解説記事2009年08月10日 【会計基準等解説】 「企業結合会計の見直しに関する論点の整理」について(2009年8月10日号・№318)
実務解説
「企業結合会計の見直しに関する論点の整理」について
企業会計基準委員会 専門研究員 市原順二
Ⅰ.はじめに
企業会計基準委員会(ASBJ)では、2008年9月に更新したプロジェクト計画表に沿って、企業結合に関する会計基準等について、いわゆるEU同等性評価に係る項目を対象とするステップ1とそれ以外の項目を対象とするステップ2とに区分して見直しを行うこととしている。
このうち、ステップ1については、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」を始めとする一連の会計基準等を2008年12月に公表し完了したが、引き続き、既存の差異に関連するプロジェクト項目として中期的に対応するために、ステップ2としての検討を進めており、2011年までに、企業結合会計基準等をどのように見直していくかについての検討に資するよう、2009年7月10日に、「企業結合会計の見直しに関する論点の整理」(以下「本論点整理」という。)を公表し、2009年9月7日までコメントを募集している(脚注1)。今後、本論点整理について寄せられたコメントを踏まえ、その後の審議を経て、2010年には公開草案を公表することが見込まれている。
本稿では、これらの概要を紹介するが、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。また、本論点整理は最終的なものではなく、今後、変更される可能性があるが、ここでは、最終的なものと同様の表現をしている場合があることに留意する必要がある。
Ⅱ.【論点1】少数株主持分の取扱い
1.検討事項 連結財務諸表における少数株主持分について、我が国の会計基準と国際的な会計基準とでは、(1)連結財務諸表における表示等、(2)支配が継続している場合の子会社に対する親会社持分の変動、(3)共通支配下の取引等において、形式的な点を含め異なる取扱いがある。
2.今後の方向性
(1)連結財務諸表における表示等 本論点整理では、次のような理由から、連結財務諸表における少数株主持分及び少数株主損益に関する表示等(子会社に生じた損失の配分を含む。)については、引き続き、現行の会計基準に基づく取扱いを行っていくことが適当であるとしている。
① 親会社の株主と少数株主とではリスク及びリターンは大きく異なり、親会社株主持分と少数株主持分は同等ではないこと
② 子会社に欠損が生じた場合についても、通常、少数株主は親会社と同じ負担をしないと考えられること
③ 資本市場で実際に取引されているのは、企業集団の株式ではなく、親会社の株式であることから、少数株主に帰属する分を除く成果とそれを生み出す元手に関する情報がその投資意思決定に有用になると考えられること(脚注2)
④ 国際的な会計基準との比較における情報開示について差異はないと考えられること
(2)支配が継続している場合の子会社に対する親会社持分の変動によって生じた差額の取扱い 資本の範囲を現行の会計基準に基づくものとする(すなわち、株主資本とする)と、支配が継続している場合の子会社に対する親会社持分の変動によって生じる差額は損益に計上することとなるが、当該差額をどのように取り扱うかということについて、本論点整理では、概念上の理由に加え、実務上の観点及び国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点から、次の2つの案を中心に、今後検討することが適当であるとしている。
A案:子会社に対する親会社持分が増加した場合も減少した場合も、純資産の部における評価・換算差額等として、当該差額を将来に繰り延べ、子会社ではなくなったときに損益に振り替える。これは、連結財務諸表上、全部連結の下、支配が継続している間における子会社への投資は継続しており、子会社に対する親会社持分が増加した場合も減少した場合も、その増減によって生じる差額は、当期における当該投資の成果(親会社の業績)とはみないという考え方である。
B案:子会社に対する親会社持分が変動した理由に応じて、当該差額を処理する。これは、当該差額の性格は、その発生原因に応じて異なるとみるものであり、また、現行の実務に与える影響を最小限にすることも重視している考え方であるため、この場合における当該差額の認識及び測定は、現行の会計基準における取扱いと類似するように行うことが考えられる(したがって、追加取得等の場合は、評価・換算差額等に計上したうえで一定期間にわたって損益とし、一部売却等の場合は、当期の損益とする。)。
さらに、本論点整理では、当該差額が当期の損益に計上される場合、連結損益計算書上、いずれの案を採った場合でも、事業から生じる成果とは異なるため、少数株主利益のすぐ後に表示したり特別損益に表示したりすることが適当と考えられ、その結果、国際的な会計基準における開示との差異を僅少にすることができるものと考えられるが、財務諸表表示の論点とも合わせて、引き続き検討していく必要があるとしている。
