カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2009年06月15日 【税制改正関連解説】 平成21年度税制改正における相続税・贈与税関係の改正について(2009年6月15日号・№310)

実務解説
平成21年度税制改正における相続税・贈与税関係の改正について

 髙谷博之

はじめに

 平成21年度税制改正においては、現下の経済金融情勢を踏まえ、景気回復の実現に資する等の観点から、住宅・土地税制、法人関係税制、中小企業関係税制、相続税制、金融・証券税制、国際課税、自動車課税等について所要の措置が講じられた。
 本稿では、これらの税制改正に盛り込まれた改正事項のうち、相続税・贈与税の租税特別措置の改正の概要について説明する。
 これらの改正事項が盛り込まれた所得税法等の一部を改正する法律は、去る3月27日に可決・成立し、同月31日に公布(平成21年法律第13号)されている。また、関係政省令もそれぞれ公布・制定されている。

Ⅰ.非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例の創設

1.制度の概要
 経営承継受贈者が、認定贈与承継会社の代表権(制限が加えられた代表権を除く。以下同じ。)を有していた一定の個人(以下において「贈与者」という。)から当該認定贈与承継会社の非上場株式等を贈与(次の①または②の場合の区分に応じ次に掲げる贈与をいう。以下「特例対象贈与」という。)により取得した場合には、当該非上場株式等のうち特例受贈非上場株式等に係る納税猶予分の贈与税額に相当する贈与税については、贈与税の申告書(提出期限内に提出されるものに限る。以下同じ。)の提出期限(以下において「申告期限」という。)までに一定の担保を提供した場合に限り、当該贈与者の死亡の日まで納税を猶予することとされた(措法70条の7第1項)。
① A≦Bの場合……A以上の数または金額に相当する非上場株式等の贈与
② A>Bの場合……Bのすべての贈与
 A:贈与の直前における認定贈与承継会社の議決権に制限のない発行済株式または出資の総数または総額×2/3-贈与の直前において経営承継受贈者が有していた当該認定贈与承継会社の非上場株式等の数または金額
 B:贈与の直前において贈与者が有していた認定贈与承継会社の非上場株式等の数または金額
(1)経営承継受贈者の範囲  贈与者から、特例対象贈与により認定贈与承継会社の非上場株式等の取得をした個人で、次に掲げる要件のすべてを満たす者(その者が2人以上ある場合は、当該認定贈与承継会社が作成した書類を経済産業大臣に提出することにより当該認定贈与承継会社が定めた1人の者に限る。)をいう(措法70条の7第2項3号)。
① 当該特例対象贈与の時において当該贈与者の親族であり、かつ、当該特例対象贈与の日において20歳以上であること。
② 当該特例対象贈与の時において、
イ 当該認定贈与承継会社の代表権を有していること。
ロ 「B/A>50/100」の算式を満たすこと。
 A:当該認定贈与承継会社に係る総株主等議決権数(総株主または総社員の議決権の数をいう。以下同じ。)
 B:当該個人および当該個人の同族関係者等の有する当該認定贈与承継会社の非上場株式等の議決権の数の合計
ハ 当該受贈者が有する当該認定贈与承継会社の非上場株式等に係る議決権の数が、当該受贈者の同族関係者等のうちいずれの者が有する議決権の数をも下回らないこと。
ニ 当該受贈者が、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則(平成21年経令第22号。以下「円滑化省令」という。)16条1項に規定する経済産業大臣の確認を受けた会社の円滑化省令15条3号に規定する特定後継者であること。
③ 当該受贈者が、当該特例対象贈与の時から当該贈与に係る贈与税の申告書の提出期限まで引き続き当該特例対象贈与により取得をした特例受贈非上場株式等のすべてを有していること。
④ 当該受贈者が、当該特例対象贈与の日まで引き続き3年以上継続して当該認定贈与承継会社の役員であること。
(2)贈与者の範囲  当該贈与の時前に認定贈与承継会社の代表権を有していた個人で、次に掲げる要件のすべてを満たすものをいう(措令40条の8第1項)。
① 当該特例対象贈与の直前(当該個人が当該特例対象贈与の直前に代表権を有しない場合には、当該個人が当該代表権を有していた期間内のいずれかの時および当該特例対象贈与の直前をいう。)において、
イ 「B/A>50/100」の算式を満たすこと。
 A:当該認定贈与承継会社に係る総株主等議決権数
 B:当該贈与者および当該贈与者の同族関係者等の有する当該認定贈与承継会社の非上場株式等の議決権の数の合計
ロ 当該贈与者が有する当該認定贈与承継会社の非上場株式等に係る議決権の数が当該贈与者の同族関係者等のうちいずれの者が有する議決権の数をも下回らないこと。
② 当該特例対象贈与の時において、当該贈与者が当該認定贈与承継会社の役員でないこと。
(3)認定贈与承継会社の範囲  中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(平成20年法律第33号。以下「円滑化法」という。)2条に規定する中小企業者(以下「中小企業者」という。)のうち、同法12条1項1号の経済産業大臣の認定(以下「経済産業大臣認定」という。)を受けた会社で、特例対象贈与の時において、次に掲げる要件のすべてを満たすものをいう(措法70条の7第2項1号、4号、措令40条の8第5項~7項)。
① 当該会社の常時使用する従業員の数が1人以上であること。
② 当該会社が、原則として資産保有型会社または資産運用型会社に該当しないこと。
(注)1「資産保有型会社」とは、納税猶予期間中のいずれかの日において、総資産に占める特定資産(有価証券、不動産、預貯金、ゴルフ会員権、貴金属等をいう。以下同じ。)の合計額の割合が70%以上の会社を
いう(措法70条の7第2項8号)。
 2 「資産運用型会社」とは、納税猶予期間中のいずれかの事業年度(贈与の日の属する事業年度の直前の事業年度を含む。)において、総収入金額に占める特定資産の運用収入の合計額の割合が75%以上の会社をいう(措法70条の7第2項9号)。
③ 当該会社および当該会社の特別子会社等(同族関係者と合わせて他の会社に係る総株主等議決権数の50%超を保有する場合における当該他の会社をいう。)の株式等が非上場株式等に該当すること。
④ 当該会社および当該会社の特別子会社等が性風俗関連特殊営業を営む会社に該当しないこと。
⑤ 当該会社の特例対象贈与の日の属する事業年度の直前の事業年度における総収入金額が、零を超えること。
⑥ 当該会社が黄金株を当該会社に係る経営承継受贈者以外の者が有していないこと。
⑦ 当該会社の特別子会社等が、中小企業者に該当すること。
(4)特例受贈非上場株式等の範囲  特例対象贈与により取得した非上場株式等(議決権に制限のないものに限る。)のうち贈与税の申告書にこの特例の適用を受けようとする旨の記載があるもので、当該特例対象贈与の時におけるその認定贈与承継会社の発行済株式または出資(議決権に制限のない株式等に限る。)の総数または総額の3分の2(当該特例対象贈与の直前において当該特例対象贈与に係る経営承継受贈者が有していた当該認定贈与承継会社の非上場株式等があるときは、当該総数または総額の3分の2から当該経営承継受贈者が有していた当該認定贈与承継会社の非上場株式等の数または金額を控除した残数または残額)に達するまでの部分をいう(措法70条の7第1項)。

