カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2009年05月25日 【会計基準等解説】 企業会計基準公開草案第33号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準(案)」等について(2009年5月25日号・№307)

実務解説
企業会計基準公開草案第33号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準(案)」等について
 企業会計基準委員会 研究員 阿部純子

Ⅰ はじめに

 企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準公開草案第33号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準(案)」(以下「本会計基準案」という。)及び企業会計基準適用指針公開草案第32号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「本適用指針案」という。また本会計基準案と本適用指針案を合わせて、以下「本公開草案」という。)を平成21年4月10日付で公表している(脚注1)。以下では、本公開草案の概要を紹介するが、文中の意見にわたる部分は私見であることをあらかじめお断りしておく。

Ⅱ 経緯
 ASBJでは、会計基準の国際的なコンバージェンスの取組みを進めるにあたり、国際的な会計基準で見られるような会計方針の変更、表示方法の変更及び誤謬の訂正が行われた場合の、過去の財務諸表の遡及処理に関する取扱いや会計上の見積りの変更に関する取扱いについて審議を重ねており、平成19年7月に「過年度遡及修正に関する論点の整理」を、さらに平成20年6月には会計基準の具体案を明示する形で、「会計上の変更及び過去の誤謬に関する検討状況の整理」(以下「検討状況の整理」という。)を、それぞれ公表した。
 今回の公開草案は、検討状況の整理に寄せられた意見を参考に審議を行い、その内容を一部修正するとともに、適用時期等の取扱いを新たに設けた上で公表するに至ったものである。

Ⅲ 本公開草案が扱う範囲
 本公開草案においては、会計上の変更(会計方針の変更、表示方法の変更及び会計上の見積りの変更をいう。)及び過去の誤謬に関する会計処理及び開示が、包括的に取り扱われている(会計基準案第3項)(図表1参照)。また、本会計基準案のすべての項目について、財務諸表利用者の意思決定への影響に照らした重要性が考慮される(会計基準案第27項)。

 なお、遡及処理の考え方を導入する場合、個別財務諸表についても一律に遡及処理を求めるか否かについては議論もあったため、この点を会計方針の変更等を行った場合の過去の累積的影響額に関する当期の会計処理の問題と、遡及処理を行った過去の財務諸表の開示の要否とに分け、検討が行われた。しかしながら、前者については、注記開示などとの関係で会計方針の変更等に関する影響額の算出は既に行われているものと考えられ、新たな実務負担がそれほど大きくないとも考えられることなどから、また後者については、現在の我が国の開示制度では比較財務諸表のあり方が金融商品取引法や会社法といった各開示制度の中で規定がなされていることから、本公開草案においては、個別財務諸表上の適用に関する特段の規定は設けていない(会計基準案第29項~第34項)。

Ⅳ 会計方針の変更の取扱い

1 会計方針の変更の定義と分類
 本公開草案では、「会計方針」を、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続をいうものとして定義している(会計基準案第4項(1))。我が国ではこれまで一般に、会計方針とは、財務諸表作成にあたって採用している会計処理の原則及び手続並びに表示方法その他財務諸表作成のための基本となる事項を指す(企業会計原則注解(注1-2))とされ、会計処理の原則及び手続のみならず、表示方法を包括する概念であるとされてきた。本公開草案では国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点も踏まえ、これらと可能な限り整合する形に会計方針の定義を見直し、会計方針と表示方法とを別々に定義することとした(会計基準案第35項~第36項)。
 また、「会計方針の変更」は、従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更することとされ(会計基準案第4項(5))、これは、①会計基準等(脚注2)の改正に伴う会計方針の変更の場合と、②①以外であって、正当な理由による会計方針の変更(いわゆる自発的な会計方針の変更)の2つに分類されている。
 ①の会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合とは、会計基準等の改正によって特定の会計処理の原則及び手続が強制されたり、従来認められていた会計処理の原則及び手続を任意に選択する余地がなくなったりした場合、これに伴って会計方針の変更を行うことをいう。ここでいう会計基準等の改正には、既存の会計基準等の改正・廃止のほか、新たな会計基準等の設定が含まれる。また、会計基準等に早期適用の取扱いが定められており、これを適用する場合も、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われる。②の正当な理由による会計方針の変更(①以外のもの)に関しては、1つの会計事象や取引(以下「会計事象等」という。)について、従来採用していた会計方針から正当な理由に基づき他の会計方針へ自発的に変更を行うことをいう(会計基準案第5項)。
 なお、我が国の現行の取扱いと同様に、(1)会計処理の対象となる会計事象等の重要性が増したことに伴う本来の会計処理の原則及び手続への変更及び(2)会計処理の対象となる新たな事実の発生に伴う新たな会計処理の原則及び手続の採用については、会計方針の変更に該当しないとしている。また、(3)連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項のうち、連結又は持分法の適用の範囲に関する変動についても、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続に該当しないため、会計方針の変更には該当しないものとされている。(適用指針案第8項及び第17項)。