Ⅲ.【論点2】取得原価の算定
1.[論点2-1]取得の基本的な処理方法 取得の基本的な処理については、我が国でも国際的な会計基準でも企業結合日における時価(公正価値)を基礎として処理されることとなるため、本論点整理では、大きな差異はなく、特段の見直しは必要ないと考えられるとしている。
2.[論点2-2]条件付取得対価の交付 条件付取得対価について、我が国の会計基準では、当該条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となるまで会計処理を行わないものとされているが、国際的な会計基準では、取得日の公正価値によって認識し、取得日以後に当該公正価値の変動があった場合に一定の会計処理をするとしている。
本論点整理では、企業結合日における時価で取得原価に含めることが適当であると考えているが、引き続き検討することとしている。
3.[論点2-3]取得に要した支出 株式交付費以外の企業結合における取得に要した支出について、我が国の会計基準では、取得原価に含めて会計処理するが、国際的な会計基準では、発生時の費用とし取得原価に含めないものとしている。
本論点整理では、企業結合においては、取得に要した支出のどこまでを取得原価の範囲とするか、実務上、議論となることも多いことなどから、国際的な会計基準と同様に、今後は発生時に費用とすることが考えられるとしている。
4.[論点2-4]新株予約権の交付 企業結合において、被取得企業の従業員等に対する報酬としての新株予約権と引換えに取得企業の新株予約権を付与する場合、我が国の会計基準と国際的な会計基準では、取得原価に含めることでは共通しているが、取得原価に含める金額について相違がある。また、我が国の会計基準では、被取得企業の従業員等に対する報酬としての新株予約権と引換えに付与する取得企業の新株予約権を、取得に直接要した支出額に準じて取得原価に含めている。このため、本論点整理では、当該支出額の取扱いに関して見直すこととなれば([論点2-3]参照)、この取扱いについても検討する必要があるとしている。
Ⅳ.【論点3】取得原価の配分
1.[論点3-1]識別可能資産及び負債の認識原則 本論点整理では、識別可能資産及び負債の認識において、我が国の会計基準と国際的な会計基準では、大きな差異はないと考えられるとしている。
また、国際的な会計基準では、識別可能資産及び負債の認識条件として、企業結合において交換したものの一部であることが定められており、企業結合とは別の取引となるか否かの規準も示されているため、本論点整理では、我が国の会計基準でも、今後、このような取扱いの明示を検討するとしている。
2.[論点3-2]識別可能資産及び負債の測定原則 認識した識別可能資産及び負債の測定については、我が国でも国際的な会計基準でも、時価(又は公正価値)を基礎として行われ、大きな差異はないと考えられるが、暫定的な会計処理の確定と見直しにより取得原価の配分額を修正した場合であって、それが企業結合年度の翌年度に行われるときの取扱いに相違がみられる。本論点整理では、暫定的な会計処理の取扱いについても、国際的な会計基準と同様に(脚注3)、今後、取得日時点に遡って修正することが考えられるとしている。
3.[論点3-3]売却目的で保有する資産への取得原価の配分 我が国の会計基準と国際的な会計基準では、売却目的で保有する資産の取扱いに一定の相違がみられる。しかし、売却目的で保有する資産の測定については、我が国の減損会計の取扱いにより国際的な会計基準の取扱いとは大きく異ならないと考えられている。したがって、売却目的で保有する資産の測定に関する会計基準を開発していく必要性は乏しいものと考えられる。
このため、本論点整理では、企業結合時における売却目的で保有する資産への取得原価の配分については、企業結合に関する会計基準等の中で対応することが考えられるとしている。
4.[論点3-4]偶発負債及び企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分 企業結合において引き受けた偶発負債や我が国の会計基準にいう企業結合に係る特定勘定については、国際的な会計基準とは異なる取扱いが定められている。これらの取扱いについては、会計基準の国際的なコンバージェンスの観点から見直していくという考え方がある一方で、ASBJにおける引当金一般についての議論(脚注4)の進展と合わせて対応すべきという考え方や、現行の企業結合に係る特定勘定の方がその後の損益計算を適切に行うことができるという考え方もあることから、本論点整理では、見直す必要があるのかどうか、引き続き検討するとしている。
5.[論点3-5]少数株主持分の測定(全部のれんの可否) 企業結合において少数株主が存在する場合、少数株主持分は、被取得企業の識別可能純資産の時価のうち少数株主に帰属する金額により測定する方法のほか、時価により直接的に測定する方法がある。我が国の会計基準では、前者によることとされているが、IFRSでは、前者か後者のいずれかで測定することとされている。