2.適用手続
(1)期限内申告
 この特例の適用を受けるためには、贈与税の申告書を申告期限内に提出し、当該申告書に、非上場株式等の全部または一部につきこの特例の適用を受けようとする旨を記載し、当該非上場株式等の明細および納税猶予分の贈与税額の計算に関する明細等を記載した書類を添付しなければならない(措法70条の7第1項、9項)。
(2)担保の提供  この特例の適用を受けるためには、申告期限までに納税猶予分の贈与税額に相当する担保を提供しなければならない(措法70条の7第1項)。
 なお、特例受贈非上場株式等の全部を担保として提供した場合には、当該納税猶予分の贈与税額に相当する担保が提供されたものとみなされる(措法70条の7第7項)。

3.納税猶予分の贈与税額の計算  特例受贈非上場株式等の価額を経営承継受贈者に係るその年分の贈与税の課税価格とみなして、相続税法21条の5および21条の7の規定(措置法70条の2の規定を含む。)を適用して計算した金額が納税猶予分の贈与税額となる(措法70条の7第2項5号)。

4.納税猶予期間中の継続届出書の提出義務
(1)継続届出書の提出
 この特例の適用を受ける経営承継受贈者は、申告期限の翌日から猶予中贈与税額の全部について納税の猶予に係る期限が確定する日までの間に経営贈与報告基準日が存する場合には、届出期限(第1種贈与基準日の翌日から5月を経過する日および第2種贈与基準日の翌日から3月を経過する日をいう。(2)において同じ。)までに、引き続いてこの特例の適用を受けたい旨および認定贈与承継会社の経営に関する事項(認定贈与承継会社の名称・本店所在地、総収入金額等)を記載した届出書(以下6までにおいて「継続届出書」という。)に認定贈与承継会社の定款の写し等の書類を添付して納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(措法70条の7第10項)。 
(注)1「猶予中贈与税額」とは、納税猶予分の贈与税額から、既に一部確定した税額を除いたものをいう(措法70条の7第2項7号ロ)。
 2「経営贈与報告基準日」とは、第1種贈与基準日または第2種贈与基準日をいう(措法70条の7第2項7号)。
 3「第1種贈与基準日」とは、経営贈与承継期間(申告期限の翌日から同日以後5年を経過する日または当該贈与に係る贈与者の死亡の日のいずれか早い日までの期間をいう。以下同じ。)のいずれかの日で、申告期限の翌日から起算して1年を経過するごとの日をいう(措法70条の7第2項7号イ)。
 4「第2種贈与基準日」とは、経営贈与承継期間の末日の翌日から納税猶予分の贈与税額の全部につき納税の猶予に係る期限が確定する日までの期間のいずれかの日で、当該経営贈与承継期間の末日の翌日から3年を経過するごとの日をいう(措法70条の7第2項7号ロ)。
(2)継続届出書未提出の場合  継続届出書が届出期限までに納税地の所轄税務署長に提出されない場合には、当該届出期限における猶予中贈与税額に相当する贈与税については、当該届出期限の翌日から2月を経過する日をもって納税の猶予に係る期限とされる(措法70条の7第12項)。

5.担保の変更の命令に応じない場合等の納税猶予期限の繰上げ  税務署長は、次に掲げる場合には、猶予中贈与税額に相当する贈与税に係る納税の猶予に係る期限を繰り上げることができる(措法70条の7第13項)。
(1)経営承継受贈者が上記2(2)の担保について担保変更命令(通則法51条1項)に応じない場合
(2)提出された継続届出書に記載された事項と相違する事実が判明した場合

6.経営贈与承継期間内に納税猶予が打ち切られる場合  経営贈与承継期間内に、この特例の適用を受ける経営承継受贈者または特例受贈非上場株式等に係る認定贈与承継会社について次に掲げる場合などに該当することとなったときには、それぞれ次に定める日から2月を経過する日が納税の猶予に係る期限となる(措法70条の7第4項)。
(1)当該経営承継受贈者が認定贈与承継会社の代表権を有しないこととなった場合(一定のやむを得ない理由がある場合を除く。) その有しないこととなった日
(2)第1種贈与基準日において認定贈与承継会社の常時使用従業員の数が特例対象贈与の時における常時使用従業員の数の80%を下回る数となった場合 当該第1種贈与基準日(3)「B/A≦50/100」の算式を満たすこととなった場合 当該満たすこととなった日
 A:当該認定贈与承継会社に係る総株主等議決権数
 B:経営承継受贈者および当該経営承継受贈者と同族関係等のある者の有する議決権の数(当該認定贈与承継会社に係るものに限る。)の合計
(4)当該経営承継受贈者の同族関係者等のうちいずれかの者が、当該経営承継受贈者が有する当該認定贈与承継会社の非上場株式等に係る議決権の数を超える数の議決権を有することとなった場合 その有することとなった日
(5)当該経営承継受贈者が当該特例受贈非上場株式等の一部の譲渡等(譲渡または贈与をいう。以下同じ。)をした場合 当該譲渡等をした日

