カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2010年11月22日 【ニュース特集】 会社分割が詐害行為取消権の対象か否かで東京高裁が注目判決(2010年11月22日号・№379)

税制適格でも詐害行為と認定される可能性も!?
会社分割が詐害行為取消権の対象か否かで東京高裁が注目判決

 債務超過となっている会社が、新設分割を行うことにより、一部の優良資産や事業、債務を承継させるとともに、分割会社を清算するという事案が増えていると指摘されている。
 このようななか、債務超過であった会社が行った新設分割が詐害行為に該当するかどうかが争われた事案で、東京高裁で注目すべき裁判があった。東京高裁第15民事部の井上繁規裁判長は10月27日、東京地裁の判決(平成22年5月27日、平成21年(ワ)第36384号)を支持。「新設分割による新設分割会社に新たな法律関係が生じていることなどによって、新設分割により害される債権者の詐害行為取消権の行使が妨げられると解すべき根拠はない」。などと判断している。仮に税制上の適格組織再編成の要件を満たす場合であっても、詐害行為と認められる可能性もある。実務家にとっては留意したい事項といえよう。

濫用される会社分割、会社法の債権者保護手続に問題が……  昨今では、債務超過の会社が、新設分割を行うことにより、一部の優良資産や事業、債務を承継させた後、分割会社を清算する会社の再建手法が採られる事例が増えている。第二会社方式(経営困難に陥っている会社から事業譲渡や会社分割によって採算見込みのある事業を分離し、当該事業の再生・継続を図る手法のこと)もその1つといえよう。
 しかし、なかには優良資産などの一部を逃す目的で濫用的に用いられているケースもあるようだ。
 たとえば、図表1のとおり、債務超過となっている会社(X)が新設分割を行い、新設会社(Y)を設立。事業と重要資産、債務をYに移転。YはXにYのすべての株式を交付した場合、ZおよびZ'の債権者保護手続はどうなるだろうか。

新設会社の債権者なら異議申立てが可能だが  たとえば、新設会社Yに承継された債務の債権者Z'については、会社法上、分割会社に対して債務の履行を請求することができなくなるため、新設分割に対して、異議を述べることができる(会社法810条1項2号)。
 一方、会社分割後も、分割会社Xに対して債務の履行を請求することができる債権者Zについては、債権者保護の対象外となっている。分割会社Xについては、新設会社Yの株式の交付を受けることになる。分割会社Xの資産は減少しないとも考えられる。
 しかし、移転した資産の価値と同等の株式の評価を得ることができるかは未知数であるにもかかわらず、ZとZ'とでは債権者保護手続に大きな差異が生じることになる。
 このため、新設分割により、債権者Zを害した場合には、民法上の詐害行為取消権を行使することが考えられる。
 なお、法制審議会の会社法制部会でも、一部委員から「会社分割における債権者保護の在り方」を検討すべきとの意見が出されている(コラム欄参照)。今後注目すべき点といえよう。

詐害行為取消権に基づき会社分割の取消しができるか?  ここで債務超過であった会社が行った新設分割が詐害行為に該当するかどうかで争われた東京高裁の判決を紹介する。東京高裁の判決では、東京地裁と同様、分割会社の債権者が新設会社に対して行った詐害行為取消権に基づき、会社分割の取消しなどを容認している。具体的には、以下のような事案となる。
 本件は、リース事業を営む会社(被控訴人)が飲食事業および広告宣伝事業を営む会社A(控訴人1)に対し、リース契約の約定に基づく損害賠償金などを求めるとともに、債務超過であった会社Aが会社分割(新設分割)によって飲食事業に関する権利義務を承継させた会社B(控訴人2)に対し、会社分割が詐害行為に該当するものとして、詐害行為取消権に基づき、会社分割の取消請求などを行ったものである(図表2参照)。

 争点としては、①新設分割を対象とする詐害行為取消権行使の可否、②会社分割についての詐害性の有無および詐害の意思である。
詐害行為取消権の対象に  争点①の新設分割を対象とする詐害行為取消権行使の可否についてみると、控訴人らは、新設分割は組織法上の行為であり、これによる会社設立は法人格の取得を目的とする身分上の行為であるため、詐害行為取消権の対象にはならないなどと主張。
 しかし、東京高裁では、「新設分割は、新設分割会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を新設分割設立会社に承継させる法律行為であって財産権を目的とする法律行為というべきであ」る、「債権者を害する財産権を目的とする法律行為が詐害行為取消権の対象となる」「新設分割による新設分割会社に新たな法律関係が生じていることなどによって、新設分割により害される債権者の詐害行為取消権の行使が妨げられると解すべき根拠はない」などとし、控訴人らの主張を退けた。
 なお、新設分割を対象とする詐害行為取消権行使の可否に関する被控訴人および控訴人の主張、これに対する東京高裁の判断の詳細については、図表3のとおりである。

企業再編でも詐害性がないとすることはできず  争点②の会社分割についての詐害性の有無および詐害の意思についてみると、控訴人らは、新設分割が企業再編成のための一般的手法であり、本件会社分割も控訴人だけが生き残るものではなく、詐害性はないと主張する。
 しかし、東京高裁では、「新設分割が企業再編のために用いられるものであるとしても、そのことによって詐害性がないとすることはできない」「被保全債権を弁済し得る資力を有していない無資力の状態にあった控訴人が債権者を害することを知って行う総債権者の共同担保となる一般財産を減少させる法律行為は詐害行為となるのであって、これを取り消し得ることは当然である」と判断。いずれも控訴人らの主張を退けている。
 なお、会社分割についての詐害性の有無および詐害の意思に関する被控訴人および控訴人の主張、これに対する東京高裁の判断の詳細については、図表4のとおりである。


Column
会社分割における債権者保護手続は会社法制部会で検討要請も
 法制審議会会社法制部会では、現在、会社法制の見直しに着手している。8月25日開催の第4回会議では、本渡章委員(弁護士(東京弁護士会所属))と三原秀哲幹事(弁護士(第一東京弁護士会所属))から会社分割における債権者保護の在り方などの検討を求める意見書が提出されている。
 意見書では、会社分割に際し、分社型の新設分割を例にとった場合、①承継される権利義務の範囲は、新設分割計画の定めに従う(会社法763条5号、764条1項)、②分割会社へ履行請求できる債権者は会社法上の債権者保護手続の対象外(会社法810条1項2号)、③新設会社に承継される債権の債権者も、当該債権につき分割会社が連帯保証・重畳的債務引受けをする場合には債権者保護手続の対象外(会社法810条1項2号第1括弧書)、④債権者保護手続の対象外の債権者は、新設分割無効の訴えの提訴権がない(会社法828条2項10号、810条4項参照)などの問題点を挙げている。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索