本論点整理では、少数株主持分の測定については、子会社の資本のうち少数株主に帰属する部分とする(購入のれんの計上とする)方法に限定することが考えられるとしている。しかしながら、国際的な会計基準の取扱いを踏まえ、少数株主持分を取得日の時価による(全部のれんが計上される)ことも認めるべきという意見もあることから、選択適用できるようにするかどうか(脚注5)、引き続き検討するものとしている。
6.[論点3-6]繰延税金資産及び負債への取得原価の配分 企業結合において、被取得企業及び取得した事業から生じる一時差異等に係る税金の額を、将来の事業年度において回収又は支払いが見込まれない額を除き、企業結合日に繰延税金資産又は負債として計上するという点で、我が国の会計基準と国際的な会計基準は共通している。本論点整理では、最近の国際的な会計基準の開発過程で取り上げられた次の点に関して検討を行っている。
(1)企業結合に伴う取得企業自体の繰延税金資産に関する会計処理
(2)被取得企業の一時差異等に関する税効果が取得日以降に変動したときの会計処理
(3)会計上ののれんを超過する損金算入できるのれんから生じる税効果の会計処理(ただし、これは[論点4-2]で検討されている。)
(4)被取得企業の法人税等に関連する不確実性が取得日以降に変化した場合の会計処理
Ⅴ.【論点4】のれんの会計処理
1.[論点4-1]のれんの償却
(1)のれんの償却・非償却 のれんについては、我が国における会計基準のように規則的に償却する取扱いと、国際的な会計基準のようにのれんを償却しない取扱いがあり、のれんの償却自体の意義やのれんの償却手続、自己創設のれんの計上との関係などから、それぞれの考え方が支持されている。本論点整理では、のれんの償却について、今後、我が国における会計基準を見直すかどうかは、引き続き検討するとしている。
なお、この見直しにあたっては、その根拠のほか、会計処理の変更に伴う追加的な論点やそれらを実行した場合の実務上の負担も並行的に考慮すべきものと考えられることから、本論点整理では、のれんの減損処理の取扱いと無形資産への配分についても整理している。
(2)[追加検討①]のれんの減損処理の取扱い のれんの減損処理の取扱いについて、我が国の会計基準と国際的な会計基準との間には、それぞれ差異がみられる。本論点整理では、のれんの償却について、今後、我が国における会計基準を見直すかどうかの検討にあたっては、我が国の減損会計基準について、次のような論点についても並行的に検討すべきものと考えられるとしている。
① 減損の兆候があるときに行う減損損失の認識の判定(減損テスト)は、より頻度を上げるために、国際的な会計基準と同様に、減損の兆候がある場合に加えて、毎年、減損テストを行う取扱いとするかどうか。
② 現在、我が国の減損会計基準では、資金生成単位にのれんの簿価を配分する方法も認められる取扱いとなっているが、のれんの減損は、のれんを含む、より大きな単位で判定を行うことを原則とするのではなく、より減損テストをきめ細かく行うために、IAS第36号と同様に、資金生成単位にのれんの帳簿価額を配分する方法を原則とする取扱いとするかどうか。
(3)[追加検討②]無形資産への配分 識別可能資産としての無形資産へ取得原価を配分する規準について、我が国の会計基準と国際的な会計基準との間には、いくつかの差異がみられる。
企業結合における取得原価のうち無形資産に配分されたものは、一般に、一定の年数以内で償却され、配分されなかったものは、当該取得原価が識別可能資産及び負債の純額を上回っている限り、のれんとして会計処理される。取得原価のうち無形資産に配分されなかったものがある場合でも、のれんを償却する方法を継続しているときには、毎期、規則的に費用処理される。しかし、のれんを償却しない方法に見直すときには、規則的には費用処理されないことになる(脚注6)。
本論点整理では、のれんの償却について、今後、我が国における会計基準を見直すかどうかの検討や識別可能な無形資産を把握するための追加的な手当ての要否の検討にあたっては、国際的な会計基準の取扱いとともに、会計処理の変更に伴う実務上の負担の増加(脚注7)などについても、並行的に考慮する必要があると考えられるとしている。
2.[論点4-2]のれんに関する税効果 本論点整理では、企業結合によって認識されたのれんについて、適格組織再編に該当する場合には、これまでと同様に、税効果を認識しないことが考えられるとしている。
一方、非適格組織再編に該当する場合、我が国の会計基準では、会計上ののれんに対して税効果を認識せず、法人税法における「資産調整勘定」「差額負債調整勘定」が一時差異を構成するものとして取り扱われている。本論点整理では、上記「資産調整勘定」「差額負債調整勘定」は会計上ののれん(又は負ののれん)に対応する税務上ののれん(又は負ののれん)ではないとする考え方においては、現状の取扱いは国際的な会計基準の定めと同様の結果になり、改めて見直す必要性は乏しいと考えられるとしている。