7.経営贈与承継期間後に納税猶予が打ち切られる場合  経営贈与承継期間の末日の翌日から猶予中贈与税額に相当する贈与税の全部につき納税の猶予に係る期限が確定するまでの間において、この特例の適用を受ける経営承継受贈者が当該特例受贈非上場株式等の一部の譲渡等をした場合などには、猶予中贈与税額のうち当該譲渡等をした特例受贈非上場株式等の数または金額に対応する部分の額として計算した金額などについては、当該譲渡等をした日などから2月を経過する日が納税の猶予に係る期限となる(措法70条の7第6項)。

8.納税猶予税額が免除となる場合
(1)贈与者等の死亡等による納税猶予税額の免除
 この特例の適用を受ける経営承継受贈者または当該経営承継受贈者に係る贈与者が次のいずれかに掲げる場合に該当することとなった場合には、猶予中贈与税額に相当する贈与税が免除される(措法70条の7第16項)。
① 当該贈与者の死亡の時以前にその経営承継受贈者が死亡した場合
② 当該贈与者が死亡した場合
(2)法的な倒産等による納税猶予税額の免除  認定贈与承継会社について破産手続開始の決定または特別清算開始の命令があった場合などに該当することとなったときには、一定の納税猶予税額(例:次の①に掲げる金額から②に掲げる金額を控除した残額に相当する贈与税)が税務署長の通知により免除される(措法70条の7第17項、18項)。
① 当該認定贈与承継会社の解散の直前における猶予中贈与税額
② 当該認定贈与承継会社の解散前5年以内において、経営承継受贈者および当該経営承継受贈者と生計を一にする者が当該認定贈与承継会社から受けた剰余金の配当等の額その他当該認定贈与承継会社から受けた金額の合計額

9.利子税の納付  この特例の適用を受けた経営承継受贈者は、納税猶予税額の全部または一部を納付する場合には、上記4から7までおよび下記10(2)により納付する税額を基礎とし(上記8(2)の適用を受ける場合には、上記8(2)②に掲げる金額を基礎とする。)、贈与税の申告書の提出期限の翌日から上記4から7までおよび下記10(2)の納税の猶予期限までの期間に応じ、年3.6パーセントの割合を乗じて計算した金額に相当する利子税を、あわせて納付しなければならない(措法70条の7第23項)。

10.その他
(1)他の納税猶予制度との重複適用の排除
 経営承継受贈者が、認定贈与承継会社に係る株式等について、この特例の適用を受けようとする場合において、当該経営承継受贈者以外の者が当該認定贈与承継会社と同一の会社の株式等について措置法70条の7第1項〔非上場株式等についての贈与税の納税猶予〕、措置法70条の7の2第1項〔非上場株式等についての相続税の納税猶予〕または措置法70条の7の4第1項〔非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予〕のいずれかの規定の適用を受けているときは、この特例の適用を受けることができない(措法70条の7第8項)。
(2)同族会社等の行為または計算の否認等  認定贈与承継会社の行為または計算で、経営承継受贈者または贈与者その他これらの者と特別の関係がある者の相続税または贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長は、その行為または計算にかかわらず、その認めるところにより、納税の猶予に係る期限を繰り上げ、または免除する納税の猶予に係る贈与税を定めることができる(措法70条の7第15項)。
(3)現物出資等がある場合の適用除外  特例対象贈与前3年以内に経営承継受贈者および経営承継受贈者の同族関係者からの現物出資または贈与により取得した資産の合計額の総資産に占める割合が70%以上である会社に係る株式等については、この特例の適用を受けることはできない(措法70条の7第24項)。
(4)相続時精算課税の適用除外  相続時精算課税の適用を受けている者が、その者に係る相続税法21条の9第5項に規定する特定贈与者からの贈与により取得をした非上場株式等についてこの特例の適用を受ける場合には、この特例の適用を受ける特例受贈非上場株式等については、相続時精算課税は適用できない(措法70条の7第3項)。

11.適用期日  この特例の規定は、平成21年4月1日以後に贈与(死因贈与を除く。)により取得をする非上場株式等に係る贈与税について適用される(所法等改正法附則63条1項)。

