、LLCは、当該LLCの全資産の公正市場価額が全負債を超える範囲において、構成員に対して分配ができること、②本件賃貸ビルには230万ドル以上の含み益があり、本件賃貸ビルの市場価額が本件借入金を超える範囲内で本件分配金が支払われていること、③本件LLCのアメリカにおける税務申告書において、本件分配金がいずれも分配(distribution)と記載され、出資の払戻し(return of contribution)とは記載されていないこと等を理由に、本件分配金が所得税法上の「配当所得」に該当すると判断している。このような判断は、前述の「配当所得」に関する解釈論や本件の事実関係に照らし、妥当なものと考えられる。
3 過少申告における「正当な理由」の存否
(1)本件においては、Xは、本件LLCがアメリカにおいて法人税課税を受けず、Xらも構成員課税を選択していたから、我が国においても同様な課税が受けられるものとして、本件分配金を「配当所得」として所得税の申告をしなかったので、過少申告が生じたというものである。
 このような過少申告については、「正当な理由」があると認められる場合には、過少申告加算税は課されないことになる(通法65④)。この「正当な理由」については、東京高裁昭和51年5月24日判決(税資88号841頁)が、「……当該申告が真にやむをえない理由によるものであり、かかる納税者に過少申告加算税を賦課することが不当もしくは酷になる場合を指称するものであって、納税者の税法の不知もしくは誤解に基づく場合は、これに当たらないというべきである。」と判示し、この考え方が先例となり、その後の国税庁の取扱い通達(注6)や最近の最高裁判決(注7)に受け継がれている。
 したがって、本件においても、Xが本件分配金が「配当所得」に該当しないとして過少申告したことが、Xの単なる「税法の不知若しくは誤解」に基づくのか、あるいは、他に「真にやむをえない理由」が存するのか、が問題となる。
(2)ところで、納税者が税法の解釈の不知・誤解によって過少申告が生じるのは、納税者が単に税法の規定を知らなかったり、その解釈を誤解による場合のみならず、税務官庁側の対応の拙さや何らかの不手際に原因がある場合もある。すなわち、税法が極めて難解であること等もあって、現実の申告・納税は、税務当局での納税相談、税務当局に対する事前照会、あるいは、税務当局の担当者の解説(書)等に基づいて行われる場合も多い。そして、その過程において、税務当局側の対応の拙さが、納税者の税法解釈等に誤解を与えることがあり、その場合の「正当な理由」の存否が問題となる(注8)。
 そのため、裁判例としても、本件に参考になるものとして、①国税庁が株主優待金を「配当」として取り扱うことを明らかにしなかったまでの間に株主優待金を「利子」として過少申告したことに「正当な理由」を認めた名古屋地裁昭和37年12月8日判決(行裁例集13巻2229頁)、②税務当局の担当者の解説書を信頼した過少申告が生じた場合に「正当な理由」を認めた東京高裁平成11年5月31日判決(税資243号127頁)、③ストックオプションの権利行使益の所得区分に関する国税庁の取扱いの対応の拙さから過少申告が生じたとして「正当な理由」を認めた最高裁平成18年10月24日第三小法廷判決(平成16年(行ヒ)第317号)等がある(注9)。
(3)本件においては、Xが本件LLCから分配を受けた本件分配金が所得税法上の「配当所得」に当たらないと誤解したことに真にやむを得ない事情が認められるか否かが問題になったのであるが、窮極的には、Xの平成10年分から同12年分までの所得税の申告において、我が国の租税法上の「法人」の解釈に当たって本件LLCが「法人」として取り扱われないと誤解したことにやむを得ない事情が認められるか否かに帰する。
 前述したように、アメリカにおけるLLC制度の発展就中チェック・ザ・ボックスによる構成員課税については、我が国においても早くから注目されてきており、本件において問題になっているNYLLC法の制定(平成6年)頃からは、アメリカの構成員課税を見習うべきとする事業体課税論も活発に説かれるようになった。そのような中で、Xのような納税者が、我が国においてもアメリカのLLCについて構成員課税が行われるものと信じても強ち責められるものでないとも考えられる。
 しかも、国税庁が我が国の租税法においてアメリカのLLCを「法人」として取り扱うことを明確にしたのは、前述のように、国税不服審判所の裁決(平成13年2月26日)の後の平成13年6月になってからのことである。そうであれば、前掲の名古屋地裁昭和37年12月8日判決又は最高裁平成18年10月24日判決の例に倣い、国税庁の見解が公表されるまでの間の過少申告について、「正当な理由」を認める余地があるようにも考えられる。
 もっとも、我が国においては、伝統的に、私法上の「法人」に対しては全て法人課税を行ってきており、人格のない社団等に対してもこれを「法人」とみなして法人課税を行ってきたわけであるから、アメリカのLLCが我が国において「法人」として取り扱われて課税されるであることを予測することも、それほど困難なことでもないと考えられる。そうすると、本件各判決の結論も、相応の説得力を有することになろう。
4 本件各判決の意義と問題点
(1)以上のように、本件は、アメリカのLLCについて現地において構成員課税が選択されている場合に、その構成員である我が国の納税者が我が国においてアメリカと同じような課税が受けられるか否か(当該LLCが法人として取り扱われるか否か)が主として争われたものである。しかも、このLLC課税については、我が国において事業体課税論の中核となっているところ、本件が初めて法廷で争われることとなったため、本件各判決は、一層注目されることになった。
 かくして、本件各判決は、本件LLCを我が国の租税法上の「法人」に該当するものと認定し、その判断を前提として、本件分配金が所得税法上の「配当所得」に該当するとして本件各処分の適法性を容認した。このような結論は、前述してきた本件LLCの法的性格や所得税法上の「配当所得」の解釈論に照らし妥当なものと考えられる。
(2)また、本件においては、アメリカにおけるLLC制度が課税上の有利性(損益調整の機会拡大)から急速に発展し、そのことが我が国の法人課税のあり方に大きな影響を及ぼしてきた(事業体課税論の台頭)さ中に、アメリカの例に倣って所得税の申告が行われ、それが過少申告になったという事情が存する。
 そのため、当該過少申告について「正当な理由」の存否が争われることになった。前述のように、X側にも相応の事情を認め得る余地があるようにも考えられるが、結局は、本件各判決の判示することになるものと考えられる。いずれにしても、本件各判決は、「正当な理由」の存否を判断した1事例として評価し得ることになろう。