2 会計方針の変更に関する原則的な取扱い  我が国の現行の取扱いにおいては、過去の財務諸表に新しい会計方針を遡及適用し、これを開示することは求めていない。一方、国際的な会計基準においては、会計方針の変更に関し、新たに適用された会計基準等に経過規定がない場合や自発的な会計方針の変更において、原則として遡及適用することを求めている。会計方針の変更を行った場合に過去の財務諸表に対して新しい会計方針を遡及適用すれば、財務諸表全般についての比較可能性が向上し、情報の有用性は高まることが期待される。
 検討の結果、本公開草案では国際的な会計基準と同様に、会計方針の変更が行われた場合には、変更後の会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することを原則的な取扱いとしている(会計基準案第6項及び第44項)(図表2参照)。

 ただし、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合には、遡及適用によってもたらされる過去の期間に関する情報の有用性と、遡及適用を行う際に必要とされる情報収集等に係る負担との関係を考慮する必要があるため、国際的な会計基準と同様に、会計基準等の改正時における会計方針の変更については遡及適用を原則としつつ、当該会計基準等に経過的な取扱いが設けられている場合には、その取扱いが本会計基準案の定める取扱いに優先して適用されることとした(会計基準案第6項(1)及び第45項)。

3 原則的な遡及適用が実務上不可能な場合の取扱い  本公開草案では、会計方針の変更を行った場合、原則としては、過去の期間のすべてに遡及適用することとしているが、①過去に情報が収集・保存されておらず、合理的な努力を行っても、遡及適用による影響額を算定できない場合、②遡及適用にあたり、過去における経営者の意図(例えば資産の保有目的など)について仮定することが必要な場合及び③遡及適用にあたり、会計上の見積りを必要とするときに、会計事象等が発生した時点の状況に関する情報であって、対象となる過去の財務諸表が作成された時点で入手可能であったものと、その後判明したものとを、客観的に区別することが時間の経過により不可能な場合などにおいては、遡及適用が実務上不可能な場合に該当するものとしている(会計基準案第8項及び第46項)。
 国際的な会計基準と同様に、本公開草案においては、このような遡及適用が実務上不可能な場合について、遡及適用に関する当期の期首時点での累積的影響額が算定できるため、部分的な遡及適用を行う場合(会計基準案第9項(1))と、遡及適用に関する当期の期首時点での累積的影響額が算定できず、部分的な遡及適用もできないため、期首以前の実行可能な最も古い日から将来にわたり新たな会計方針を適用する場合(会計基準案第9項(2))とに分け、その取扱いを示している(図表3参照)。

4 会計方針の変更に関する注記  会計方針の変更を行った場合には、図表4に示した事項を注記することとされている(会計基準案第10項~第11項)。
 本公開草案においては、既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等がある場合、適用予定日や新しい会計基準等の適用による影響に関する記述を注記することとしている(会計基準案第12項)。これは、国際財務報告基準では会計基準の中でこのような内容の注記が求められていることや、こうした情報が開示されていれば、投資の意思決定に有用であると考えられることなどを踏まえて設けられた取扱いである(会計基準案第49項)。
 適用予定日に関しては、財務諸表の作成の時点において企業が未だ経営上の判断を行っていない場合には、その旨を注記することとなる。また、当該会計基準等の適用による影響に関し、財務諸表の作成の時点において企業が未だその影響について評価中であるときには、その事実を記述することで足りるとされている(適用指針案第11項)。