Ⅱ.非上場株式等についての相続税の納税猶予の特例の創設

1.概  要
 経営承継相続人等が、認定承継会社の代表権を有していた一定の個人(以下において「被相続人」という。)から相続または遺贈により当該認定承継会社の非上場株式等(措置法第70条の7の3第1項の規定により当該被相続人から取得したものとみなされる同項の特例受贈非上場株式等に係る認定承継会社の株式等を除く。)の取得をした場合には、当該非上場株式等のうち特例非上場株式等に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、相続税の申告書(提出期限内に提出されるものに限る。以下同じ。)の提出期限(以下において「申告期限」という。)までに一定の担保を提供した場合に限り、当該経営承継相続人等の死亡の日までその納税を猶予することとされた(措法70条の7の2第1項)。
 なお、当該相続に係る相続税の申告書の提出期限までに、共同相続人または包括受遺者によってまだ分割されていない非上場株式等は、この特例の適用を受けることができない(措法70条の7の2第7項)。
(1)経営承継相続人等の範囲  この特例の適用を受けることができる経営承継相続人等とは、被相続人から相続または遺贈により認定承継会社の非上場株式等の取得をした個人で、次に掲げる要件のすべてを満たす者(その者が2人以上ある場合は、当該認定承継会社が作成した書類を経済産業大臣に提出することにより当該認定承継会社が定めた1人の者に限る。)をいう(措法70条の7の2第2項3号)。
① 当該相続開始の直前において、
イ 当該被相続人の親族であること。
ロ 当該会社の役員であったこと。
② 当該相続開始の日から5月を経過する日において、当該認定承継会社の代表権を有していること。
③ 当該相続開始の時において、
イ 「B/A>50/100」の算式を満たすこと。
 A:当該認定承継会社に係る総株主等議決権数
 B:当該個人および当該個人の同族関係者等の有する当該認定承継会社の非上場株式等の議決権の数の合計
ロ 当該個人が有する当該認定承継会社の非上場株式等に係る議決権の数が、当該個人の同族関係者等のうちいずれの者が有する議決権の数をも下回らないこと。
ハ 当該個人が、円滑化省令16条1項に規定する経済産業大臣の確認を受けた会社の円滑化省令15条3号に規定する特定後継者であること。
④ 当該個人が、当該相続開始の時から当該相続に係る相続税の申告書の提出期限まで引き続き当該相続または遺贈により取得をした当該認定承継会社の特例非上場株式等のすべてを有していること。
(2)被相続人の範囲  相続の開始前に認定承継会社の代表権を有していた個人で、当該相続の開始の直前(当該個人が当該相続の開始の直前において当該認定承継会社の代表権を有しない場合には、当該個人が当該代表権を有していた期間内のいずれかの時および当該相続の開始の直前をいう。以下(2)において同じ。)において、次に掲げる要件のすべてを満たすものをいう(措令40条の8の2第1項)。
① 「B/A>50/100」の算式を満たすこと。
 A:当該認定承継会社に係る総株主等議決権数
 B:当該被相続人および当該被相続人の同族関係者等の有する当該認定承継会社の非上場株式等の議決権の数の合計
② 当該被相続人が有する当該認定承継会社の非上場株式等に係る議決権の数が当該被相続人の同族関係者等のうちいずれの者が有する議決権の数をも下回らないこと。
(3)認定承継会社の範囲  経済産業大臣認定を受けた会社で、相続開始の時において、次に掲げる要件のすべてを満たすものをいう(措法70条の7の2第2項1号)。
① 当該会社の常時使用従業員の数が1人以上であること。
② 当該会社が、原則として資産保有型会社または資産運用型会社に該当しないこと。
③ 当該会社および当該会社の特別子会社等の株式等が非上場株式等に該当すること。
④ 当該会社および当該会社の特別子会社等が性風俗関連特殊営業を営む会社に該当しないこと。
⑤ 経済産業大臣認定を受けた会社の相続の開始の日の属する事業年度の直前の事業年度における総収入金額が、零を超えること。
⑥ 経済産業大臣認定を受けた会社が発行する黄金株を当該会社に係る経営承継相続人等以外の者が有していないこと。
⑦ 経済産業大臣認定を受けた会社の特別子会社等が、中小企業者に該当すること。
(4)特例非上場株式等の範囲  相続または遺贈により取得した非上場株式等のうち相続税の申告書にこの特例の適用を受けようとする旨の記載があるもので、当該相続開始の時におけるその認定承継会社の発行済株式または出資(議決権に制限のない株式等に限る。)の総数または総額の3分の2(当該相続開始の直前において当該相続に係る経営承継相続人等が有していた当該認定承継会社の非上場株式等があるときは、当該総数または総額の3分の2から当該経営承継相続人等が有していた当該認定承継会社の非上場株式等の数または金額を控除した残数または残額)に達するまでの部分をいう(措法70条の7の2第1項)。

2.適用手続
(1)期限内申告
 この特例の適用を受けるためには、相続税の申告書を申告期限内に提出し、当該申告書に、非上場株式等の全部または一部につきこの特例の適用を受けようとする旨を記載し当該非上場株式等の明細および納税猶予分の相続税額の計算に関する明細等を記載した書類を添付しなければならない(措法70条の7の2第1項、9項)。
(2)担保の提供  この特例の適用を受けるためには、申告期限までに納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供しなければならない(措法70条の7の2第1項)。
 なお、特例非上場株式等の全部を担保として提供した場合には、当該納税猶予分の相続税額に相当する担保が提供されたものとみなされる(措法70条の7の2第6項)。

3.納税猶予分の相続税額の計算  次の(1)に掲げる金額から(2)に掲げる金額を控除した残額が納税猶予分の相続税額となる(措法70条の7の2第2項5号)。
(1)特例非上場株式等の価額を当該経営承継相続人等に係る相続税の課税価格とみなして、相続税法15条から19条まで、21条の15第1項および2項ならびに21条の16第1項および2項の規定を適用して計算した当該経営承継相続人等の相続税の額
(2)特例非上場株式等の価額に100分の20を乗じて計算した金額を当該経営承継相続人等に係る相続税の課税価格とみなして、相続税法15条から19条まで、21条の15第1項および2項ならびに21条の16第1項および2項の規定を適用して計算した当該経営承継相続人等の相続税の額

4.納税猶予期間中の継続届出書の提出義務
(1)継続届出書の提出
 この特例の適用を受ける経営承継相続人等は、申告期限の翌日から猶予中相続税額の全部につき納税の猶予に係る期限が確定する日までの間に経営報告基準日が存する場合には、届出期限(第1種基準日の翌日から5月を経過する日および第2種基準日の翌日から3月を経過する日をいう。(2)において同じ。)までに、引き続いてこの特例の適用を受けたい旨および認定承継会社の経営に関する事項等を記載した届出書(以下5までにおいて「継続届出書」という。)に認定承継会社の定款の写し等の書類を添付して納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(措法70条の7の2第10項)。 
(注)1「猶予中相続税額」とは、納税猶予分の相続税額から、一部確定した税額を除いたものをいう(措法70条の7の2第2項7号ロ)。
 2「経営報告基準日」とは、第1種基準日または第2種基準日をいう(措法70条の7の2第2項7号)。
 3「第1種基準日」とは、経営承継期間(申告期限の翌日から同日以後5年を経過する日または当該相続に係る経営承継相続人等の死亡の日のいずれか早い日までの期間をいう。以下同じ。)のいずれかの日で、申告期限の翌日から起算して1年を経過するごとの日をいう(措法70条の7の2第2項7号イ)。
4「第2種基準日」とは、経営承継期間の末日の翌日から猶予中相続税額の全部につき納税の猶予に係る期限が確定する日までの期間のいずれかの日で、当該経営承継期間の末日の翌日から3年を経過するごとの日をいう(措法70条の7の2第2項7号ロ)。
(2)継続届出書未提出の場合  継続届出書が届出期限までに納税地の所轄税務署長に提出されない場合には、当該届出期限における猶予中相続税額に相当する相続税については、当該届出期限の翌日から2月を経過する日をもって納税の猶予に係る期限とされる(措法70条の7の2第12項)。

5.担保の変更の命令違反等の場合の納税猶予期限の繰上げ  税務署長は、次に掲げる場合には、猶予中相続税額に相当する相続税に係る納税の猶予に係る期限を繰り上げることができる(措法70条の7の2第13項)。
(1)経営承継相続人等が上記2(2)の担保について担保変更命令(通則法51条1項)に応じない場合
(2)提出された継続届出書に記載された事項と相違する事実が判明した場合