Ⅵ.【論点5】子会社に対する支配の喪失
1.検討事項 我が国の会計基準では、子会社株式の売却等により被投資会社が子会社及び関連会社に該当しなくなった場合(脚注8)、連結財務諸表上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するとされている。一方、国際的な会計基準において、残存投資は、支配喪失時における公正価値により評価するとされている。
2.今後の方向性
(1)子会社に対する支配を喪失したが関連会社に該当する場合 本論点整理では、支配の喪失によっても、引き続き保有する関連会社に対する投資の実態又は本質が変わったものとみなせないため、投資は継続しているとみて、支配喪失時においても関連会社株式は帳簿価額のままとすることが考えられるが、連結財務諸表上は、国際的な会計基準とのコンバージェンスを重視し、関連会社株式を時価で評価することが考えられるとしている。
(2)子会社に対する支配を喪失し関連会社にも該当しなくなる場合 企業結合の場合、投資が清算されたものとみて交換損益を認識するものとされており、本論点整理では、その処理は国際的な会計基準と整合しているものと考えられるとしている。
しかしながら、売却等の場合、本論点整理では、今後、次のいずれかの方法とすることが考えられるとしている。
① 企業結合によるときと同様に、被投資会社に対する投資がすべて清算されたものとみて、売却された株式のみならず、残存投資も時価で評価し、差額を損益とする方法
② これまでと同様に、残存投資については、引き続き投資は継続しているとみて帳簿価額のままとする(ただし、連結財務諸表上は、国際的な会計基準とのコンバージェンスを重視し、残存投資を時価で評価し、差額を損益とする。)方法
(3)関連会社に対する重要な影響力が喪失した場合 この場合も、本論点整理では、それが関連会社の企業結合によるときには、交換損益が認識され、国際的な会計基準と整合しているものと考えられるが、売却等によるときには、今後、子会社に対する支配を喪失した場合の会計処理と同様に整理していくことが考えられるとしている。
(いちはら・じゅんじ)
脚注
1 ASBJのホームページ(https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/summary_issue/bc_revise2/bc_revise2.pdf)参照。
2 したがって、国際的な会計基準においても、当期純利益のうち親会社に帰属する額や、支配が継続している場合の子会社に対する親会社持分の変動額を開示するとしており、さらに、その親会社に帰属する部分に基づいて1株当たり当期純利益を算定していることを踏まえると、現行の会計基準に基づく利益及び資本を示すことこそ、財務報告の目的に役立つと考えられる。
3 国際的な会計基準では、当該修正は、取得日後に入手可能になる資産及び負債に関する取得日時点の情報により生じるものであり、見積りの変更というよりも、修正後発事象に類似するものであるため、取得日に遡及して修正することが適当であるとしている。
4 ASBJでは、「引当金専門委員会」を設置し、2008年12月から議論を行っている。プロジェクト計画表においては、我が国における引当金に関する会計基準の開発に資するため、2009年後半に、国際的な会計基準の動向(特に、IAS第37号の修正の状況)及び我が国の現状を踏まえた論点整理の公表を目指している。
5 ただし、本論点整理では、仮に全部のれん方式を採る場合であっても、購入のれん方式との比較可能性を図るためには、親会社株主に帰属する分と少数株主に帰属する分とを区別して把握することに加え、少数株主持分及びこれに相当するのれんを親会社の持分について計上した額から推定した額によって計上し、その後ののれんの償却費や減損損失を少数株主損益の配分と同じ比率(持分割合と同じ比率)によって配分することが必要となるとしている。
6 したがって、今後、仮にのれんを償却しないこととした場合には、これまで以上に、取得原価を無形資産に配分し償却することが必要になるという意見がある。一方、のれんの償却に関する論点は無形資産への配分とは関連しないという意見や、のれんの償却を見直さない場合でも識別可能な無形資産への配分を適切に行うように見直すことは必要であるという意見がある。
7 例えば、識別可能な無形資産への配分を網羅的に行うように、識別可能資産及び負債に配分した残額をさらに吟味し、識別可能と判断された無形資産の時価(公正価値)を把握することが考えられる。なお、国際的な会計基準を適用する際の実務においては、無形資産の公正価値の評価や算出された評価額の妥当性を判断するために多くの時間とコストをかけているとの指摘もある。
8 子会社株式の売却等によっても、被投資会社が引き続き子会社に該当する場合には、【論点1】における「支配が継続している場合の子会社に対する親会社持分の変動」にあたる(Ⅱ2(2)参照)。