Ⅴ 表示方法の変更の取扱い

1 表示方法の変更の定義
 本公開草案では、「表示方法」とは、財務諸表の作成にあたって採用した表示の方法(注記による開示も含む。)をいい、財務諸表の科目分類、科目配列及び報告様式が含まれるとしている(会計基準案第4項(2))。また、「表示方法の変更」とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められた表示方法から他の一般に公正妥当と認められた表示方法に変更することをいい(会計基準案第4項(6))、表示方法の変更が会計処理の変更に伴って行われた場合には、会計方針の変更として取り扱うこととされている(適用指針案第7項)。
 また、表示方法の変更には、財務諸表における同一区分内での科目の区分掲記、統合あるいは科目名の変更及び重要性の増加に伴う表示の変更のほか、財務諸表の表示区分を超えた表示方法の変更も含まれる(適用指針案第4項)。
 なお、キャッシュ・フロー計算書における表示の内訳の変更、例えば、ある特定のキャッシュ・フロー項目についてキャッシュ・フロー計算書における表示区分を変更した場合や、営業活動によるキャッシュ・フローに関する表示方法(直接法又は間接法)を変更した場合は「表示方法の変更」に該当するが、資金の範囲の変更は、会計方針の変更として取り扱うこととされている(適用指針案第9項及び第19項)。

2 表示方法の変更に関する原則的な取扱い  表示方法の変更を行った際に過去の財務諸表を遡及的に組み替えることは我が国の現行の取扱いでは認められていないが、本公開草案では会計方針の変更の場合と同様に、遡及処理の考え方を導入することとしている。すなわち、財務諸表の表示方法を変更した場合には、原則として開示する過去の財務諸表について新たな表示方法に従い、財務諸表の組替えを行うこととしている(会計基準案第13項及び第50項)。

3 表示方法の変更に関する実務上不可能な場合の取扱い  表示方法の変更に関する原則的な取扱いが実務上不可能な場合には、その理由を注記することとされている(会計基準案第14項)。

4 表示方法の変更に関する注記  表示方法の変更を行った場合には、図表5に示した事項を注記することとされている(会計基準案第15項)。

Ⅵ 会計上の見積りの変更の取扱い

1 会計上の見積りの変更の定義
 会計上の見積りは、資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することをいうものとされ(会計基準案第4項(3))、その変更については、新たに入手可能となった情報に基づいて、過去の財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更することをいう(会計基準案第4項(7))と定義されている。
 会計上の見積りの変更に関しては、実務上しばしば、誤謬の訂正との関係が問題とされる。この点について本公開草案では、過去の見積りの方法がその見積りの時点で合理的なものであり、それ以降の見積りの変更も合理的な方法によるのであれば、そのような変更は過去の誤謬の訂正には該当しないとしている(適用指針案第12項)。

2 会計上の見積りの変更に関する原則的な取扱い  会計上の見積りの変更に関しては、我が国では現在、過去の財務諸表に遡って処理することは行っておらず、国際的な会計基準においても、会計上の見積りの変更は新しい情報によってもたらされるものであるとの認識から、過去に遡及処理せず、その影響は将来に向けて認識するという考え方がとられている。本公開草案では、会計上の見積りの変更に関しては現行の取扱いを踏襲し、過去に遡って処理せず、その影響を当期以降の財務諸表において認識することとしている(会計基準案第16項及び第53項)。

3 会計上の見積りの変更に関する注記  会計上の見積りの変更を行った場合には、図表6に示した事項を注記することとされており、国際的な会計基準を参考に、より具体的な取扱いを設けることとした(会計基準案第17項及び第59項)。
 なお、本公開草案の定めが会計上の見積りの変更に関する現行の実務の取扱い(注記開示も含む。)を変えることになるのか否かという点については議論もあったが、会計上の見積りとその変更の定義については基本的に従来の我が国における考え方を踏襲するものであることから、ここで設けられた定めが現行の実務に変更をもたらすものではないものと考えられている(会計基準案第38項)。