6.経営承継期間内に納税猶予が打ち切られる場合  経営承継期間内に、この特例の適用を受ける経営承継相続人等または特例非上場株式等に係る認定承継会社について次に掲げる場合などに該当することとなったときには、それぞれ次に定める日から2月を経過する日が納税の猶予に係る期限となる(措法70条の7の2第3項)。
(1)当該経営承継相続人等が認定承継会社の代表権を有しないこととなった場合(一定のやむを得ない理由がある場合を除く。) その有しないこととなった日
(2)第1種基準日において認定承継会社の常時使用従業員の数が相続の開始の時における常時使用従業員の数の80%を下回る数となった場合 当該第1種基準日
(3)「B/A≦50/100」の算式を満たすこととなった場合 当該満たすこととなった日
 A:当該認定承継会社に係る総株主等議決権数
 B:経営承継相続人等および当該経営承継相続人等の同族関係者等の有する議決権の数(当該認定承継会社に係るものに限る。)の合計
(4)当該経営承継相続人等と同族関係等のある者のうちいずれかの者が、当該経営承継相続人等が有する当該認定承継会社の非上場株式等に係る議決権の数を超える数の議決権を有することとなった場合 その有することとなった日
(5)当該経営承継相続人等が当該特例非上場株式等の一部の譲渡等をした場合 当該譲渡等をした日

7.経営承継期間後に納税猶予が打ち切られる場合  経営承継期間の末日の翌日から猶予中相続税額に相当する相続税の全部につき納税の猶予に係る期限が確定するまでの間において、この特例の適用を受ける経営承継相続人等が当該特例非上場株式等の一部の譲渡等をした場合などに該当することとなったときには、猶予中相続税額のうち、当該譲渡等をした特例非上場株式等の数または金額に対応する部分の額として計算した金額などについては、当該譲渡等をした日などから2月を経過する日が納税の猶予に係る期限となる(措法70条の7の2第5項)。

8.納税猶予税額が免除となる場合
(1)経営承継相続人等の死亡等による納税猶予税額の免除
 この特例の適用を受ける経営承継相続人等が次のいずれかに掲げる場合に該当することとなった場合には、次に定める相続税が免除される(措法70条の7の2第16項)。
① 当該経営承継相続人等が死亡した場合 猶予中相続税額に相当する相続税
② 経営承継期間の末日の翌日以後に、当該経営承継相続人等が当該特例非上場株式等につき措置法70条の7第1項〔非上場株式等についての贈与税の納税猶予〕の規定の適用に係る贈与をした場合 猶予中相続税額に次の割合を乗じて計算した金額に相当する相続税

(2)法的な倒産等による納税猶予税額の免除  認定承継会社について破産手続開始の決定または特別清算開始の命令があった場合などに該当することとなったときには、一定の納税猶予税額(例:次の①に掲げる金額から②に掲げる金額を控除した残額に相当する相続税)が税務署長の通知により免除される(措法70条の7の2第17項)。
① 当該認定承継会社の解散(会社法その他の法律の規定により解散をしたものとみなされる場合の解散を含む。)の直前における猶予中相続税額
② 当該認定承継会社の解散前5年以内において、当該経営承継相続人等および当該経営承継相続人等と生計を一にする者が当該認定承継会社から受けた剰余金の配当等の額その他当該認定承継会社から受けた金額の合計額

9.利子税の納付  この特例の適用を受けた経営承継相続人等は、納税猶予税額の全部または一部を納付する場合には、上記4から7までおよび下記10(2)により納付する税額を基礎とし(上記8(2)の適用を受ける場合には、上記8(2)②に掲げる金額を基礎とする。)、相続税の申告書の提出期限の翌日から上記4から7までおよび下記10(2)の納税の猶予期限までの期間に応じ、年3.6パーセントの割合を乗じて計算した金額に相当する利子税を、あわせて納付しなければならない(措法70条の7の2第23項)。

10.その他
(1)他の納税猶予との重複適用の排除
 経営承継相続人等が、認定承継会社に係る株式等について、この特例の適用を受けようとする場合において、当該経営承継相続人等以外の者が当該認定承継会社と同一の会社の株式等について措置法70条の7第1項〔非上場株式等についての贈与税の納税猶予〕、措置法70条の7の2第1項〔非上場株式等についての相続税の納税猶予〕または措置法70条の7の4第1項〔非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予〕のいずれかの規定の適用を受けているときは、この特例の適用を受けることができない(措法70条の7の2第8項)。  
(2)同族会社等の行為または計算の否認等  認定承継会社の行為または計算で、経営承継相続人等または被相続人その他これらの者と特別の関係がある者の相続税または贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長は、その行為または計算にかかわらず、その認めるところにより、納税の猶予に係る期限を繰り上げ、または免除する納税の猶予に係る相続税を定めることができる(措法70条の7の2第15項)。
(3)現物出資等がある場合の適用除外  相続開始前3年以内に経営承継相続人等および経営承継相続人等の同族関係者からの現物出資または贈与により取得した資産の合計額の総資産に占める割合が70%以上である会社に係る株式等については、この特例の適用を受けることはできない(措法70条の7の2第24項)。

11.適用時期  この特例の規定は、平成20年10月1日以後に相続または遺贈(死因贈与を含む。)により取得をする非上場株式等に係る相続税について適用される。
 この場合において、当該相続または遺贈により取得する当該非上場株式等に係る会社の株式等については、「特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例」の規定の適用を受けることはできない(所法等改正法附則63条2項)。