(注1)人格なき社団等とは、法人ではない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものをいう(法法2八、所法2八)が、どのような組織体が人格なき社団等に該当するかは、私法からの一種の借用概念と解されている。
(注2)このような考え方を妥当とする解説については、長谷部啓・秋元秀仁「米国LLCに係る課税上の取扱い」週刊税務通信平成13年6月25日号70頁等参照。
(注3)高倉明ほか共編『所得税基本通達逐条解説 平成16年版』(大蔵財務協会)125頁参照。
(注4)前出(注3)125頁参照。
(注5)この判決では、出資者(株主)に対して一定期間利子相当額を配当を分配するといういわゆる株主優待金が、法人税所得金額の計算上、利子(損金)か、配当(非損金)かが争われた事案につき、同判決は、法律(商法)に違反して支出された金員の損金性を否定した。
(注6)「申告所得税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて」(平成12年7月、事務運営指針、課所4-16ほか)等の各税目ごとの取扱い通達参照。
(注7)最高裁平成16年7月20日第三小法廷判決(平成11年(行ヒ)第169号)、最高裁平成18年10月24日第三小法廷判決(平成16年(行ヒ)第317号)、最高裁平成18年4月25日第三小法廷判決(判例時報1939号17頁)等参照。
(注8)品川芳宣「最近の最高裁判決にみる「正当な理由」の意義とその問題点」T&A master 2007年5月21日号26頁参照。
(注9)前出(注8)28頁、品川芳宣『附帯税の事例研究 第3版』(財経詳報社)63頁以下等参照。

品川芳宣(しながわよしのぶ)
国税庁審理課課長補佐、東京地裁調査官、税務大学校教育二部長、国税庁資産評価企画官、同徴収課長、同管理課長、高松国税局長などを経て、平成7年筑波大学教授。平成17年早稲田大学大学院客員教授(専任)、筑波大学名誉教授、税務大学校客員教授。弁護士
【主要著書】
『課税所得と企業利益』(税務研究会)、『役員給与税務事例集』(商事法務研究会)、『役員報酬の法律と実務』(同)、『附帯税の事例研究』(財経詳報社)、『法人税の判例』(ぎょうせい)、『相続税財産評価の論点』(同)、『重要租税判決の実務研究・増補改訂版』(大蔵財務協会)、『役員報酬の税務事例研究』(財経詳報社)、『租税法律主義と税務通達』(ぎょうせい)、『徹底解明相続税財産評価の理論と実践』(同)他

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