「企業結合会計の見直しに関する論点の整理」について
企業会計基準委員会 専門研究員 市原順二
Ⅰ.はじめに
企業会計基準委員会(ASBJ)では、2008年9月に更新したプロジェクト計画表に沿って、企業結合に関する会計基準等について、いわゆるEU同等性評価に係る項目を対象とするステップ1とそれ以外の項目を対象とするステップ2とに区分して見直しを行うこととしている。
このうち、ステップ1については、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」を始めとする一連の会計基準等を2008年12月に公表し完了したが、引き続き、既存の差異に関連するプロジェクト項目として中期的に対応するために、ステップ2としての検討を進めており、2011年までに、企業結合会計基準等をどのように見直していくかについての検討に資するよう、2009年7月10日に、「企業結合会計の見直しに関する論点の整理」(以下「本論点整理」という。)を公表し、2009年9月7日までコメントを募集している(脚注1)。今後、本論点整理について寄せられたコメントを踏まえ、その後の審議を経て、2010年には公開草案を公表することが見込まれている。
本稿では、これらの概要を紹介するが、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。また、本論点整理は最終的なものではなく、今後、変更される可能性があるが、ここでは、最終的なものと同様の表現をしている場合があることに留意する必要がある。
Ⅱ.【論点1】少数株主持分の取扱い
1.検討事項 連結財務諸表における少数株主持分について、我が国の会計基準と国際的な会計基準とでは、(1)連結財務諸表における表示等、(2)支配が継続している場合の子会社に対する親会社持分の変動、(3)共通支配下の取引等において、形式的な点を含め異なる取扱いがある。
2.今後の方向性
(1)連結財務諸表における表示等 本論点整理では、次のような理由から、連結財務諸表における少数株主持分及び少数株主損益に関する表示等(子会社に生じた損失の配分を含む。)については、引き続き、現行の会計基準に基づく取扱いを行っていくことが適当であるとしている。
① 親会社の株主と少数株主とではリスク及びリターンは大きく異なり、親会社株主持分と少数株主持分は同等ではないこと
② 子会社に欠損が生じた場合についても、通常、少数株主は親会社と同じ負担をしないと考えられること
③ 資本市場で実際に取引されているのは、企業集団の株式ではなく、親会社の株式であることから、少数株主に帰属する分を除く成果とそれを生み出す元手に関する情報がその投資意思決定に有用になると考えられること(脚注2)
④ 国際的な会計基準との比較における情報開示について差異はないと考えられること
(2)支配が継続している場合の子会社に対する親会社持分の変動によって生じた差額の取扱い 資本の範囲を現行の会計基準に基づくものとする(すなわち、株主資本とする)と、支配が継続している場合の子会社に対する親会社持分の変動によって生じる差額は損益に計上することとなるが、当該差額をどのように取り扱うかということについて、本論点整理では、概念上の理由に加え、実務上の観点及び国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点から、次の2つの案を中心に、今後検討することが適当であるとしている。
A案:子会社に対する親会社持分が増加した場合も減少した場合も、純資産の部における評価・換算差額等として、当該差額を将来に繰り延べ、子会社ではなくなったときに損益に振り替える。これは、連結財務諸表上、全部連結の下、支配が継続している間における子会社への投資は継続しており、子会社に対する親会社持分が増加した場合も減少した場合も、その増減によって生じる差額は、当期における当該投資の成果(親会社の業績)とはみないという考え方である。
B案:子会社に対する親会社持分が変動した理由に応じて、当該差額を処理する。これは、当該差額の性格は、その発生原因に応じて異なるとみるものであり、また、現行の実務に与える影響を最小限にすることも重視している考え方であるため、この場合における当該差額の認識及び測定は、現行の会計基準における取扱いと類似するように行うことが考えられる(したがって、追加取得等の場合は、評価・換算差額等に計上したうえで一定期間にわたって損益とし、一部売却等の場合は、当期の損益とする。)。
さらに、本論点整理では、当該差額が当期の損益に計上される場合、連結損益計算書上、いずれの案を採った場合でも、事業から生じる成果とは異なるため、少数株主利益のすぐ後に表示したり特別損益に表示したりすることが適当と考えられ、その結果、国際的な会計基準における開示との差異を僅少にすることができるものと考えられるが、財務諸表表示の論点とも合わせて、引き続き検討していく必要があるとしている。
Ⅲ.【論点2】取得原価の算定