Ⅲ.非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例の創設
 上記の「非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例」(措法70条の7)の適用を受ける経営承継受贈者に係る贈与者が死亡した場合(その死亡の日前に猶予中贈与税額に相当する贈与税の全部につき上記4から7までまたは10(2)による納税の猶予に係る期限が確定した場合およびその死亡の時以前に当該経営承継受贈者が死亡した場合を除く。)には、当該贈与者の死亡による相続または遺贈に係る相続税については、当該経営承継受贈者が当該贈与者から相続(当該経営承継受贈者が当該贈与者の相続人以外の者である場合には、遺贈)により上記の特例の適用を受ける特例受贈非上場株式等(猶予中贈与税額に対応する部分に限り、合併により当該特例受贈非上場株式等に係る認定贈与承継会社が消滅した場合等の場合には、当該特例受贈非上場株式等に相当する株式等とされる。下記において同じ。)の取得をしたものとみなすこととされた(措法70条の7の3第1項)。
 この場合において、その死亡による相続または遺贈に係る相続税の課税価格の計算の基礎に算入すべき当該特例受贈非上場株式等の価額については、当該贈与者から特例対象贈与により取得をした特例受贈非上場株式等の当該贈与の時における価額を基礎として計算される。

Ⅳ.非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例の創設

1.概  要
 上記〔非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例の創設(措法70条の7の3)〕により贈与者から相続または遺贈により取得をしたものとみなされた特例受贈非上場株式等につきこの特例の適用を受けようとする経営相続承継受贈者が、当該相続に係る相続税の申告書の提出により納付すべき相続税の額のうち、特例相続非上場株式等に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、当該相続税の申告書の提出期限までに一定の担保を提供した場合に限り、当該経営相続承継受贈者の死亡の日まで、その納税を猶予することとされた(措法70条の7の4第1項)。
 なお、経営相続承継受贈者が、認定相続承継会社に係る株式等について、この特例の規定の適用を受けようとする場合において、当該経営相続承継受贈者以外の者が当該認定相続承継会社と同一の会社の株式等について措置法70条の7第1項〔非上場株式等についての贈与税の納税猶予〕、措置法70条の7の2第1項〔非上場株式等についての相続税の納税猶予〕または措置法70条の7の4第1項〔非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予〕のいずれかの規定の適用を受けているときは、この特例の規定の適用を受けることができない(措法70条の7の4第5項)。
(1)経営相続承継受贈者の範囲  経営承継受贈者であって、次に掲げる要件のすべてを満たす者をいう(措法70条の7の4第2項3号)。
① 当該相続開始の直前において、当該贈与者(被相続人)の親族であること。
② 当該相続開始の時において、
イ 当該特例受贈非上場株式等に係る認定相続承継会社の代表権を有していること。
ロ 「B/A>50/100」の算式を満たすこと。
 A:当該認定相続承継会社に係る総株主等議決権数
 B:その者およびその者の同族関係者等のある者の有する当該認定相続承継会社の非上場株式等の議決権の数の合計
ハ その者が有する当該認定相続承継会社の非上場株式等に係る議決権の数が、その者と同族関係者等のうちいずれの者が有する議決権の数をも下回らないこと。
(2)認定相続承継会社の範囲  認定贈与承継会社で、相続開始の時において、次に掲げる要件のすべてを満たすものをいう(措法70条の7の4第2項1号、措令40条の8の3第3項、4項、5項)。
① 当該会社の常時使用従業員の数が1人以上であること。
② 当該会社が、原則として資産保有型会社または資産運用型会社に該当しないこと。
③ 当該会社および当該会社の特別子会社等の株式等が、非上場株式等に該当すること。
④ 当該会社および当該会社の特別子会社等が、性風俗関連特殊営業を営む会社に該当しないこと。
⑤ 当該会社および当該会社の特別子会社等が、中小企業者であること。
⑥ 上記1(3)⑤および⑥に掲げる要件を満たすこと。
(3)特例相続非上場株式等の範囲  相続または遺贈により取得したものとみなされる特例受贈非上場株式等(相続開始の時に有していたものに限る。)のうち相続税の申告書にこの特例の規定の適用を受けようとする旨の記載があるもので、当該相続開始の時におけるその認定相続承継会社の発行済株式または出資(議決権に制限のない株式等に限る。以下(3)において同じ。)の総数または総額の3分の2(当該特例受贈非上場株式等の特例対象贈与の直前において経営相続承継受贈者が有していた認定相続承継会社の非上場株式等(議決権に制限のないものに限る。)がある場合は、当該総数または総額の3分の2から当該経営相続承継受贈者が有していた認定相続承継会社の非上場株式等の数または金額(当該贈与の時から当該相続の開始の直前までの間に当該特例受贈非上場株式等に係る会社の株式等の併合があったことその他の事由により当該特例受贈非上場株式等の数または金額が増加または減少している場合には、当該増加または減少をした後の数または金額に換算した数または金額)を控除した残数または残額)に達するまでの部分をいう(措法70条の7の4第1項)。

2.適用手続
(1)期限内申告
 この特例の適用を受けるためには、特例受贈非上場株式等の全部または一部につきこの特例の規定の適用を受けようとする旨を記載した相続税の申告書に次に掲げる書類を添付して申告期限内に提出しなければならない(措法70条の7の4第1項、7項)。
① この特例の規定の適用を受けようとする当該特例受贈非上場株式等の明細および納税猶予分の相続税額の計算に関する明細等を記載した書類
② この特例の規定の適用を受けようとする当該特例受贈非上場株式等に係る贈与者の死亡の日の翌日以後最初に到来する経営相続報告基準日の翌日から5月(当該贈与者が当該経営相続承継受贈者に係る経営贈与承継期間の末日の翌日以後に死亡した場合にあっては、3月)を経過する日が当該贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までに到来する場合には、当該特例受贈非上場株式等に係る認定相続承継会社の経営に関する事項を記載した書類
③ 相続の開始の時において、当該認定相続承継会社が上記1(2)に掲げるすべての要件を満たし、かつ、この特例の規定の適用を受けようとする当該特例受贈非上場株式等に係る認定相続承継受贈者が上記1(1)に掲げるすべての要件その他一定の要件を満たしていることを証する所定の書類
(2)担保の提供  この特例の適用を受けるためには、申告期限までに納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供しなければならない(措法70条の7の4第1項)。
 なお、特例相続非上場株式等の全部を担保として提供した場合には、当該納税猶予分の相続税額に相当する担保が提供されたものとみなされる(措法70条の7の4第4項)。