4 臨時償却の廃止  本公開草案においては、会計上の見積りの変更に関する取扱い全般の検討と並行して、現行の我が国の取扱いの中で認められている、固定資産の耐用年数の変更等に関する臨時償却の考え方を残すかどうかについても検討を行った。
 臨時償却は、見積りの変更に関する影響額を、その変更期間で一時に認識する方法であるが、国際的な会計基準では、一般的にその採用は認められていないものと思われる。また、現在臨時償却として処理されている事例の多くが、将来に生じる除却損の前倒し的な意味合いが強いのではないかという指摘もあった。
 検討の結果、本公開草案においては、国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点も踏まえ、臨時償却は廃止し、固定資産の耐用年数の変更等については、当期以降の費用配分にのみ影響させる、いわゆるプロスペクティブ方式のみを認める取扱いとしている(会計基準案第55項~第58項)。

5 減価償却方法の変更の取扱い  国際財務報告基準では、減価償却方法は、減価償却を認識するという会計方針を採用する際に使用する手法であるため、その手法の変更は会計方針の変更ではないとする一方、その変更が資産に具現化される将来の経済的便益の予測消費パターンの変更を意味するものであることから、当該「減価償却方法の変更」は会計上の見積りの変更に該当するという考え方を採っている。
 一方、減価償却方法については、そもそも固定資産の経済的便益の消費パターンの見積りが固定資産の取得時点では難しいからこそ、計画的・規則的な償却を行っているのが歴史的な経緯であるとの指摘もあり、この考え方に基づけば、減価償却方法の変更は、見積りの要素とは直接的な関係を持たないため、これを何らかの理由で変更する場合には、会計方針の変更に関する原則的な取扱いに従い、遡及適用を求めるということも考えられる。さらには、米国会計基準では、会計方針の変更と会計上の見積りの変更と区分することは時として困難であることから、減価償却方法自体は会計方針を構成するものと考えるものの、減価償却方法の変更については見積りの変更と同様に取り扱うとする考え方を採っている。
 検討の結果、本公開草案においては、減価償却方法の変更は、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合(会計基準案第18項)に該当するものとしている(会計基準案第67項)。すなわち減価償却方法については、これまでどおり会計方針の1つとして考えることとする一方、他の会計方針の変更とは異なり、その変更については減価償却資産の経済的便益の消費パターンが明らかに変動する際に行われるものと考え、見積りの変更と同様に将来に向けて会計処理を行うこととしている。ただし、減価償却方法の変更は会計方針の変更と考えられることから、当該変更の内容や影響額に関する注記に加え、変更を行った正当な理由に関する注記を行うこととしている。なお、これらの取扱いについては、無形固定資産の償却方法についても同様である(会計基準案第19項)。

Ⅶ 過去の誤謬の取扱い

1 誤謬の定義
 本公開草案では、「誤謬」とは、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる、次のような誤りをいうとしている(会計基準案第4項(8))。
 ① 財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り
 ② 事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り
 ③ 会計基準(脚注3)の適用の誤り

2 過去の誤謬に関する取扱い  我が国における会計上の誤謬の取扱いとしては、前期損益修正項目として当期の損益で修正する方法(企業会計原則注解(注12))が示されており、過去の誤謬を遡及処理(修正再表示)する方法は定められていない。一方、国際的な会計基準では、財務諸表の公表後に誤謬が発見された場合には、過去の財務諸表の修正再表示を行う取扱いが示されている。
 会計上の誤謬の取扱いに関し、国際的な会計基準のように会計基準の中で誤謬を修正再表示する考え方を導入することは、期間比較が可能な情報を開示するという観点からも有用であり、さらには国際的な会計基準とのコンバージェンスを図るという観点からも望ましいと考えられる。このため、本公開草案では過去の誤謬が発見された場合、その修正再表示を行う取扱いを定めることとした(会計基準案第20項及び第70項)。