1.[論点2-1]取得の基本的な処理方法 取得の基本的な処理については、我が国でも国際的な会計基準でも企業結合日における時価(公正価値)を基礎として処理されることとなるため、本論点整理では、大きな差異はなく、特段の見直しは必要ないと考えられるとしている。
2.[論点2-2]条件付取得対価の交付 条件付取得対価について、我が国の会計基準では、当該条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となるまで会計処理を行わないものとされているが、国際的な会計基準では、取得日の公正価値によって認識し、取得日以後に当該公正価値の変動があった場合に一定の会計処理をするとしている。
本論点整理では、企業結合日における時価で取得原価に含めることが適当であると考えているが、引き続き検討することとしている。
3.[論点2-3]取得に要した支出 株式交付費以外の企業結合における取得に要した支出について、我が国の会計基準では、取得原価に含めて会計処理するが、国際的な会計基準では、発生時の費用とし取得原価に含めないものとしている。
本論点整理では、企業結合においては、取得に要した支出のどこまでを取得原価の範囲とするか、実務上、議論となることも多いことなどから、国際的な会計基準と同様に、今後は発生時に費用とすることが考えられるとしている。
4.[論点2-4]新株予約権の交付 企業結合において、被取得企業の従業員等に対する報酬としての新株予約権と引換えに取得企業の新株予約権を付与する場合、我が国の会計基準と国際的な会計基準では、取得原価に含めることでは共通しているが、取得原価に含める金額について相違がある。また、我が国の会計基準では、被取得企業の従業員等に対する報酬としての新株予約権と引換えに付与する取得企業の新株予約権を、取得に直接要した支出額に準じて取得原価に含めている。このため、本論点整理では、当該支出額の取扱いに関して見直すこととなれば([論点2-3]参照)、この取扱いについても検討する必要があるとしている。
Ⅳ.【論点3】取得原価の配分
1.[論点3-1]識別可能資産及び負債の認識原則 本論点整理では、識別可能資産及び負債の認識において、我が国の会計基準と国際的な会計基準では、大きな差異はないと考えられるとしている。
また、国際的な会計基準では、識別可能資産及び負債の認識条件として、企業結合において交換したものの一部であることが定められており、企業結合とは別の取引となるか否かの規準も示されているため、本論点整理では、我が国の会計基準でも、今後、このような取扱いの明示を検討するとしている。
2.[論点3-2]識別可能資産及び負債の測定原則 認識した識別可能資産及び負債の測定については、我が国でも国際的な会計基準でも、時価(又は公正価値)を基礎として行われ、大きな差異はないと考えられるが、暫定的な会計処理の確定と見直しにより取得原価の配分額を修正した場合であって、それが企業結合年度の翌年度に行われるときの取扱いに相違がみられる。本論点整理では、暫定的な会計処理の取扱いについても、国際的な会計基準と同様に(脚注3)、今後、取得日時点に遡って修正することが考えられるとしている。
3.[論点3-3]売却目的で保有する資産への取得原価の配分 我が国の会計基準と国際的な会計基準では、売却目的で保有する資産の取扱いに一定の相違がみられる。しかし、売却目的で保有する資産の測定については、我が国の減損会計の取扱いにより国際的な会計基準の取扱いとは大きく異ならないと考えられている。したがって、売却目的で保有する資産の測定に関する会計基準を開発していく必要性は乏しいものと考えられる。
このため、本論点整理では、企業結合時における売却目的で保有する資産への取得原価の配分については、企業結合に関する会計基準等の中で対応することが考えられるとしている。
4.[論点3-4]偶発負債及び企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分 企業結合において引き受けた偶発負債や我が国の会計基準にいう企業結合に係る特定勘定については、国際的な会計基準とは異なる取扱いが定められている。これらの取扱いについては、会計基準の国際的なコンバージェンスの観点から見直していくという考え方がある一方で、ASBJにおける引当金一般についての議論(脚注4)の進展と合わせて対応すべきという考え方や、現行の企業結合に係る特定勘定の方がその後の損益計算を適切に行うことができるという考え方もあることから、本論点整理では、見直す必要があるのかどうか、引き続き検討するとしている。
5.[論点3-5]少数株主持分の測定(全部のれんの可否) 企業結合において少数株主が存在する場合、少数株主持分は、被取得企業の識別可能純資産の時価のうち少数株主に帰属する金額により測定する方法のほか、時価により直接的に測定する方法がある。我が国の会計基準では、前者によることとされているが、IFRSでは、前者か後者のいずれかで測定することとされている。