3.非上場株式等についての相続税の納税猶予の特例の規定の準用  上記Ⅱ〔非上場株式等についての相続税の納税猶予の特例(措法70条の7の2第4項)〕3~10については、「非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例」の規定を適用する場合に準用される。
 なお、この特例の適用を受けた場合には、継続届出書の提出期限の判定および納税猶予期限の確定事由が全部確定事由に該当するか、一部確定事由に該当するかの判定等の基礎となる基準日等(経営相続承継期間、経営相続報告基準日、第1種相続基準日および第2種相続基準日をいう。)は、上記〔非上場株式等についての相続税の納税猶予の特例(措法70条の7の2第4項)〕の基準日等(経営承継期間、経営報告基準日、第1種基準日および第2種基準日をいう。)とは異なる(措法70条の7の4第2項5号、6号、3項、8項)。
(注)1「経営相続報告基準日」とは、第1種相続基準日または第2種相続基準日をいう(措法70条の7の4第2項6号)。
 2「第1種相続基準日」とは、経営相続承継期間(特例対象贈与に係る贈与税の申告書の提出期限の翌日から同日以後5年を経過する日までの間に当該特例対象贈与に係る贈与者について相続が開始した場合における当該相続の開始の日から当該5年を経過する日または当該特例対象贈与に係る経営相続承継受贈者の死亡の日のいずれか早い日までの期間をいう。)のいずれかの日で、特例対象贈与に係る贈与税の申告期限の翌日から起算して1年を経過するごとの日をいう(措法70条の7の4第2項6号イ)。
 3「第2種相続基準日」とは、経営相続承継期間の末日の翌日から納税猶予分の相続税額の全部につき納税の猶予に係る期限が確定する日までの期間のいずれかの日で、当該経営相続承継期間の末日の翌日から3年を経過するごとの日をいう(措法70条の7の4第2項6号ロ)。

Ⅴ.相続税の申告期限の特例の創設
 平成20年10月1日から平成21年3月31日までの間に開始した相続に係る相続税については、相続財産のうちに非上場会社の株式等が含まれるなどの一定の要件を満たす場合には、その申告期限が平成22年2月1日まで延長することとされた(所法等改正法附則65条1項)。

Ⅵ.特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例の改正
 上記の非上場株式等についての相続税の納税猶予の創設に伴い、特定同族会社株式等および特定受贈同族会社株式等について、所要の経過措置が講じられたうえ、この課税価格の計算の特例は廃止され、「特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例」に改組された(措法69条の5)。

Ⅶ.特定同族株式等の贈与に係る相続時精算課税の特例の廃止
 特定同族株式等の贈与に係る相続時精算課税の特例については、所要の経過措置が講じられたうえ、適用期限(平成20年12月31日)の到来をもって廃止された。

Ⅷ.農地等についての相続税の納税猶予を適用している場合の特定貸付けの特例の創設
1.制度の内容
(1)制度の概要
 農地等についての相続税の納税猶予の適用を受ける農業相続人が、その適用を受ける農地または採草放牧地のうち市街化区域外に所在するものの全部または一部について、次の①から③までに掲げる貸付け(以下「特定貸付け」という。)を行った場合において、特定貸付けを行った日から2か月以内に特定貸付けを行った旨の届出書を納税地の所轄税務署長に提出したときは、その特定貸付けを行った農地または採草放牧地(以下「特定貸付農地等」という。)について、引き続き相続税の納税猶予を適用することができることとされた(措法70条の6の2第1項)。
① 農業経営基盤強化促進法4条2項に規定する農地保有合理化事業(同項1号に掲げる事業に限る。)のために行われる貸付け
② 農業経営基盤強化促進法4条3項に規定する農地利用集積円滑化事業(同項1号に定める事業(同号ハに掲げるものを除く。)および同項2号に定める事業に限る。)のために行われる貸付け
③ 農業経営基盤強化促進法20条に規定する農用地利用集積計画の定めるところにより行われる貸付け
(2)旧法猶予適用者の扱い  既に納税猶予の適用を受けている者も特定貸付けが適用できることとされた。
 ただし、自らの選択により特定貸付けを行った農業相続人は、特定貸付け以後はそれぞれの相続開始時点における租税特別措置法の関係規定は適用されず、改正後の租税特別措置法が適用されることから、猶予期限(免除)、利子税の割合等はすべて改正後の租税特別措置法(下記参照)の規定によることとなる(措法70条の6の2第8項、9項)。
(3)特定貸付けを行った農地または採草放牧地についての相続税の課税の特例  相続人が相続または遺贈により取得した農地または採草放牧地について申告期限までに新たに特定貸付けを行った場合には、その貸し付けた農地または採草放牧地についても納税猶予の適用を受けることができる(措法70条の6の3第2項)。
 また、特定貸付けを行っていた農業相続人が死亡した場合には、その特定貸付けを行っていた農地または採草放牧地は、その農業相続人がその死亡の日まで農業の用に供していたものとみなされ、その相続人は、所定の要件を満たせば、その農地または採草放牧地について納税猶予を適用することができる(措法70条の6の3第1項)。
 農地等についての贈与税の納税猶予を適用していた場合において贈与者が死亡したときは、納税猶予を適用している受贈者は、その贈与者の死亡に係る相続税の申告期限までに納税猶予の適用を受けていた農地または採草放牧地について特定貸付けを行った場合には、その農地または採草放牧地はその受贈者の農業の用に供しているものとみなして相続税の納税猶予が適用できる(措法70条の6の3第3項)。

2.適用関係  上記1の改正は、農地法等の一部を改正する法律の施行の日(以下までにおいて「農地法等改正法施行日」という。)以後に相続または遺贈により取得した農地または採草放牧地に係る相続税について適用される。
(注)「農地法等の一部を改正する法律」は、国会に提出されているところである(6月8日現在)。