3 修正再表示が実務上不可能な場合の取扱いに関する議論  修正再表示の原則的な取扱いが実務上不可能な場合に関する定めを会計基準の中で設けるかどうかについては2つの考え方がある。1つは米国会計基準のように実務上不可能な場合の取扱いを設けないという考え方であり、誤謬を含んだ過去の財務諸表に関し、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準への準拠性に問題があるという観点から、このような取扱いを認めるべきではないという見方を論拠とする。もう1つは国際財務報告基準のように実務上不可能な場合の取扱いを設ける考え方であり、これは事後に合理的な努力を尽くしても決算が確定できない事態が発生することを避ける必要があることを論拠としている。
 検討状況の整理においては国際財務報告基準と同様に、過去の誤謬に関する修正再表示の原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱いを示した上で、その採否について広く一般にコメントを求めることとしたが、このような取扱いを会計基準の中で定めることを求める声が多く寄せられた。しかしながら、コメント受領後の再審議の結果、過去の誤謬の修正再表示が実務上不可能という理由をもって過年度の財務諸表に対して遡及して修正しないこととする取扱いを会計基準として設けた場合、誤謬を含んだ財務諸表に関し、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準への準拠性に問題があると考えられることから、米国会計基準と同様に、そのような状況を想定した取扱いについては会計基準の中では明示しないこととなった。
 ただし、稀に誤謬の修正再表示が不可能な場合が生じる可能性は否定できないため、実務への配慮として、そのような場合に考えられる実務上の対応を結論の背景の部分に記載しておくことが望ましいのではないかという意見もあった。このため、可能な限り誤謬を訂正した上でもなお、重要な未訂正の誤謬が存在する場合には、開示される財務諸表の有用性が損なわれることになることから、その事実を明らかにするために、当該未訂正の誤謬の内容並びに訂正済の誤謬に関する訂正期間及び訂正方法を開示するなどの対応がなされるものと考えられる旨、結論の背景への記載がなされている(会計基準案第72項)。

4 過去の誤謬に関する注記事項  本公開草案では国際的な会計基準と同様に、過去の財務諸表の修正再表示を求めることから、過去の誤謬に関する注記項目についても、国際的な会計基準の定めを参考に、図表7で示した事項を注記するものとした(会計基準案第21項)。
Ⅷ その他

1 他の会計基準等の修正等
 本公開草案において示されている会計基準の公表により、他の会計基準等の改正が別途予定されている(会計基準案第75項)。
 このうち企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」及び同適用指針については、本会計基準を適用して遡及処理が行われた場合、過去の期間における遡及処理の累積的影響額は貸借対照表上、遡及処理後の当期の期首の残高に反映されるため、現在株主資本等変動計算書に表示されている各項目の前期末残高は当期首残高に変更した上で、遡及処理を行った場合には、開示される最も古い期間の当期首残高に対する累積的影響額としてその金額を別途表示することが予定されている(会計基準案第28項)。

2 適用時期等  本公開草案は、平成23年4月1日以後開始する事業年度の期首以後に行われる会計上の変更及び過去の誤謬の訂正から適用することとされている。早期適用を認める取扱いは設けられていない。ただし、未適用の会計基準等に関する注記(会計基準案第12項)については、平成23年4月1日以後開始する事業年度から適用する(会計基準案第22項)。
 適用初年度に会計方針の変更や過去の誤謬の訂正などを行い、これを遡及処理した場合には、その累積的影響額を適用初年度の財務諸表における比較財務諸表に反映することとなる。また、本会計基準適用初年度においては、当該事業年度の期首以後に行われる会計上の変更及び過去の誤謬の訂正から本会計基準を適用している旨を注記することとされている(会計基準案第23項)。

Ⅸ おわりに
 ASBJは、本公開草案に寄せられるコメント等を踏まえ、最終基準の公表に向け、更に審議を進めていく。なお、本適用指針案には、参考として財務諸表に関する注記の記載例等を掲載しているので、あわせてご確認いただきたい。
(あべ・じゅんこ)

脚注
1 これらの全文については、ASBJのホームページ(http://www.asb.or.jp/html/documents/exposure_draft/retro/)を参照のこと。
2 「会計基準等」とは、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則及び手続を明文化して定めたものをいうものとされ、ASBJが公表した会計基準、適用指針等のほか、企業会計審議会が公表した会計基準や日本公認会計士協会が公表した会計制度委員会報告(実務指針)等のうち会計処理を定めたものが該当するものとされている(適用指針案第5項)。
3 ここでいう会計基準は会計方針の変更の対象となり得る「会計基準等」とは異っており、会計基準の適用の誤りには、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続に関する誤りに加え、財務諸表の表示方法(注記による開示も含む。)に関する誤りも含まれる(会計基準案第40項)。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索