本論点整理では、少数株主持分の測定については、子会社の資本のうち少数株主に帰属する部分とする(購入のれんの計上とする)方法に限定することが考えられるとしている。しかしながら、国際的な会計基準の取扱いを踏まえ、少数株主持分を取得日の時価による(全部のれんが計上される)ことも認めるべきという意見もあることから、選択適用できるようにするかどうか(脚注5)、引き続き検討するものとしている。
6.[論点3-6]繰延税金資産及び負債への取得原価の配分 企業結合において、被取得企業及び取得した事業から生じる一時差異等に係る税金の額を、将来の事業年度において回収又は支払いが見込まれない額を除き、企業結合日に繰延税金資産又は負債として計上するという点で、我が国の会計基準と国際的な会計基準は共通している。本論点整理では、最近の国際的な会計基準の開発過程で取り上げられた次の点に関して検討を行っている。
(1)企業結合に伴う取得企業自体の繰延税金資産に関する会計処理
(2)被取得企業の一時差異等に関する税効果が取得日以降に変動したときの会計処理
(3)会計上ののれんを超過する損金算入できるのれんから生じる税効果の会計処理(ただし、これは[論点4-2]で検討されている。)
(4)被取得企業の法人税等に関連する不確実性が取得日以降に変化した場合の会計処理
Ⅴ.【論点4】のれんの会計処理
1.[論点4-1]のれんの償却
(1)のれんの償却・非償却 のれんについては、我が国における会計基準のように規則的に償却する取扱いと、国際的な会計基準のようにのれんを償却しない取扱いがあり、のれんの償却自体の意義やのれんの償却手続、自己創設のれんの計上との関係などから、それぞれの考え方が支持されている。本論点整理では、のれんの償却について、今後、我が国における会計基準を見直すかどうかは、引き続き検討するとしている。
なお、この見直しにあたっては、その根拠のほか、会計処理の変更に伴う追加的な論点やそれらを実行した場合の実務上の負担も並行的に考慮すべきものと考えられることから、本論点整理では、のれんの減損処理の取扱いと無形資産への配分についても整理している。
(2)[追加検討①]のれんの減損処理の取扱い のれんの減損処理の取扱いについて、我が国の会計基準と国際的な会計基準との間には、それぞれ差異がみられる。本論点整理では、のれんの償却について、今後、我が国における会計基準を見直すかどうかの検討にあたっては、我が国の減損会計基準について、次のような論点についても並行的に検討すべきものと考えられるとしている。
① 減損の兆候があるときに行う減損損失の認識の判定(減損テスト)は、より頻度を上げるために、国際的な会計基準と同様に、減損の兆候がある場合に加えて、毎年、減損テストを行う取扱いとするかどうか。
② 現在、我が国の減損会計基準では、資金生成単位にのれんの簿価を配分する方法も認められる取扱いとなっているが、のれんの減損は、のれんを含む、より大きな単位で判定を行うことを原則とするのではなく、より減損テストをきめ細かく行うために、IAS第36号と同様に、資金生成単位にのれんの帳簿価額を配分する方法を原則とする取扱いとするかどうか。
(3)[追加検討②]無形資産への配分 識別可能資産としての無形資産へ取得原価を配分する規準について、我が国の会計基準と国際的な会計基準との間には、いくつかの差異がみられる。
企業結合における取得原価のうち無形資産に配分されたものは、一般に、一定の年数以内で償却され、配分されなかったものは、当該取得原価が識別可能資産及び負債の純額を上回っている限り、のれんとして会計処理される。取得原価のうち無形資産に配分されなかったものがある場合でも、のれんを償却する方法を継続しているときには、毎期、規則的に費用処理される。しかし、のれんを償却しない方法に見直すときには、規則的には費用処理されないことになる(脚注6)。
本論点整理では、のれんの償却について、今後、我が国における会計基準を見直すかどうかの検討や識別可能な無形資産を把握するための追加的な手当ての要否の検討にあたっては、国際的な会計基準の取扱いとともに、会計処理の変更に伴う実務上の負担の増加(脚注7)などについても、並行的に考慮する必要があると考えられるとしている。
2.[論点4-2]のれんに関する税効果 本論点整理では、企業結合によって認識されたのれんについて、適格組織再編に該当する場合には、これまでと同様に、税効果を認識しないことが考えられるとしている。
一方、非適格組織再編に該当する場合、我が国の会計基準では、会計上ののれんに対して税効果を認識せず、法人税法における「資産調整勘定」「差額負債調整勘定」が一時差異を構成するものとして取り扱われている。本論点整理では、上記「資産調整勘定」「差額負債調整勘定」は会計上ののれん(又は負ののれん)に対応する税務上ののれん(又は負ののれん)ではないとする考え方においては、現状の取扱いは国際的な会計基準の定めと同様の結果になり、改めて見直す必要性は乏しいと考えられるとしている。
Ⅵ.【論点5】子会社に対する支配の喪失