Ⅸ.農地等についての相続税の納税猶予制度の改正
1.改正の内容
(1)納税猶予期限および免除事由の見直し
 農業相続人(都市営農農地等(三大都市圏の特定市の生産緑地をいう。)を有しない者に限る。)の有する市街化区域外の農地または採草放牧地については、相続税の申告期限の翌日から20年を経過する日において猶予されていた相続税額を免除することとされていたが、この20年免除が廃止され、農業相続人の死亡の日まで農業経営を継続することとされた(措法70条の6第5項、39項)。
(2)営農困難時貸付けの特例の創設 ① 相続税の納税猶予制度の適用を受ける農業相続人が、障害、疾病その他の事由によりその適用を受ける特例農地等について、その農業相続人の農業の用に供することが困難な一定の状態となった場合において、その特例農地等について地上権、永小作権、使用貸借による権利または賃借権の設定に基づき一定の貸付け(以下「営農困難時貸付け」という。)を行ったときは、営農困難貸付けを行った日から2か月以内に、営農困難時貸付けを行っている旨の届出書を納税地の所轄税務署長に提出したときに限り、納税猶予が継続される(措法70条の6第27項、70条の4第21項)。
② 農業の用に供することが困難な一定の状態とは、申告期限後において農業相続人に次に掲げる事由が生じた状態をいう(措令40条の6第45項)。
イ 精神障害者保健福祉手帳(障害等級が1級である者として記載されているものに限る。)の交付を受けていること。
ロ 身体障害者手帳(障害等級が1級または2級である者として記載されているものに限る。)の交付を受けていること。
ハ 介護保険法の要介護認定(要介護状態区分が要介護5のものに限る。)を受けていること。
  なお、申告期限において既に上記イからハまでの事由が生じている農業相続人はその状態のままでは営農困難時貸付けの対象とはならない。
③ 営農困難時貸付けは、農業経営基盤強化促進法の規定による貸付け(上記Ⅷ1(1)①から③までに掲げる貸付け)ができないこととされる場合に限り行うことができる。
  具体的には、特例農地等が次に掲げる地域もしくは区域のいずれにも存しない場合または上記Ⅷ1(1)①から③までに掲げる貸付けの申込みを行った日後1年を経過する日までに貸付先が見つからない等の理由で貸付けができない場合には、これらの方法以外による権利設定に基づく貸付けを行うことができる。
イ 農業経営基盤強化促進法の規定による都道府県知事の承認を受けた農地保有合理化事業を行う法人が存する場合における当該都道府県の区域(農業振興地域の区域内に限る。)
ロ 農地利用集積円滑化事業を行う者の農業経営基盤強化促進法の規定による承認を受けた農地利用集積円滑化事業規程に定められているその事業の実施地域
ハ 農業経営基盤強化促進法に規定する利用権設定等促進事業を行っている市町村の区域(市街化区域を除く。)
(3)猶予税額の全部の納期限が確定することとなる総面積の20%の計算から除外する譲渡等の範囲の追加  特例農地等の総面積の20%以上の譲渡等をした場合には、納税猶予が打ち切られることとされているが、農用地区域内にある特例農地等の次の譲渡がこのカウント除外に追加された(措令40条の7第8項)。
① 農業経営基盤強化促進法4条2項に規定する農地保有合理化事業(同項1号に掲げる事業に限る。)のための譲渡
② 農業経営基盤強化促進法4条3項に規定する農地利用集積円滑化事業(同項1号に定める事業(同号ハに掲げるものを除く。)および同項2号に定める事業に限る。)のための譲渡
③ 農業経営基盤強化促進法20条に規定する農用地利用集積計画の定めるところによる譲渡
(4)耕作の放棄の見直し  納税猶予の納期限の確定事由である耕作の放棄については、農地法32条の規定による農業委員会の遊休農地である旨の通知(同条ただし書の規定による公告を含む。)があったことをいうこととされた(措法70条の6第1項1号)。
(5)利子税の割合の引下げ  次の納税猶予税額に係る利子税の割合が、3.6%(改正前:6.6%)に引き下げられた。
① 都市営農農地等を有する農業相続人の納税猶予税額
② 上記①以外の農業相続人の納税猶予税額のうち市街化区域外の特例農地等に対応する部分
(注) 利子税の割合の特例により、日本銀行の基準割引率が0.5%の場合、上記の3.6%の割合は2.2%に、6.6%の割合は4.0%になる。

2.適用関係  上記1(5)を除く。)の改正は、農地法等改正法施行日以後の相続または遺贈により取得した農地または採草放牧地に係る相続税について適用される(所法等改正法附則66条5項)。
 ただし、(2)の営農困難時貸付けについては、農地法等改正法施行日前の相続等により取得した特例農地等について納税猶予を適用している者(旧法適用者)についてもその農業相続人の選択により営農困難時貸付けの特例を適用することができる規定が整備された(所得税法等改正法附則66条7項、8項)。この場合においては、改正後の耕作の放棄に対する措置も適用することとされている。

Ⅹ.農地等についての贈与税の納税猶予制度の改正

1.改正の内容
(1)営農困難時貸付けの特例の創設
 受贈者が、障害が発生するなどの理由により農地等の耕作ができない状態となった場合に一定の貸付けを行ったときは、引き続き贈与税の納税猶予制度を適用することができることとされた。その貸付方法は、農業経営基盤強化促進法の規定による貸付け(上記Ⅷ1(1)①から③までに掲げる貸付け)によるものでなければならないが、特例農地等が上記Ⅸ1(2)③イからハまでに掲げる地域もしくは区域のいずれにも存しない場合または上記Ⅷ1(1)①から③までに掲げる貸付けの申込みを行った日後1年を経過する日までに貸付先が見つからない等の理由で貸付けができない場合には、これらの方法以外による貸付けを行うことができる(その他の具体的な要件・手続は相続税と共通。詳細は上記Ⅸ1(2)参照)。
(2)利子税の引下げ  利子税の割合が、相続税の利子税の引下げに合わせて3.6%(改正前:6.6%)に引き下げられた(措法70条の4第34項)。
(注)上記の3.6%の割合は、利子税の割合の特例により日本銀行の基準割引率が0.5%の場合、2.2%となる。

2.適用関係  上記1(1)の改正は、農地法等改正法施行日以後に贈与により取得した農地等に係る贈与税について適用される(所法等改正法附則66条1項)。
 ただし、(1)の営農困難時貸付けについては、農地法等改正法施行日前の贈与により取得した農地等について納税猶予を適用している者(旧法適用者)についてもその受贈者の選択により営農困難時貸付けの特例を適用することができる(所法等改正法附則66条3項、4項)。この場合においては、耕作の放棄に対する措置(Ⅸ1(4)参照)を適用することとされた。
(たかや・ひろゆき)

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索