1.検討事項 我が国の会計基準では、子会社株式の売却等により被投資会社が子会社及び関連会社に該当しなくなった場合(脚注8)、連結財務諸表上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するとされている。一方、国際的な会計基準において、残存投資は、支配喪失時における公正価値により評価するとされている。
2.今後の方向性
(1)子会社に対する支配を喪失したが関連会社に該当する場合 本論点整理では、支配の喪失によっても、引き続き保有する関連会社に対する投資の実態又は本質が変わったものとみなせないため、投資は継続しているとみて、支配喪失時においても関連会社株式は帳簿価額のままとすることが考えられるが、連結財務諸表上は、国際的な会計基準とのコンバージェンスを重視し、関連会社株式を時価で評価することが考えられるとしている。
(2)子会社に対する支配を喪失し関連会社にも該当しなくなる場合 企業結合の場合、投資が清算されたものとみて交換損益を認識するものとされており、本論点整理では、その処理は国際的な会計基準と整合しているものと考えられるとしている。
しかしながら、売却等の場合、本論点整理では、今後、次のいずれかの方法とすることが考えられるとしている。
① 企業結合によるときと同様に、被投資会社に対する投資がすべて清算されたものとみて、売却された株式のみならず、残存投資も時価で評価し、差額を損益とする方法
② これまでと同様に、残存投資については、引き続き投資は継続しているとみて帳簿価額のままとする(ただし、連結財務諸表上は、国際的な会計基準とのコンバージェンスを重視し、残存投資を時価で評価し、差額を損益とする。)方法
(3)関連会社に対する重要な影響力が喪失した場合 この場合も、本論点整理では、それが関連会社の企業結合によるときには、交換損益が認識され、国際的な会計基準と整合しているものと考えられるが、売却等によるときには、今後、子会社に対する支配を喪失した場合の会計処理と同様に整理していくことが考えられるとしている。
(いちはら・じゅんじ)
脚注
1 ASBJのホームページ(https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/summary_issue/bc_revise2/bc_revise2.pdf)参照。
2 したがって、国際的な会計基準においても、当期純利益のうち親会社に帰属する額や、支配が継続している場合の子会社に対する親会社持分の変動額を開示するとしており、さらに、その親会社に帰属する部分に基づいて1株当たり当期純利益を算定していることを踏まえると、現行の会計基準に基づく利益及び資本を示すことこそ、財務報告の目的に役立つと考えられる。
3 国際的な会計基準では、当該修正は、取得日後に入手可能になる資産及び負債に関する取得日時点の情報により生じるものであり、見積りの変更というよりも、修正後発事象に類似するものであるため、取得日に遡及して修正することが適当であるとしている。
4 ASBJでは、「引当金専門委員会」を設置し、2008年12月から議論を行っている。プロジェクト計画表においては、我が国における引当金に関する会計基準の開発に資するため、2009年後半に、国際的な会計基準の動向(特に、IAS第37号の修正の状況)及び我が国の現状を踏まえた論点整理の公表を目指している。
5 ただし、本論点整理では、仮に全部のれん方式を採る場合であっても、購入のれん方式との比較可能性を図るためには、親会社株主に帰属する分と少数株主に帰属する分とを区別して把握することに加え、少数株主持分及びこれに相当するのれんを親会社の持分について計上した額から推定した額によって計上し、その後ののれんの償却費や減損損失を少数株主損益の配分と同じ比率(持分割合と同じ比率)によって配分することが必要となるとしている。
6 したがって、今後、仮にのれんを償却しないこととした場合には、これまで以上に、取得原価を無形資産に配分し償却することが必要になるという意見がある。一方、のれんの償却に関する論点は無形資産への配分とは関連しないという意見や、のれんの償却を見直さない場合でも識別可能な無形資産への配分を適切に行うように見直すことは必要であるという意見がある。
7 例えば、識別可能な無形資産への配分を網羅的に行うように、識別可能資産及び負債に配分した残額をさらに吟味し、識別可能と判断された無形資産の時価(公正価値)を把握することが考えられる。なお、国際的な会計基準を適用する際の実務においては、無形資産の公正価値の評価や算出された評価額の妥当性を判断するために多くの時間とコストをかけているとの指摘もある。
8 子会社株式の売却等によっても、被投資会社が引き続き子会社に該当する場合には、【論点1】における「支配が継続している場合の子会社に対する親会社持分の変動」にあたる(Ⅱ2(2)参照)。
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